Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第54話 Misunderstanding 12月4日(日) 天気:曇

ずしずしとシンは病院へと入って行く。

「待ってください。警官が警備しています…」

「肝心なところで、メンドクサイことは嫌いだ」

直斗がそういうが、シンは止まらない。

 

 

「ど、どうすんだろう」

「わかんねーよ」

 

 

第二外科病棟の最上階の方に来た。

シンは相変わらず、その足を止めない。

 

「あ、こらこら、たち…」

警官がそう言いかけた瞬間、シンは警官の目の前で指を鳴らした。

すると、まるで人形の糸が切れたように倒れ込んだ。

そして、シンは何事もなかったように倒れた警官を避け、引き戸を開けた。

 

「ちょっと、失礼」

それと同時に、茫然としている鳴上達の後ろから、同じ格好、同じ顔をした男が出てきた。

そして、その警官を持ち上げると、無線機を取り隣の空き室へと運び始めた。

 

 

「え?え?えーっ!?」

「おれはしーらねーぞ」

花村は棒読みで生田目の部屋に入った。

 

「荒々しいっス」

「…こんなことしなくてもしっかりと準備してたんですが…」

直斗は残念そうに言った。

 

 

 

皆が部屋に入ると、生田目がシンを見ていた。

 

「…生田目。訊きたいことがある」

「…。」

「…手短に済ます。」

シンはスキル『説得』を使う。

 

「…最初に誰をテレビに入れた?」

シンはそういうと、鳴上達を見て天城を指差した。

「彼女か?」

その言葉に生田目は頷いた。

 

「えっ…私?」

突然の事で天城は酷く驚いている。

 

 

「…"救う"とは殺す事か?」

「違う…放っておくと、殺される…だから…あそこに入れた…」

生田目は首を横に振った。

 

「山野アナと小西早紀を殺したか?」

鳴上が質問をする。

「彼女たちは殺された…僕は、救えなかった…」

 

「つまり、こうですか?

山野、小西の両事件を知ったあなたは、マヨナカテレビに映った人が殺されると気付いた。

その運命から文字通り"救う"ために、あなたは天城雪子さんを誘拐した…

殺されるよりはと、テレビの中に入れる事で現実の人間が手出し出来ないようにした…

そして、それを続けていった…と。」

直斗がそういうと、生田目は頷いた。

 

「つじつまが合います。

弱ってはいても正気だ…彼はちゃんと、事実を話そうとしている。」

 

「…ほかに犯人が居る。」

鳴上がそう呟いた瞬間、シンは笑い始めた。

 

 

「フフフフッ…そうか。やはりそうか。」

 

「君たち…僕を疑ってないのか…?

…み、見つかったんだな!?あんな酷い事したやつが!!」

「心当たりはある」

 

シンの言葉に皆が驚いた。

「!?」

「ほ、本当か!?誰なんだ!!」

生田目はベッドから起き上がった。

 

「…まだ、確証はない。だが、お前の証言で確率はぐんと上がった」

「…ま、真由美」

安心した様子で生田目はベットに寄り掛かった。

 

「お前のこれまでの事を話せ。警官は当分来ない」

シンはそういうと、椅子に座った。

 

「…キミは信頼できそうだ」

生田目は落ち着いた様子で話し始めた。

 

 

 

 

真由美との不倫が世間に知られてすぐ…僕は騒ぎから逃げるように、

こっちの実家に戻っていた…そして、ひたすらヤケ酒をあおってた…

少し前から、真由美とも連絡が取れなくなっていたからね…

 

真由美はワイドショーで騒がれ、番組を降板させられていた。

僕は彼女に迷惑をかけてばかりで、謝りたかったのに…

やる事も、気力もなくして…そんな時、ふと…

誰かに聞いた噂を思い出したんだ。

他にする事もなかった僕は、テレビの画面に映った自分をぼんやり見ていた…

そうしたら、真由美が映ったんだ。

 

テレビの中の真由美は、僕に助けを求めているように見えた…

 

 

僕は無我夢中で真由美に触れようとして

…その時、腕が…丁度水面に突っ込んだみたいに、テレビの中に潜ったんだ。

驚いて、支えを失って、僕はテレビの向こう側へ落ちそうになった…

 

…酔いが一気に醒めた…

驚いたよ…わけが分からず怖かった。頭がおかしくなったと思った。

結局、夢だったと思う事にして、次の日、仕事をこなした後…中央へ戻った…

次の…午後…いつもの職場に出勤すると…想像通り、クビを言い渡された。

けど、そんな事より僕を打ちのめしたのは…

真由美が遺体で見つかった事だった。

 

それも…僕の実家のあるこの町でだ…

 

しばらく呆然とした後で、あの映像…夜中に真由美が映った映像の事を思い出した。

あれは夢なんかじゃない…本当に、真由美からのSOSだったんじゃないか…?

僕は…怖くてわざと避けていた"テレビにさわる"というのを、もう一度やってみた。

 

そして…あの晩自分に起きた事が、夢なんかじゃなかったと再確認した。

現実だった。紛れもなく…

ならあの映像は…救いを求める真由美が、僕に見せたものだったんじゃないか…?

