Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第52話 Og Hér Ert Þú 12月3日(土) 天気:曇

ジュネスの家電コーナー…

 

 

「やっぱコタツって言ったらみかんがセットだよね~。」

そんな千枝の言葉に思わず、完二は唸る。

「あー、ベタで最強っスね。」

「最強と言えば、ホットカーペットにコタツの組み合わせでしょう。」

「そのコンボは、ブレーカー逝くな…チンとかした拍子に。」

花村は冷静にツッコミをする。

 

冬は炬燵(こたつ)…やはり炬燵である。

起源を辿れば、禅宗の僧侶により中国からもたらされたとされる『あんか』が起源といわれている。シンはそんな話を悪魔がしていたのを思い出す。

 

「そーだ、クマきち、コタツ初めてだろ。あったかいぞー。」

花村がクマにそういうが、クマの表情は曇っていた。

 

 

「クマはまだ、ここにいても、いいクマ…?

みんなは約束、果たしてくれたから…クマは、もう帰らないと…

でも、ナナチャンが元気になるまで帰りたくない…」

 

「居ていいっての。何回言わせんだお前。

それに、まだ解決してねーかもしれねぇっつーの」

花村は普通にそう答えた。

「目が覚めてクマくんいなかったら、菜々子ちゃん、ガッカリするよ。」

千枝がクマに向かって言った。

 

「け、けど、クマはナナチャンを助けてあげられなかった…」

クマは心配そうにみんなに言った。

 

「バカね。みんなで助けたじゃない。」

「犯人だって捕まえただろ。…オメェが居たおかげだ。」

「今、菜々子ちゃんも頑張ってるのに、そんなこと言っちゃダメよ。」

 

みんながクマにそういう。

 

「うちに来い」

鳴上はクマに言うとクマは嬉しそうに頷いた。

 

 

 

「そうだ、菜々子ちゃんのクリスマスプレゼント、下見しちゃう?」

千枝は店内のクリスマスの雰囲気を悟ったのかそう言った。

「あ、いいかも!きっとそれまでには退院できてるよ。」

その言葉を聞いた花村がビクッとした。

 

「俺のツケとかゆーのはナシな。

ほんと、ナシな。 言っとくぞ。」

 

「失礼だなー。んな事するわけないじゃん。」

「お前の見立てたコイツの服!!」

クマの服を掴んでいった。

「後でレシート見てチビりかけたっつの!おかげで何日バイトさせられたと思ってんだよ!?」

 

「それはさ、ジュネスの価格設定の問題じゃん。」

「のぁッ…!!」

花村は痛いところを突かれたが、すぐに表情を変えて言った。

 

「まー、しょうがねーか…異性の服選びとか、里中さんは初体験だったもんね、きっと。」

「のぁッ…!!なんだとぉ!?」

二人が睨み合いを始める。

 

そんな二人の前に、クマが割り込む。

「やだなあ、ベイベーたち。クマのためにケンカは「「すっこんでろ!!」」…」

 

「ぶふっ…ふふふふふ…」

天城は笑いだす。

 

「先輩たち放っといて、プレゼント、考えよ。」

花村達を放っておいて、残ったモノたちが考える…

 

「つっても、小学生の女の子が欲しがりそうなモンなぁ…」

「菜々子ちゃん、何をプレゼントしたら喜ぶでしょうか?」

 

「うーん…」

鳴上は真剣な顔で悩む。

「シンはどう思う?」と鳴上がシンに尋ねた。

 

「…お前が買ったといえば何でも喜びそうなものだが」

シンは肩をすくめて鳴上に言うと、納得したように頷いた。

 

 

そんな会話をしながら、ジュネスを回っている。

 

 

 

「んじゃ菜々子ちゃんが退院したらお前んちでパーティだな。」

鳴上に花村がそういうと、直斗を除いた女性陣の目が輝いた。

「よーし!じゃあ張り切ってケーキ作るか!」

「当然!」

「すっっごいケーキにしたいね。」

 

「やめなさい!菜々子ちゃん、病院に送り返す気かよ!?」

花村が女性陣に突っ込むと鳴上の電話が鳴った。

その画面を見た鳴上の顔が曇った。

 

足立だ。

 

『も、もしもし?

その、えと、落ち着いて聞いてね?

