「さながら、公開処刑に向かう者か」
シンは教室に入って行った鳴上達を見て呟いた。
その顔はまるでこれから起こるであろう事態に怯えているのだろう。
シンはお楽しみということで、教室から追い出された。
一体彼らはどうなってしまうのか…
好奇心で思わず笑みを浮かべる。
と、シンの脚の後ろにどんと誰かが抱き着いてきた。
「ねぇ、死んでくれる?」
「…それは出来ないお願いだ。アリス」
そういうと、シンは頭を撫でる。
「間薙様。どうしても、アリス様が行きたいと言っていましたので、連れて参りました。」
「仕方ないやつだ。」
そういわれると、アリスはえへへっと笑った。
そこに直斗とクマが教室から出てきた。
直斗とクマはアリスを見るや否や、「これだ!」と直斗とクマ言い、去って行った。
「…これ?」
アリスは自分を指さした。
「訳がわからん」
「そんなことより、何か食べたい!」
アリスがそういうと、アリスはシンの手を握り引っ張る。
だが、勘違いしてはいけない。
こんな可愛らしい少女だが、『悪魔』だ。
常人が彼女に引っ張られたらどうなるか、容易に想像がつくと思う。
最悪、腕と胴体がそのままお別れすることになる。
しかし、そこは半魔のシンだから、普通の光景に見えているだけ。
無論、メリーも人造人間なので、普通ではない。
ガヤから見れば、日常の日常だが。
事情を知っている人間から、見たら、この光景は非日常の日常だ。
「うお!お前、その後ろの方はどなた?」
そう言ってきたのは、一条康。
「…家政婦?」
「家政婦って…一条とこにも居たっけ?」
その隣にはサッカー部の長瀬大輔。
「まぁ、居るちゃ居るな」
そういうと、一条はアリスの目線に合わせて腰を降ろす。
「こんにちは」
「こんにちは!」
アリスは祭の雰囲気も相まって、少しテンションが高いようだ。
「じゃあ、これあげる」
一条はアリスに肉串をあげる
「あ!一条!俺にもくれ!」
「おまえは自分で買えよ!」
そんな会話をしながら、ふたりは歩いていった。
アリスは少女と思えない食べっぷりで、肉串に尖った歯でかぶりついた。
「おいしい!」
「おやおや」
シンには最近のメリーはアリスの親のようにも見える。
シンの家にいることが多いアリス。それは、彼女はシンと同様、退屈が嫌いなのだ。
子供故にというところがある。
そんなこともあり、メリーがいつも世話をしている。
そして、シンが驚いたのは、メリーは意外とこの文化祭というものに溶け込んでいて、驚いた。
メイド服。それが、このような驚嘆をシンに与えてくれたのだろう。
文化祭では、兎に角変な格好をしたものが多い。
それが居るために、メリーも浮く事なく、居られるのだ。
シン達は体育館で始まるコンテストまで、ブラブラとすることにした。
「ねぇ!シン!これなに?」
アリスが指を指したのは、お化け屋敷であった。
「お化け屋敷というやつだ。」
「行きたい!」
シン達は説明を受け、中に入る。
中はとても良くできており、広く感じる。
開始早々に、お化けの格好をした生徒が脅かしに来たが。
自信があったのだろう、なかなかリアルなゾンビ風の格好をしている。
だが、残念かな。
相手は悪魔と人造人間だ。
「可愛い!」
アリスが嬉しそうに飛び跳ねる。
シンとメリーは淡々とその出てきたお化け役の生徒を見る。アリスが満足するまで、そこにいて、ゾンビ役の人は焦った様子で奥へと戻っていった。
3人は何事もないように次へと向った。
そのあと、他の生徒がその3人を見たところ、暗い部屋の中で、赤い目をした二人と金色の目をした一人にビックリし気絶したり、アリスが逆に驚かしたりで、お化け屋敷は違う悲鳴が響いていた。
アリスは楽しそうに過ごし満足したような顔でアリスは跳ねるように、出口へと向った。
「楽しかった!」
「そうですか。それはよかったです」
メリーはそういうと、アリスの頭を撫でた。
「さて、そろそろ、体育館か」
シンは時計を見ながら言った。
「レディース、エーン、ジェントルメーン!
