Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第62話 BitterSweet 12月20日(金) 天気:曇り

この時期ばかりは流石のこの小さな街も少しばかり騒がしくなる。

12月に入ればどうも皆浮き足立つ。

それに、事件も無事に解決し、霧も晴れている。

そして、この雪。例年に比べてこの地方では圧倒的に今年は多いそうだ。

 

幸い、今日は降っていないが溶けることなく残るほど、雪が積もっている。

 

放課後、相変わらず寒いフードコートに皆で集まって話をしている。

幸い、前日にこのフードコートは花村とクマが必死に雪掻きをして、雪はない。

 

そして、話の内容は大したものではない。

これは、確かにそうなのだ。

というより、会話というものは基本的にそうだ。

仲間との会話で全てが社会情勢の話をする人間はいないだろう。

 

共通の話題で話しをする。

そうでなければ、所謂"言葉のキャッチボール"は発生しない。

当たり前の事だが、気付かない連中が多い。

 

そんな、認識論は置いておいて脈絡もなく鳴上が口を開いた。

「…みんな。クリスマスはウチに来ないか?」

鳴上から意外な提案だった。

クリスマスといえば、流石のこの田舎も異性同士が共に居るはずだ。

 

シンには鳴上の意図がすぐに理解できた。

そして、大胆な賭けだと思った。

 

現在、義妹を含んだ六股中の彼にとって、明らかにこのクリスマスというイベントは鬼門であったろう。

六股の内、3人はメンバーという、シンにとって、そして今こうしてこの文字を読んでいるそこの読者さんにとっても現実的に考えておかしい状況だと理解してもらいたい。

 

例えるなら、三匹のライオンに囲まれて生活しているようなものだと思われる。

いつ、噛み付かれるか分からない。

常に、ライオンの餌を与えなければならない状況だ。

そんな状態を自ら作り上げた、鳴上悠という人間には痛く感服せざるを得ない。

 

シンはそう思い、目を閉じた。

 

(…俺は良いが、こいつはいい奴だ…不幸がない事を望むよ、クソ野郎。)

 

 

「いいのか?」

花村は鳴上を一瞬見て察し慌てて訂正した。

「…いや、そうだな。悠がそういってんだから、やろうぜ!!」

「何?ちょっと、言葉つまらせちゃって…」

「あー、いやいや!何でも無いから!本当にうん!」

花村は棒読みでそう答えた。

「なんで、センパイ声が裏返ってんスか?」

「バカ!お前は黙ってろ!」

「はぁ…」

 

「あ!じゃあ、今度はケーキだね!」

「げ、マジで言ってんの?」

「ケーキか…」

 

女性陣は小言のように呟く。

そんな中シンはふと、俯いていた顔を上げた。

直斗はそれに気付き声を掛けた。

 

「…どうしたんですか?間薙先輩は」

「…いや、悪いが少し外す」

そう言って、椅子から立ち上がり階段を降りていった。

 

「?なんだ?」

「…さぁ?まぁシン君は王様だし、忙しいんじゃない?」

「それは言えてるかもね。」

千枝の言葉に天城は頷いた。

 

そこへ、チンというエレベーターの到着音と共に帽子を被って厚着の男性とスーツとコートを着た女性が現れた。

そして、車椅子に乗ったひざ掛けをした、綺麗な黒髪の女性がエレベーターから降りてきた。

下は雪掻きされている為、車椅子でも問題無く動かせる。

 

「…?」

直斗はその人達に見覚えがあった。

その人は楽しそうに会話をしていた。

 

「こんな田舎なら、きっと先生の病気も良くなりますよ。」

「ええ。此処は良いところだわ。空気も美味しいし、どこか懐かしいのよ…」

「え?でも、先生は東京育ちですよね?」

帽子の男性が尋ねると車椅子の女性は頷き答えた。

「でも、どこか空気がね…」

「でも、なんで先生。こんなところに?寒くないの?」

「何故かしら…ね…」

そう答えると、微笑んだ。

 

そう言って3人は鳴上達が座る大きな椅子から少し離れた場所に座った。

 

「どしたの?直斗」

りせがそんな彼らをボーッと眺めている直斗に声を掛けた。

 

「いえ…あの方々を見た事がある様な気がしまして」

「…あれ?直斗くんも?実は私もなんだよねぇ…」

直斗の隣に座っていた千枝がそう言った。

「ん?って事は、ふつーに文化祭とかじゃねぇの?」

「いえ。恐らく違うと思います。」

そちら側に背を向けていた、男性陣もちらりとそちらを見た。

 

「…クマも見たことあるクマ」

「んー俺もあんだよなぁ…」

 

そんな会話をしていると、スーツの女性が椅子から立ち上がった。

そして、辺りを見るとこちらに来た。

 

「ちょっといいかな?」

「は、はい!」

「私、こういうものなんだけど。」

 

そういうと、名刺を取り出した。

 