 

…そう思った。いや…そう思いたかった…

 

「そして…"マヨナカテレビ"の噂に行き当たったんですね。」

直斗がそういう。

 

真由美が生前、妙な番組の噂を追っていた事を思い出したんだ。

僕も人から聞いて知ってはいたけど、子供じみたただの噂と思っていた。

 

「追っていたのは"マヨナカテレビ"なのか?」

「おそらく…そうだ。」

生田目はそう答えた。

 

「…すまない。続けてくれ」

シンは手を自分の顔の前で組み、考え始めた。

 

でも真由美は、あれに映って、そして殺されたんだ。

考えるほど、無関係とは思えなくなった。

間もなく警察の聴取に応じるため、僕はこの町に戻ってきた。

どうせ仕事はクビになったし、真由美の死の理由をちゃんと知りたかった。

そして、雨の夜…また"マヨナカテレビ"に、今度は女の子が映ったんだ。

真由美の時と同じように、その子もまるで助けを求めてるみたいに見えた。

もしかすると、次はこの子が犠牲に…すぐそう思った。

 

「小西先輩のことか…」

花村は悔しそうに言った。

 

真由美に関する報道は全部見ていたから、その子が遺体発見者の子に似てると気付けた。

もしそうなら、狙われるかも知れない。

でも真由美のようにはしたくない…僕は助けたい一心で、必死に見続けた。

そうしたら…その子の姿が段々とハッキリ見えるようになって来たんだ。

 

「段々…はっきり…?」

千枝が言う。

「…ああ。日にちが経つにつれて、徐々に徐々に」

「…先輩のことはどうやって知ったんだ?」

 

「戻ってすぐ、身持ちを崩しかけた僕を見かねた父に、家業の手伝いをするよう言われた…

その時に行った、酒屋の娘さんが、その子だった…」

生田目は思い出すように再び語り始めた。

 

 

悩んだ末に、あの子を呼び出して、気をつけるように警告したんだ。

けれど結局、その晩…彼女が、何か黒いものにまとわりつかれるように、もがき苦しんで…

 

僕は郵便から見た電話番号に電話をすがる思いで掛けた。

でも…出なかった…

あれだけ、警告したのに…彼女は次の日、遺体で見つかった…

 

 

「…」

花村は茫然と聞いていた。

 

 

殺されると分かってたのに、助けられなかった。

僕は…後悔した。もっと、できることがあったはずだと…

僕は、誰からも必要とされていなかった。職場でも…妻にさえ。

そんな中で、真由美だけが僕を認めてくれていた。

その真由美が殺され、同じ犯人がまた女の子を手に掛けた。

 

僕は…僕は、悔しかった。

自分が何もできないなんて許せなかった…!

 

 

「真由美さんのこと、本当に好きだったんだ…」

「好きだったさ…結婚の直前、妻が芸能界で大当たりしたんだ。

嬉しかったけど、暮らしはぎくしゃくし始めた。」

生田目はため息を吐いた。

「…ちょっと分かるかも、そういうの。」

 

「真由美とは…その頃出会ったんだ。選挙で、ウチの先生に取材があった時に。

彼女は看板アナだったけどローカル局勤めで、仕事に対する気持ちが僕とよく似てた。

同郷だから話も合って…まずいとは分かってたけど…親密になるのを止められなかった。

僕には…それしか生き甲斐がなかった。

小西早紀さんが遺体で発見されてすぐ、また別の女の子が映った…」

 

 

「…君だよ。」

生田目は天城を見て言った。

 

 

次はこの子が、さらわれて殺される…真由美やあの子のようにはしたくない。

今度こそ、絶対…

相手は、何処の誰とも分からない殺人鬼…そんな奴から守るにはどうすればいいか…

僕は必死に考えた。

 

説得は小西早紀さんの時点でダメだった。それに怪しまれて捕まったら助ける事すらできない。

 

テレビの中の少女は、楽しげに、僕に笑いかけているように見えた…そして…思ったんだ。

自分には、テレビの"向こう"へ入る力があるらしい…

なら、殺される前に、そこへ"かくまう"事が出来るんじゃないか…と。

 

『"そっち"は、安全って事なのか?そうなんだな!?』

 

今思えば、その時は取りつかれているようなものだったのかもしれない…

 

テレビの中の少女は、そんな僕に、また微笑み返したように見えた…

そうとも…たとえどんな場所だろうと、惨たらしく殺されるよりはいい。

ほとぼりが冷めたら、また出してあげればいい…

テレビの中なら…絶対に見つからない…

 

そう考えた。

 

頭で、全ての事が繋がった気がしたんだ…この力は…真由美がくれたんじゃないか?

二度と自分のような犠牲を出さないように…そして救う事は、僕の使命なんじゃないか?

