Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第56話 Same Kind 12月5日(月)~8日(木)

「死ぬ?…」

足立はシンのその言葉に大きな笑い声をあげる。

 

「やっぱり、キミ面白いねぇ…僕じゃなくて、キミが死ぬんじゃないかな?」

足立はそういうと、躊躇なく引き金を引いた。

だが。

 

 

「聞き分けの悪い人間は嫌いだ」

「…な、なんだよ。オマエ」

足立が思わず一歩引いた。

 

 

足立は勘違いしていた。彼は自分と同じ人間(・・)だと思っていた。

それがそもそもの間違い。

 

彼はいとも簡単に銃弾を片手で止めて見せた。

後ろを向いていたはずなのに、振り向きもせず、彼は豆鉄砲の豆でも止めるように銃弾を片手で抓む様に止めた。

しかも、顔に不気味な刺青が入っている。

 

 

「焦ることはないだろ?

別に俺がお前の様な凡人を殺してもいいんだが、ただ、それじゃあ娯楽としてあまりにも退屈極まりない。

だったら、お前らが監視してた連中と戦うってのはどうだろうかと思ってな。」

 

シンはそういうと、嘲笑する。

 

「娯楽としては最高だ」

「…クソッ!」

足立は『マガツイザナギ』を召喚し、空間殺法を放つもそのまま自分に返ってきた。

シンは何事も無い様に、瓦礫に座った。

 

「やめておけって、面倒は嫌いだ」

足立は数秒厳しい顔で考えるも、戦いの構えを解いた。

そして、少し笑った後にいう。

 

「やめたやめた!僕は無駄な努力ってのはしない主義なんだ。

…キミは僕と同類のようだしね」

「…そうかもな。」

シンはそういうと、スマホの音楽を流し始めた。

 

「君は僕と同じ。退屈なんだろ?あんな世界が」

「そうだな。ただ、俺に俗世の話は意味はない。俺は違う世界の人間だからな」

「…へぇ、そこには何があるんだい?」

足立はシンの隣に腰を下ろすと、相変わらずのバカにしたような顔で尋ねる。

 

 

「何もないな。何も。

それより、お前はどこでこのマヨナカテレビを知った?」

シンはそういうと、足立を見た。

 

「え?あー…どこだったけっなぁ…

でも、このクソ田舎に着いてすぐくらいだったかな」

足立は思い出すように言う。

 

「その後、たまたまテレビに入れる力があるって気がついて、それで、目をかけてやって山野真由美がムカついたからテレビに入れてやった。

それだけ」

 

「ふむ…」

 

「あれ?キミは言わないんだ。『そんなのは犯罪だ!』なーんて、正義感を出しちゃったりさ?」

「言わないな。いう必要もない。」

 

足立はそれを聞くと笑い出した。

「ハハハハっ…やっぱりキミ、頭おかしいよ。」

「…褒め言葉…だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴上は夢でベルベットルームにいた。

そこにはクマがいて悲しそうな顔で鳴上に真実を話した。

自分がシャドウであること、テレビの中は人の心が反映している世界だということ。

自分はシャドウだが、人に愛されたいと思いこんな姿になったと。

 

そして、皆の前から消えるとクマは言い残した。

 

最後に菜々子にごめんと伝えてほしいと言ったが、菜々子が生きていることを伝えるとうれし涙を流した。

 

クマは眠くなったというと、すっと消えてしまった。

 

 

 

 

鳴上は目を覚ますと、不安になった。

だが、同時に安心もした。

絶対にクマは戻ってこさせると決心した。

 

 

 

 

 

6日(火)

 

 

放課後、皆すぐにジュネスに集まるも、二人足りない。

クマと間薙シン。

 

「どうでした?クマくん、いましたか?」

「いないし、誰も見てないって。」

花村は心配そうな顔で言った。

 

「間薙センパイはどうなんスか?」

完二がシンの家に行った千枝に尋ねる。

「家に帰ってないみたい。メリーさんも知らないって言ってたし」

 