 

その名前を皆が見た瞬間驚いた。

 

 

「私、帝都日本新聞社の橘千晶って言うだけど、君たちは高校生?」

「はい。」

動揺した様子で鳴上が答えた。

流石の鳴上も驚いたようだ。

 

まさか、シンの元友人に会うなどとは思いもしなかった。

それに、記憶より遥かに年を取り大人びていて分らなかった。

 

「ああ、ごめんなさい。緊張してるのかな」

「い、いえ。そんなことナイデス」

花村は途中から言葉がおかしくなった。

 

「それで、用件というのは?」

直斗は冷静に尋ねる。

 

「いやね、ここ最近、終結した連続殺人のニュースを取材していてね。それに、ちょうどあなたが居た訳だし、何か面白い事聞けないかなって」

千晶は直斗を見て言った。

 

「と、言われましてもね、殆どは警察発表通りです。強いて言えば、現職の刑事が犯罪を犯したことは非常に問題ですが、そう言った人達ほど、精神的には脆いのかもしれません…犯罪という、怪物と常に戦いギリギリの境界を彼らは超えないから、刑事であるのかもしれません。

その境界を超えてしまった時、こうした事件になるのだと思います。」

「…なるほど。鋭い指摘だわ。」

メモを取り終わると、千晶はメモを閉じた。

 

「あ、あの」

「はい?」

天城は千晶に尋ねる。

 

「あのお二人は?」

「ああ。彼は新田勇。ファッションデザイナー。っていってもまだ、それほどだと思うけど。

それで、車椅子の女性は高尾祐子さん。わたし達の元担任。今は療養中なの。」

千晶はそういうと、男性陣を見ていった。

 

「綺麗な人でしょ?」

「は?あ、…はい」

完二は驚き照れながら答えた。

 

「なーにやってんだ。千晶」

そこへ、勇が先生を押して連れてきた。

 

「取材よ。取材。」

「相変わらず、真面目だなお前は」

勇はそういうと、鳴上達を見た。

 

「あらら、高校生か。」

「はい。そうです。」

鳴上が答える。

「お、久慈川りせちゃん?」

「はい。」

りせは少し怪訝そうに勇を見た。

 

「ライブの衣装作ったんだけど…つっても分かんないか…」

勇は帽子を外し、髪の毛を掻く。

 

「…もしかして、あの東京公演の時かな?」

「お!たぶんそうかも!…いや、嬉しいなぁ」

「あれ、可愛かったし覚えてますよ!!」

りせも嬉しいのか声を大にした。

「マジで?」

「良かったわね、勇君」

祐子はそういうと、微笑む。

 

「…1つだけ良いですか?」

「ん?なんだ?少年探偵。」

直斗は真剣な表情で言った。

 

 

「"間薙シン"という名前に覚えありますか?」

 

 

「うーん…無いなぁ。まさか有名人とか!?」

「私も知らないわね…」

2人は顔を見わ合わせた。

「…えーっと、凄い変な質問をいいですか?」

千枝は不安そうに尋ねる。

「いいわよ?」

 

「新宿衛生病院って、知ってます?」

千枝に花村が小声で突っ込む。

「…バカ」

「…アハハハ、いや、なんか、気になっちゃって…」

 

「知ってるも何も、俺たちが丁度高校生の時に、先生が病気で入院した病院だよな」

「ええ。あなたが変なオカルト雑誌をあなたが買ってきてね」

「あれは、その…何でだっけか…なんか、手にとって買おうみたいな?」

勇は軽く答えた。

 

「…確か、新宿衛生病院は怪しい噂がある!みたいな、触れ込みだったかしら…」

千晶は腕を組み、思いに耽る。

「そんで、先生の病室分なくて探し回ってたら、変な地下施設的なの見つけて滅茶苦茶怖かったわ…」

「でも、結局普通の病院だったじゃない」

「まぁ、そうなんだけどよ…」

勇は思い出してため息を吐いた。

 

「ごめんなさい…でも、元本院の方に行っちゃうなんてね…」

「そうですよ?あっちは廃墟だったとか!!ホント勘弁してくださいよ!!」

「でも、…何か…」

千晶は眉を顰める。

「ん?何が…」

「いえ、何でも無いわ…」

 

「でも、なんで?」

千晶は千枝を見て言った。

「いえ!それだけです!」

「?」

千晶は怪訝な顔で首を傾げる。

 

「まぁ…いいや。よし、そろそろ帰りますか?先生、俺寒くなっちったよ。」

「…ええ」

祐子は鳴上達を一通り見ると言った。

 

よろしくね(・・・・・)

 

そう言って、高尾は微笑み千晶に押されて帰って行った。

 

 

 

エレベーターの中…

 

