Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

46 / 93
第44話 From The Abyss 10月21日(金)~23(日)

ボルテクス界から帰った鳴上達が驚いたことは、こちらの世界の時間が全くもって経過していないというこである。

そして、試験期間中だということを思い出し、皆がため息を吐いたことは言うまでもないだろう。

 

そんな試験も終わり、やっと落ち着いた頃、鳴上宅に切手の無い脅迫状が送られてきた。

 

10月21日に話は戻る。

 

 

21日放課後、鳴上に屋上に呼び出された。

「"コレイジョウ タスケルナ"。警告、でしょうか…」

「カタカナでカタコトって…ベタすぎない?」

千枝は少し笑いながら言った。

 

「イタズラじゃねんスか?マンガじゃあるめえし。」

「叔父さんには見せたのか?」

花村が鳴上に尋ねた。

 

「見せる気はない」

 

「堂島さんは信頼できる方ですが…見せるのは、控えた方がいいでしょう。

こんな手紙が来る経緯を説明できませんし、心配されて見張りでもつけられたら動けない。

もしこの手紙が本物なら、一番重要なのは内容じゃない…

"宛名入りで、堂島家に届いた"という点です。

犯人は、犯行を邪魔しているのが何処の誰か、詳しく知っている事になる…

しかも全員の中から、わざわざ家主が刑事の堂島家を選んで送りつけてきた…

この手紙…可能なら鑑識にかけたい所ですが、恐らく何も出ないでしょう。

警告と同時に、特定されない自信があるという犯人の意思表示のように思えます。」

 

「…」

シンは鳴上から手紙を見せてもらう。

 

「…クククッ…ハハハハハハハハッ!!!」

「な、なんだよ、びっくりした」

シンが突然笑いだし、皆は驚いた。

 

「いや、面白くてな…あまりにも滑稽で愚行だと思ったら…」

そういうと、まるでバカにしたような笑い声をあげた。

 

 

「いたずらであってくれよ」と花村が言う。

「でも、内容考えると、ただのイタズラにしては出来すぎかも…

もし犯人なら…なんで私たちの事そんなに知ってるのかな…

どこかで見てるとか…?」

 

「違うなそれは…恐らく…フフフッダメだ…アッハハハハ」

シンは再び笑い始めた。

 

「そ、そんなに面白いことなんスか?」

「だって…これじゃ…ハハハハハハッ!!!ダメだ…果てしなくバカだ…クックク」

 

その後、文化祭の話をしている最中もシンはずっと笑っていた。

 

 

 

シンは買い物をして帰ったため一人で帰っていた。

商店街の自分のアパートの近くに、鳴上と黒い服を着た男が居た。

サングラスをしており、実に目立っている。

 

「…何をしている」と鳴上に尋ねた。

「…君は…」

そういうとまるで品定めでもするようにシンを見る。

 

「ルミノール反応についてはご存知ですか?」

「…アルカリ性の水溶液中、ルミノールは過酸化水素と反応して460nmに強い紫青色の発光を示す。ヘミン・ヘモグロビンあるいは血液は発光反応の触媒になる」

「…DNA鑑定に使用する体の部位は?」

「俺は何をしていると聞いている」

「まあ、まあ」と鳴上がなだめる。

 

男は何も言わない。

「…ほほの内側の粘膜細胞。主人の手伝いをしなくていいのか?」

「…」

「顔の日の焼け具合から、外の仕事ではない。そして、歳の割にきっちりとしたスーツと背筋の良さ。軍人だと言えなくもないが、それにしては筋肉が少ない。

靴の年期の割には、擦り減りが少ない。

それに、ポケットの手袋。白いものは普通は使わないものだ。」

 

そういうと、シンは相手に近づき匂いを嗅いだ。

「…高級な茶を入れているようだな。匂いがついているぞ。一般人が飲む様なものではない。」

 

「…直斗さ…白鐘直斗に渡してください」

そういうと、一枚のカードをシンに渡してきた。

シンはそれを鳴上に渡した。

「頼みましたよ」

 

シンは最後にぼそりと言った。

「…もっとうまく偽装するべきだ。執事だと丸出しですよ。ワイシャツの襟に紐ネクタイ跡が付いている。一般人はつけないものだ。」

「…あなたは噂以上ですね。直斗様が非常に嬉しそうにお話しになられるわけだ…」

「それはどうも」

 

そういうと、黒服の男は去って行った。

 

 

 

 

 

「カード…か。何かわかるか?」

「…分かるが面倒だ。」

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

河原の屋根のある休憩所があったので、そこに来ていた。

 

