Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第58話 King 12月8日(木) 天気:曇

「真実ほど、無責任なものはない。」

シンは瓦礫の上で赤い空を見上げた。

 

「どんな真実であれ、その瞬間は選び取られた真実しか掴むことは出来ない。正しさや結果は後になってでしか分からない…

ピクシー。正しさとはなんだ?」

「知らないわよ。そんなの。ただ、宗教を信じているニンゲンには、その宗教が真実であり、真理よ。」

ピクシーはつまらなさそうに一回転した。

 

「そうだな。彼らにとってはそれが、絶対的な聖書(キャノン)にも成りうる。それが、人を殺し合いに駆り立てる。

殺し合いが人の本来の姿か?」

「…そうね。殺し合いというよりは、他者を100%理解できないところに問題があるのかもしれないわね。

言葉や行為だけで人間も悪魔も分かり合えないのよ。

それだけよ。それ以外何でもないわ。」

ピクシーは当たり前でしょ?と言った雰囲気でシンに言った。

 

 

シンは思い出すように言う。

 

「…『なんという空しさなんという空しさ、すべては空しい。

太陽の下、人は労苦するがすべての労苦も何になろう。

一代過ぎればまた一代が起こり永遠に耐えるのは大地。昇り、日は沈みあえぎ戻り、また昇る。

風は南に向かい北へ巡り、めぐり巡って吹き風はただ巡りつつ、吹き続ける。

川はみな海に注ぐが海は満ちることなくどの川も、繰り返しその道程を流れる。』」

 

「『何もかも、もの憂い。語り尽くすこともできず目は見飽きることなく耳は聞いても満たされない。

かつてあったことは、これからもありかつて起こったことは、これからも起こる。

太陽の下、新しいものは何ひとつない。

 

見よ、これこそ新しい、と言ってみてもそれもまた、永遠の昔からありこの時代の前にもあった。

昔のことに心を留めるものはない。これから先にあることもその後の世にはだれも心に留めはしまい。』」

 

「『わたしは天の下に起こることをすべて知ろうと熱心に探究し、知恵を尽くして調べた。

神はつらいことを人の子らの務めとなさったものだ。

わたしは太陽の下に起こることをすべて見極めたが、見よ、どれもみな空しく、風を追うようなことであった。

ゆがみは直らず欠けていれば、数えられない。

 

わたしは心にこう言ってみた。

"見よ、かつてエルサレムに君臨した者のだれにもまさって、わたしは知恵を深め、大いなるものとなった"と。

 

わたしの心は知恵と知識を深く見極めたが、

熱心に求めて知ったことは、結局、知恵も知識も狂気であり愚かであるにすぎないということだ。これも風を追うようなことだと悟った。

知恵が深まれば悩みも深まり知識が増せば痛みも増す。』」

シンは言い終わると立ち上がる。

 

「生きていく為といい、自分をだましながら、虚しさから目を逸らすか、

あるいは、絶望したまま生き続けるか…

または…絶望だと知りながら、跳躍するか…

勇敢にも彼らは一番最後を選んだ。」

 

「彼らにとっては、真実を隠すことの方がよっぽど辛いのかもね。」

ピクシーはそういうと、シンの肩に止まった。

 

「…そうか。後悔したくないのだな。」

「そういうことでしょ。」

 

 

 

「どうなるやら…この世界の行方は」

 

 

 

 

鳴上達は大きな扉を開けると、渇いた拍手で足立に迎え入れられた。

「すごいすごい、よくここまで来られたね」

 

そんな足立に直斗が言う。

「…お前の罪状を確認する。お前は、危険と感じていながら、山野真由美をこの世界に放り込んだ。

そして、彼女が死んだ事を知りつつ、今度は小西早紀を同じ目に遭わせた。」

「ハァ…」

足立は興味なさそうにため息を吐いた。

 

 

「更に生田目を騙し、殺人行為を引き継がせ、自身はゲーム感覚で傍観。

そして失踪者が死ななくなると、今度は脅迫状を送り、再び死人が出るように仕向けた。

模倣殺人まで起きたのに、あろう事か刑事の身で、捜査中の容疑者を放り込んだ。

半年で二人が死に、幼い子が重体…いや、それだけじゃない…

何かが一つ掛け違っていたら、何倍もの人数が死んでいた。

全て…愉快犯にも等しい、くだらない動機のために!」

 

