Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第29話 Eupatorium Fortunei

 

 

朝…

 

豪華な食事を終え、何故か、柏木先生が持っていた月光館学園の制服(夏)へと着替え、月光館学園へと向かった。

 

角が目立つという理由で、シンはいつものパーカーを制服の上から着ていた。

「…暑そう。」と結城は言ったが、本人はそうでもないと答えた。

 

「…月光館学園」とシンは大きな門の前で学校を見上げた。

その高校は非常に大きく、何より清潔感に溢れていた。

 

夏季の休みの為、生徒たちはいないが、部活動の声が響いていた。

 

「入れる?」と結城はあたりを見渡して、門があいていることに気が付いた。

「…万が一警備員が来ても大丈夫だ。『脅す』からな」

シンは何食わぬ顔で月光館学園の中へと入って行った。

 

「…どうでもいい…か」と結城は自分は死んでいるし、彼に関しては混沌王。

この世界に居るべき者ではない。いざとなれば、どうにでもなる。

故にどうでもいいと素直に思ったのだ。

 

結城もシンに続くように懐かしい月光館学園へと足を踏み入れた。

 

正面玄関は外見に相応な綺麗な作りで、柱は大理石の様なもので出来ている。

 

「…どうかな?月光館学園は」

「…八十神高校とは対立的で面白い。俺の行っていた、都立の高校より良い。」

 

シンたちは高校を歩き回った。

結城の居たクラスに行ったり、今では珍しい解放されている屋上などに行った。

終始、結城は優しい顔つきで風景を懐かしんでいた。

 

そして、シンに言う。

 

「僕ね、ここで色んな人々と出会ったり、別れたりしてなかったら、世界なんて救ってなかったと思う。

来た時に自分の中に死なんてものの感覚が無かったんだ。」

そういうと、結城は少し笑みを浮かべた。

 

「シェイクスピアじゃないけど、死ぬってことは眠るのと一緒だと思ってたから。」

 

「でも、なんでかな……Nyxとの戦いが終わって、徐々に力が抜けていく日々の中で、もっと生きたいって思いだけがあったんだ。」

 

結城は何も無い空を見上げた。

 

「それはお前がここで大切なものを手に入れすぎたからだ。置いて逝く恐怖だ。

別れが悲しいのは、お前が知らないうちにここで掌の上に多くの大切なものを握ってしまったからだ」

「……そうだね。だから、僕は……この街を、人を守れたんだ。」

 

 

 

 

 

 

そして、月光館学園を早々と出ると、巌戸台駅へと向かった。

 

「たこ焼きの早食いやってた。」

「そうか」

結城に言われると、シンはたこ焼きをまるで掃除機のようにわずか10秒で口に入れた。

 

「…やるね」と結城は対抗心を燃やしたような目でシンを見た。

 

 

「はがくれ…おいしそう」

「でも、定休日だね」

扉には定休日の板が掛けられていた。

「…残念だ」シンと結城は少ししょぼんとした顔ではがくれを後にした。

 

 

「巌戸台駅も大分、回れたね」と結城は嬉しそうに見える。

実のところ、結城も非常に表情の動きは少ない。

しかし、似たもの同士は分かるものである。

 

シンには、結城が嬉しそうに見える。

そして、結城にはシンの表情が分かる。

 

不思議なものである。

 

「さて、ではキミたち"S.E.E.S"に関係ある地に行こう」

「じゃあ、やっぱり、あそこかな」

「…の前に、花屋だ」とシンの言葉に結城はおどろいた。

「どうして?」

「…『人生は舞台である。人は皆、役者。』シェイクスピアはそういっていた。

だからこそ、時には脚本を書いてみたくなる」

「…そうか…うん。わかった」と結城は少し思うところがあったのだろう。

 

 

日も暮れ始め、学校の最寄り駅であるポートアイランド駅のそばの不良の溜まり場は相変わらずの雰囲気であった。

そこへ、パーカー来た少年と、青い髪をした少年が入ってきた。

 