「もう、バカ! ほんっとクマなんだから。事件、山場だってのに!」

 

「それにシン君もまた一人で行動して…」

「シンは心配じゃねーっちゃ心配ないけどさ…なんつーか、突然いなくなるのはやめてほしいな」

 

「…とりあえず、今は今はとにかく、足立を追いましょう。」

直斗の言葉に皆が目標を切り替えた。

 

 

 

 

テレビの中の広場…

 

 

 

「うわ…すっごい霧…前より全然ひどいね。」

千枝はそういうとメガネを思わず拭き取る。

メガネを外すと分かるが、霧というよりはもはや煙に近く、仲間たちの顔もメガネがなければ見えない状況だ。

 

「何これ…どこもかしこも、前に来た時よりずっとイヤな感じ…急いだ方がいいかも。」

りせはそういうと、ペルソナを使ってサーチを始めた。

 

「ちょっと待ってて。足立のヤツ捜してみる。」

 

「俺らの世界もこっちも、どっちも変になってるって事か…?」

「外の霧にも、このメガネ効くんだもん。

普通じゃないよ…霧のせいで具合悪くなったって人、けっこう増えてるみたいだし…

これからどうなるのかな…」

皆は不安そうだ。

 

「…大丈夫。すべて良くなる」

鳴上はまっすぐと皆を見て言った。

 

「いる!足立、こっち側に、いる!」

りせは神経を集中させる。

 

 

「やはり、自分からテレビの中に…決まりですね…この事件を引き起こした張本人は、彼と見て間違いないでしょう。

彼を捕まえれば、この世界の謎も、事件の謎も、きっと解けていくはずです。」

「じゃあ…クマくんの生まれの事なんかも、何か分かるかもしれないね。

ったく、こんな時に、アイツ…」

千枝は呆れた顔で言った。

 

 

と、りせがペルソナを解除する。

 

 

「クマは…こっちにもいない。

ダメ…足立も、居るのは分かるけど、足取り…うまく掴めない…

もうクマ!この肝心な時に、なんで居ないのよ!」

 

りせは諦めずに足立を探し始める。

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

クマは気が付くと病院の病室に居た。

 

「ここは…」

 

そして、自分の事を思い出した。

 

「…そうか…結局…戻って来たんだ…

ここにいたって、クマ、何の役にも立たないのに…

ナナチャン…ごめんなさいクマ…」

クマは悲しそうな顔で菜々子の手を握ると菜々子がクマの方を見た。

「クマさん…?

やっぱり…クマさんだ…こえ…きこえたよ…

がんばれ…って…お兄ちゃんたちの…こえも…」

 

「ナ、ナナチャン!?待ってて、すぐお医者さん呼んでくる!」

クマは慌てて、医者を呼びに病室を出た。

医者を連れてくると、すでに菜々子は眠っていた。

 

 

「また眠ってしまったようですね…」

医者は菜々子を見て言った。

「あ、あの、ナナチャン、さっき、ボクの声が聞こえたって…"がんばれ"って…」

クマは医者に尋ねる。

 

「あの時、奇跡的に持ち直したのは君や、みんなの声が届いたからかもね。

意識が無くても、声は聞こえているものだから。

心停止からの復帰は早々あるものじゃないからね」

「ボクや、みんなの声…みんな…」

クマは泣きそうな顔で言った。

 

「とにかく、彼女の症状は原因も何もかも、よく分からない事だらけでね…

勿論、最善は尽くしているけれど、今のところ具体的な事は不明としか…」

「不明…」

と医者の呼び出し用の電話が鳴った。

「ごめんよ。また、用事があったら呼んでくれ」

そういうと病室を後にした。

 

「もしクマが不明な存在なら、どんな風に変われるのかも不明…

それなら…クマが自分で、不明じゃなくしていけばいいんだ。

ナナチャン、がんばってる…きっとみんなも、今ごろがんばってる…」

 

