Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第53話 Boundary 12月3日(土)・4日(日)

生田目の病室。

そこには深呼吸をする鳴上達が居た。

 

 

「俺はここでこいつを殺すにはあまりにも幼稚な結末だと思うがな」

「…それで、お前はなんで殺さない方を選んだんだよ。」

花村は落ち着きを取り戻したようだ。

 

「鳴上の言った通り、まだ納得できない点があまりにも多いな。

落ち着いて考えれば分かりそうなものだが」

 

「確かに…落ち着いて考えてみるべきですね…

思えば僕たちは、まだ生田目自身からは殆ど何も聞き取っていない…

菜々子ちゃんを酷い目に遭わせたのは、確かにこの男だ…

でも他は、さっきのマヨナカテレビを見て、"そうじゃないか"と感じただけです。

全部押しつけて裁こうなんて…一時の情で盲目になっていた事は否定できません。」

直斗も冷静にそういった。

 

「こいつは何も言わねーじゃねえか。

どんな動機だろうと、こいつがみんなをテレビに放り込んだ事は間違いねえ。

こいつが、先輩を…第一、人殺しを"救済"なんて言ってる奴を

どう理解しろってんだよ!」

 

「理解できない事と、しようともしない事は、全く別のものです。」

直斗はそういうと、花村は悔しそうに言った。

「くそっ…けど、コイツが同じ事繰り返すのを防ぐ

ためなら、俺は出来る事は何だってするぜ。

いつだって、なんだって、な。」

 

「今は考えよう。冷静に…」

鳴上がビシッと花村に言う。

 

「ったく…呆れるほど冷静だな、お前。ま、だからリーダーって事になってんのか…

いいぜ。ならトコトンまで考えようじゃねーか。」

「分かんねー事残したままじゃ、テメェでテメェを騙した事んなるか…

確かに、筋が通らねえな……オレも納得っス。」

 

「疑問点は生田目自身に聞けばいい。"救済"の言葉の意味」

鳴上がそう言うとシンもうなずいた。

 

 

「ちょっ…君たち!何してんの、入っちゃダメだってば!!」

そこへ足立が医者を連れてドアを開けて入ってきた。

 

 

「うわ、ヤバッ。」

「よ、容疑者を見張っていたんですよ。

外の警官は、堂島さんの事で、しばらく手一杯になりそうだったので。

生田目に逃げられでもしたら、警察の沽券や、それから足立さんの信用にも関わりますし。」

直斗はそういうと、足立は困った表情で言った。

 

「そ、それは…どうも。

今後は警護も強化するし、なるべく早く搬送できるよう手配するよ。

だから、今日君らがここへ入った事は…」

「先生、彼の容態は?先ほどは、随分興奮していたんですが。」

直斗は足立そっちのけで、生田目の状態を尋ねる。

 

 

「とりあえず無事のようだが、今は安静が必要なんだ。

とにかく、全員外に出てくれ。」

医者がそういうと

 

「わ、分かりました。」

「俺たちも…戻ろう。菜々子ちゃんのところへ。」

そういうと、鳴上達は外へと出た。

 

 

 

 

病室から出ると、看護師が慌てたようすで

「あ、いた!あなたたち!すぐ来てちょうだい!」

「え、な、何…」

慌てて皆は看護師についていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…何処クマ!?クマの世界…クマか?

なんか、それとは違う感じクマね…たしか、クマは病院に…

そうだ、ナナチャン…

クマは…クマは何も出来なかったクマ…

クマ、何のために、存在していたんだろう…

約束、守ることが出来なかったクマ…あそこにいる意味を、

クマは失くしちゃったクマ…

 

そ、そうか…思い出したクマ…

…やっぱり、そうだったクマね…

みんな…センセイ…

クマはどうしたら…」

 

 

 

 

鳴上達が病室に入ると、心電図の小気味よい音が鳴っていた。

皆が歓喜の声を上げる中、シンは廊下へと出た。

 

 

 

 

 

 

「請求に来たぞ?人修羅よ」

白い髪をして、白い服を着た老人が

「…相変わらずの守銭奴だな。カロン」

「そうだな…今回はこの程度で良い」

そういうと、三本の指を立てた。

シンはマッカで膨れた袋をカロンに渡した。

 

 

「ではな」

そういうと、不気味な笑い声を上げながら去って行った。

 

 

