Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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暑い暑い『葉月』
第32話 Savior 8月12日(金) 天気:雨


「よう…シン」と花村が一番にシンの家へ来ていた。

「…なんだ、雨の日に」

「その、なんだ。出かけようぜ」と頭を掻いて花村はシンを誘った。

 

シンは花村の隣を見ると、二年組が傘を差していた。

 

「…構わない」

シンはそういうと、メリーにアイコンタクトをすると、メリーは「行ってらっしゃいませ」と綺麗なお辞儀をしてシンを見送った。

 

シンの恰好は明らかに暑い。

だが、当の本人は汗をかくことなく、パーカーを着ているために。

誰も突っ込まなかった。

 

「辰巳ポートアイランドに何をしに行ってたんだ?」

「…暇つぶし」とシンは傘を差してアパートから出た。

 

「まあ、確かに事件は一応、犯人が捕まったしな。ただ、やっぱりシンの思惑っていうか…疑念?みたいのは確かに引っ掛かるよな」と花村は言った。

「私たちも少し考えてたの、世間はニュースなんかではもう終わりって雰囲気だったし、警察も終幕の雰囲気みたい。」と天城が言った。

「そうだね…確かにモロキンだけの事件が証拠が出てくるっておかしいと思う」

 

「…模倣犯か…」と鳴上は呟くように口から出した。

 

「でさ、話変わるけど、今日あたり、とりあえずお疲れってことで鳴上の家でお疲れ会的なことをやろうって話をしてたんだけど、お前は辰巳ポートアイランド行っちまうしで、出来なかったんだわ」

「それは悪かったな」

「いや、まあ、堂島さんはいないみたいだしな今日は」と花村は鳴上を見る。

「難航しているみたいだ。立件が。」と鳴上はため息を吐いた。

「でも、それのお陰というか、それのせいで今日のパーティーが出来る訳だし」

千枝は嬉しそうに答えた。

 

「そんで、もうりせとか完二はジュネスに向かってて、クマは…一応バイトしてっけど…やべぇ…心配になってきたわ」と花村は言うと「わりぃ!先行くわ!!」と花村は走ってジュネスへ向かった。

 

「世話係も大変だ。」

「…シンも大変だと思う」と鳴上はシンに言った。

「…大変?お前の方が大変だと思うぞ?

皆の武器を買い、学徒保育から夜の病院までアルバイトをしているじゃないか。」

「え!?そんなバイトしてたの!」と千枝は驚いた顔で鳴上をみた。

 

「慣れてる。シンもやるか?折り鶴。」

「やらん。どうして、よりによって折り紙だ。」

「集中力が高まるぞ?」とどこからともなく折り紙を取り出した。

「やらん」とシンは『逃走加速』で物凄い勢いで走り始めた。

 

「は、はや!」

「レアシャドウより速いかも」と女性陣はそんな感想を言っているなか、鳴上はレアシャドウという言葉に反応して、シンを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「なんで、疲れてんだ?相棒」

「だ、大丈夫。」

 

>鳴上の根性が上がった!

 

鳴上は息を切らしながら、ジュネスへと来ていた。

シンは辺りを見渡した。

 

「りせや天城、里中は?」

「あー、その、菜々子ちゃんが、オムライスを食べたいって言ってたんスよ。そんで、何故か先輩達は勝負するみたいな話になって…」

「…鳴上もやるのだろ?」

「そうでなきゃ、ただの死刑執行だぜ…」と花村はため息をはいた。

 

「俺もやろう」とシンは言う。

「間薙先輩、料理出きるんスか?」

「…人並みに」

「だ、大丈夫だよな…お前みたいなタイプが意外と核弾頭とかってないよな…」

「任せろ」

そういうとシンは頷いた。

 

「鳴上はどんなオムライスにするんだ?」

「スタンダードなやつでいい」

「手伝います!センパイ!」

 

「間薙先輩はどうするんスか?」

「俺もそれでいい。」

「うっス!」

完二は言われた食材を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

夜。

堂島家では、料理大会が行われていた。

女性陣はすぐに作り始めた。鳴上もそれに混ざるような形で料理をする。

 

シンは最後に作るということで、テレビのある居間で菜々子やクマ、花村、完二と話していた。

だか、菜々子はシンが少し怖いのか、チラチラとシンを見るだけであった。

シンはどこからともなく、短めのペンを取り出した。そして、菜々子に見せるように自分の顔の前に両手で、もった。

 

菜々子がそれを見ていると、左手にペンを隠しふっと、息を吹きかけた。

 

「すごい!!」と菜々子は驚いた表情でシンをみた。

 

その手からペンは跡形もなく、消えていた。

「はーすごいっすね、センパイ器用なんスね」

「どこまで、すげぇんだよ。お前」

「すごい!すごい!もう一回やって!」と菜々子は嬉しそうにシンの手品を見ていた。

 