菜々子ちゃんの容態が急変して…すぐに病院に来て欲しいって先生が。

…頼んだよ。』

 

 

鳴上は電話を切ると皆にそれを話した。

 

 

「と、と、とにかく病院へ!」

花村の言葉に皆が頷いた。

 

 

 

 

 

 

病院に着くと、異常なまでにナースステーションが騒がしかった…

 

「先生、この霧、毒なんでしょ?ウィルスなんでしょ?

テレビでやってましたっ!ワクチンとか、ないんですかっ!?」

 

「落ち着いてください。それはただのウワサですから…」

看護師が騒ぐ女性を制止するが聞く耳を持たない

 

「ウソつけ!ホントはちゃんと薬があんだろ!俺たちを見殺しにする気か!」

「そんなこと、あるわけないでしょ!」

 

そして、そことは違うところで大きな声が聞こえた。

慌てて、皆が菜々子の病室へと向かった。

 

 

「ふざけるな!菜々子はこんなに苦しんでんだぞ!」

堂島だ。堂島が車いすから立ち上がり、医者に掴みかかっていた。

 

「今は状況を見守るしかないんです。ですから、堂島さんも自分の病室へ…」

「俺の事はどうでもいい!

それより菜々子を…ぐぉっ…」

堂島は車いすに倒れ込む様に座った。

 

「堂島さん!」

慌てて皆がそれに近づいた。

 

「菜々子を…こいつを助けてくれ…頼む、どうか菜々子だけは…」

まるで神にでも祈る様に堂島は医者にそういった。

「…最善を尽くします。とにかく、一旦廊下へ。」

「菜々子…」

堂島は看護師に付き添われて病室へと戻って行った。

 

 

 

皆も廊下に出た。

 

 

「…おい、何とかならないのか!?

お前の住んでた世界のことだろ!何か、分かんねーのかよ!」

花村はクマに詰め寄る。

 

「考えてる…考えてるけど…」

クマも不安そうに頭を抱えている。

 

「クソッ…! なんで、あんな小さな子が、こんな事の犠牲になんだよ…」

完二は壁を叩く。

 

皆が不安に駆られ、落ち着きのないなかいつもと変わらない声が皆に聞こえた。

 

「少し落ち着いたらどうだ」

「シンはいつも、そうやって落ち着いてるな」

鳴上は思わず皮肉そうにシンに言った。普段の鳴上ならそんなことは言わない。

だが、状況が状況だ仕方ない。

 

花村が思わずシンに掴みかかる。

「なんでお前は!そうやっていつもいつもおちついていられんだよ!!」

 

 

「勘違いしているから言ってやる。俺は悪魔だ。

涙を流すこともないし、悲しいというのは悪魔になってから一番初めに無くした感情だ。」

そういうと、シンは花村の手を振りほどいた。

 

「それに、ここは病院だ。あまり大声を出すな」

「…わりぃ」

 

「シンでもなんとかできないのか!?」

鳴上は珍しく取り乱し、シンに詰め寄る。

「…」

 

 

 

 

「君たち、まだここに?」

足立が堂島を見届けたあと再びここに戻ってきたようだ。

 

「堂島さんの様子はどうですか?」

「傷が開きかけてたみたいでね。今、病室で処置を受けてるよ。」

足立はため息を吐いた。

 

「…生田目の方は、なんか進展あったんスか?」

「あ、ああ、それなんだけど…一応言っておくと、この事件…立証は難しくなってきたんだ。」

足立は厳しい表情で言った。

 

「どういうことだ?」

花村は真剣な顔で言った。

「本部の人とも話したけど、裁判で有罪に持ち込むのはやっぱり無理があるんだ。

何故、生田目が山野アナ殺しの初動捜査で容疑者から外されたか…」

「そういえば…確か、アリバイがあるって…」

 

 

「その…何だっけ?

テレビに入れるとかって話、立証のしようもないっていうか…

まぁ、誰も信じないし…世間が欲しがるのは、生田目がいつ、どこで、どうやって殺したかだよ。

…堂島さんだって、その事は分かってるんだ。」

足立は少し笑いながら言った。

 

「…えらく冷静じゃねえか。」

「ぼ、僕は本当のこと言っただけだよ。」

完二が足立に掴みかかる。

 

「てめえ…それでもデカか!

あぁ!?そんなに見てえなら見してやんよ!