「だからさ…それが何なワケ?僕はただ"入れただけ"だって…悪いのはこの世界でしょ? 実際この世界に殺されたんだから。

ここは人々の意思が反映される世界…あ…てことは、犯人はお前らも入れて、外の連中、みんなかな?」

そういうと、足立は嘲笑した。

 

「ふざけんなッ!お前は、人が死ぬのを知ってて、手を下した!それが罪じゃなくてなんだってんだ!」

花村は思わず叫ぶ。

 

「はは…正義感強いねぇ。」

「正義感強いねって…あんた警官でしょ!?世の中の色んな道の中から、わざわざ警察選んだ大人でしょ!?」

千枝は警察官に憧れているからこそ言う。

 

 

「そんな、警察に就職したからって 誰も彼も正義の味方な訳ないだろ?

僕の志望動機はズバリ"合法で本物の銃を持てるから"…結構多いよ、そういうやつ。」

足立はグルグルと銃を回しながら言った。

落ち着きなく、ゆっくりと歩く。

革靴の音が妙にウザったくもあった。

 

「…まぁ面白そうだと思って警察入ったけど、正直、大失敗。周りバカばっかでさー…

ちょ~とした仕事の失敗にケチつけて、こんなド田舎まで飛ばしやがって…

色々がメンド臭くなって、どうしよかなと思ってた時…この"力"を見つけちゃってさ。」

「なんでテメェなんかが…」

 

「なんで?意味なんてないんじゃない?

田舎でクソつまんねー仕事してる僕への、ご褒美みたいなもんなんじゃないの?

やれたから、やっただけだし。で、面白いから、見てただけだし。」

 

「そんな勝手な理屈で…現実がどうなってもいいっていうの?」

天城が足立に言う。

 

「現実なんて、基本は退屈で辛いだけだろ?

みんなこんな世界、認めてない…ただ否定する方法が無いから、耐えて生きてるだけだよ。

うまくやれるやつは初めっから決まってるのさ。"才能"ってチケットを持ってる。

そうじゃないって奴には、自分が違うって事実を見ずに人生を終われるか…そんな選択しか無い。

気付いちゃったら絶望だけ。ゲームオーバーだ。だったらこんな現実、無いほうが良くない?」

足立は鳴上達を見ながら言った。

 

「そんな事ない!」

「…ガキは無知だからウザいよ」

足立は呆れた顔で言った。

 

「…あのさ…今はあれこれ夢見てんだろうけど

"夢"っていうのは"知らない"って事だ。

お前らだって、いずれ分かるさ…どこまで行っても、つまんねー現実がさ。」

「つまんねーのは、テメェだけだろうが!消えてえなら、テメェが一人消えやがれ!

勝手にヒトをつき合せてんじゃね!」

完二が反論する。

 

「…いきがるだけのガキはヤダねぇ。不安で大声出したい気持ちはわかるよ。

けど、こっちは実際そうだったっていう、経験談でモノを言ってるんだよ?

少しは想像してごらん、人間が皆一様に、シャドウになる…目を塞がれて生き続ける。

それって、今の現実と何が違う?いやむしろ、ずっと楽になるはずだ…」

「楽だと…!?何言ってやがる…」

花村は足立を睨み付けた。

 

「あのさ、自分にとってなにが本当で、何が善か…それ、自分で考えてるやつが、どれだけいる?

ほっとんどいないよ?だってさ、考えたってしょうがないんだから

現実に目を向けたって、嫌なことばっかで、変えようがないんだからさ。」

 

 

「変えようが無いこと考えるなんて、こんなメンドくさい話ってないだろ?

だったらそんなもん見ないで、信じたいことだけを、信じて生きたほうがいい。

絶対、そのほうが、楽だろ?楽に生きられりゃ、そりゃいいぜぇ。どんなやつだって、せいぜい80年したら終わるんだし?

