Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第61話 Vanilla Snow 12月14日(水) 天気:雪

田舎の冬というのはあまりにも寒い。

此処、八十稲羽も冬になると、芯から凍ってしまうようなほど寒いものだから、ポケットに手を入れたくもなる。

最悪、夜にでもなれば気温はマイナスになる程だ。

それを考えれば、まだ今日のこの時間はそれ程でもないと言える。

しかし、頭で分かったところで寒さが和らぐ訳ではない。

寧ろ、寒さを意識してしまい、寒くなってしまう。

 

「…寒いな」

シンは普通の人の状態なので、寒さも普通に感じ取れる。

冬の登校というのは、誰にとっても辛いものだ。

体温が上がりにくく、頭が冴えないことが多い。

 

 

シンは朝の練習をする部活動の寒いが故にいつもよりも、小さい声を聞きながら、自分の教室へと入った。

 

誰もいない。

当たり前だ。

こんな早く学校に来る人間は普通に部活をしている人間だろう。

そんな人間は教室にはいない。

 

シンは一番に教室に入り、スマートフォンでニュースを見る。

くだらない芸能などは一切見ないし、誰が離婚しただ、結婚しただなど、どうでもいい。

経済にも興味もないし、政治も自分には関係が無いので見ない。

シンはこの世界のものではないから。

単純な理由だ。

 

見るのは殺人、事故などの刑事事件。

中でもこの八十稲羽周辺である。

何かしらの変化がないか、それは非常に重要な情報なのだ。

 

故に鳴上達がアメノサギリを倒して以降、多くの悪魔をこの周辺に召喚し情報を集めている。

無論、脳筋軍団はお留守番と相成っている。

 

 

「…おはよう。シン」

「鳴上か…早いな」

「…時間を見間違えた…」

鳴上はぼーっとした表情で、シンの言葉に答えた。

いつもの鋭い眼光はなく、ショボショボしたような目である。

 

「…眠そうだな」

「…寒いから、目が覚めてそのまま、登校してしまった…菜々子の朝ご飯を食べないまま…」

鳴上は悔しそうに語る。

 

「というか、居ないだろうに。」

「…だから、最近、気だるいのだろうか…」

鳴上はそう言うと椅子に座った。

 

「鳴上は朝の部活動をしないのか?」

「しない。菜々子との朝食の最優先事項だ。」

鳴上は当たり前だろといった表情だ

シンは呆れた様子で言った。

 

「そこまでいったら病気だな。妹もいいが、しっかりと妹も含めた六股をどうにかしろ」

「…何処で知ったんだ?」

鳴上は焦っている様子だ。

 

「何処でと言われてもな…お前の行動を見ていれば何となく分かった。決め手はやはり、辰巳ポートアイランドでの事だ。」

「?」

鳴上は覚えがないのか首を傾げた。

 

「お前は同じアクセサリーを5つ買っていた。それは女性もの。プレゼントだ。

そんなことをするのは何故か考えた時、分かった。

…別々のモノを買うと誰にどれを買ったか分からなくなる。それに、ウチのメンバーはアクセサリーを一人を除いてつけない。りせ。

それに、全員が全員、辰巳ポートアイランドに行っていることを考えると、りせが同じものを付けていても違和感はないし、天城は気が付くかもしれないが千枝はそこまで細かい事は気が付かない…

ネックレスなら見えにくい…実に素晴らしい…」

 

「鋭いな…」

鳴上は髪の毛を掻いた。

 

「気をつけることだな。嫉妬は恐ろしい」

 

勇がそうだった。と言いかけたがシンは口を噤んだ。

 

勇は先生を好いていた。理由はわからない。

しかし、先生とおれが一緒にいると嫌な顔をしていたのは事実だ。

あいつは口になんでも出すタイプであった。

昔は引っ込み思案だったが、高校生になった辺りで大分社交的になったと言える。

そんな懐かしい思い出をシンは思い出していた。

 

「どうしたんだ?ぼーっとして」

「いや…俺も眠いの…かもな…」

シンはそういうと、わざとらしくあくびで話を濁した。

 

 

 

過去というのは辛いものほど記憶に残りやすいものだ。

そして、シンの場合はそれが時々鋭く尖ったナイフの様に体の中を抉り、深く突き刺さる。

誰にだってそういうものなのかもしれない。

 

消してしまいたくなる。

 

だが、今のシンや或は、君がそのおかげで居るのだとしたら…

そのことに感謝すべきか?それとも、怨嗟(えんさ)すべきか?