菜々子の容態は嘘のように安定し、皆が涙を流す。

だが、如何せん原因不明なこともあり医者は油断は出来ないと語る。

 

そんな感動後、もう時間も遅いので帰ることにした。

だが、クマが先ほどからいない。病院を探し回るが、やはりいなかった。

仕方なく、皆は帰ることにした。

 

 

 

「…俺はやっぱり、お前のように冷静にはいられなかった」

「いや。お前は冷静に対処できた。…境界を越えなかった。それだけで充分だ」

「…何故、シンは俺たちの手伝いをする?」

 

 

 

「…俺はいつでも変わらない。好奇心。この事件に関しては真実を知りたいだけだ。」

 

 

 

鳴上が見たシンの瞳は真っ黒で光の無いものだった。

だが、その目には黒々と光る輝きがあった。

黒光りするまるで、黒曜石の様なそんな輝きがあった。

 

「お前は、何故この事件を解決したい」

「…俺は信じていたい。仲間やこの町で出会った人たちを。

だから、俺の出来ることをしたい。」

 

鳴上はこの町に来て変われたのだ。

 

 

 

「クマのやつ、呼び出せないってことは、充電切れてんのか…?」

花村が携帯をポケットに入れた。

 

「病院の中もざっと見たけどいなかったよね。

どこ行っちゃったんだろう…」

心配そうな顔で千枝はポケットに手を突っ込んだ。

 

 

そんなとき、頬に冷たい滴が当たる。

 

 

 

「あ…雪…」

天城がそう呟くと皆が空を見上げた。

 

「あ、ほんとだ…生で雪見るなんて、結構久々かも。

でも、この霧だと、雪もキレイに見えないな…」

 

霧が濃く、光もないこの田舎町では到底、見えない。

しかし、暗闇の中降るその雪が非常に幻想的であった。

 

 

「降ってきちゃったね、今年も。う~さむっ。

とりあえず今日は帰ろっ花村、クマくん見つかったら

連絡してよ?」

千枝は震えると歩き出した。

 

「わーってるよ。明日また、特捜本部でな。」

 

そういうとそれぞれが家の方へと向かって行った。

 

「クマのやつ…先に帰ってりゃいいんだけどな。

心配ないとは思うけど、とりあえず急いで帰るわ。じゃまた…明日な!」

シンと鳴上に別れを告げると、花村も帰って行った。

 

 

「…あの時…みんなをひきとめたことは本当に正しいことだったのだろうか…」

鳴上は空を見上げたままシンに尋ねた。

 

「…正しい、正しくないではない。

それがお前の信じた事なら、あとは全力で跳躍するだけだ。

結果は後になってでしか分からない…」

 

シンはポケットに手を突っ込むと白い息を吐いた。

 

「だが、やがて一人で決めなければならないことが沢山出てくる。

その時に、自分の過去を信じて自分で跳躍できるか。できないかだ。

誰もお前の代わりには跳んではくれない。」

 

「…ああ」

 

「説教くさくなったな…俺はまだこうしてる。先に帰るといい」

「…じゃあまた、明日」

鳴上はシンに別れを告げた。

 

 

 

 

次の日は幸い、休みであり朝から早々にジュネスへと集まった。

理由はクマが消えた事だ。

それで、探しまわることにしたが、シンに連絡がつかなかった。

花村が家に行くと、どうやら、アマラ経絡にいるとのこと。連絡のつけ様がないので、仕方なく伝言だけ伝えた。

 

 

「ダメだ、クマのヤツ、どこにも居やがらねえ。」

「"向こう"も今のところ気配なし。

でも、見つけられてないだけかも…霧がすごくて…

ごめん、力になれなくて。」

りせも残念そうに言う。

 

「クマきちのやつ…まさか今度こそホントに帰っちまったんじゃねーだろうな…居ていいって、あれだけ言ったのに…」

 

 

「おはよう」

シンはパーカーのポケットに手を突っ込んでいる。

 

「遅い!というか、もうおはようの時間じゃねぇ!」

花村はビシッとシンを指差し、言った。

 

「それで、状況は?」

「クマ君が見つからないという話です」

直斗がそういうと

「そうか。」

シンは椅子に座った。

 

「焦っても仕方ない」

鳴上の言葉にとりあえず皆が落ち着いて席についた。

 

