Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第47話 Mishap 10月30日(日)・31(月)

「…」

「…」

「…ちくしょう…さっき確かめたけど、あの時間の露天は

"男湯"だったぞ…ヒデー、ヒデーよあいつら…

ううう…」

 

蹲った様子で花村は部屋へと戻ってきた。

実は、意気揚々と風呂へ行くと、何故か千枝たちがおり、桶の弾幕が鳴上達を襲った。

慌てて鳴上達は退散し、部屋へと戻ってきた…

 

「なんか、クマの頭がデコボコしてるなー…」

「それ、たんこぶだな。

オマエ、たんこぶ、出来てやんの。あはは…は…

はぁ…」

完二は疲れた笑いをして、ため息を吐いた。

 

「なぁ…お前らさ……見たか?」

「いや…」

「何も…」

 

 

「ちくしょう…いいことなんか1個もない人生…もう寝よ…」

 

花村が寝ようとした瞬間、女のうめき声が聞こえた。

皆がビクッと反応した。

 

「…待った、先輩。なんか…聞こえねえスか?」

「い、今の…」

「き、聞こえちゃった…!」

 

「いいBGMじゃないか…」

シンは満足そうに寝っころがった。

 

「おわわわぁ…こんなんじゃ、寝らんねえよ!」

完二は怯えた様子で言った。

「決めた!ユキチャンとこ行く!

みんなの寝顔見ながらじゃないと、安心して寝れないですから。」

 

「ちょっ…寝顔って、寝室入り込む気か!?

んなの…おい、どうする…?」

花村は現場リーダーの鳴上の顔を見た。

 

「…やむを得ない。突撃!」

鳴上は早々に部屋から出て行った。

 

「決断早ッ!」

「けどホント、ムリだってこの部屋!」

「おっけ!寝起きドッキリ、ヨーソロー!」

 

「シンはどうすんだよ」

花村は寝っころがるシンを見て言った。

 

「…俺はいい。"福は寝て待て"というしな」

そういうと、手のひらをフイフイッと振った。

「"蒔かぬ種は生えぬ"とも言うけどな。じゃあな!」

花村達は鳴上を追うように意気揚々と行った。

 

 

「…」

シンは立ち上がると、少し硬くなった窓を開ける。

そこから入ってくる少し冷たい空気が色々と思考を正常に組み合わせていく。

 

 

澄んだ景色が思い出させる。

 

 

『…どうして、あなたは神に従わないのです…人の心を持ちながら…どうして』

『無駄です…善悪のさえ、彼を縛りつけるものはないのです』

 

「雑魚は黙っていればいい。『力なき正義が無力であるように正義なき力もまた無力』しかし、正義とはなんだ?」

シンはラファエルの翼を引き千切り、蹴飛ばした。

マガツヒを漏らし息も絶え絶えで、倒れた。

 

「…俺には善でも悪なんてものには縛られない…

気が赴くままに…するだけだ」

 

シンはそういうと、右腕の手のひらをミカエルに向け、右腕の手首に左手を添える。

 

 

『破邪の光弾』

 

 

 

 

(…何回目だったか…それすら危ういな)

シンが遠くに見える山を見ていると、叫び声が聞こえた。

 

「まったく…」

シンは布団に入った。

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

天城屋旅館から早々に引き上げてきた…

今日は文化祭の代わりの休校日だ。

 

シンはのんびりと、テレビを見ていると、電話がかかってきた。

『お前も、今日ヒマだろ!?頼む、ちょっと付き合ってくんねーか!』

「…まあ、構わない」

『今日ジュネスでハロウィンフェアなんだ。

準備、全然出来てなくてさ!だから、鳴上とお前に頼もうと思って!

