Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第35話 Interrupted By Fireworks 8月30日(火) 天気:晴

午前中…

シンは暇つぶしがてら、ベルベットルームに来た。

 

「…本当の自分向き合うってなに?」

マリーはベルベットルームに来たシンに突然尋ねた。

「…本当の自分?」

シンはジャックフロスト人形をマリーに渡した。

 

「…分からないの。記憶、ないから。」

そういうと、ムギュとジャックフロスト人形を抱きしめた。

 

その言葉にシンは少し懐かしさを感じた。

『おまえは何者かにならねばならぬ』

光の中でカグツチに言われた言葉だ。

 

しかし、別に彼女は何者かである必要はない。

『コトワリ』を築くこともなければ、それを知らなくても生きてはいける。

 

「不安か?」

「…たぶん」とマリーは少し憂鬱そうだ。

「それは難しく答えた方がいいか?」

「うーん…それはイヤ。」

 

「…なら、焦らないことだ。」とシンはベルベットルームのソファに深く座った。

 

「?」

「"お前が何者か"俺は知らないし、知りようもない。

憶測を言っても良いが、先入観は与えられん」

 

「憶測?…何かわかるの?」とマリーはシンを見た。

 

「…状況的観測だ。」

「ジョウキョウ…カンソク?…意味わかんない」

「一つ確かなことは、お前がただの"人間"ではないこと。」

「…」とマリーはジャックフロスト人形に顎を乗せた。

 

「君は…どうやって本当の自分を見つけたの?」

「…俺は…『深淵への跳躍』を決行した。」

「シンエンへの跳躍?…なに…それ」とマリーは首を傾げた。

 

「…俺は昔、深い絶望を味わった。

その世界では代わりに誰も跳躍なんてしてはくれない。

誰かの考えに同調することはできた。

だが、結局それを決めるのは自分でしかない。」

 

「一人で決断し、一人で跳ぶしかなかった。」

 

シンはため息を吐いた。

 

「だから、俺は俺の本心に従った。

好奇心という、狂暴な猛獣の檻を壊した。

それは自分自身の全身全霊を掛けた跳躍だった。

何故なら、戸惑えばあの世界では死に直結する。」

 

シンの表情が曇った。

 

「…例え、大きな後悔…いや、友人を殺す羽目になってもだ。

だが、どんなときも、俺は全身全霊で自分自身を信じて跳躍してきた。

世界が崩壊して、『カオス』を創世したときから、今も、そして、此からもだ。」

 

「…訳わかんない…」

 

「…それでいい。この世界でそんなことを実践したところで、刑務所か野垂れ死にだ。それに俺もまだ未完成だ。あるかないかでは、どうも語れないことでな」

シンは皮肉を言い、目を閉じた。

 

「とりあえず、焦る必要などない。お前には鳴上達がいる。

不安なら言え。経験談でも聞けばいい。俺よりはましだ。」

シンはそういうと、ソファから立ち上がり、出て行った。

 

「…」

マリーは無言のままシンを見送った

 

 

シンはジュネスへ向かうと、まだ誰も居なかった。

 

 

「おや、奇遇ですね」と本物の直斗が、偶々ジュネスのフードコートに居た。

「相変わらずだな。君は」

「ええ、そうですね…」と少し疲れた表情で椅子に座った。

 

「…なんだ、煙たがられるか」

「どういう意味ですか?」と直斗はシンを見る。

「未だに捜査しているそうだな…警察内部じゃ煙たがられるだろうな。

完全に警察は終結モード。多少の矛盾も無理で通すだろうな。」

 

「…何でも御見通しですか。…僕より探偵に向いているんじゃないんですか?」

直斗は帽子を外すと、皮肉を言った。

 

「まさに、孤軍奮闘か…いや、どちらかと言えば四面楚歌か。」

「…」

直斗は一瞬だが、あることを思いついた。だが、それをすぐに頭の中から消そうとした。

 

しかし、「…見返したいなら、今君が考えたことを実行すると良い。」

「!?」

「疲労のせいか、顔に出ているぞ」

「…そ、それは…できません…」と直斗は飲み物を飲んだ。

 