それを見た不良たちはバカにしような口調で二人に近づいてきた。

「おいおい、ここぁ」と一人の少年が話しながらパーカーの少年に近づいた瞬間、全員がぞわっとした感覚に襲われた。暗い路地裏で、まるで月のように光る瞳。

 

 

逃げなければ。死ぬ。

それに体全体が支配された。

 

 

「うぁああああああああああ!!!!!」と全員が叫び声をあげて、塵尻に逃げて行った。

 

 

「綺麗になった。」とシンは満足げだ。

「…ここはS.E.E.Sで先輩だった、荒垣真次郎って人が殺された場所。」

「なるほど…じゃあ、少し待ってみる」

「わかった」と結城はうなずくと立って待つことになった。

 

 

 

 

狭い部屋に二人の女性と、一体の機械が居た。

桐条グループ所有の所謂、会議室である。

だが、それは本社にあり、盗聴や盗撮などがされない会議室である。

 

つまり、それ相応の話となることが分かる。

 

「どーゆーことなんスか?桐条先輩」

そこへ野球帽子をかぶり、ラフな格好で桐条美鶴と対面する人物が居た。

「…シャドウワーカー全員が呼び出しって…大事件なんですか?」

スタイルの良い、短髪の女性が弓を持ち、その部屋へと入ってきた。

「相当手ごわい敵と俺は読んでいる」

そういうと青年はプロテインを飲む。

 

「よく集まってくれた。伊織順平、岳羽ゆかり、明彦」

「俺はいーんすよ?先輩。フリーターなんで」と少し自虐的に笑った青年が伊織順平。

「あんた…定職つきなさいよ」

「ゆかりっち…俺だって、好きでフリーターやってんじゃねーんだぜ?

少年野球のコーチとかしてると、時間とれねーっつか…

まあ、ホントお手上げ侍?」

伊織は両手を高く上げた。

 

「バカじゃないの?…ってかバカ?…もうバカでしょ。」

「三回ゆーな!!」

 

「相変わらずだな。お前らは」

「まったく…」と言葉とは裏腹に桐条は嬉しそうだ。

 

「こうやって、揃うと昔を思い出しますね」とペルソナを召喚し、何かをサーチしている女性は山岸風花。

「…そうですね」と機械の体のアイギスは微笑んだ。

 

「僕達も忘れないでくださいね」

「ワンッ!」とドアから、犬を連れた中学生の制服の少年が来た。

 

「よー!天田少年!」と

「しょ、少年って…僕はもう中学生ですよ!」

「そーか、天田君ももう中学生か…あれ?ちょっと大きくなった?」とゆかりは

「はい!やっぱり、牛乳飲んでいて良かったです!」と天田は笑顔で答えた。

 

「…これで、全員か」と真田は感慨深い顔で皆を見た。

「それで、やっぱり私たちが呼ばれるって…相当大ごとだと思っていいんですよね?」

「ゆかりっちー。当然だろ?シャドウワーカーの主戦力が呼ばれたんだぜ?」と伊織は長い袋から日本刀を取り出した。

 

 

「ああ、伊織の言うとおりだ。まずはこれを見てほしい。」

美鶴がそういうと、電気が消え、プロジェクターが起動した。

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

そこに映ったのは、間違いなく共に戦い、そして、この世界を守った人物。

そして、隣にはパーカーの少年が結城と同じ表情で話す少年が防犯カメラに映っていた。

そこは街灯防犯カメラ。その先には自分たちが暮らした寮がある。

 

風花とアイギス、そして、美鶴以外は驚いた表情でそれを見ていた。

 

「つい昨日だ。巌戸台分寮に結城理と思しき人物が現れた」

「ど、どういうことなんだ!?」と真田は美鶴に言う。

「この四分後に巌戸台分寮の警報が鳴った。そして、その二十三分後にシャドウワーカーが到着したが、すでに誰も居なくなっていた。…この召喚機だけを残してな…」と美鶴は召喚機を皆に見せた。

