Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第34話 Sea 8月23日(火) 天気:晴

「やっぱ、バイクっツったらこれっすよ」

「うっせ!!俺たちはこんなバイク買える程、金がねーんだよ!」と花村は完二の言葉に反論した。

「…それに、こういう田舎町は原付の方が利便性がある」

「そうだな。合理的ではある」とシンはうなずいた。

 

「で、バイクのない完二とクマはどうするの?」とりせは二人に尋ねた。

「オレは自転車でいくんだよ」

 

「…クマは俺の後ろに乗ると良い」とシンはクマにもう一つのヘルメットを渡した。

「…クマ惚れちゃうクマ」

そういうと、バイクに跨っているシンに抱き着くような形でバイクに乗った。

 

「死にたくなかったら、しっかり掴まっておけ」

「シン君、冷めてるクマ…」

 

 

「こうやってみると、やっぱりカッコいいね。間薙センパイ」

「そうだね…比較対象があるからね」天城は花村や鳴上のバイクを見て言った。

 

シンのバイクは真っ黒でシンの雰囲気に合っていた。

ただ、相変わらずのパーカーであり、暑い夏だと言うのに、どこか不自然さを感じる。

 

「じゃあ、先に行って正確な場所を伝える」

「頼んだ!」と花村はシンに言う。

 

実は海の場所が正確にはつかめていない。

鳴上は感覚的に行ったことがあるそうだが、正確な場所が分からない。

なので、シンが先行することにした。

 

シンのバイクにはナビが付いているからだ。

 

 

 

 

森の中を走っていると、奇妙な感覚になる。

見慣れない木々と、クネクネと曲がる道…妙に高揚する。

 

俺が…バイクの免許を取ったのはそれも理由がある。

 

知らない道。知らない場所で、俺は…違う"人間"になれる気がしたのだ。

だが、結局…俺は…"俺"以外の何者でもない。

 

 

『お前は何者かにならなければならない』

 

 

カグツチの言葉は俺を未だに苦しめる。

俺は何者だ?

 

人修羅?混沌王?間薙シン?

 

どれが誰だ?何が誰で…俺はどこだ…

どこまでが俺だ?どこまで行っても俺なのか?

 

…名前?…記号でしかない。

この世界は記号でしかない。

過去も未来も。物自体も表象も。

 

俺は知っている。人間は他人が存在しないと自己を失う。

何故なら、自己を映す鏡だからだ。

 

 

あの世界で、俺は一人。

 

俺は…何を…意味…疑念…染まる…

 

 

 

 

『色即是空、空即是色』

 

 

 

「クックッ…」

俺は思わず、笑ってしまった。

その声は恐らくクマには聞こえていない。

エンジン音でかき消されているだろう。

 

信号が赤だったので、止まった。

 

…何をいまさらそんなことを。

悩む必要もない。すべては因と縁。

 

 

「信号、青クマ!!」とクマは言った。

「ああ。そうだな」と俺はスロットルを回した。

 

昔、俺は刑事に憧れた。

正義の味方でかっこよかったような気がしたからだ。

それに…ドラマの中で見る刑事たちは…仲が良く見えた。

熱い人が多く、信念を持っていたように思えた。

 

だからこそ、鳴上達がうらやましい。

 

気兼ねなく話、時には争う。

…だからこそ、分かりあえると彼らは信じている。

 

 

「この辺で良いか」

「着いたクマ!!」と二人は海岸に着いた。

その位置情報を鳴上に送った。

 

 

『恩恵は業であり、罰であるのだ』

『恩恵?才能ということ?」

『…キミは運が悪かった』

「運が悪かった…」

 

 

『そうだ。キミは選ばれたのではない。"選ばれなかった"のだ。』

「選ばれ…なかった…」

 

クマは早々と、着替える場所へと向かったようだ。

 

「…ひどく疲れていますか?」と現れたクーフーリンがシンに言う。

「いや。少しな」

「?」

 

シンは自分の手を見た。

 

「俺の中にある、絶対なる闇の中で、鳴り続ける音がある

それが嫌に心地悪く、嫌に…懐かしい気がしてな。」

 

 

 

 

 

 

「なんか…キンチョーしねえ?海だぞ?水着だぞ?