と突然、シンが直斗の顔をのぞきこむ様に近づけた。

「キミを見ていると、どうも不思議な感覚になるな」

「な、ななにをしてるんですか!?」と顔を赤くして直斗は言った。

「…キミは俺に似ている。どこか子供っぽくてな」とシンは顔を放した。

 

「ぼ、ぼくは…やらないとは…言い切れません…

ですが…あなたを信頼しても…その…いいでしょうか」と顔を赤くして直斗はシンに言った。

「…君は有能だからな。見捨てるようなマネはしない。それに、同じ帽子仲間を失うのは退屈、極まりない。」とライドウの帽子をシンは被った。

 

「で、では失礼します」と直斗はフードコートから逃げるように去って行った。

 

 

「どういう心境の変化かな?」

突然、現れたルイにも動じずにシンは答えた。

恰好は皮の手袋に、ハンチング帽子、そして、鼠色のスーツのズボンにyシャツという夏のスタイルになっていた。

 

「…何故だろうな。あいつに居場所を与えてやりたくなったんだ。」

「それは何故だ?」

「…ニャルラトホテプには言ったが、同族のよしみだ。それと、…気まぐれ」

シンの呼び出し機が鳴った。

シンは立ち上がるとステーキを受け取りに行った。

 

「迷え。間薙シン。…それでこそ、完成に近づくのだ」

ルイは笑みを浮かべると、階段から降りて行った。

 

 

 

鳴上達は階段で屋上を目指す。

「シンはもう来てるみたいだな」

「早いね。やっぱり」

「そこらへんが、完璧超人たる所以だろ。どう考えたって」と花村は言った。

 

「やぁ、こんにちは」

「こんにち…?」

スーツの男性が階段をすれ違い様に声を掛けられた。

鳴上は声を掛けられた為に咄嗟に挨拶を返したが、知らない人だとすぐに後ろを振り向いた。

 

「…誰も…いない?」

「ん?どうしたんだ?相棒」

「…いや、なんでもない」と鳴上は首を傾げて階段を登った。

 

 

 

夜。

 

 

 

鳴上達は天城の言う、穴場の高台へと登ってきた。

「ううん、知ってたの。私、山側もよく通るし、お客さんに訊かれる事もあるから。

菜々子ちゃん来られるかな。来る前に場所、電話しておいたけど…」

 

 

そんな話を聞いたから、行かないわけには行かないのだ。

 

「お! ホントに人少ないな。」と花村は早々と一人、階段を登り高台へと行った。

「そういえばクマは?」とりせは周りを見渡した。

 

「片っ端から女の子ナンパした挙句、大谷誤爆してお持ち帰りされた。

とっさに"クマ皮"着て、着ぐるみ気取ってたけど問答無用で抱えられてったぜ…」

「ちょ…それ放っといていいレベル!?」と千枝は花村に言った。

「いーんだよ、日頃のバチが当たったんだ。」と花村は軽く笑った。

 

「今日の花村先輩、クマに冷たくない?」

「今朝のアイツの所業を考えたらむしろ足りねー。もう2、3人、大谷おかわりさせてーぜ…」

「や、死ぬだろそれ。つーか何があったんすか。」

 

そう言われると、花村は震えた。

「思い出したくもねー…アイツ、俺の部屋から余計なモン発掘して、

花村家の朝食に持って来やがったんだよ。

“ヨースケー、この本なーにー?”つってさ。

おかげで俺がどんな辱めを受けたと思う!?」

 

「んな代物、持ってっからでしょーが。」と千枝は呆れた顔で花村を見た。

「親いる前に持って来られるとか、想像しねえだろ!」

 

「それ、女の子いるトコで話す?」

「へそくりって事じゃないの?」と天城はりせに尋ねた。

「男の人のへそくりでしょ。もう放っとこ。」

 

そこに「おぇぷ…」と聞き覚えのある声がした。

クマだ。しかも、ペラペラになったクマだ。

 