 

そんな時、君は何と答えるべきか。

 

どうでもいい。

それでいい。

 

こんな問いは無意味で無価値。

しかし、そう分かっていながらも頭が勝手に働き出す。

出ることの無い問を永遠に回し続ける。

それを苦痛だと感じたことはない。しかし、気分が悪くなるのは事実だ。

 

「…じゃあ、間薙くん。この式を」

「はい」

数学の中山に指名され、シンは黒板に式を解きに行く。

シンは積分を解きながら思うのだ。

 

 

 

一層のこと、こんな数式のように綺麗に美しくしっかりとした答えが出てくれれば良いのに

 

 

 

 

 

 

 

放課後…

 

「おいおい…こりゃ、長靴とかで来るべきだったか?」

花村は昇降口から見える景色を見て思わず口に出す。

真っ白に染まった校門近く。

その先に見える景色も一面、真っ白で尚且つ雪が未だに降っていた。

 

「うわっ…今日はこんなに積もるのって珍しいよね」

「そうだね…こんなに積もるのは久しぶりかも 」

千枝の言葉に天城が答える。

 

「そういや、何だかんだ降るのは見たけど、積もんのはあんま見ねーな」

 

「あ、センパイ達。ちーっす」

「やっほー、センパイ!」

そういって、りせは鳴上の元へ一直線。

「こんにちは」

直斗は鳴上たちに挨拶すると、昇降口のところでしゃがんでいるシンを見つけた。

 

近づくとシンは雪をじっと観察していた。

 

「先輩は雪がこれほど積もるのを見るのは初めてですか?」

「…」

シンは無言で一掴み真っ白な雪を手にとった。

そして、立ち上がりシンは皆の元へ行く。

直斗は首を傾げた。何をするのだろう。

 

「花村」

シンが花村に声をかける。

「ん?なんぶほっ!!」

 

その雪の塊を花村の顔に押し付けた。

 

「て、てめえ!!何すんだ!」

「…厄祓いだ」

「こんなんで、厄祓えねーよ!!!」

 

花村はそういうと、外に出て花村も雪玉を作ってシンに投げるも、シンは軽々と避ける。

「うぼっ!!」

 

その後ろにいた完二に当たる。

 

「げ、やべっ」

花村は慌てて校門から外へ出ていく。

「ははん…センパイ…随分とやる気じゃねーっスか」

完二はそういうと、花村を追いかける。

シンはその間に雪玉を作って花村に投げた。

 

 

「ホントに子供っぽい」

「けど、なんか、楽しそうじゃん。シン君」

りせと千枝は笑いながら言った。

 

 

 

 

鳴上宅に男性陣が集まっていた。

ストーブの前に二人で温まる、花村と完二。

クマはみかんを食べながらテレビを見ていた。

 

 

「マジでやりやがって…」

「いいじゃねぇスか、楽しかったんだし」

そういいながら、二人は手を擦る。

 

肝心の主犯は鳴上宅にある、新聞を読んでいた。

鳴上は暖かいお茶を入れている。

そんなシンを花村は見る。

 

「ったくよ、お前は寒くないのかよ」

「…人修羅化しているからな。」

「ずりぃなぁ…」

 

気が付くとそうだった。

顔に刺青があることが、ひどく日常化しているため自分達がメガネを付けている、いないのレベルである。

時々、花村や千枝、天城に限らず、しっかりしていそうな直斗でさえ学校にメガネをしてくる時がある。

仲間では違和感ないのだが、他人ともなると、些か不審がる人もいる。

 

 

「そういや、スキーどこ行くか」

「あーなんか、そんな話、してたっスね」

「バカ。一大行事だぞ。忘れんな」

すると、クマは目を光らせ、思いっきり立ち上がった。

 