だったら、シャドウになればもっと楽だ。何も抑圧しなくていいし、

"見ないフリ"どころか…見なくていい。正直、もう要らないんだよ。

世界が飲み込まれて、人間がシャドウに変わる…今怖がってるだけの連中ほど、

本当はそう望んでいる…なら導いてやるのが、僕の役目だ。」

足立が不気味に笑いながら言った。

 

「…誰もそんなの、望んでない!あんたが、一人で望んでるだけでしょっ!!」

 

「んもー、じゃ、思い出してみてよ…自分から出たシャドウのことをさ。

今の自分なんかより、何倍も生き生きしてたはずだよ!」

そういった足立の様子がおかしい…

 

「気をつけるクマ!なんか様子が変クマよ!」

 

足立の雰囲気がシャドウと同じ雰囲気を纏っている。

「お前ら、シャドウをただの化け物としか見てなかっただろ?

こいつらが、本音のままに動いてんのさ!お前らが楯突くから、暴れんだよ!

これからの世界、お前らみたいなメンドくせーガキこそ、要らねーんだよ!!」

 

「ガキはあなたよ!!生きるのも面倒、死ぬのもイヤ

…そんなの理解されないに決まってるでしょ!!ダダこねてるだけじゃない!!」

天城は戦闘態勢で足立に言った。

 

「人は一人じゃ生きられない。

だから社会と折り合う事を投げたら、生き辛いに決まってるんだ。なのにお前は、立ち向かわず、去る度胸も無く、人である事自体から逃げてごまかそうとしてる。

世の中を面倒と言ったクセに、大勢の他人を巻き込んでな!お前の理屈は全部、コドモ以下の、単なる我がままだ!」

 

「う…うるせぇ!強がってんじゃねぇよ…俺を否定しないと、お前らが立ってられないんだろ!

何も苦労してない、ケツの青い高校生に、お、俺の何がわかんだよぉぉ!!」

足立が頭をブルブルと振るわせる。

認めたくないのだ。

 

「こっちだってな!大切な人殺されて、テメェなんかより、ずっと苦労してんだよ!!。

はっきり言っとくぜ…お前は選ばれたんでも何でもない…タダのくだらねー犯罪者だ!」

 

花村がそういうと、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

「始まったみたいね」

足立と鳴上達の戦闘をシンは遠くから見ていた。

「…」

「行かないの?」

「本当に傍観者だとしたら、このテレビの世界で何をしたいんだ?」

シンは高い瓦礫を軽々と登っていく。

 

そして、一番高い瓦礫の上から、この赤い空とボルテクス界に似たようなこの場所を見渡した。

 

「…お前のように人間すべてが生きていられる訳ではない。」

ニャルラトホテプが隣に立っていた。

「恐らく、傍観者は見極めようとしているのかもしれん。」

「見極める?」

「フィレモンや私が周防に課した罪と罰のように、お前がカグツチにコトワリを求められたように、傍観者は見極めたいのかもしれん。この世界の人間を。」

「…なるほど。つまり、お前と似たような存在だと言えるのだな…」

シンは腕を組んで続けていう。

 

 

「いわば、集合的無意識から発生した偽神か…

なるほど…だから、上手く人間に化けられるのか。」

「…そうか。」

「無意識下に存在する人間そのものを真似ているとするのであれば、いくら悪魔の力を探そうとも見つかるはずはない。」

シンは納得したように頷いた。

「ともなれば、どうする?混沌王。」

「鳴上、足立、生田目に接触したということは人間の形をしている。

自分の有する力を譲渡するというのは、恐らく相手の体に触れてることが条件になるだろうな。

つまり、相手は三人と一度会っている。」

シンはそういうと、足立達を指さした。

 

 

 

「それにしても、鳴上と足立。非常に対照的だ。

かたや、学生時代に勉強だけしてきた足立。

かたや、命を預けられる仲間がいる鳴上。

人生に挫折してどうでもよくなった足立。

運命と戦い続ける鳴上。

そして、」

 

シンは足立と鳴上のペルソナが鍔迫り合いをしている所を見る。

 

「マガツイザナギとイザナギ。」

 

シンはそういうと、膝を大きく曲げ大きく跳躍した。

 

 

 

 

 

足立は軽々と鳴上達にやられた。

 

 

 

「く、くそっ…なんだよ、つまんねえ…」

足立は膝を地面に付いて辛そうな顔で言った。

 

「く…まぁいい…どうせ、僕は殺されるし、あっちの世界は無くなる…戻るとこなんかないし…みんなシャドウに…」

そういうと不気味に笑い始めた。

 

「よ、ようすがおかしいクマ!」

「な…なによ、これ…!」

「人間は…(ことごと)くシャドウになる。

そして…平らかに一つとなった世界に、秩序の主として、私が降りるのだ。」

足立は真っ黒な霧の様なものを纏って宙を浮いている。

 

「秩序…?降りる…?