文化祭2日目の目玉イベント、"ミス? 八高コンテスト"の
始まりでーす!!さっそく一人目からご紹介しましょう!
稲羽の美しい自然が生み出した暴走特急、破壊力は無限大!
1年3組、巽完二ちゃんの登場だ!!」
司会者が盛り上げる。
そこへ完二がまるでマリリン・モンローに似せた格好で出てきた。
会場からは悲鳴に似た、叫び声が響いた。
「ギャー!」
「キッモ!」
「これはひどい、ひどすぎる!」
「さー、僕も近づくのが恐ろしいんですが…チャームポイントはどこですか?」
完二は少し考え口を開いた。
「…目?」
「おーっと、意外にスタンダードだぁ!
1番手がコレでは、もう霞んでしまうんじゃないでしょうか、がけっぷちの2番手をご紹介!
ジュネスの御曹司にして爽やかイケメン、口を開けばガッカリ王子!
2年2組、花村陽介ちゃんの登場だ!!」
その声に合わせて、花村が出てきた。
それはまるで女子高生的な格好だ。
「ど、ども!」
さきほどよりはましだと思われるが、やはり悲鳴だ。
「やっばい!」
「花村先輩、いい線行くと思ったのにー!」
「や、これいそうで怖い!」
「さー、気合いが入った服装ですが…普段からこんな感じで?」
「んなワケねーだろ!ねー…ですわよ?」
何故かお嬢様言葉だ。
「僕ももう、おなかいっぱいになってきました!
続いて3番手、この人の登場です!
都会の香り漂うビターマイルド、泣かした女は星の数!?
2年2組に舞い降りた転校生、鳴上 悠ちゃん!」
鳴上はまるでスケバンのような格好で竹刀を持っている。
「や、やめてー!!」
「なんで先輩、こんなの出ちゃうのー!?」
「うおっ、先輩ってクールだと思ってたのに…」
「さー、物議をかもす出場ですが…自分で立候補を?」
「当然です」至極当然のように鳴上は答えた。
「さ~て最後は飛び入り参加、出場者たちのお仲間が登場です!
自称"王様fromテレビの国"、キュートでセクシーな小悪魔ベイビー!
その名も"熊田"ちゃんだぁ!!」
クマがどうやら飛び入り参加のようで、その恰好はアリスの恰好に似ていた。
「ハートをぶち抜くゾ?」
「えええ、あれ男の子!?」
「すっごい可愛い!」
「オレ、あれならイケる…」
とそこへ、同じような恰好をした少女が突然舞台に上がってきてしまった。
シンは隣を見たが、アリスが居なくなっていた。
「あらま」
メリーは淡々と言い、シンはなるべく気づかれないように前の方へ行った。
「おっと!ここで少女が登場だ!!」
「アリスにそっくりだね!クマさん!」
「それは嬉しいクマ!」とクマは嬉しそうに答える。
「ねえ、死ん…」とアリスが言おうとしたが、シンが口を押えた。
「失礼」
シンはそういうと、上手へとはけて行った。
「…かわいかったね」
「でも、間薙先輩の…まさか」
そんな話がされるなかで、投票が行われた。
無論、クマに決まり、その後のコンテストの審査員になった。
シンはアリスの手を引っ張り、体育館から出た。
屋上…
相変わらず、ここは静かだ。
「えー違うの?」
「違うんだよ。アリス。あれは君と同じではないんだ」
「…」
アリスは泣きそうな顔でシンの方を向いた。
アリスは友達が欲しかったのだろう。
俺も同じだったのかな…
シンはアリスと目線を合わせて言う。
「アリス。俺やメリー、おじさん達がいる。
同じ種族ではないし、お前とは違うものだ。
…だが、言い難い何かがあるだろ?」
「うん…わからないけど…」
「なら、俺たちはお前とは仲魔だ。死んでいなくても。」
シンはそういうと、頭を撫でた。
俺にとっては、高校生だった先生が憧れだった。