 

「…それって…理君の?」とゆかりは不安そうに召喚機を見た。

「ああ。ナンバーが確認された」

「ど、どういうことなんですか?」と天田もまた不安そうに美鶴に尋ねた。

 

「私にも分からない。シャドウワーカーの諜報部にも情報がなく、混乱している状態だ」

「クーン…」

「コロマルさんも、混乱であります」とコロマルの感情をアイギスが伝える。

 

「それで…風花がペルソナ出して探してるんだ…」とゆかりが風花を見る。

 

 

『!見つかりました!そ、それに強力なシャドウの反応もあります!』

「…時の狭間と同じ状況であります。」

「…で、でも、私たちは理解したはずじゃん!彼が、この世界を守ってくれたって…」

『うん。なんか、強力なシャドウの反応の近くに微かに何か分からないけど、反応があるの』と風花はゆかりの言葉を補強する証拠を言った。

 

「…兎に角、山岸。場所は?」

 

『ポートアイランド裏の路地です』

 

「…あそこか…これは絶対に敵を倒さなきゃならんな」

「そうですね。僕たちの大切な場所ですから。」と真田と天田は気合を入れた。

「よし!行くぞ!」と美鶴の声と共に皆がその会議室から出て行った。

 

 

 

 

「もうそろそろ来るかもね」

「流石に力を垂れ流しているからな…こんな微力でも気づくだろう」

そういうと、シンは立ち上がった。

「あれ?…まだ会えないのか…」と結城は残念そうに立ち上がった。

「劇的な方がいいだろ?」

「…そうだね…」と結城は納得したようにうなずいた。

 

 

『エストマ』

 

 

 

シャドウワーカーの面々がポートアイランド駅の裏路地に着いた時にはすでにしーんと静まりかえっていた。

 

「あれ?いねぇぞ?」と伊織は首をかしげた。

「ど、どういうことだ?」と真田は構えを解き、風花に尋ねた。

「先ほどまで反応があったんですけど…消えてしまいました」と風花も困った表情で皆を見た。

「反応が消えた…?どういうことだ?」

 

美鶴はあたりを見渡した。

 

「ワンッ!」とコロマルが何かを見つけたようだ。

皆がそこへ行くと、花が置かれていた。

 

「これは…」と美鶴はそれを拾い上げた。

アイギスが言う。

 

「フジバカマの花です。キク科ヒヨドリバナ属の多年生植物。秋の七草の1つであります。」

「花…どういうことだ?」と真田は訳が分からないような顔で伊織を見た。

「俺が知ってる訳ないしょ!真田先輩!」

 

「もしかして、花言葉とかじゃないですか?」と風花が言った。

「!?そうか…フジバカマの花言葉は…」と美鶴が言うと、アイギスが口を開く。

 

 

 

「『ためらい』『遅延』『躊躇』『優しい思い出』…そして、『あの日を思い出す』」

 

 

 

「ためらいとか躊躇って…私たちを会うってことをためらってるってこと!?」

岳羽は少し苛立ち言葉を吐いた。

 

「でも、『優しい思い出』。僕たちに宛てたものなら、なんだか嬉しいですね」

「まだ、結城本人だって決まったわけじゃねーぞ?天田少年。」と伊織は帽子を深く被り直した。

 

「そして、『あの日を思い出す』…か」と美鶴は目をつぶった。

「ここで、あの日ってなると…やっぱり…荒垣先輩のことだよね?あるいは…卒業式かな…」と風花は困った表情で言った。

 

「単なる連想ゲームと片付けてしまうのは簡単だ。だが、大型シャドウの反応があった。

…Nyxも封じられた今、これほどまでの桁違いの反応だったのは確かだ。

動かなければ、被害が出る。」と美鶴は腕を組んだ。

 

「もっと調べる必要がありそうだな」

 