今すぐここにテレビ持って来いオラ!!」

 

「ちょっと、やめな…」

りせが完二にそういおうとした瞬間、菜々子の病室から看護師が出てきた。

 

 

「…なんだ?」

完二は思わず足立を放した。

 

「菜々子ちゃんのご家族の方は?

早く中へ!声をかけてあげてください!」

鳴上が病室へと入って行った。

 

 

「何だこれ…どういうことだよ!」

「やだ…菜々子ちゃん…」

皆が泣き崩れそうな状態である。

 

 

 

その後、堂島が慌てたようすで菜々子の病室に飛び込んでいった。

皆もそれに続くようになだれ込んだ。

シンはただ目を閉じ、じっと廊下の椅子に座っていた。

 

 

菜々子は必死に戦い、怖いと漏らした。

鳴上と堂島が必死に呼びかけるが、反応が悪くなっていく。

徐々に心電図の音がゆっくりとなる。

 

 

「こ…わいよ…おにい…ちゃん…おとう…さん…」

 

その言葉を最後に無情にも心電図の音が一定の音を立てて鳴り響いた

堂島菜々子は原因不明の病状により息を引き取った。

 

 

 

堂島は足を引きずりながら、どこかへ向かった。

足立が再び廊下に現れ、不思議そうな顔で堂島を見た。

そして、察する。

 

生田目に復讐しに行くのだと。

 

それを防ぐために、完二が足立を脅し、病室を聞きだしては走って向かった。

 

そして、静かな病室でクマは菜々子を見ていた。

 

「クマは…クマは…ナナチャンをずっと見てた…

なのに、助けられなかった…クマの世界で起きたことなのに…

クマはあの世界で、ただひとりのクマのはずなのに…

クマはなにも…クマは…

……。」

 

クマは菜々子の手をぎゅっと握った後、病室から出て行った。

 

その後にシンが病室に入ってきた。

 

「…真相の為に、そして、俺の為に…さあ、陸へ戻ってこい…」

シンはそういうと、菜々子の手首についている石を片手で砕いた。

すると、赤い弾が弾け飛び、菜々子を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

堂島菜々子はいつの間にか川辺に倒れていた。

灰色のそら、謎のオブジェクト、川の向こうは霧で良く見えない…

菜々子がゆっくりと立ち上がると、白い髪をした不思議な年寄りが菜々子を見ていた。

 

「死せる若人の魂よ。三途の川へようこそ。

死者の魂が次なる転生を待ち虚無に耐える場所…」

「さんずのかわ?」

菜々子は首を傾げた。

 

その年寄りは菜々子を向こう岸へと運ぶため、近づいたが手首につけているものに目を合わせて驚いた表情だ。

そして、笑い始めた。

 

「…今回はツケと言うわけか『人修羅』よ」

「?」

 

 

「…さあ 陸へ戻られい。声を頼りに戻られい。」

「?ありがとう、おじさん」

菜々子は陸の方へと歩き出した。

 

そこは森のようでどこもかしこも同じような光景で迷いそうになった。

だが、悠やクマ、花村や千枝、天城や完二、りせや直斗、堂島…

"がんばれ"というこえ、自分の名前を呼ぶこえ…

その声を頼りに菜々子は迷うことなく森を進んでいく…

 

 

 

 

 

皆が生田目の病室の前に行くと、堂島が警察官ともみ合っていた。

「放せ…ヤツに話がある。」

「ですから、許可が無ければ…」

 

「許可だ…?

ならアイツは、誰の許可で菜々子を殺したんだ…あ?

フザけんじゃねーぞ…菜々子は死んで、なんでアイツは生きてる!?

菜々子を返せ…返しやがれッ!!

俺には…菜々子しか…ッ!菜々子しか…

いな…ッ!」

 

堂島がお腹を押さえて倒れた。

警察官がそれを支える。

 

「い、医者!」

慌てた様子で、警察官が声を出した。

 

「放せよ…俺は、アイツを…」

「うわ、わ、大変だ!早く病室へ運んで!