料理という、死刑執行猶予時間は未だに終わらない。

 

「ねーねー、すごいよね!ホンモノのりせちゃんだよ!?」と菜々子は嬉しそうにりせを見てクマに言った。

 

「…クマ…そろそろ"あっち"に帰らないといけないな…」

「どこかに、帰っちゃうの?」

「うん…」

「ふうん…やくそくかぁ。じゃあ、菜々子とやくそくしたら、帰らなくていいの?」

「ナナチャンと…約束?」とクマは菜々子を見た。

「んっと…あそんでもらうやくそく。だめ?」

 

「…っつーか、何を言ってるだよクマ。まだ終わってねーかもしれないだぜ?」と花村はクマに言った。

「それに勝手に職場放棄すんな。大体、お前が居なくなったら…」

「でーきたーっ!はーい、ジャマジャマ、先輩!」とりせはオムライスを居間の机に置いた。

 

シンは終わったのを察すると、キッチンへと向かった。

シンはふと、空になったタバスコを見つけた。

そして、運ばれていく、赤いオムライス。

(…そっとしておこう)

 

 

 

 

「どうぞ、召し上がれ!」と皆のオムライスが机に並べられている。

「ま、まー待て。

いきなり菜々子ちゃんに食べてもらうってのは、その…いかがなもんかな。」

そういうと、花村は千枝を見た。

「こ、こっち見んな!」

「あー、毒見役ってことスか。」と完二は納得したようにうなずいた。

「毒見って、ひっどぉーい!

じゃ私のは、まず花村先輩、食べてみて。絶対おいしいんだから!」とりせは赤いオムライスを花村の前に出した。

 

「俺が一番でいいのか?いや実は、ナニゲに期待してんだよ。

そうじゃなくたって、“りせちー”手作りの料理食べるとか、普通絶対ない体験だろ。」

「じゃ、いただきまーす。」

 

そういうと、スプーンを取り、赤いオムライスを口に入れた。

 

 

「う…」

花村の目から涙が出てきた。

 

 

「こ…これは…菜々子ちゃんには…やれないな…」と汗をかきながら、花村は言った。

「やっだ、美味しくて独り占め宣言!?」

 

鳴上もそれを食べると、目が潤んできた。

兎に角、辛い。辛さと熱さで溶岩のようになっており、フォアグラらしい食感など

まったく見当たらない。

そのうち、血の様な鉄の味がしてきた。

鳴上はすぐに察した、これは菜々子にはやれない。

 

 

「じゃあ、次、私のね。」と天城が言った。

「味見は、んじゃ、オレっスね。」と完二はケチャップの掛かっていないオムライスを食べた。

「お、おい、そんな無防備に…

「…」

 

完二は何も言わずに、再びオムライスを含んだ。

 

「ちょ、ちょっと、何か言ってよ。」と天城は不安そうな顔で完二に言った。

「いや…その…なんつんだ…?"不毛な味"っていうか…」

「不毛!?"不毛"って、味に使わないでしょ!?

おいしいの!?どうなの!?」と天城は少し怒った表情で完二に言った。

 

鳴上はそのオムライスを食べた。

…危険物でない…だが…味がない。無味…

確かに不毛だ。

 

「おいしくはないっスね…なんかこう、"おふ"を生でかじったみてえな…

こんだけ色々入ってて、全く味がしねえって、ある意味、才能じゃねえスか?」

「せ、繊細な味が分からないだけよ!」と天城はショックそうにした。

 

菜々子はそれを見て、そのオムライスに手を伸ばし、食べた。

 

「…おいしいよ?」

「な、菜々子ちゃん…!」とパァっと天城の表情が明るくなった。

 

「じゃ、じゃあ、次はあたしので。うー…緊張するなー…

けど、絶対、うまいと思う! 今度こそ!」

「クマがいただきますー。」

そういうと、クマは少し色の黒いオムライスに手を伸ばした。

 

「ど…どう?」

「うん、まずい。ヨースケたちも食べるクマよ、ほれ。」

「自分で"まずい"つっといて、お前…」と花村も手を伸ばし食べた。

「あー…なるほど…」と花村は納得したようにうなずいた。

 

鳴上もそれを口にした。

…まずい。その一言でしか表現できない。何が足りないとか、具材の切り方とかではなく、まずい。それ以上、以下でもない。

 

「や、ほら…でもさ、前のカレーに比べたら格段の進歩じゃん?」

「ふ、普通にまずいってのが、一番キツイから…しかも、慰められた…」

 

菜々子は天城のと同じように千枝のもおいしいと言って食べた。

天城は千枝のを食べると、笑い始めた。

「あー、ほんとだ…ほんとだほんとだ、普通にマズイ、これ!あははははは!」

「じゃあ、りせちゃんの食べてみなよ!絶対あたしのが美味しんだから!」

そういうわれるまま、天城はりせのを食べると、「う…うぼっ…」と言って倒れた。

 

「せ、先輩!?」とりせは慌てた様子で天城を見た。

「一撃だ」と完二が言った。

「ま…天城や里中のもウマくはなかったけどさ…ブッ倒れはしないかな…ハハ…」と花村は言った。

 

するとりせは泣き始めた。

「こっ…子どもには分からない味なんだもん!大人の味なんだもん!