なんだコイツ…急にどうしたんだ…?」

困惑した表情で花村が言った。

 

「こいつ…どうなってやがる!?」

完二も驚いた様子だ。

 

「ううん、違う…!こいつ…意識はもう足立じゃない!」

 

足立だったものは鳴上達に言う。

「こちら側も、向こう側も…共に程なく二度とは晴れぬ霧に閉ざされる。

人に望まれた、穏やかなりし世界だ…」

 

その言葉に皆が驚いた。

 

直斗は冷静に尋ねる。

「お前は誰だ!?」

 

 

 

「私は…アメノサギリ。

霧を統べしもの。人の意に呼び起こされしもの。

お前たちが何者をくじこうとも、世界の浸食は止まらない。

もはや全ては時の問題…

お前たちは、大衆の意志を煽り、熱狂させる…良い役者であった。」

 

鳴上達をゆっくりと見ると、アメノサギリは言った。

 

「…が、それも終わりだ。

すぐにもシャドウとなり、現実を忘れ、霧の闇の中で蠢く存在になるであろう…」

 

「何モンだ、テメ―!?…なんでこんな事すんだよ!?」

 

「私は人を望みの前途へと導く者。

人自らが、虚構と現との区別を否とした。

心の平らかを望めど、現実では叶わぬゆえだ…そう、人自らが、こうなる事を望んだのだ。

我が望みは人の望み。

それゆえ私は、こちらの世界を膨張させると決めた…」

 

「な…なら、テメェがこの胸クソ悪ィ世界をこしらえた元締めって事か!?」

 

「ここは、人の心の内に元よりある、無意識の海の一部。

肥大した欲と虚構とによって生まれた虚ろの森。

人は見たいように見る生き物…真実を望まず、霧に紛れさせておきたがる…

にも関わらず人は"見えぬ"ということを恐れる。

それが束の間、真実を欲する光となって霧を張らし、シャドウを苦しめ、暴れさせる…」

 

「…だから、すぐにそばに人間が居たりすれば、襲われて、殺されてしまう…

虚ろの森…」

天城は俯きながら言った。

 

「…じゃあここは、人の心に影響されるも何も…そもそも"心の中の世界"って事?」

 

「人は真実を求める事をあきらめ、闇雲に混乱に沈んでいる。

我が力は強まり、霧は晴れぬ。

世界は虚ろの森に呑みこまれるのだ。」

 

そこへ、重い着地音が響いた。

 

 

 

「…例え、目を塞ごうとも、耳を塞ごうとも、絶望はすぐそこで踊り狂っている。」

「シンか!」

皆がそこを見ると、いつもと変わらない表情で立っていた。

 

「それに、全ての人間がシャドウになったとき、お前は消えるのではないか?

ここは無意識の海、そして、お前は人の意に呼び出されたモノ。

人間などという曖昧な真の無い連中に呼び起こされたモノなど、高が知れている」

シンは呆れた様子で言った。

 

「…貴様は何者だ?」

 

 

 

「混沌王、人修羅、間薙シン…名前がありすぎて困っているところだ。」

 

 

 

 

「…人修羅…何故貴様が居る。ミロク経典に記されている貴様が何故。」

 

 

 

「我が意思の逝くまま…暇を潰しているだけである」

 

 

 

 

 




>なんという虚しさ(ry

冒頭の長いシンの話の部分は『コヘレトの言葉』というものの冒頭です。
不可知論者の僕としては結構、面白い話でした。
それに、厭世的でもあるんですが、如何せん、宗教的な要素もありますので、一部、『ン?』となる部分がありましたが、面白かったです。

まぁ、だからといって神を信じるかは別の話です。
そんな虚無と戦うようなことを人間の務めにしないでもらいたい!(#゚Д゚)
あまりもに辛すぎる…

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