「すみません、静かなところで話したかったので…」

「待て、何故俺まで連れてきた」とシンが鳴上に言う。

「まあ、まあ」

 

「…そ、それで、あなたたちにこれを渡したのは、どんな人でしたか?」

「サングラスの黒服の男だった」と鳴上が答えた。

「…間薙さんの目にはどう映りましたか。」

「…同じく」

「…しかし、何故直接ではなく、あなたたちに渡したのでしょうか。」

「それは、直接渡せない理由がある」

シンは頭を掻いた。

「…何故でしょうか…何れにしても、カードは僕が預かっておきます。」

そういうと、直斗はカードをポケットにしまった。

 

 

「恐らくその男は、まだこの町にいるでしょう。

これ以上、あなたを巻き込むわけにはいかない。」

「巻き込まないというより、もう巻き込まれている」

鳴上が言うとシンもうなずいた。

「俺は完全に鳴上に巻き込まれている。」

「まあ、まあ」

「そ、それもそうですね…」

そして、三人で帰ることにした。

 

 

「間薙先輩は脅迫状についてどう思いますか?」

「あの滑稽なやつか。本物だろうな。それに鳴上の家に態々投函した。

そして、"コレイジョウタスケルナ"という内容。

それらを踏まえたら、いたずらというにはあまりにも正確だ。」

 

「それだと、やっぱり、俺たちは見られているということなのだろうか」

「そうだろうな…」とシンは鳴上の言葉にうなずいた。

「誰なんでしょうか…」

 

「さあ、な」とシンは肩をすくめていった。

 

 

 

「?」

シンは首を傾げた。

「たまには服装というものを変えてみました。」

そこにはジャージ姿のメリーが居た。

「何故?ジャージ?」

「機動性に優れていると私は思ったからです。」

その姿はひどく不思議な格好にシンには見えた。

カチューシャをしたまま、ジャージを着ているのだ。

「まあ、いいんじゃないか?」

「これで少し過ごしてみようと思います」

 

シンはソファーに寝っころがった。

そこへインターフォンがなる。

メリーが出ると、直斗の声が聞こえた為、メリーに入れるように言った。

 

 

「こんな時間にくるとはな」とソファーで横になりながらシンは直斗を迎え入れた。

「二人だけで話したいことがありましたから」

「例の脅迫状か。」とシンは言う。

「ええ」

シンはメリーにアイコンタクトをすると、メリーはお茶を入れる準備を始めた。

直斗は一人用のソファに座った。

 

「…滑稽な犯人だ。だが、生田目ではない。別の誰かが生田目を操っているように思えてきた。」

「…なるほど。ですが、あの脅迫状…だけでは何とも言えませんね」

 

「そうだ。仮に生田目が俺たちの行動を監視していて、それぞれの家がどんなことをしていたのかを理解したうえで、鳴上の家にあんな滑稽な脅迫状を送ってきたとするなら、それは紛れもなく頭のおかしいことだと思えてくる。」

シンは起き上がる。

 

「ですが、仮に初めの死亡者が出た二件が違う人物による犯行だとしますと、その二件の犯人と生田目はつながっている…あるいは知っているということになります。

故に、あの脅迫状をだし、尚且つ、僕たちの行動を知っている必要がありますね」

「…俺達の行動をか…可能性だけで言えば何人かが思い当たるが…

まだ、可能性が薄すぎる。」

シンは腕を組むと、目を閉じた。

 

「…もう少し相手の出方を見る必要がありそうですね」

「そうだな。確証がない限りは動けない。こちらが変に突けば、おかしなことになりかねない。」

メリーがお茶を出すと、直斗は軽く会釈をした。

 

「しかし、…その彼女は何者ですか?」とメリーを見て言った。

「…家事手伝いの人」

「普通いませんよ?」

「俺は王だからな」

そういうとシンは少し笑みを浮かべた。

それはどこか、もの悲しさを感じさせるもので、直斗には何故そうなったのか分からなかった。

 

 

「しかし、その…まさか本当にあなたという人が違う世界のモノだとは想像もつきませんでした。」

「『事実は小説よりも奇なり』というしな、実際そんなものだ。

この事件なんてとくに良い例だ。当たり前のように非現実的なことが噂として広まっている。

それが現実的に起きているのに、あまりにも社会的関心が薄すぎる。

この田舎という閉鎖的環境がそれを生んでいる可能性があるだろうな。

そして、これを敷衍(ふえん)していくと、孤立していく地域社会が見えてきそうだな。

やがて、そこが独立した社会を生み出し、やがては衰退していくように思える。」

シンは言い終わると首を横に振った。

 