生"りせちー"だぞ!?いーのか俺…ここで人生の運を

使い果たすんじゃねーか。」

 

 

そこへゾロゾロと女性陣が来た。

 

 

「むっほほーい!」

「うおっ!」

 

「な、なんでここにいんの?海入ってりゃいいじゃん!」と千枝は少し恥ずかしそうに言った。

「先輩たち、待っててくれたんだ?」とりせは鳴上達を見た。

「おい、ヤッベーだろあれは…!」と花村は小声で鳴上に言った。

「意外とフツウ」と鳴上は小声で言った。

「お前の理想、果てしねー!」

 

「あの、早く海へ…」と天城も少し恥ずかしそうにしている。

「チエチャンもリセチャンもユキチャンも、

真夏のプリティ大賞独占クマねー。

可憐なラブリー人魚に囲まれて、

クマもひと夏のいけない体験…しちゃいそう。」

 

 

>シンは思考の高速回転を始めた。そして、一つの答えに辿り着いた!!

 

 

「海水を飲むことか…しておけ、人生は経験だ」

「え?」とクマはシンの方を見た瞬間、クマは妙な浮遊感を感じた。

そして、そのまま海へとインした。

 

 

「だいじょうぶか…あれ」と花村は飛んで行ったクマを見て思った。

「浮き輪ついてるし、大丈夫じゃない?」と天城は冷静にクマを

「いや、浮き輪途中で落ちちゃってるし…」

 

 

疲労した完二が来る前に皆は海に入った。

 

シンは砂の上に座ろうとすると、クーフーリンがビニールシートを広げた。

そして、パラソルを立てる。

 

「ん。すまないな」

「いえ。これも仕える身の仕事です」

 

シンはゆっくりとパラソルの下に寝転んだ。

夏だと言うのに、ここは人があまりいない。

一応、海水浴場となっており、海水浴も許可されてはいる。

シンにとって、これほど綺麗な海水は見たことがない。

 

「…入ってもいいかな?」

天城がシンに声を掛けた。

「ああ」とシンは起き上がり、少し位置をずれた。

「お!パラソルじゃん!入れて!」と千枝もパラソルに入った。

 

「日差しが強いからすぐに、やけちゃうね」

「俺もそうだな。インドア派だったからな。」

「それの割に…その、すごい筋肉だと思う」

 

所謂、細マッチョなシン。

 

「あれだけ、たべて太らないって、羨ましいかも」

「…まあ、それは違う形で消費されているからな」

「やっぱり、悪魔とかだと、そうなの?」と千枝は羨ましそうに言った。

 

「常に喰われている。」

「え!?何に?」と天城は驚いた顔でシンを見た。

シンは天城達とは別の方向を向き、マガタマを吐き出した。

「これだ」

 

それを見た千枝は凍った。

それは大きな白い手足の無い虫の様に見えた。

 

「これ…?」と天城は平然とそれを持ち上げた。

「『マガタマ』という。このマガタマは特殊でな。常にSPを消費する代わりに、絶大な力を発揮する」

「だから、あれだけ強いの?」

「これだけではないがな。」とシンは天城からマガタマを返して貰うと。

 

「「!?」」

 

それをペロリと呑み込んだ。

 

「きゃあああああ!!」と千枝は立ち上がって逃げ出した。

 

シンは首を傾げながらも

「ただ、別にそれはカロリー消費をしているか、といわれると分からない」

 

「へぇ」とやはり、天城は平然と会話をする。

「やっぱり、間薙君って小さいころから、そんな感じだったの?」

 