「俺もやりますよ。美鶴先輩。」と伊織は応えた。

「私も、当分仕事無いんで。大丈夫です」

「わ、私も大学休みだし…大丈夫かな?」

「俺も無論、休みだ。遠出して鍛えようと思ったが…これほど面白いことがあるんだ。来年にでも、休学して行くぞ」と真田はギュッと拳を握った。

「ぼ、僕も休みなんでやります!」

「ワンッ!」

 

「…みんな。」と美鶴は皆を見て、頷いた。

 

 

 

「…今は美鶴さんがまとめてくれるんだ」

「成程。彼らからは鳴上達よりも強い力を感じる…」

二人はビルの屋上からそれを見ていた。

 

「…キミっておしゃれな人なんだ」と結城はシンを見て言った。

「少しでも話ってやつが面白くなればなって」

「花言葉をよく知っていたね」

 

「花屋さんに教えてもらった。黒髪の綺麗な顔立ちの男性だった。

実はこのプランもさっき思いついた。」

「え?」と結城は驚いた表情で言う。

「気まぐれなんだね。」と結城は皆が路地裏から出て行くのを屋上から見送り、自分の手に持っている『フジバカマ』を見てシンに尋ねる。

 

 

「キミは…あるのかな?『あの日を思い出す』ことは?」

「…無いと言えば嘘になるな。ある。ただ、思えば思うほど…締め付けられるような感覚になる。だから、思うことをやめた。ひどく虚しくなるだけだ。」とシンは屈伸をして、構える。

「…また、飛び降りるの?」

「慣れたほうがいい」

 

そういうと、シンは飛び降りた。

「"慣れ"か」というと、結城も飛び降りた。

 

着地した瞬間、じーんと足が痺れる感覚になった。

 

「…痛い」

「慣れだ」とシンと結城は夜の街に消えた。

 

 

 

ホテルにて…

 

大きなベットに二人はそれぞれ、寝ていた。

 

「一日ごとに何か起こすの?」

「それが良いだろう。彼らも忙しいだろうしな」とシンはベットに横になり、言う。

「…そうだね」と結城は天井を見上げた。

 

 

「やっぱり、今日の彼らを見てて…守れてよかったって思った。

みんな、それぞれの未来が出来てて。

でも、だからこそ…どうして僕だったのかなって気持ちがある…」

 

「…俺もそうだった。どうして俺が人修羅に選ばれたのか。

俺の場合、だが、意味なんてなかった。役目を終え、王になった今でもわからない。

ただ、お前は違う。」

「?」

 

 

「それが俺とお前の違いかもな」

シンはそれだけ言うと、横を向いてしまった。

 

 

そして、結城には分かった。

自分と彼の違い。

それは"命の答え"。

 

生きることは死ぬことだ。

故に、Nyxを倒すことはできない。

それは生きることを否定することになってしまう。

だから、結城はそれを防ぐことしかできなかった。

 

だが、シンは違った。

自らが望めば、変わらない日常を望めたはずだ。だが、シンは修羅の道を選んだ。

何故?

 

 

そして、結城は気付く。

だから、彼はこの花を選んだのかもしれない。

 

「フジバカマ…『躊躇』」

そう呟くと、横を向き飾ってあるフジバカマの花を見た。

そこには美しく、そして淡いピンク色の花々。

 

だか、それを照らす照明で花を乗せている机の表面に影が濃く現れていた。

 

 

結城には、それが酷く寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 




「世の中クソだな!」ってことがあって、「あ、これ更新しよ」と思いました。
それの割には…なんか、普通だなって思いました。
あとP4U2との整合性とか少し考え始めてて。
一応、というか、あれも公式なんで、何となく、意識して書きたいなあとか思ってます。
(けど、既に欠陥がある。それは、真田が日本に居ること…P4Uだとここ何年か居ないみたいな話だった気がする…)

そして、P4U2を買ったら、お金がなくなる…

ペルソナ2のあの演出が良くて使ってみました。
ペルソナ3の面々の口調とかおかしかったら、申し訳ないです。

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