「先輩…どこまで、考えてるんですか…」

「…問題が跳躍し過ぎだな」

シンがそういうと、直斗は笑った。

 

 

「では、そろそろ、失礼します。」

直斗が椅子から立ち上がるとシンも立ち上がり言った。

 

「送る」

「い、いえ!大丈夫です!」

「そういうわけにはいかないだろう。危ないからな、いろいろと」

そういうとシンは立ち上がって、外へと向かった。

直斗は仕方なく、シンの後についていった。

 

シンがバイクを出してくると、直斗は思わず「カッコいい…」とつぶやいてしまい、すぐに顔を赤くした。

まるで、探偵なのだ。シンは自分と比べると身長がある、そんなこともあり、直斗はそう思い口に出して恥ずかしくなった。

 

シンには聞こえておらず、シンはバイクに跨ると、ヘルメットを直斗に渡した。

直斗は恥ずかしそうに、バイクに跨った。

 

 

 

 

 

ルイが言うほど、シンの変化は特になかった。

そして、鳴上達にも驚くほどの変化もなかった。

 

今回の事で本当にシンが深い深い底に居るのが皆が分かった。

自分が暮らしていた世界が崩壊し、それまで普通だった高校生が、悪魔にされ、素手で戦えと言われる。生きている人が救いだったはずなのに、それぞれが違うコトワリを啓く。

やがて、そんな友人を殺し、世界を停滞させた。

 

たった一つの目的の為に、彼は一人でそれを背負いこんだ。

千年の孤独に耐え抜き、その先も永遠の闘争を繰り返す。

 

そうなってくると、もう鳴上達には想像もつかない。

壮大な映画でも見ているような気分だ。

 

想像しにくいことは、受け入れがたい。

それが鳴上達の今の気持であった。

 

 

では、シンはどうだろうか。

 

シンは相変わらず、笑う事もなく泣く事も、無かった。

弱みも、愚痴も何一つ言わない。

口数は増えてきたものの、どこか堅苦しさを見せていた。

鳴上はそれは仕方ないと思った。

 

何千年もの間、誰も人間のいない世界で一人でいた。

何もないに等しい世界にいた。

そして、闇と孤独、全てに寄り添うようにいた。

深淵の底にずっと長い間いた。

 

ルイに言われたことにすこし納得してしまった。

それでも、鳴上はそれを否定したかった。

信じたいのだ。シンという悪魔を人間を。仲間として。友人として。

 

他のみんなもそうだ。

 

だが、シンという人間が何を考え何を思っているのか。

それは普段の会話ではほとんど読み取れない。

何より、シンのハイライトの無い瞳がすべてを見透かされているようで、ほとんどの人間が目を合わせて話せないのも事実だ。

 

 

そこで、鳴上はシンをもっと知るために、買い物をすることにした。

 

 

23日朝…

 

「シン、今日は暇か?」

鳴上はシンに電話した。

「ん?そうだな。暇だな」

「どこかへ行こう。試験終わりだ」

 

 

 

商店街…

 

 

「二人だけというのは、珍しいかもな」

「確かにそうだ」

鳴上の言葉にシンはうなずいた。

 

この組み合わせはあまりにない。

休日は基本的に誰かと一緒というのが基本である。

 

「何をするか…」

「…買い物をしたい。装備やアイテムを」

鳴上の提案にシンは頷いた。

 

「そういえば、文化祭がどうのこうのと騒いでいたな」

「聞いてたんだ。てっきり寝ていたと思っていた」

 

そう、22日。

投票の際、シンは寝ていた。珍しいと思ったから鳴上は覚えていた。

 

「何をやるんだ?」

「合コン喫茶。」

「…」

シンは目頭を押さえてため息を吐き、口を開いた。

 

「どう考えても、ぽしゃるな」

「そうか?」

「誰もかれもがみんな頭の中、テンション高いわけではないからな」

「そうなのか?」

「当たり前だ」

 

まずはだいだら.に二人は入った。

 

「…何だかんだ初めてだな」

シンは隣にある本屋にはよく行くものの、ここにはあまり来なかった。

理由はない。自分に装備が必要ないからだ。

 

「シンは何か珍しいものは持ってないのか?」

鳴上がおやじと話しながら何となく尋ねる。

「…ないな。シャドウが落とすようなものは」

 

 

四六商店…

 