「アイツ、トボけたやつだけど、義理堅いしな…黙って消えたりはしないよな…」

「確かにクマくんのことは気になりますが、今は信じて、事件の事を考え直してみましょう。

生田目は搬送が間近なようです。

話を聞くにしろ、急がないと、今度こそ手出し出来なくなってしまいます。」

 

直斗はそういうと、手帳を取り出した。

 

「あれから、考えてんだけどさ…やっぱ、すっきりしねーよ。」

「少し、振り返ってみましょう。被害者のうち、殺されたのは二人。

山野アナと、小西さんです。

車から出てきた記録で、生田目は双方と関係があった事が分かっています。」

 

「それは微妙だ」

シンが異を唱えた。

 

「といますと?」

「テレビだ。"マヨナカテレビ"。

やつが見ていないという可能性はない。

それに、マヨナカテレビに映った、あるいはテレビで報道された人物を日記に付けたとするならば、小西早紀との関係があったことにはならない」

 

「…そうですね。」

直斗は一瞬考えるも、すぐに話を続けた。

「ですが、いずれにしてもその後、僕たちを含めた言わば"殺人未遂"が連続…

最後の菜々子ちゃんに対する犯行で、ついに現場を押さえ、決定的な手口が明らかになりました。」

 

「テレビを持ち運ぶって大胆だよね」

千枝がそういう。

「それに運送業…見事な隠れ蓑だった」

「なんかお前が"隠れ蓑"っていうと、忍者の話みたいだな」

シンの言葉に花村が突っ込む。

 

「それだけ聞く限りじゃ、もうどう転んでも"決まり"だけどな。」

完二が唸る。

 

「生田目が逮捕されたことで、警察も久保美津雄を模倣犯と認めましたしね…」

直斗はまとめを言い終わり、手帳を閉じた。

 

「それに、生田目は一件目の山野真由美を殺す理由がない。

そして、二件目の小西早紀。彼女はあくまでも、第一死体発見者…

テレビに入れる犯行だとしたら、死体に上がるまでラグがある。

死体発見者ってだけで、殺す必要があるのか。」

シンは淡々と話す。

 

「仮にねセンパイ。本当に生田目がイッちゃってる可能性は?」

りせはシンに尋ねた。

 

「…前にも言ったが、正常か異常か。そこはあまりにも不明瞭な境界だ。

例えば、鳴上を正常だとするなら、義妹への異常なまでの溺愛っぷり、いわゆる"シスコン"を正当化することになる。」

「…?」

 

鳴上は何を当たり前の様な顔でシンを見た。

 

「たとえば、俺のようなやつが正常だとされる世の中なら、多分、もっと過激な世の中になっているだろうな。

俺にとっては幸せだが…」

 

「結局、正常と異常の差なんて明瞭じゃない。何が正常で何が異常か。わかりゃしない」

シンはそういうと、肩をすくめた。

 

「"正常か、異常か"…なんか、そんなミュージカル見たな、前。」

りせは呟くように言った。

 

「実際、あいつの言ってる"救済"って、どういう意味なんだ?

行動の内容は"人をさらって向こうに放り込む"って事で間違いねーみたいだけどさ。」

「"死による救済"…なんでしょうか…生田目は自分を"救世主"だと言ってました。"向こう側"を"素晴らしい世界"とも。」

花村の言葉に直斗が反応した。

 

「そこを誤解しているのかも。」

鳴上がそういった。

 

 

「…救済は死を意味をしていない。

生田目はお前たちを見て、"僕が救ったやつらだ、この子も救ってあげる"と言っていた。

殺すことが救済なら、何故お前たちは生きている。」

シンは皆を見た。

 

「確かに、死を救済だと思っているなら、その台詞はおかしい…

それに、そう…確かマヨナカテレビに映った生田目も、菜々子ちゃんの死を"失敗"と…」

直斗は頷いた。

「それにね、本当に死を救済だって思っているなら、また私たちをテレビに入れると思うの」

天城はそういう。

 

「なら、ホントに救おうとしてテレビに入れてたとか。」

 

 

千枝のその言葉にみんなが黙った。

 

「ち、ちょっと、黙んないでよ。あたしのは、基本思いつきだからさ…はは…」

シンは唸ると、千枝を見て言った。

「いいね」

「ちょ、どこ行くの?」

りせは椅子から立ち上がったシンに言った

 

 

 

「無論。病院だ」

 

 

 


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