「恐るべしクマ…自慢の毛並がズタボロクマァ…」

「予想以上だな…てか、そのカッコ目立つから、さっさと脱いで来いって。」

「この中、生まれたままの姿だから。今朝見たヨースケの本とおなじだね!」

「サラッとトラウマ掘り起こすな!」

 

「…ちなみに、シンならどうやって隠す?」と鳴上はシンに尋ねた。

「残念だが、俺はそういうのはもうなくてな。」とシンは両手を上げて困惑を示した。

 

 

「いた!お兄ちゃん!」と菜々子の声がする前に鳴上はそちらを向いた。

「菜々子ちゃーん!そっか、堂島さん間に合ったんだ!」と皆が菜々子を迎え入れた。

「うん!お父さん、早く帰ってきてくれた!」

「よかったな」

「うん!」と鳴上の言葉に本当に嬉しそうに菜々子は応えた。

 

「悪かったな、気ぃもませちまって。書類の残りもあったが、足立に渡してきた。」

 

クマが一回転して、菜々子の前に現れた。

「ハァーイ、お嬢さん。 よかったら、

ボクと愛の花火を打ち上げてみなーい?」

「許さん」と鳴上が前に立ちふさがった。

 

「やめなっての、クマきち!堂島さんに現行犯逮捕されるかんね!?」と千枝はクマに言った。

 

「なんか下が騒がしっすね。」

「そろそろ始まるのかな?」

「ほんと!?」

 

すると、打ち上げの音が聞こえた。

そして、大きな音と共に綺麗な花火が上がった。

 

「わぁあああああ!!!綺麗!!」と菜々子は嬉しそうに言った。

鳴上達は花火に見とれていた。

 

シンはスッと堂島に近づいた。

「失礼。」

「ん?なんだ?」

「…白鐘直斗…気にかけてやってください」

「なんだ、知り合いだったのか」と堂島は少し怪訝な顔でシンを見た。

 

「…今、まさに四面楚歌。一人で終結モードの事件を追っている。

…子供っぽいところがありますから、居場所を失っています。」

「…」

「日焼けの跡がくっきりついています。

それは歩き回っている証拠。それに靴が新しい割には擦り切れも激しいし、Yシャツも襟と袖が汚れている。

相当、足を使って調べてます。それに、あまり家にも帰れない。」

「…それで?」と堂島は煙草に火をつけた。

 

「たばこの箱の位置から、右利き。よく、誰かの頭を触っていますね。

髪の毛が付いています。中手骨の皮膚が少し赤くなっています。

そして、先ほどの会話から足立さんを軽く殴ったようですね。」

 

「しかし、あなたは直斗と同じように、所内で少し孤立気味だ。」

「…」

「それは直斗と同じことをやっているからだと推測します。だからこそ、あなたにお願いしています」

とシンは淡々と堂島に言った。

 

 

「…悠の周りには変な奴が多いな」と堂島は煙草の煙を吐いた。

「…どうして、そんなことまでわかった」

「観察ですよ。観察」とシンは金色に光る眼を指差した。

 

「…お前は不思議な奴だな。高校生だとは思えないな」

「まあ、そうですね。…でも、俺はどうでもいいので、直斗。あいつに目を掛けてやってください?」

「…わかった。そうするさ」と堂島は携帯灰皿にタバコを入れ、消した。

 

シンは鳴上達を見た。

その光景はとても楽しそうに、皆が輝いていた。

一方、シンの方は影に包まれているような気がシンにはした。

 

 

「…俺はここで良い」

 

 

そんな言葉は花火に消された…。

 

 

 

 

『以上をもちまして、納涼花火大会の演目は

全て終了となります。

また来年のお越しを、地元一同心より

お待ちしております。 有難うございました。』

 

花火が終わるとそんなアナウンスで終了を知らせた。

 

「いっやー、見事見事! 余は満足じゃ。」と千枝は嬉しそうに言った。

「胃袋的にだろ?」

「何よ。みんな色々つまんでたじゃん!」

「大盛肉丼弁当は"つまむ"じゃねえっての…」と花村はボソリと言った。

 

