Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第60話 What It Means To Be Human 12月9日(金) 天気:曇り

時として

この世界が酷く奇妙に見えることがあると思う。

その時は決まって、何かがおかしい時だ。

君の知らないところで何かが変わっているのかもしれない。

あるいは何かがすり替わっているのかも知れない。

 

OK…

 

まずは、自分の感覚を疑おう。

一旦、自分を叩くなり刺激が必要だ。

深呼吸も勿論…OKだ。

それがいつもと変わらないなら次は自分以外の要因を考えよう。

 

違う人間が作った?…おそらくそれは違う。

何故なら、彼女らが確かに眉間にしわを寄せながら本と睨み合いをしていたし、文句を言いながらも白鐘直斗の言葉に従っていた。

さながら、日光のサル使いようまたは、タイの象使いのように。

当たり前のようだが、それが酷くムズがゆくなるような光景だったのを覚えているだろう?

 

では、次はなんだろうか。

 

この世界を疑うか?これは夢で、君は走馬灯を見てるんじゃないかなって。

そう。この料理があまりにもひどくて、喉につまらせキミは死んでしまった?

…実に不毛だ。精神が病む前にその考えは地平線の彼方にぶっ飛ばしてしまったほうがいい。

それを考えて死んだ人間が少なからずいる事だろう。

 

 

何を疑うか…

 

 

 

疑うものが無くなったら。

デカルトのように徹底的に疑ったら、こうしてみよう。

 

発想の転換だ。

 

このおでんは美味しい。

 

 

そう。

 

 

それが。

 

 

 

…正解だ。

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら!なんか、こう…変なもん食ったのか!!!」

 

長い葛藤から覚めた花村はあまりにも普通なおでんに花村は思わず言ってしまった。

 

いや、確かに直斗という味覚に問題のないと思われる人物が加入したことは大きいだろう。

それでも…それでも、この平凡さはなんだと花村の頭が理解が追い付かず悲鳴を上げている。

 

不味くも無ければ、辛くもない。味はしっかりと関東風の味付けで、寧ろ染みていて美味しいくらいだ。

 

「普通に不味くない?」

「ちゃんと味する?」

「辛くない?」

 

「…美味しい」

流石の鳴上も驚きながら言った。

その言葉で女性陣は喜びの声を上げた。

 

「まあ、流石におでんの元と本通りに作ればそうなります」

直斗は少し困惑しながら言った。

 

「ふ、普通に美味しい事に俺の頭が追いつかねぇ…」

「早く食べねぇと、このクマが食べちゃうクマ!」

「あ!てめぇ!俺のダイコン!!」

クマは完二の皿から大根を取った。

 

そんなこともありつつガヤガヤと皆で食べることになった。

 

 

「それにしても、いやあ、間薙さんは懐が広いですなぁ…どっかのバイトと違って」

千枝は花村を見ていった。

「うるせぇ!なんで、また、ツケで買おうとしてんだよ!シンが気付かなきゃ、大変な事になってたんだぞ!!」

 

それは少し時間が遡る。

 

「え。こんなするの?」

「よ、予想外ですね…」

それも、そうだ。

おおよそ9人分の食材ともなると結構、するものだ。

それに、それに合わせた鍋まで買ってしまった為、お金が足りないようだ。

 

するとシンが来てPONと軽く払ったのだ。

そういえば、前回のオムライスの時も何だかんだ、シンが払っていた。

 

「…そういや、お前の収入源ってなんだ?」

花村がそういうと、シンは箸をおいて、何も無い空間から真っ赤な綺麗な宝石を取り出した。

 

「うっそ!!!それルビー!?」

りせは驚いた様子で言った。

「ルビーって…こんなにデカかったっけ…」

「…さぁ?ただ、これを売ればそれなりの値段にはなる。」

 

「…どうやって、取っているんですか?」

直斗は怪訝そうにシンに言った。

 

「…昔は稀に倒した悪魔が落としたり、交渉で手に入れてたが。今では余りに余ってるな」

「ひぇー…って事は、私達も一攫千金?」

千枝の言葉にあ、と皆が思った。

 

「で、ですが、それはあくまでも間薙さんだから、出来る事なのかもしれません。」

「どう言う意味だ?」

直斗の言葉に花村が尋ねた。

 

「例えば、僕たちのような高校生があれほどの宝石を売るとなると、それ相応の問題が発生します。」

「あれ?シン君はどうやって、売ってるの?」

天城がシンに尋ねる。

 

「…ルイに売らさせる。」

そう言って、シンは置いてあった500のペットボトルから直飲みで飲んだ。

 

「あーあの、金髪スーツの人っスね?」

「それなら、何となく納得かも。」

完二とりせは思い出すように呟いた。

 

ルイは確かに気品のある格好と雰囲気を持っている。

それ故に質屋で売りに出しても何の問題もない。

所謂、お金持ちだと言われてもそんなに問題のない容姿だし、何よりルイは悪魔。相手を破産させることも可能だ。

あるいはもっと…

 