クマは菜々子を見る。

そして、皆の顔を思い出した。

「ボクは…ボクは、ただのシャドウだけど、

ボクの声でナナチャンも元気出してくれた…

…シャドウだからって何だ。ボクにも、できる事がきっとまだある。」

 

シンが自分のシャドウと対峙したときに言った言葉を思い出す。

『考えることをやめるな。やめてしまっては何も見えなくなる…』

 

「考えること…やめちゃダメだ…

だから、ここに戻ってきたんだよね…ナナチャン…」

 

クマはそういうと走りだした。

自分を信じている人たちを裏切らない為に…

 

 

 

 

 

 

「ダメ…分かるの相変わらず気配だけ…足立の場所は分からない…」

「りせちゃん…」

「クマがいたらな…」

りせは思い出すように言った。

 

「アイツ、もう鼻利かねんじゃなかったか?探知の役に立つんか?」

「はは、立たない。…けど、なんだかんだ言って支えてくれるって言うかさ…」

りせは軽く笑い言った。

 

「騒がしいけど、明るくなれるね。いつでも底抜けっていうかさ。」

「楽観的で…でも、いつでも前向きでしたよね。」

 

とりせが膝を付いた。

 

「だ、大丈夫!?」

千枝は思わずりせを支える。

「だいじょぶ…ちょっとフラついただけ…霧が、すごくて…どうしても、見通せない…」

「今日はもうやめとこう?倒れたらヤバいもん。」

 

「久慈川さんが消耗しては、仮に場所が分かってもまともに戦えません。

夜も近づいてきています。」

「で、でも、」

りせはそうは言うものの大分消耗している。

 

「一旦、外に出よう」

鳴上がそういうと、りせは戸惑うもうなずいた。

 

 

フードコートで再び皆が椅子に座る。

 

 

「クソッ…また足止めか…」

完二は不機嫌そうに言った。

「あそこに居んの、分かってるのに…なによ…私の力、全然役に立たないじゃん…!」

りせが悔しそうにいうと、ふと、柱の影から見慣れているフォルムがこちらを覗いていた。

 

「クマ!?」

りせのその言葉にりせの視線の方をみんなが見た。

 

クマがピョコピョコと音を立てて近づいてきた。

 

「お、お、おま…どぉこに行ってたんだよぉっ!!」

花村は嬉しそうに言った。

「ご、ごめんクマ…」

「バカ! バカグマ!大遅刻よ! どんな大御所よ!

う…うぅぅ…うう…」

 

りせに至ってはクマに抱き着くと泣き始めた。

 

「り、リセチャン、えっと、えっとえっとー…」

クマはあたふたしながら、必死にボケを考える。

「…うそ泣き?」

「バカっ…」

 

「…ご、ゴメンクマ!また、一緒にがんばらせてほしいクマ。」

「世話焼かせやがって…このクマ公!今までどこほっつき歩いてたんだよ!」

完二も心配そうに言った。

「ごめんクマ…クマ…色々分かったんだ。

自分のこと…あの世界のこと。みんなに聞いて欲しいクマ…」

クマはマジメな顔で皆に話し始めた。

 

 

 

自分の正体を。

 

 

 

 

「シャドウってことは、私たちが戦ってるのと同じってこと?」

「皆が知っている通りクマ。シャドウは抑圧された人間の精神そのもの…誰の中にもあるものクマ」

「けど、お前はシャドウなのに、俺たちを襲わなかったし、あの中を平和にしたいって言ってたよな」

花村はクマと初めて会った時を思い出す。

 

「けどクマ結局…特別な意味も力もない、ただのシャドウだったんだクマ。

クマの世界を平和にしたいと思って、今までやってきたけど…

それどころか、こっちの世界にまで、おかしな霧が溢れちゃった…」

 

クマは軽く頭を下げた。

 

「ごめん…ごめんなさいクマ。クマの力が、もっと、スゴイものだったら…」

「いーっての、別に。

大体、初めっからお前に特に期待とかしてないっつの。

今更シャドウだったとか言われても、やっぱそれ系だったのか、みたいな感じだし。」

 

「え?」

クマは顎が外れる勢いで驚いた。

「…な、何ソレ!?