「菜々子ちゃんも、楽しかった?」と天城は菜々子に尋ねた。

「うん」と菜々子は言うも目をこすり、「…ねむい」とつぶやいた。

 

「ははは、だろうな。

もういい時間だ、帰って寝るか。

俺は菜々子と戻るぞ。

お前たちもあまり派手に夜更かしするなよ。」と堂島は菜々子を連れて、階段を降りて行った。

 

「ナナチャン、バイバイクマ!」

「ばいばいくまー。」と菜々子はクマの言葉に振り向き応えて、降りて行った。

 

 

 

「花火は良かったっすけど、なんつーか…夏も終いって感じっすね。」

完二の言葉に千枝は肩を落とした。

「それを言わんでおくれよ…」

 

「私は、けっこう満足だけどな。

お仕事してると夏には秋のカッコしてて、季節感とか無いんだもん。

今年は、海に、花火でしょ?あと浴衣でお祭りも行ったし!」

 

「お祭りな…いい思い出ないけどな、誰かさんのお陰で。」と花村はクマを見た。

「そうなの?」

「オマエだよ!」

「や、結構楽しかったっすけどね。」と完二は言った。

 

「お前、型抜きウマかったな…ってそうじゃねーよ!

もっとこう、甘酸っぱいっつーか、なんつーか…そういうのを期待してたわけ!

なあ?」

 

「確かに大違いだった」

 

「ょ…ちょっと待て。"確かに"ってそれ、何と比べて…

まさかお前、翌日どなたかと…!」と花村は鳴上に言った。

 

「ふーん…そうなんだぁ。」

「…誰なんだろうね。」

「誰…なんだろうねー?」

 

「別に、マリーが行きたいと言っていたから行った。」と鳴上は特に何か問題でも?と言った感じで言った。

 

さらに視線が鋭くなる三人。

 

「おいっ…何だよ、この胃が痛くなるような空気は…!」

「ほんにヨースケは女の子の事ばっかりクマねー。」とクマは言った。

「お前が言うなっ

ての!」

 

「シンも白鐘直斗といた」と鳴上はシンに言った。

「…ん?ああ、そうだな。事件の話をしていた」

「え?そうなんすか?」と完二が珍しく反応した。

 

「なんか、お前とあいつって仲いいよな。」と花村は言う。

「?そうか。まぁ、頭の切れるやつは話が早くて助かるからな」

シンは淡々と答えた。

 

「直斗君も誘って上げればよかったのに」と天城が言った。

「…忙しいからな。あいつは、それにそういうタイプではないだろう」

 

「これっきりって、ちょっと後味悪いかも。私、キツい事言っちゃったし…」とりせは言う。

「そう気にすることはない。寧ろ、良い仕事をした」

 

 

少し、皆のテンションが下がった。

 

 

「うっし!とりあえず、屋台でいろいろ食って帰ろうぜ!」

「そうするクマー!!」

「肉!肉!!」

 

「わたあめとか食べようかな…」

「あ!私もわたあめたべよ!!」

 

完二は少しくらい表情で言った。

 

「…気になるか?」とシンは完二に声を掛けた。

「い、いや!気になんねーっすよ!!む、寧ろ先輩が気になるんじゃねーっすか?」

 

「そうだな。昔の俺に似ているからな。危なっかしいのさ。同族のよしみでもあるがな」

「へぇ…そうっすか」と完二は何となくシンの話を聞いていた。

「…それに…友人が死ぬのは…もう沢山だ」とシンはボソリと言うと鳴上達に続いた。

 

 

 

「…先輩」と完二はそんな背中を見ていた。

 

 

 

 

「何やってんだ!完二!置いてくぞ!」

「い、今行きます!!」と完二は鳴上達を追いかけた。

 

 

 

 

 

ある種の賭け。

あいつが変われるきっかけがあれば、良い。

不安など一切ない。必ず成功できるだろう。

 

 

 

 

 

混沌 ランク 4→5




少しづつだけど、シンの人間性が出てくるように書きました。
シンは実は熱い人間なんだなって感じが出せれば、と思いました。

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