明るくて、それでいて、いつも楽しそうだった。
そんな先生が突然居なくなった。
俺に何も言わずに、突然、居なくなった。
俺は…そこから変わった。
少しでも明るい人間になろうとした。
明るい人間を演じていた。
けど、先生にはなれなかった。
思えば思うほど遠くなっている気がした。
そして、高校で再会した。
でも、変わってしまっていた。
憧れだった先生はそこには居なかった。
俺は…絶望した。
先生を変えた世界とそんな世界に住む俺を嫌悪した。
人間で居ることさえ忌まわしかった。
だが、何一つ変わらなかった。
変えられなかった。救えなかった。
結局、俺は中途半端だ。
『これは変わりますか?』
「…変わりません」
シンは屋上で時間を潰していた。メリーもそれに従うように無言で近くにいる。
アリスはおじさん(ベリアル)に連れていかれた。
そして、そんな言葉を俯き呟いた。
最近この言葉がシンの中で渦巻いている。
そこへ、ライドウを見ていたヌエが現れた。
『主。ライドウ殿タチハカエッタゾ』
「早いな。何故だ?」
『八咫烏カラ呼バレタソウダ』
「?」
そこへクーフーリンが来る。
『何でも、また蟲が関係しているとか何とかで。』
「忙しいやつらだ。」
シンは手で帰っていいというサインを出すと二人は帰って行った。
そして、シンは寝っ転がった。
汚れなど気にしない、それに、この高校の屋上は掃除されており綺麗なのだ。
耳を澄ませば、体育館の方が騒がしい。
「…何が変わらないのでしょうか?」
メリーの言葉にシンは肩をすくめた。
「…俺にもわからない」
「分からないのに変わらないのでしょうか。」
「世界ばかりが忙しく変わっていく。
置いていかれるような気分なのさ。
そんな、世界から離れたからこそ、俺は変われなくなったのかもしれない。…中途半端な存在としているからこそ、自分とは何者なのか誰かに問いたくなる。」
シンは大きく息を吐いた。
「結局のところ、創世する前と変わってないのかもな。
この世に完璧は存在しない。だから、皆苦しんでる。
俺もその一部でしかないだけの話だ。」
「完璧…?よく分かりません」
メリーは表情を変えずに首を傾げた。
「俺は中途半端ということだよ。
俺は悪魔であり人間でもあった。
そんなヤツがアイデンティティーを形成しようというのが、間違いだ」
だが、とシンは話を続ける
「そんな俺でも一つだけ誇れることがある。」
シンは少し自慢げにメリーにいう。
「それはな、いつでも、考えることをやめなかった事だ。考えて行動していたし、それが残酷な結果であっても、俺は考えることを放棄しなかった。
そして、俺は受け入れた。
残酷過ぎる世界、変わりゆく友人達、死の恐怖。
それら全てを受け入れた。
…まぁ、それが最善だったのかは知らないし興味もない。 」
そういうと、シンは鼻で笑った。
「考えること…分かりました」
「お互い長い命なんだ。焦る必要も無いだろ」
「あ…」
メリーがシンの顔を見て鳩が豆鉄砲を食らったばりに驚いていた。
「ん?」
シンは首を傾げた。
「間薙様。お笑いになりましたね」
メリーはシンを見ていった。
「…そうか?意識はしていなかった」
シンがこの世界で初めて笑った。
皮肉屋のシンが心の底から初めて笑った。
笑みを浮かべることはあったものの、それが本気の笑いではなかった。どこかで、違う感情も混っていたのだ。
そんなシンが何の他の感情を込めずに笑ったのだ。
その初めては皮肉屋らしい、心の底からの初笑いであった。
「皮肉なもんだな、殺し過ぎて笑うなどということを忘れていたとは。」