こっちは真剣に告白してるのに、やっぱそれ系って、どういうことクマか!

フツー、こんなプリチーなクマがシャドウなんて思わないでしょーが!」

 

「つーか、シャドウだと何か問題あんのか?」

完二が頭を掻きながら言った。

 

 

「確かに君は、シャドウとして生まれたのかも知れない。

けれど君には、もう"ペルソナ"の力がある。

シャドウとは抑圧下の力であり、自我がそれを制御する事でペルソナともなる…

なら今の君には、ちゃんと自我があるという事じゃないんですか?

 

自我がシャドウを制御するか…シャドウに自我が芽生えるか…

多分、僕らと順序が違っただけじゃないのかな。」

 

「なんだ。じゃあクマくんってもう人間と同じなんじゃん。」

千枝がそういうと、クマはまた驚いた表情で言った。

 

 

「自分が何者なのか、考え続けてるのって俺たちと同じだろ。

んで、大した力もなく、特別な存在でもない…それも、俺たちと同じだ。

それにシンだって言ってたじゃねーか。『お前はお前であることをやめられない』ってさ。

お前はクマなんだよ。シャドウとか人間とかそーいうの抜きにして、クマなんだよ。

お前が何者かだなんてのは、その二の次なんだよ。」

花村が少し恥ずかしそうに言った。

 

「う…うう…うおぉぉぉぉん!!!」

クマは大声を上げて泣き始めた。平日の静かなフードコートにその声が響く。

 

「あ…あり…あり…ありがと…クマ…み…みんなに会えて…良かったクマ…」

 

 

「まあ、俺らもともと、微妙にはみ出してる顔ぶれの集まりだし?

お前もその一人って事だな。」

花村は皆を見ていった。

「誰がはみ出し者ですか。」

「センパイだけでしょ?」

 

花村はため息を吐くと言う。

「あのな…"アイドル"とか"探偵"が言うセリフじゃねーっつーの。」

花村は泣いているクマを見ると言った。

 

「ったく…お前もいつまでも泣いてんなっつの。それどころじゃねーんだから。

お前の居ない間に、真犯人が分かったんだ…山野アナと先輩を殺したのは…足立だ。」

 

「え!?アダチ!?あのズッコケデカ!?

ほっへー…気付かなかったクマ。クマったら節穴さんね…」

 

その後、クマは皆に恥ずかしい言葉を掛けられると何とも不思議な気持ちになった。

自分が如何に必要な存在なのか。クマは自分の心に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

8日放課後…

 

ジュネスに集まり、家電コーナーに皆で来た。

そして、いつも通りテレビに入る。

 

 

 

だが、出たところはいつもの広場ではなかった。

真っ白な空間。何もない。霧もない。ただただ、真っ白な空間。

 

「あれ?いつもの広場は?」

「入るテレビ間違えたか!?」

 

 

辺りを見渡すと蹲っている人間が居た。

それは良く見慣れた人物だ。

 

 

「シン!」

鳴上がそう呼ぶと、その人物は立ち上がり鳴上達を見た。

すると、何かに取り憑かれたように、頭がぐにゃぐにゃと高速で動く。

そして、口を動かす。

 

「…虚しい。」

「え?」

 

「…幻想を終わらせたくはない」

シンは戦闘態勢に入り、花村に近づき殴る。

それはあまりにも遅く、力もない。

軽々と花村はそれを避ける。

 

 

「おいおい!どうしちまったんだよ!シン!」

花村は慌てた様子で言った。

 

 

 

 

「…濁っている…」

 

 

 

 




ちょっと慌てて書いたので誤字や変なところがあるかもしれません。
後々直していきます。

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