頼むよ!』

「暇だから構わない」

『じゃ、フードコートに来てくれ!』

 

 

ジュネスのフードコートへ着くと、大分準備が終わっているようだ。

鳴上達と合流して、飾りを終えた。

 

「う~、腰いってえ…ようやく終わったぜ。」

「こっちは終わっている」

「俺もだ」

 

「にしても…似合ってんな、お前。

板についてるっつーか、そっちが普段着ってレベルだぞ…」

 

鳴上は陽介が用意した、仮装をしており、恐らくドラキュラでもイメージしたものだろう。

 

「やー、でも助かったぜ!ありがとな!ま、アレがいりゃお客は…」

クマがかぼちゃの被り物をしている。

そして、それに負けまいと、少し合体した大きいヒーホーが客を大いに集めている。

 

「あれ、陽介くん。ちょっとちょっと、どうなってんの?」

メガネをかけた真面目そうな店員が花村に話しかける。

 

「あ、チーフ。 お疲れ様っす!ハロウィンフェアの飾り付けなんすけど…」

「え? あはは、やだなあ陽介くん。アレとっくに中止になったでしょ。」

「…は?」

チーフと呼ばれた男性は少し笑いながら言った。

 

「あれ? 中止決まった時の朝礼、陽介くんも居たと思ったけど。

はは、朝だしボンヤリしてたかな?

まあ、片付けよろしくね。」

 

そういうと、辺りを見渡す。

「…凄いねえ、これ。

陽介くんたちが飾り付けたの?

こんなに頑張ってくれるなら、やれば良かったなあ、ハロウィン…」

 

そう言いながら、去って行った。

 

シンと鳴上はじっと花村を見つめた。

 

「み…見ないでくれ。

そんな目で俺を見るな…」

 

シンは早速、ヒーホーに帰る様に指示した。

「きょ、今日のところは許してやるホー」

「…勝ったクマ…」

「何を訳のわからないことを言っている。」

シンはとっとと、ジャックフロストを帰した。

そして、シンは注文しに向かった。

 

「ほんとっ!わりぃ!その衣装やるから勘弁な!」

花村は両手を合わせて鳴上に言った。

「別に構わない」

「シンも悪かった!」

「暇だし構わない」

 

せっせと片付ける花村と鳴上、シン。

シンのステーキが呼ばれると、取りに行き、食べ始めた。

 

 

「相変わらず、お前はステーキだな。飽きずに食えるな」

「…悪魔の肉よりはましだ」

「え?」

衝撃の発言に花村は固まった。

「…ウソだ」

「お前がいうと冗談に聞こえないんだけど…」

「…何を食べていたんだ?」

「幸い、マガツヒで腹は満たされるし、アマラの深界はマガツヒに溢れていた。

それに、常に悪魔化していたから、腹が減ることもなかった。」

シンはそう言いながらステーキを食べる。

 

「…なんつうか、あれだな。ある意味俺たちって非日常に溢れてんな」

花村は思い返すように言う。

「…テレビに入ることもそうだけど、何よりもシン。お前とかさ。

違う世界とか普通に考えたことなかったし、それに悪魔とかも空想のもんだと思ってた。」

「俺は…ペルソナがそれに似たようなものだと思っていた。」

鳴上はそういった。

 

「そうっちゃそうなんだけどさ、こっちの世界じゃ、ペルソナって使えないじゃん?

悪魔は当然のように存在してて、なんつーか便利そうじゃん」

「…そうだな。移動は楽になる。空飛べるやつもいる」

シンは思い出すように言った。

「だろ?それに、お前は『口説き落とし』とかそんなスキルついてるとか、羨ましいすぎんだろ。」

 

「それはスキルというか…なんか違う気がするが」

鳴上がそういうが、花村は認めたく無いようだ…

「…でも、なんつーか気の遠くなるような時間を生きてきたんだな。お前」

「過ぎてしまえばそんなものだ。数えることはできないな。」

 

「…俺さ、たぶんお前らみたいに特別で居たかったんだよな…」

 