ぼ、僕は、先生に知らせに行くから!」

鳴上達と一緒に来ていた足立が医者を呼びに走った。

二人の警官は堂島を支えるように、病室へと連れて行った。

 

 

 

「堂島さん…まさか、本気で…」

千枝は心配そうな顔でそれらを見送った。

 

「ひとり娘を殺されたんだ…何したって、おかしかねーよ。」

完二は悔しそうな顔で言った。

 

「堂島さん…分かってたのかもな…法で裁ける見込みが、ほぼ無いってさ…

くそっ…先輩殺した上に、とうとう菜々子ちゃんまで…

なのに、当人は罪も償わず、この先ものうのうと…」

花村もまた同じ表情だ。

 

 

「そんなのっ…!」

「なんで…なんで、生きてるのはアイツの方なの?」

 

そんな会話をしていると、病室から物音がした、慌ててドアを開け入ると、開け放たれた窓の前に生田目が座り込んでいた。

 

 

 

「あ…う、あ…」

「何をしてる?」

鳴上が憤った顔で生田目に言い放った。

 

「こ、怖かっ、た…だ…だから…」

 

「お前だけ生きてて…しかも逃げようってのか!?」

「菜々子ちゃんは…アンタのせいで…!!」

皆が生田目に詰め寄る。

 

「お、俺、俺は、何も…」

 

そう生田目が言うと、テレビにノイズが走った。

そこにはシャドウの生田目が映る。

 

「0時…マヨナカテレビ?ちょっと、これって…!!」

りせがそういうと、テレビの中の生田目が話し始めた。

 

『救済は失敗だ。お前たちが邪魔したせいでな。』

「もう一人の生田目…!?

なんでだ!?本人ここに居るし、シャドウは倒したのに…」

花村が驚いた表情でテレビを見た。

 

「思えばあの時、生田目は自身と向き合わなかった。

シャドウがペルソナとして体に戻らなかったようにも見えました…

それが今頃になって見えているのかも…」

直斗は冷静に分析をしている。

 

「こ、れは…」

生田目の顔は明らかに動揺している。

頭を抱え震えだした。

 

『救済は失敗したが、これは、俺のせいじゃない。

…それに、どうせ法律は俺を殺せない。』

「ば、ばかな…」

 

「あれが生田目の、本心の声!?

じゃあ、やっぱり…分かっててやってたんだ…」

千枝は怒りに震えはじめた。

 

「法律がどうした…俺は、お前を許す気はねーぞ…」

花村は生田目に更に詰め寄る。

 

「こ、これは…やめてくれ…」

「あ…? 何をだ…?まだなんもしちゃいねえだろ…

それとも"なんか"してやろうか…?今のテメェに見合う事をよ!」

完二もまた生田目に詰め寄る。

 

「か、完二…」

いつにもまして完二は真剣な表情でりせは不安そうに言葉を漏らした。

 

『好きにすればいいさ。あの子が死んで、俺を恨んでるんだろう?

俺はどっちだっていいんだ。

生きるも死ぬも、俺にとっては大差ない。

でもお前らは違う…クク、無理だよなぁ。

できないよなぁ、そんな事?ククク…俺は"救済"を続けるぞ…

それが俺の使命だからな…!』

そういうと、テレビの中の生田目は高笑いをしながら消えて行った。

 

 

「使命…!?」

「くそっ…」

 

「や、やめてくれ…」

生田目は怯えた様子で言った。

「やめてくれだとよ。どうする?」

花村が皆を見ながら言う。その顔は真剣だ。

 

「ど、どうするって…」

「野郎がこのまま野放しなんざ、許されるワケがねえ。」

「このまま、ただここを出てくなんて、俺には出来ねえ…」

完二もまた真剣な表情だ。

 

「病室にこんな大きなテレビがあるなんて思いませんでした…

こんな物が置いてあるんじゃ、この男はいつ逃げ出して居なくなっても仕方ない…

もっとも、一度入ったら…自力で出る方法なんて無いかも知れませんけど。」

 

「ちょっと待ってよ!それって…まさか…本気…なの…?」

りせは察したのか、止めに入る。

 

「オメェは、このまま帰れんのかよ。」

「で、でも…」

完二の問いにりせは答えられない。

 

「このままでいいとか悪いとか…そういう問題じゃないじゃん!!

何言ってんの…!!そんなこと、できるワケ…!!」

「里中っ!!それにみんなも、聞いてくれ。」

花村が遮るように言う。

 

「やるなら…今しかない。こんな機会、もう二度と巡って来ない。

このままじゃ、コイツは野放しになる。

そしてまた"救済"とやらを繰り返す!たった今コイツの"本心"が言ってたろ!?