「そうだな…」

「え?なんで」

「里中さんには言ったが、幽霊なんかを見ていた子供だ。それが都会の一般的な子供とは言い難いな」とシンは髪の毛を掻いた。

 

「じゃあ、向こうでは何してたの?」

「映画を見ていた。暇さえあれば。

この辺にはなくて、沖奈駅前までいかないといけないというのは少し面倒に感じるな」

 

とそこにビーチボールが飛んできた。

 

「おぉぉぉい。ユキコチャンもやるくまよー!!」

「じゃあ、ね。」と雪子はクマの方へと向かった。

 

女子たちが飲み物を買いに行っている間に皆がバラソルへと集まってきた。

 

「あれ?里中が叫び声上げてたけど、なんだ?」

「これだろ。」とマガタマを見せた。

そして、それを呑み込んだ。

 

 

「千枝は虫が嫌いだからな」と鳴上は納得したように頷いた。

「いや、ちげーよ!!なんだよそれ!!虫!?え?なに!?俺がおかしーのか!!」と花村は鳴上に切れる。

「そ、そうっすね」「そ、そそうクマね」

「は?お前ら何テンパってんだよ」

「な、なんでもないっすよ」「そ、そうクマ」

 

 

二人は知っている。事実、シンとパーティーを組んだからこそ、知っている。

シンがあの白い虫を吐き出し飲み込むところを。

 

 

その後、様々なことで皆楽しんだ…

 

 

「それにしても、夏休みもう終わんのか…」と花村は柵に腕を乗せ、海を見た。

「光陰矢の如しだ。」

「悠はなにしてたよ」と花村は尋ねた。

 

「バイトして…バイトして…あと、菜々子の宿題手伝って…バイトだったかな」

「どんだけ、バイトしてんだよ…シンは?」

「俺は…辰巳ポートアイランドと…あとは特に宿題やって…」

「あ…やべぇえええ!!!宿題あったんだっだ!!」と花村は立ち上がり叫んだ。

 

「なに、まだあんたやってないの?」と千枝は清涼飲料水を飲みながら花村に言った。

「あーやべぇよ。どのくらいで終わった?」

「わからん。俺は早々に終わらしたからな」とシンは適当に言う。

 

 

「マジかよ…ちくしょー!!!なんで夏休みの宿題なんかあるんだぁあああああああ」

 

 

それなりに楽しい海水浴だったと言える。

語りたくないという理由で、カットした

 

「めんどくさがるんじゃないホー!!」

 

…完二のハプニングはある意味青春的であったし、それを思い出すのはあまりにも酷な話だと理解してほしい。

 

シンは表情に出ないものの、休息になったと言える。

シン自身、特に疲れなどは感じないが、性分故に空気を吸うように時々ため息を吐く。それは疲労からではなく、退屈だという何よりの証明である。

 

そして何故か、授業中にシンのため息が聞こえたとき、教師は早々と話題を切り替える癖が付いた。

理由は不明。しかし、シンの知らない所で何かが動いていたのはたしかである。

 

 

帰りは帰りで皆ワイワイと帰る。

 

 

「クマはどうすっか」と花村はシンに言った。

「そしたら、お前の家まで送って行く。」

「いや!いいよ、お前んちから、俺んちって結構、距離あるし」

「別に構わない。それに、そんなローラーシューズじゃ、危ないぞ」

 

「…じゃあ、シンに頼むか」と花村は心配そうに言った。

「なんだ、俺の運転は心配か?」

「お前っつーかどちらかと言えばクマが暴れて、そのまま事故ってのが一番最悪だからな…」

 

「…たぶん…大丈夫だろう」

「なんか、不安だわ…」と花村はため息を吐いた。

「…お前、いいやつだな」

「は!?何言ってんだよ!お前!」と恥ずかしそうに花村は自分のバイクに乗った。

「褒め言葉だ。素直に受け取っておけよ」

「うっせーよ!!」と花村は先に皆とバイクで出発した。

 