花村は少し苦笑いを見せた。

「鳴上は初めから、テレビに入る能力とかあってさそれにペルソナとかも変えられて、ヒーローって感じでさ、初めは羨ましかったんだな…

それにシンはもうなんていうか…次元が違うから…」

 

 

「…でも、俺にもペルソナ能力とか身についてさ、嬉しかったんだ。

悠とも肩を並べて戦えてるし?なんていうかさ、あれだよ」

そういうと花村は頭を掻いた。

「あれだな」

鳴上はシンを見るが、シンは肩をすくめた。

 

「…ま、とりあえず、そういうことだ!…やべ、恥ずかしくなってきた…」

そういうと、花村はバックヤードへ行ってしまった。

「およよ?ヨースケはどこに行ったクマ?」

「…勝手に話して、勝手に居なくなった。」

シンはそう答えると、添えてある人参をフォークで突刺した。

 

 

夜…

 

 

丸々としたその美円。

ピクシーは嬉しそうにそれを持ち上げ、見回す。そして、口の中にその美円を崩す為に歯を当てる。

刹那の音を立てる。カリと音を立てる。

メレンゲが柔らかく、溶け合うクリーム。

 

「うーん!おいしいわ」

「どこがいいんだ?この…なんだ?」

俺はその固く丸い何かを持ち上げた。

「マカロンよ!知らないなんて、人生の8割は損してるわ」

 

ピクシーはそういうと、マカロンに再びかぶりついた。

大体、このピクシーは一体どこからそんな情報を集めているのか。

 

簡単だ。

 

トートの頭をぶっ叩いて、毎度毎度お菓子の話をさせているだけである。

マカロンは中で大好物らしく、溺愛している。

 

「…なんか、失礼なこと考えてない?」

「ん?…さぁ?」

シンは肩をすくめた。

「そう。ならいいの。私はこの楽園に埋れていたいの」

そういうと、マカロンの沢山入った、おさらにダイブした。

 

(…狂ってやがる)

さながら、ピクシーはマタタビを入手した猫の如く、マカロンの上をゴロゴロと転がっている。

なんとも可愛げの無い光景だ。

そんなことより、シンは気になったことを尋ねる。

 

「…全部…食べるのか?」

「え?当たり前じゃん」

「え?」

「え?」

 

 

明らかにピクシーの体には入らない量だ。

シンは改めて気付かされる。このピクシー。

底なしの胃袋を持っているのだと!

 

「…程々にな。」

シンはテレビをつけた。

 

 

『それでは、次のニュースです。

"環境を考える会"代表の香西氏が、市内の小学校を訪れ、霧の影響を現地調査しました。

稲羽市ではここ数年、頻繁に濃霧が発生していますが、原因が良く分かっていません。

市内では霧の原因について憶測が飛び交い、体への影響を不安視する声も上がっています。

ですが市は、霧が人体に害を与える事は考え難いとしており…

殺人事件等による、住民の不安心理の表れなのでは、との見方を示しています。

これを受け、香西氏は、事実関係をはっきりさせるため、現地の小学校を訪れました。

霧の中でも元気に遊ぶ子供たちに、体調や心の不安等について尋ねたという事です…』

 

アナウンサーは淡々とニュースを伝える。

 

『調査を終えた香西氏は、コメントを発表しています。

"現代は、些細な環境の変化にも目を配り、政治に反映させていかなければならない"

"今日私はある生徒と話したが、その子は風評に惑わされず自分の言葉で話していた"

"本来は我々大人こそが、そうでなければならない"

"我々は常に、子供たちの未来を管理する必要がある"』

 

『…香西氏はこう述べました。

集まった保護者達からは拍手が上がりましたが、

一方で、選挙に向けた人気取りとの評もあり今後の行動が注目されています。』

 

紙を送ると、アナウンサーは表情が一転し明るい顔になった。

 