…ただ、問題もあった。

 

被害者は事情を説明しても理解する筈がない。

一度試して、それで苦い思いもした。

それなら…もう連れ去るしかない。

使命なら、やるしかない…そう、思ったんだ。

 

 

「マヨナカテレビに映った人が殺されると思って、助けるために、私たちをさらった…」

「使命って何よ!? 思いこみってこと!?なんでそんな勝手に信じちゃうワケ!?」

千枝は怒った様子で生田目に言った。

 

「自分がやるしかないと思ったんだ…警察にも電話したけど、信じてもらえなかった。

仕事がらの土地勘、トラック、目立たない事…運送業である事を使えば、全部やれると思った。

自分にしか、できないと思った…でも僕は…救えてはいなかったということか…?」

 

「そうなるな」

シンは肩をすくめた。

「こちらで霧が出る日、テレビの中の世界にいると、死んでしまうんです。

天城さん以降、あなたが"救ってきた"人は…あなたのせいで、死んでいくところでした。

僕らを本当に救ってくれたのは、ここにいる仲間たちです。」

直斗は皆を見た。

 

「やはり、そうか…あの子を追って、自分もテレビの中に入った時、僕は初めて自分のしてきた事に疑問を持った…」

生田目はショックそうに言った。

 

「警察に追われ、逃げたい気持ちもあった。

それでもあんな小さな女の子だけは何としても救わなきゃって…そう思って、後を追ったんだ。

ところが、実際に入ってみたテレビの中は…思ってたのとは全然違う異様な場所だった。

"救った"君たちが日常に戻ったのを知っていたから、想像もしなかったんだ。

まさか…自力では出る事さえ出来ない場所だったなんて…」

 

生田目は口を止めた。そして、言う。

 

「…いや、この言い方は卑怯だな。

多分僕は、内心では危険だと気づいてたんだ…でなきゃ君たちになんて会いに行かなかっただろう。」

 

「俺たちに会いに…!?

待てよ…それまさか、ジュネスでバンドやった時の…!」

花村は思い出したように生田目に行った。

 

「ああ…救った君たちが何故一緒にいるのか、何をどこまで覚えているのかが、知りたくてね。

けれど結局、何も言えずに逃げ帰った。」

生田目は少し俯くと、言葉を続ける。

 

「…きっと、僕は後ろめたかったんだ。

ハハ…そんな無意識に抑えていた疑いや不安が、自分もテレビに入って一気にふき出したわけだ。

気が変になりそうだった…いや、実際おかしくなっていたと思う。

後は知っての通りさ…気付いたら病院のベッドにいた。」

 

「あなたは…本当に"救おうと"し続けていたんですね…」

直斗は慰めるように言った。

 

「でも僕は、その方法を間違ってしまった。

ずっと…いつか、自分も政界に出て、社会の役に立ちたいと思ってたんだ…

けど、その仕事も、愛する人も失って…僕に残されたのはこの力だけだった。

"向こう"を"聖域"か何かだと信じ込んで…無意識にヒーロー気取りだったんだよ…」

皮肉そうに生田目は言った。

 

「僕は…映ったものをまるで疑わず、信じたいように信じてしまった…

自分の頭で考えなかった…だから、守れなかったんだね…

全て、僕の責任だ…」

 

「確かに許されない」

鳴上は正直に言った。

 

「ああ…その通りだ。

罪を逃れる気は無い。覚悟なら出来てる。

誘拐だけでも重罪…それに…たくさんの人を危険に晒したからね…済まなかった…」

生田目は軽く頭を下げた。

 

「マヨナカテレビに、向こうの世界…あんなもの、正しく理解できない方が普通です。

僕らこそ謝らないといけません。

感情に目隠しされて、一歩間違えば全てあなたに押し付けてしまう所だった。」

直斗は言った。

 

「…"救済"を始めてみたら、実際、死体が出なくなったワケだからな。

やればやるほど"自分は救えている"と信じるようになった…か。」

「実に…滑稽だな…僕は…」

生田目はそういうと、目を閉じた。

 

「済まない…少し疲れたみたいだ…」

そう生田目がいうと、ドアがノックされる。

 

「そろそろ起きる。」

その顔は"皮肉に満ちた笑み"でシンに言った。

 

 

「わかった。行こう」

鳴上がそういうと、シンはピョンとソファから立ち上がった。

 

「お願いだ、必ず…犯人を見つけてくれ…あの世界を知る君らにしか、できない…」

「…当たり前だ」

鳴上が答えた。

 

 

 

 

「…ん…あれ?」

警官が起きると、ソファで倒れていた。

そして、自分がいるべき場所を見ると自分が立っていた

 

「…」

「あれ?俺?」

「…そう。お前」

自分が皮肉そうな笑みを浮かべて、笑っていた。

 

「え?」

 

 

すると、突然、警官の頭に透明な髑髏当てられた。

 

「ついでに実験材料だ。」

 

その言葉を最期に聞いた彼は二度と目を覚ますことはなかった。




休みになったので、一気に書き上げる。
ペルソナ4Gをやりながら、話を確認しつつ、書く。
非常に苦労する作業。

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