「クマ知ってるクマ!!"ゲルニカ"クマ!!」

「は?ゲルニカ?」

「…ゲレンデだろう。ゲルニカではピカソになってしまう」

「初めの"ゲ"しかあってねぇじゃん」

 

花村はテンションをあげるクマとは逆に少しテンションが下がっていた。

 

「つっても、原付で行けるような場所じゃねぇしなぁ…」

「…センパイ。なんとか、ならねぇスか?」

完二はシンを見ていった。

 

「…なるな。問題なく」

「おお!マジでか!!」

「宿泊代は気にするな。場所も俺がとっておくし払う。そのかわり、レンタル代やバス代、電車代は何とかしろ。」

「おお!流石、"オオクラダイジン"。」

「…なんで、そんな言葉だけ知ってんだよ」

花村はクマの頭を軽く叩いた。

 

その時、鳴上は見た。シンがニヤリとほくそ笑むのを。

鳴上は少し不安になったのであった。

 

 

 

「じゃあな、悠。それと、クマ!お前はメイワクかけるんじゃねぇぞ!!」

「おじゃましやした!」

「じゃあ…な」

 

クマは堂島や菜々子のいない鳴上を案じて(有り難迷惑)泊まることになった。

鳴上も鳴上で何だかんだ、それを容認した。

 

 

3人は雪の止んだ、暗い住宅街を歩き始めた。

「まぁ、確かにあんな広い家で一人っつーのは何と言うか、寂しいよな」

「ちげねぇ…」

完二は同意するように腕を組んだ。

 

「…シンはどうなんだよ。一人暮らしは」

「一人ではないな。一人と数体の悪魔がいる」

「あーそういや、そうか。」

花村は納得したように頷いた。

 

「…実のところ、その俺、お前に感謝してんだ。」

花村はシンに言った。

 

「?」

シンは首を傾げる。

 

「生田目のこととかも含めてさ、お前がイイ結果に導いてくれたっていうか。いや、確かに悠の決断もあったけど…たぶんだけど、お前が居なきゃ、悠、生田目をテレビに入れてたんじゃねぇかなって思うんだわ。」

「…そうかもしれねぇな。」

「菜々子ちゃんの事もあったし、俺達も生田目が犯人だって思い込んでたわけだし…

そう考えると、お前に何だかんだ助けられてばっかだな」

花村は大きく息を吐いた。

 

 

「…寧ろ俺の方が救われている」

「え?」

シンの意外な言葉に二人は驚いた。

 

「俺はあの頃の先生がいなくなって、世界には絶望していた。だから、こんな世界消えてしまえばいい。そう思ったのは事実だ。そして、選べたはずの再生の道を絶ったのも事実だ。

だが…」

 

シンはそういい詰まると、少し不気味に笑った。

しかし、どこか楽しげにも見える。

 

「俺が…雪を他人にぶつける?…そんなこと誰が予想した。

…気兼ねなく付き合えるお前達のたわいもない話や行動がな。俺にとってはいい経験だといえるのさ。

短い間でも、こんな気持ちを思い出させてくれたお前らには感謝している、感謝しきれないほどにな」

シンは少し口角を緩めて花村達に言った。

 

「あ、ああ。…なんか、お前からそう言われると、すげぇ違和感あんな。」

花村は笑って誤魔化すも、恥ずかしいのか頭を掻いた。

 

「…寒いな」

シンはそういうと、ポケットに手を入れた。

「どっちの意味だよ…ったく。」

「どっちでもいーじゃねぇっスか?」

「…へっ…ちげぇねーな…」

花村はそういうと、鼻の下を少し得意げに擦った。

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!混沌王!そして、我主がこのボルテクス界をお治めになるのだ!!」

「…無能め。お前達の信じている信仰など貴様らの足元をすくわれるだけだ」

 

シンはそういうと、天使達を『至高の魔弾』で一瞬で消し飛ばした。

坑道はそれに耐えきれず、崩れ始めた。

シンは俊敏な動きで、崩れ落ちてくる岩を避けたり砕いたりして、『ユウラクチョウ駅』まで戻ってきた。

 