「違いありません」
「…お前も少し笑ったな」
「?」
メリーも少しだけ口を上げて微笑んでいた。
当たり前の事が、彼らにとっては当たり前ではない。
当たり前でないことが、彼らにとっては当たり前。
当たり前のように笑う事もなければ、泣くこともない。
その変わり、殺し合いと何もせずに椅子に座っている日々の繰り返し…
ボルテクス界ですることがない。
シンはそうだ。
何かをつかさどる神でもないし、中途半端な生き物だ。
適当にボルテクス界を歩き回るだけ。
そんなことを考えている中、鳴上が来た。
話によれば、天城の旅館に泊まれることになったそうだ。
苦い記憶がそれで洗い流せると良いのだが、
その後の彼らは酷い目に遭うのだ…
…夜、天城屋旅館
「みんな一緒の部屋じゃないクマね~…」
クマはショックそうに鳴上たちに言った。
「…そりゃそうだろ。」
「隣ならまだ許すけど、遠くへ行ってしまったクマ…」
クマは転がる様に寝っころがった。
「空いてる部屋、あんま無いらしくてあいつらは別の階になったって。
菜々子ちゃん連れて、さっそく風呂行くってさ。」
「風呂か…いいなぁ」
シンはいつものパーカーを着ている。
「こここ混浴!?」
「何ベンも入るシュミねーし、寝る前1回行きゃいいっスよね。」
「だなー。」
花村も倒れるように寝っころがった。
「ところで、この部屋…どういう事なんスかね。けっこう上部屋みたいなのに…」
「…やっぱ、オマエも気になった? 普通、シーズン中に空かねえよな、こんな都合よく…
あえて、スルーしてたんだけど…まさかここで、何かあったとかか?」
「ここは山野アナが泊まった部屋だな」
「あー!!言っちった!言っちった!!ってか、お前見えんだっけ!?」
花村は飛び上がりシンに言った。
「…さぁ?」
シンはニヤニヤしながら、花村を見た。
「だが、別にいいじゃないか。幽霊と一緒に泊まれる部屋なんてないぞ?
…それに」
そういうと、シンはカバンを探る。
「それに?」
ごくりと皆がシンを見た。
「ほら、折角だ百物語でもやろう。」
そういうと、ドサッと蝋燭を百本丁度、机にぶちまけた。
「ひゃひゃ、百物語?」
花村は怯えた様子でシンに言う。
「怪談を100話語り終えると、本物の怪が現れるというものだ」
「ななんでそそそそんなそこするクマ?」
「なんでって…面白そうだからだ」
そうシンが言った瞬間、電話が鳴った
シン以外がビクッとした。
「い、いきなり鳴るね、しかし!か、完二、出てみ!」
「い、イヤっすよ…せ、せセンパイいってくださいよ」
そんな押し付け合いをシンは無視しながら、電話に出た。
「はい…ああ、はい。分かりました」
そういうと、シンは電話を切った。
「風呂が入れるようになったそうだ。」
「素晴らしいサービスだな、天城屋旅館…やな汗かいた…」
「はぁ…流しに行きますか。」
そういうと、シン以外は疲れたため息を吐いた。
今回は非常に苦労しました。
というのも、なんというか、とにかく話が進まない。
なので、結構のんびりとした、話が続くので話としては展開で、もともと面白くないものが、更に面白くなるかもしれませんので、ご了承ください。
あと、とある動画で、ZeddというアーティストのClarityという曲を聞きまして、すごく気に入ったんですね。歌詞が特になんというか良くて、影響されすぎることに定評のある作者は早速それで話を書こうとしてしまっている訳です。
どう頑張っても閑話になってしまいますが…
あるいは、シンを想っている人とかの目線で書けばいけるかもとか…いろいろ考えています…