そんな事を考えて、鳴上は考えるのを止めた。

考えたくもない。

 

 

「しっかし、俺たちって随分とまぁ、特徴的な連中が集まったな。」

花村はそういうと、皆を見た。

「天城は旅館の次期女将、完二は族上がり」

「族上がりじゃねぇよ!!」

「似たようなもんだろ…それに?シャドウに元アイドルと少年探偵…そして、悪魔の王…どんだけ、個性的なメンツだよ…」

「あれ?私は?」

千枝は自分を指さした。

 

「お前ってか、俺達は残念だけど、ふつーの学生だよ。間違いなくな」

「う…そう言われると、確かに…」

「それが、一番だ。」

鳴上は言った。

 

 

「?お前は平凡ではないだろ。何せ、六…」

珍しくシンが言葉を詰まらせた。

 

「は?」

「え?」

「え?」

皆がどうしたのかと思った。

 

「…間違えた。お前はワイルドだからな。ペルソナを付け替えることが出来る。」

シンは素で言ってしまったようだ。

「六?」

「六…?」

女性陣は首をかしげた。

 

鳴上は冷や汗が吹き出してきた。

花村が理解したのか慌てて言った。

「バッカ!!お前、それ…その、兎に角お前は空気読み人知らずか!!」

 

 

「…少し頭の回転が鈍っている。冷静に…冷静に…」

そういうと、立ち上がろうとするもふらりと立ち眩む。

「おいおい…大丈夫か?酔っ払ってんのか?」

花村は笑いながらシンを支える。

 

 

「…これ…お酒ですよ」

直斗はシンが飲んだ、ペットボトルの匂いを嗅いでいった。

 

 

「えー!?何で、ペットボトルに入ってんの!?」

「あ、そう言えば、堂島さんが酔って帰ってきた時に、入れていたような気がする」

 

「ちょ、どうすんだ!?」

「大丈夫だ…俺は年齢的には…もう、高校生じゃないし、何千歳だ。

というか?ここは何世紀だ?」

シンはフラフラと揺れながら皆に言う。

 

「や、やべぇ…シンセンパイって酔うとヤバイやつか?」

「…ああ、駄目だ。冷静に、冷静に」

「…冷製パスタ食べたい…」

そんなギャグに天城が吹き出してしまった。

「アハハハハハハ!!」

「今、すげーシンが俺たちよりになってきたぞ」

花村は困りながらも、少し嬉しそうな顔だ。

 

シンは少し窓を開け、縁側に出た。大きく息を吐き、水を飲む。

 

「…大丈夫か?」

鳴上はシンの肩を叩きながら言った。

「大丈夫だ!!…俺は至って…正常だ。正常。普通だ普通。」

外は寒く、身が震えるほどだ。

 

「…雪か」

シンはそういうと、手を出すと掌に雪が乗って溶けた。

シンはじっとその溶けた雪の雫が残る掌を見ていた。

 

「ホントに大丈夫か?」

そんなシンに鳴上が声を掛けた。

 

「…俺はこの世界が嫌いだなと思っただけだ。このハイカラ野郎。」

「は、ハイカラ野郎…ブフッ」

天城はもう笑いすぎて転げ回る。

 

「どうしてそこまで?」

「もちろん…足立にいったように美しい場所は多く存在するし、いいところもある。」

シンはそういうと、立ち上がり、声を大きくしていった。

 

 

「この町に限らず見てみろ…静かで…平和で、穏やか…非常に腹が立たないか?」

 

 

皆、その言葉にうーんと唸る。

 

平和であればそれに越したことはない。

平和だから、こうして皆で集まってこんなことをしていられるのだ。

花村は確かに退屈だと感じたが、それは都会と比べたときの話である。

過激であればいいわけではない。

 

 

「…ムカつくってことはないな」

花村はシンの言葉に答えた。

 

「…だから、お前は花村なんだ」

「は?いや、関係ねぇじゃん!!なんだよ!!」

「花村ってジャンルなんでしょ?」

そういうと、千枝も笑った。

 

「…退屈なんだ!!

兎に角、その一言に尽きる。

俺が楽しいと思っていることをどうして、俺一人で何故証明できない。

何故、他人が居なければ俺の価値を証明できない。

何故、何故、何故…」

シンはそういうと、自分の位置に戻り、窓を閉めた。

 

「そんな疑問が頭の中で…ずっと回り続けている。

だから、俺は退屈が嫌いだ。

退屈なときばかり…そんな事ばかり…考えてしまう…ロクでもないことばかりな。」

シンは俯くと、ボヤく。

 

「結局…俺は足立より最低なのさ…なんて自己中なんだ…」

シンは窓ガラスに背を預けた。

目が据わり完全に酔っている。

 