『では、次のニュースです。

今年5月頃から、様々な怪物の話が集まってきており、殺人事件とは別の意味でも八十稲羽市が注目され始めています。

そのブームに乗ろうと、先日、八十稲羽の隣、沖名市に期間限定で巨大お化け屋敷が出来、7月からすでに50万人を突破しました。

約二年前から計画されていたものですが、関係者はタイミングよく、こういった噂が流れて我々も嬉しい限りですと語っていました』

 

 

(なんというか…もう、あいつらは…)

「こっちに来てんのは、だれた?」

「えーっと…詳細まではわからないわ。興味ないし。

でもまあ、幸いアマラの落ち着いた連中しか来てないと思うわ。脳筋は多分あそこの入口まで来れないし、アマラ経絡は広がり続けてるしね。

何千体もの悪魔が迷って、しかも、奥のほうはモトとか住み着いてるし…あまり、想像はしたくないわね」

「…派手にやらなきゃいいさ。それに、俺は別に関係のない話だしな」

 

シンは立ち上がると、買ったDVDを見る為にDVDプレイヤーにDVDを入れた。

 

「何見るの?」

「…『ブレードランナー』と『2001年宇宙の旅』」

「ふーん。あなたも、私のマカロン溺愛と対して変わらない気がするけど」

「…俺は別に、お前みたいにDVDの山で快感と感じることはないと思うが」

「やったこともないくせに」

「…やらなくても想像がつく」

 

シンはそういうと、再生ボタンを押した。

 

 

「この…エイガとか、ショウセツ?どこが面白いわけ?」

「…何故だろうな。呼吸するのと同じ理由かもな。」

「は?」

ピクシーは意味がわからないと言った表情だ。

シンはゆっくりとため息を吐くと、口を開いた。

「…俺にとって本は世界そのものだった。

そこには、他人の頭の中がかかれていて、どんな理由で人間の心が動くのか。

あるいは、登場人物なんかに、自分を自己投影しドンドンその物語にのめり込んでいく…

そして、それが終わった時、振り返る度に胸が熱くなるのを感じる」

 

シンの思わぬ言葉にピクシーは首をかしげた。

 

「…ようは体験のしようのない冒険や、事件、感情の揺れ動きを体感することができる。

だからこそ、娯楽であるし、それがそれ以外には成りえない。

娯楽は娯楽でしかない。例え、商業性があっても、娯楽でしかない。」

 

「ふーん。まあ、いいや。」

ピクシーは興味なさそうに答えて、テレビ画面を見つめるのであった。

 

 

 

 

「古いエイガなのね」

「みたいだな。見た事ないから知らんが、」

「でも、このごちゃごちゃしてる感じは好きだわ。」

 

映画の街は、アジア的な独特な雰囲気をもっており、狭い道に人が溢れ、ビルとビルの間も狭く看板が無数に道路の上にせり出している。

 

「…作るか、こういうところを」

「まあ、スラムっぽいところがあってもいいかもね」

「そういうところを好む悪魔もいるだろう」

 

 

ある種の創世をシンは地味に行っているのであった…

 




解説

『ブレードランナー』
1982年公開のアメリカ映画。フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としているものです。
猥雑でアジア的な近未来世界のイメージは1980年代にSF界で台頭したサイバーパンクムーブメントと共鳴し、小説・映画は元よりアニメ・マンガ・ゲームなど後の様々なメディアのSF作品にも決定的な影響を与えることとなった。

『2001年宇宙の旅』
『2001年宇宙の旅』は、アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックがアイデアを出しあってまとめたストーリーに基いて製作されたSF映画およびSF小説である。映画版はキューブリックが監督・脚本し、1968年4月6日にアメリカで初公開された。

両方とも見たことはあります。
中でもブレードランナーは攻殻機動隊などが好きな僕としては、とてもよかった。
ロボットを殺し続けるうちに、自分も実はそういったロボットなのではないかと疑う。
そう考えると、結構哲学的なんですよね。
元の本は読んだことないんです…(ほしいけど、高かった気がする…)




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