そこへ、ピクシーが飛んできた。

 

「あらら、派手に崩れたわね」

「ガタが来ていたから仕方ない」

シンは服の誇りを払うと、歩き始めた。

 

「それで?用事とは何だ?」

「実はね、ほら前に話してたじゃない?繁華街的なモノを作ろうって。それで、1から街を作ろうって話が出てきたのよ。それで、何処に作ろうかなって話よ」

「…新宿にでも、作ればいいんじゃないか?」

「いいわねぇ…あそこ変な病院しかないしね…退屈な場所だったのよ。それ採用!」

 

ピクシーはそれだけいうと、どこかへ飛んで行った。

 

 

 

 

「最後…で…いいわ…あなたの手に触れさせて…」

「…」

シンは生気のない祐子に手を出した。

祐子はその手を握り締めた。

 

 

「とても…冷たいわね」

「大丈夫…大丈夫だ…先生…もう一度試すんだ。」

シンは仲間のティターニアに回復をさせているが一向に祐子は回復する気配がない。

マガツヒの放出は止まらない。

 

「……私にはできなかったけれど…間薙君、あなたなら…自分の意志で進めると思う…

…これを使って…あなたの意志で…世界を…創るのよ……」

祐子は自分のポケットに入っているヤヒロノヒモロギをシンに渡した。

 

 

「…自由に…世界を………創って」

「……先生?」

「さようなら…シン君」

そう言い終わると、祐子は紐が切れた人形のようにグッタリとなった。

 

シンは呆然と祐子を見ていた。

ティターニアは察したのか、立ち上がりその場から離れた。

 

「主…」

「察しなさい…白い脳筋さん…」

ティターニアの言葉にクーフーリンは怒りそうになるが、自制した。

 

 

 

 

どうしてこうなったんだろうと、思っていた。

けど、先生が目の前で息絶えた時、涙一つ流れなかった。

だけれど、俺は先生の意志を継ぐことはなかった。

自由な世界。形は違えど確かに自由な世界を作っている。

 

 

「また、来ます」

シンはそういうと、トウキョウ議事堂跡地にある石碑にそう語り掛けた。

 

トウキョウ議事堂は創世後、シジマの立て篭もりに使用された。

相手の数が多く、建物を破壊せずに攻略する事は難しいと判断されたために、万能系のスキルを何千発と一斉に放ち、跡形もなく瓦礫の山と化してしまった。

 

結果的に、瓦礫の山の上に祐子の石碑が建てられている。

 

「…警備を頼んだぞ?モト」

「フフフ…分かっておる」

 

モトはここが好きなようだ。理由はマガツヒが多く存在している。

それがモトの理由だろう。

 

 

 

 

 

真っ白な雪。全てを覆い、埋れさせる。

いずれ、すべてが埋まり何も見えなくなる。

初めから何もなかったように。

ただ、真っ白な平地が出来上がる。

 

彼女はそれを望んだ。

 

 

 

 

「…これでいいの…これで…」

白い衣装に身を包み、ただ自分が消えるのを待っている少女。

そんな彼女を遥か上空から見下ろす者も、選択する時を待っていた。

 

「ヨロシイノカ?混沌王ヨ…」

「…時が来れば、何れ雪も溶けよう…」

シンはセトの背中でそう答えた。

「ウム、我ハ従ウノミ」

「では、戻ろうか。混沌王」

バアルのその言葉でセトは大きく翼をはためかせ、バアルは次元に穴を開け、その中へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

私は雪だるま。淡い光で溶けてしまう雪だるま。

自分で動けないし、私の事を忘れてしまう。

溶けて溶けて、私は忘れられる

 

でも、私は覚えている。ずっとずっと覚えている。

 

この瞬間でさえ、私は忘れていない。

だから、思い出すこともない。

 

 

 

これでいいの…これで。

 

 

 

 

 

 

 

 




日常的な会話が苦手過ぎて少し遅れました。
あと、ペルソナ4本編では曇りと天気がなっていますが、雪が増えると思います。
理由は単純に作者が雪が好きだからです。はい。

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