先輩たちが、お子様なんだもん…

私、私…ううぅ…ひっく…うわぁぁん…」

 

菜々子はそれを見ると、りせのを食べた。

 

「ん…!」と一瞬顔をゆがめるも、「からいけど、おいしいよ。」

そう言われると、りせは一転、笑顔で

「菜々子ちゃん…!ねー、そうだよね!

菜々子ちゃんが一番オトナ!」

 

「うっわ、嘘泣きキタ!」

「そう言や、先輩も作ってたっスよね?」

 

「お兄ちゃんの!いただきまーす。」

そういうと、菜々子は鳴上のを食べた。

 

「すっごい、おいしい!こんなオムライス、はじめてたべた!すごい! おいしい!」

菜々子は大喜びのようだ。

 

そこへシンがオムライスを持ってきた。

 

それを見た皆が驚いた表情であった。

 

「…これ、本当に今…作ったのか?」と花村はシンのオムライスを見て言った。

「そうだが…」とシンは机にオムライスを置いた。

「明らかにクオリティーが違う…」とりせはそれを見て思わず口を開いた。

 

そこには黄金に輝いているのではないかと思うほど、黄色いふわふわなたまごが乗っている、オムライスがあった。

そして、それをシンが包丁で切ると、予想通りの半熟なたまごが姿を現した。

 

「わぁ!テレビで見たことある!」と菜々子は物凄い嬉しそうな顔でそれを食べた。

「おいしい!!お兄ちゃんのと同じくらいおいしいよ!!」

「そうか」とシンは淡々と答えた。

 

りせと千枝はそれに手を伸ばした。

「…ふわふわ」「…お、おいしい」とりせは千枝は唖然としたように言った。

 

結局、菜々子は鳴上のを食べ、シンのは男性陣が食べた。

そして…爆弾処理は…悪魔たちがした。

それも舌のおかしい連中に渡すように、ジャックフロストに渡した。

 

渡された連中はおいしそうにそれを食べたそうだ。

 

 

 

 

「いやぁ…本当に、シンが居てよかったぜ」と花村は嬉しそうにシンに言った。

「どうして、そんなにうまいんだ?」鳴上がそれを尋ねた。

「…別に環境でそうなっただけだ」そういうと、シンは少し俯いた。

 

「提案があるんだけど。今度、お祭りあるだろ、商店街のさ。あれ、みんなで行かないか?」

花村がそう言い始めた。

 

「あ、さんせい!」とりせは答えた。

「むほー!ひょっとして浴衣クマか!?」

「おまつり…」と菜々子はつぶやいた。

 

「菜々子ちゃんも一緒にさ。」と花村は菜々子に言った。

「いっしょに、いーの?」と菜々子は鳴上に尋ねた。

「もちろん」

「ほんと!?わーい!!」と菜々子は大喜びした。

 

「決まりだな」

「出店で買うと、大したモンじゃなくてもウマいんスよね、また。」

 

そんな会話をしながら、8月20日にあるお祭りへ行くこととなった。

 

 

 

みんなが帰ったあと、シンと菜々子が居間に居た。

鳴上は皿を洗っていた。

 

 

「今は楽しい?」とシンは菜々子に尋ねた。

「うん!」と菜々子は笑顔で答えた。

 

 

 

特別、俺は料理がうまくなったわけではない。

俺は…家ではいつも一人だった。

親は共働きで、少し変わりものと言われていた俺は勇や千晶、そして先生、以外とはそれほど仲の良い人間はいなかった。

 

…どこかで、俺は無用な人間だと、思い始めた。

だから、あの日も俺は勇に惹かれた。

同じ…においがしたからだ。

 

そして、俺は親に苦労を掛けないようにしようと思って、自分で料理を小学生のころから始めた。

そして、偶々、その時住んでいたマンションの隣の人が有名なコックで、教えてもらったというだけの話。

 

 

 

 

「…大丈夫?」

菜々子にシンが考え事をしているのに心配したようだ。

シンは「大丈夫」と淡々と答えると、立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ帰る」

「ああ、また」と鳴上と菜々子はシンを見送った。

 

 

 

 

そして、今日はマヨナカテレビ…

 

誰も映らず。皆がホッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…またか」

 

 

 

 

 

 




やっとこさ、パソコンで投稿できるので嬉しい限りです。
スマホで大分書き溜めた(そうは言っても15000文字くらいですが…)ので、こうしてパソコンで投稿している次第です。
スマホでも出来るんですが、いろいろと確認しながら投稿したいので、やはりパソコンだとおもう次第です。

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