「いやぁ、高校生かぁ。懐かしいな」

「先生と再会したのも、高校生だったわね。先生…?」

「ど、どうしたんすか?」

祐子は呆然と首に掛けていた、ネックレスを見た。

それは、硬く何かの破片の様だった。

「何でも無いわ…ただ…ね…そんなにロマンチックだったかしら?」

「?」

祐子はそういうと、微笑んだ。

 

 

 

シンはジュネスの入口で熱いブラックコーヒーと書かれた缶コーヒーを飲みながら、時間を潰していた。

 

「…良いのか?巫女である事には変わりないのだ。恐らく可能性は…「…資格がないさ」」

ルイの言葉を遮るようにシンは言った。

 

「相手は覚えていない。それでいい。

それにそんな曖昧な可能性に掛けて声をかけたところで?ただの変人だ。」

「…気にするな。元々、お前は変人だ」

「…ふん…」

シンは嘲笑すると、熱い熱いコーヒーを飲み干した。

平然とした顔でシンはポツリと呟く。

 

「…苦いな」

そう言って、カラになったスチール缶を片手で握り潰した。

 

 

 

 

祐子達が去っていったあと、りせが言った。

「…あの人、絶対覚えてる」

「驚いていましたからね、あの高尾祐子さんは」

直斗は見逃さなかった、祐子がシンの名前を言った瞬間、手がピクっと反応した事を。

 

「でも、それだと何であの人だけ覚えていたんだろうね。」

「…巫女というのは元来、シャーマン的な役割を果たしていた。東京受胎だけの違う世界だと言うことは、彼女は巫女であったことは確定している。

"神の嫌がらせ"だろうな。どうせ、夢の中で暗示でもしてみせたんだ。相変わらず、ムカつく奴だがな。

あるいは…いや、まさかな…」

シンはそう言って、椅子に座った。

 

「シン君はまさか、来ること分かって、どっか行ったの?」

「ああ、悪魔から連絡があった。それでな」

シンは淡々と答える。

 

 

「…怖いですか?」

直斗は伏せ目がちに尋ねる。

直斗も失礼だと分かっているが、興味。

それが、勝った。

 

「怖いな。決心が鈍る。」

シンは表情を変えずに答えた。それも、即答。

聞かれることが分かっていたかのように。

直斗はそれで少し安心したのか、顔を上げた。

 

「思い出の中でじっとしてくれてればいいのだが…

『忘れねば思い出さず候』と言ったところか。」

シンはそういうと、肩をすくめた。

 

「…随分とロマンチックな事を言うんですね。」

そう言って、直斗は素直に笑った。

「?どう言う意味?」

「…私も分かんない。」

りせや千枝は首をかしげた。

 

「…忘れることもないから、思い出すこともないって意味だよね?」

「…そうだ」

天城の言葉にシンは恥ずかしそうに答えた。

 

「…シン君、クマ惚れちゃう…」

「…クリスマスパーティはクマ鍋だな」

シンの言葉に皆が笑った。

 

 

「あーでも、鍋イイっスね。この時期は最高っス」

「まぁ…変なモン入れなきゃ、まともだろうからな…」

完二の言葉に花村が頷いた。

 

「じゃあ、25日はここで集合って事で。」

「まぁ、それが楽だな。」

 

 

こうして、鳴上は第一関門を突破した。

 

 

 

 

 

個室の病室で、祐子は無機質な天井を見ていた。

気が付けば、自分が死ぬ夢を見ていた。

きっと病気のせいだ。そう思い目を閉じようとすると、気配を感じた。

窓側を見るとカーテンに影が映っていた。

 

「あなたは…誰かしら」

高校生くらいだと影で祐子は分かった。

それもそうだ。何年も見てきた高校生の姿を見間違えるはずもない。

 

「…何の因果でしょうか。」

「…」

祐子はどこかで聞いたことのある声だと分かった。

 

「…やはり、会うべきではなかった。」

その高校生はカーテンの隙間から何か不思議な雰囲気のある尖った石を差し出してきた。

「…」

「良くなることを祈ります。そして……さようなら(・・・・・)忘れねば思い出さず候」

 

その言葉で、祐子は夢を思い出した。

そして、自分が最後に言った言葉だと。

言った相手は…忘れもしない…

 

 

 

「待って!」

 

 

 

起き上がりカーテンを慌てて捲るが、そこには、既に姿が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「間薙シン…ね」

勇がゆっくりと運転する車の中で祐子はそう呟いた。

「先生は知っているんですか?」

「…さあ?わからないわ」

「…それはどっちの意味でしょうか…この質問を誤魔化す意味ですか?それとも、間薙シンって人間についてのことでしょうか?」

千晶は怪訝な顔で祐子に尋ねた。

 

「両方よ」

祐子はそういうと、窓を見た。

 

 

 

 

 

「さようなら…」




解決させたかった事をとりあえず解決させました。
本当はもっと前に違う形で書き上げてたんですが…大幅に変更しました。
何と言うか、シンがちゃんと決別出来るようにしたいなって思った。
まぁ…とりあえずは…

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