「シンは財布に入れ過ぎだな」

「…昔はどのくらいいれていたか、覚えていないから適当に入れている。あとはメリーに任せている。こういうのは面倒だ。あと、異常にはがきがくる」

「どんな?」

「土地を買いませんか?マンションを買いませんか?と」

「あー」

鳴上は納得したように唸った。

 

 

自動販売機…

 

「買占めは安定だ」

「だから、時々全部ないのか…」

ガタガタと自販機から飲み物を取り出す。

一旦シンの四次元ポケットに入れておくことにした。

 

 

 

そして、ジュネス…

 

「今日は助かった」と鳴上がシンに言う。

「いいさ。どうせ暇だ」

 

そういうとシンは周りを見渡した、日曜日ということもあり、人が多い。

シンは珍しく苦い顔をした。

 

「シンは人が多いのが苦手か?」

「…ああ。都会が苦手な理由はそれだった。

人がバカみたいに溢れていて、どこに行きつくわけでもない、誰もが納得しない内心を抱えながら、その足を止めない。

酷く当たり前のようで、俺にはどうもそれが異常に思えていた。」

シンはいやと首を横に振った。

 

「どうした?」

「くだらないことだ。俺にはもう関係のないことだ」

「そうでもない。訊いてみたい」

 

「…おかしなやつだな。」

そういうとシンは話を続けた。

 

「そうなると、自分という生き物が嫌いになった。

馴染めない喧騒と誰もがまるで亡霊のように見えた。

俺が無能で価値の無い人間におもえていた。

人と違うことが、まるでゾンビのように俺の足を掴んでいた。」

シンはため息を吐くと言う。

 

「…ただ、今思えば、これはどうでもいいことだった。

長い人生を過ごせばわかる。その時は一生の悩みだと思っていたことは、所詮、雲の流れるのと変わらない。

周りの環境で変わってしまう。

世界が崩壊して、他人という写し鏡がいなくなって分かった。

 

誰も彼も価値なんて持ち合わせていなかった。

ああやって一瞬で絶命してしまえば、等しく無価値で無意味だった。

地位や名誉、お金に権力…

持ち合わせていた人間が生き残ったわけではない。

 

俺と勇、千晶は先生に助けられた…あるいは、選ばれた。

それだけの違いだった。

 

何れにしても、生き残ったのは俺だけ。

 

だから、今は何も思うことはない。

ただ、昔の名残で騒がしいのは苦手だ。」

 

シンは飲み物を飲むと、椅子の背に深く寄り掛かる。

 

「そんな世界で残ったのはなんだと思う?」

「…?」

「…伝統…記憶…思い出、あと建物…そういったものだった。

不思議なものだな。社会的に重視されないものが、結局は残っている。

悪魔たちは自分たちを祭り上げる祭を自分達でやっている。

個人の思い出や、ただ人がいるだけの建物が、祭りという伝統が…

そんなものが、崩壊した世界に残っていた。

皮肉なものだ…」

 

そういうとシンは鼻で笑った。

 

「…お前も大切しておけ、そういったものだけが誰かを介して引き継がれていく…

それが"生きる"と言う一つの答えかもしれない。

…悪い、くさい話になったな」

 

「臭いな」

「シンクンはマジメクマね!」

「陽介か」と鳴上は言った。

 

「盗み聞きとは、働かなくていいのか?」

「休憩だよ、キューケイ」

 

「あれ?鳴上君と間薙君じゃん。なにやってんの?」

と千枝と天城が来た。

「あ!センパーイ!!」

「こんちわっす!!」

「こんにちわ」

 

 

何だかんだ、全員が自然と集まってきた…

楽しい休日になりそうだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだ、シンはいないのか。残念じゃ喃。どこに行ったんじゃ?」

「あなたたちも来る?面白いところ」

ピクシーは学生帽を被った少年と黒猫に尋ねる

 

 

 

 

 

 

 

「…行くも何も、儂らはそこに行くために来たのだ。

なぁ?ライドウ」

学生帽にマントの少年が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 




少し間が空いたのは夏風邪と完全にネタ不足です。
申し訳ないです。

調子乗って、Minecraftとかを48時間耐久なんてやるんじゃなかったなと思います。
ずっと、ブランチマイニングで…
と、まあそれは置いておいて、存外言っていたボルテクス編は終わりました。
今後は何かしら登場するかもしれませんが。

それとちょっと出したくなったので、ライドウさん登場させます。
でも、ゴウトさんの話方とかちょっと覚えてない…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。