そしたら菜々子ちゃんや先輩みたいに…また無実の人が何人も死んでいくんだ!

そんなの、俺は見過ごせねぇ…大切な人殺されて…償わせる事も出来なくて…それが繰り返されんのまで見過ごせってか…?

絶対できねえ!しちゃいけねえだろッ!!」

 

花村は訴えかける。

花村も大事な人を殺されている…

分からなくもない。

 

「は、花村…け、けど…」

千枝は怯えた様子で言った。

 

 

 

 

「ただ"テレビに落とす"…それだけだ。それだけで、全部終わる。」

 

 

 

「お…落とす…だけ…」

 

 

 

「関わりたくないヤツは、出て行ってくれ。

…無理に付き合う事はない。

俺は…コイツを許す気はねえ。

けど、その前にお前の意見が聞きたい。

お前はどうする…鳴上?」

 

 

鳴上もまた葛藤しているように見える。

言葉にしてしまうのは簡単だが、行為は殺人と同等だ。

だが、だが、最愛の"妹"を殺されたのだ…

 

 

「俺は…生田目を…いれ」

 

 

そこにドアの開く音がした。

 

「相変らず、つまらないことをしているようで何よりだ」

「!?」

鳴上を押しのけ、シンは生田目の前に行くと襟をつかみ持ち上げた。。

そして、あろうことか片手で、生田目を持ち上げ、窓の外に生田目を出した。

 

「や、やややめてくれ…」

「ほら、早く選べよ。鳴上。」

 

「な、何やってんの!?」

千枝はシンの行動に驚きを隠せない。

 

「お前たちが行う行為を俺が肩代わりしてやる。もう何十億人の屍の上で俺は生きてるんだ。

一人くらい変わりはしない。

殺すなら同じだろ?俺は裁判などでは裁かれん。善悪も関係ない。

こいつと同じだ。」

 

そういうと、シンは生田目をぶらぶらと揺らす。

 

「それにテレビに入れて殺すことと何が違う。責任感か?罪に問われないからか?」

シンは淡々と答えた。

「シン君はどっちなの?」

「俺か?俺は別にどうでもいい」

「え?

 

「俺はこいつが死のうが、この事件の結末を知ることが出来ればいい。こいつの生死に興味はない。

お前たちがごちゃごちゃと戸惑っているから、オレがやってやると言ってるんだ。

ただ、本当にいいのかと聞いている。冷静にならなくてもいいのかと」

 

「お前は許せるのかよ!」

花村がシンに言う。

 

「許す?何を?お前たちは神にでもなった気か?

裁判で裁けないからお前たちが裁くと言うのか?

随分と面白い話だが、残念ながらお前たちはただの凡人だ。神でも裁判官でも何でもない。全てを知っているつもりか?」

シンは鼻で笑う。

 

「でも、こいつは"救済"を続けるって言ってンだ…」

「救済をか?そもそも、救済とはなんだ。こいつの口からしっかりときいていないぞ?」

「しらねぇよ!こんなラリってるやつの事なんか」

「…考えることを放棄するな。放棄すれば、お前たちは"怪物"だ。

それに…今の状況を客観的に見てみろ。恐らく、ラリってるのは、お前らに違いないな」

シンは冷静に鼻で笑った。

 

ギリギリっと花村が歯を食いしばる。

 

 

『怪物』

その言葉が鳴上の頭によぎった。

徐々に頭が冷めていく…

 

そして、外に出されている生田目を見た。

テレビに入れてしまったら、自分は生田目と変わらない。

『怪物』になってしまう。

 

…果たしてそれは菜々子が望むだろうか。

脳裏に菜々子の笑顔が浮かぶ。

 

 

 

…違う

 

 

 

 

「…落ち着け!」

鳴上は珍しく声を張り上げて行った。

 

ビリリッと部屋に響いたその声で皆が鳴上を見た。

 

「そ、そうだよ。と、とにかく落ち着こうよ。」

天城も鳴上の言葉で冷静さを戻してきた。

「俺は落ち着いてる」

そう言いながらも、花村の呼吸は荒い。

 

シンは何も言わずに生田目を部屋へと戻した。

 

 

 

 

「まだ、納得できない点が多すぎる」

鳴上は真っ直ぐとした瞳で皆に言った。




ちょっと最終調整してたら遅れました。

重要なシーンなので今後、いろいろと手直ししていくかもしれません。

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