無論、原付は30kmだがシンは速度を出せるので、早々にシンに追い抜かれた。

 

「やっぱ早いなー。よっし私も…」

「ダメだっつーの。こっちは原付だからそんな飛ばしたら捕まんだよ。それにスキーに行けなくなんだろ?」

 

「スキー?」と天城は首を傾げた。

「冬休みに行こうぜ。どうせなら、さ」

「…まだ夏休みなんだけどな」

鳴上は突っ込んだ。

「い、いいじゃねーか!!それにもう夏休み終わっちまうしさ…」

「まだ、花火大会あんじゃん。」と千枝は花村に言うと、「ああ!そうだった。シンに電話しておくわ」

 

「でも、やっぱりカッコいいなぁ。間薙センパイ…あ、でももちろん、センパイが一番!!」とりせは鳴上に言った。

 

「さらっとすげーこと言ってるよ…この人」と花村はため息を吐いた。

 

 

 

 

シンは花村よりも早く花村の家に着いた。

クマのヘルメットを外すと、クマは少しくらい表情で居た。

 

「…じゃあな」とシンはクマに言う。

「シン君…」

「なんだ」

「シン君は怖いクマか?」とクマはまっすぐな瞳でシンを見て言った。

 

「怖い?何が」

「…自分がナニモノかみんなに言うのは怖くないクマか?」

 

シンは少し間を開けて言った。

 

「…きっとあいつらは言うだろうな。『それがどうした』と。しかし、俺とお前は違う。

俺は違う世界の人間だ。あいつらとはそのうち関係がなくなるだろう。

だが、お前は違う。お前はこっち側にも来れる。簡単にな」

 

「だから、もしお前が"お前の正体"を分かったとき、それがどれだけ残酷な真実であっても、あいつらには伝えるべきだと俺は思う。

一人で…抱えきれない痛みなら、分け合えばいい。

時に必要なのは、少しだけの歩みだけだ。

それに、お前たちの関係はそんなもんじゃあないだろ。」

 

 

そういうとシンはクマの頭を撫でて、バイクで走り去って行った。

 

 

「よー!またせたなクマ。」と花村はヘルメットを脱いだ。

「…」クマは黙ったまま、自分の手を見つめていた。

「…どうしたんだよ」

「な、なんでもないクマ!!」とクマは笑ってごまかした。

 

 

 

 

「残酷…か。お前にとっての残酷とはなんだった?」とニャルラトホテプは後ろにいつの間にか乗っていた。それも相変わらず、直斗の姿である。

 

「…多すぎて数えられんよ。」

「中でも、ひどいものを教えてほしいものだな」

「知らんね。しいて言えば、お前くらいだ」とシンは皮肉を言うと、ニャルラトホテプを笑った。

 

 

 

夜…

 

シンの携帯が鳴った。

「花村かどうした。」

「シンか?実は30日に花火大会があるらしいんだ。来るか?とりあえず、午後にジュネス集合つっーことで。」

「ん。分かった。」

 

そういうとシンは電話を切った。

 

 

儚い時間の中で

夢を見ることさえ、拒まれるなら。

紡ぐ言葉さえ淡く溶ける。

 

俺は一人の修羅なのだ。

 

忘れていた言葉を思い出す。

思い出を焚べよ。忘却できない、思い出を。

 

 

 

 

混沌 ランク 3→4

 

 




アニメに追いついかれるという衝撃の事実。
アニメ速すぎワロタwwww。
でも、まあ、気にしないです。マイペースにこれからも書いていきます。
次の話はちょっとその三話を意識したものにしようかと思います

マリーの話直斗と、それに関連してシンの突っ込んだ話です。
それとちょっとだけ、シンと直斗が良い関係になるかもです。
これは完全に作者の趣味です。申し訳ない。

ただ恋愛だ、なんだにはならないのでそこは期待しないでください。


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