「…俺には何かをする勇気もない。自殺も、家出も、何かを変えることが何一つできなかった。

…怖かったんだ…退屈が嫌いなくせに、自分では何もしなかった…

でも、それと同時に、そんな退屈の中で埋もれて行く自分が消えていく感覚も怖かった。

平凡で終わってしまうのだと思うと、それは死ぬことより怖かった…」

 

「それでも、俺は何もしなかった…消えてしまいたかった…」

シンはそういうと、自嘲的に笑った。

「俺も…心の中で願っていたのかもしれないな…」

 

 

「…世界なんて…消えてしまえばいい」

 

 

「…だから…俺はお前が嫌いだクソ野郎…

何が"神"だ…何が、全知全能だ!!クソ喰らえってんだ。

俺は…お前のいら…ない…世界を創る。

それが、友人殺してまで叶えたい願いだ。」

 

「わかったかッ!!」

 

シンはそれだけ言うと、そのまま眠ってしまった。

クマもその隣でいつの間にか眠っていた。

 

 

「…やっぱりこいつも相当の変人だな」

「これだけ、退屈が嫌いな人って相当だよね…」

花村の言葉にりせが答える。

 

「僕のあくまでも推測ですが。子供の頃の彼にとっての世界はきっと、本やテレビ、映画の中にしか無かったのではないでしょうか。」

直斗は冷静に言う。

 

「…彼は幽霊などを見てしまうような子供だったと言っていましたから、やはり友人は少なかったように思われます。その中で、本や映画の中に出てくる登場人物達が羨ましかった。」

「あー成程、映画の中は退屈してるって事はなさそうだな。」

「?」

花村の言葉に千枝は首をかしげた。

 

「千枝で言えば、カンフーで悪の組織を倒してるってことだよ。」

「おお!!なんか、一気に身近になった!!」

天城のフォローにより、千枝は理解したようだ。

 

「彼にとってはその中にしか、この世界が無かったのだと思います。僕もそうでしたから。

それに、彼の親御さんはあまり、彼に構っていなかったみたいですし。」

「あーそうか。お前は親ってのもあるけど、そういうので、探偵に憧れたクチか。」

「ええ。まぁ。僕は祖父がいましたから、そういったことはありませんでしたが」

直斗はあのシンの過去を思い出す。

 

暗い部屋で彼は本を読み、テレビを見ていた。

一人でずっと、耐え忍んでいた。孤独という、恐怖と絶望に。

 

「幼心にあの空間は辛かったと思います…」

「独りっていうのは、自分一人じゃ解決できないからね…」

天城も思うところがあったのか、少し苦い顔で言った。

 

 

「…何スか…この人、マジで普通の人間じゃねぇか」

「違いないね。こんだけ、子供っぽいんだし…誰かと似てね」

完二は鼻で笑い、りせは笑った。

そして、全員で真剣な顔の直斗を見た。

 

直斗はそれに気が付くと恥ずかしそうに言った。

「……そ、それって僕のことですか!?」

「今更かよ」

それで、皆は大声で笑った。

鳴上達はその後、静かに食事と片付けをした。

 

 

 

 

 

 

シンはゆっくりと、目を開けると自分のももにクマの頭があった。

「起きたか?」

「…俺は何をしていた。」

 

鳴上はいきさつを話すと、シンは少し恥ずかしそうに聞いていた。

 

「酒は飲んだことないからな。」

「何歳なんだ?結局。」

「少なくとも、二十歳は超えているさ。おそらく、三千?四千?」

そう答えると、クマの体を軽々と持ち上げた。

クマはまだ、夢の中のようだ。

 

「ん…あ、起きたかシン?」

花村も眠っていたらしく、目を擦っていた。

他の人は帰ったらしく、花村は起きないクマを置いていくわけにはいかず、こうして、待っていたようだ。

 

「もう、10時は一時間以上超えているな」

「あーやべえな、早く帰んねぇと補導されんな。

次されたら、マジで洒落になんねぇ…」

「泊まっていくか?」

鳴上が花村とシンに言う。

「まぁ?迷惑じゃなきゃ、親父に連絡入れれば、問題ないかもな。」

「俺は問題無い。」

「そうするといい。」

鳴上はそういうと、準備を始めた。

 

「じゃあ、俺はとりあえず電話入れてくる」

花村は玄関近くの廊下で電話をかける事にした。

 

 

「…記憶が曖昧だ…それに、頭痛もする。」

「大丈夫か?」

「おそらくな、すぐ治る。」

そう言って!マガタマを飲み込み人修羅化した。

 

シンの顔がスッキリとする。

 

「便利だな」

「永遠の命など、ロクなものではないことだけは言っておく」

 




シリアスながらも、ギャグを入れてみた
それと、これはちょっとしたことで投稿をスマホでしてますので、誤字などがあったかもしれませんが、その際はよろしくお願い致します。

あと、未成年の飲酒はダメですよ。
20歳になった時の感動が薄まると思うし。

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