Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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陳列された偽物の愛情『睦月』
第65話 Vagueness Memory 1月4日(水) 天気:晴れ


気が付けば真っ暗な世界でうつぶせに倒れていた。

そこはかつて、ルイを倒した後の世界に似ている。

 

何もない。

ただ、黒いという事だけが認識できるような場所だ。

 

俺は鉛のように重い首を横に向けると見慣れた顔の人間が俺を見ていた。

立ち上がろうと力を入れようとしたが、力無く、まるで死んで逝く様な感覚であった。

何度か体験している。カレーの時は一撃だったのでそうではなかったが、何度となく死にかけたのは事実だ。

 

特に今の住処である、アマラ深界は酷いものだった。

それぞれのカルパはなぜか、飛び降りる仕様。

変な丸い石が行く手を阻み、当たれば重力と言う名の加速がその衝撃を増す。

一番のものは、ベルゼブブの呪いの廊下だ。完全に殺す気だった。悪魔もそこの悪魔も強く、まさに満身創痍の様相を呈していた。

バアルとなった今でも、その性根の悪さは加速している。

 

 

「…フフッ」

 

死ぬのだ。思い出して笑ったっていいじゃないか。

 

いずれにしても、今、俺は立ち上がれず、彼らは相変らずの無表情で俺を見ていて、死ぬような感覚があるのはたしかだ。

 

勇、千晶、先生、鳴上達が俺を真っ黒な床の上に立ち、俺を見下ろしていた。

その目は何か、俺に訴えかけるようなこともなく、ただただ俺を見下ろしている。

その目に俺が映っていることがわかる。

暗い筈なのに、妙にくっきりと見える。

 

そんな目を見ていると嫌なことばかり思い出す。

 

何故だろうな。

 

…ああ、そうか。

 

子供の頃、俺はいつもこんな目を向けられていたんだ。

 

 

『こいつは自分たちとは違う。』

 

 

だから …少しでもみんなと同じになろうとしたり、何かを知った気で言い格好つけてみたり…

 

だが、考えてみれば、みんな本当の事ではなかったのかもしれない。

きっとそれで何か良いことがあるかもしれないと心の底で思っていた。

きっと、誰かが何とかしてくれる…

 

体が沈む様に重い…

 

…俺ではだめなのか?

…俺では…あの真っ暗な世界を変えられないのか?

 

地べたにへばりついた、あの真っ黒な血が

地べたにへばりついた、この真っ黒な体が…

地べたについた、この真っ黒な空が…

 

 

 

「…此処に居たんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

「間薙先輩」

「…」

直斗はそうシンの肩を揺らすも起きる気配はない。

 

「起こさなくてもいいんじゃない?まだ着かない訳だしさ」

千枝がそういうと、ハートの3を備え付けの簡易机に出した。

 

意外にも、バスは空いておりポツポツと人がいる程度である。

それもそうだ。穴場なのだから。

 

あれだけの大雪が降ったが故に滑れるような場所なのだ。

 

そんなバスの中で皆は普段通りの盛り上がりで居たが、シンは窓の縁に肘を付いて寝ていた。

隣には直斗が座っており、シンを起こして再びトランプでもと思ったがどうやら深い眠りについてしまっているようだ。

 

「こいつ、ホント最近忙しいみたいでさ、年初めのバイトしてもらおうと思っても連絡つかなかったしな」

「そうみたいだね。元旦以降忙しかったみたいだしね。」

「王様って言われてっけど、実は一番苦労してそうっスよね」

「…したが、しただからなぁ…」

 

花村の言葉に皆が想像した。

ルイという悪魔。彼に関しては不明だ。しかし、バアルやピクシー、ジャックフロストなどを思い出すと、どうも自由気ままな悪魔が多い気がする。

事実、直斗のシャドウ戦はボコボコにされたことが記憶にあたらしい。

それをまとめ上げるのだから大変だと思われる。

 

花村もシンの苦労がわかる。

休日は入れると言いながら、実際にはいらないバイトがいたり、一方でチーフなどにはしっかりとそういったことを伝えなければならないし、クマの後始末と板挟みの中、花村はバイトをしている。

 

それ故に、シンの大変さが身にしみる程わかるのだ。

 

 

「はい。僕は上がりです」

直斗は四枚まとめてカードを出した。

 

「うっそ。ここで!?」

「革命かよ!!!…うわ、俺の手札一気にゴミになったぞ」

「ってか、クマよくルール分かってんな。」

完二がクマを見る。

「クマはーこの日のために覚えたクマ!」

「へえ、何で覚えたの?」

「ヨースケの部屋にあった、合「だーっ!!お前はわざわざ言わなくていいんだつーの!!」」

 

そんなことをしながらスキー場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スキー場に着くと、花村や千枝は早々にスノボーを始めた。

初めのうち千枝は何回か転んでいたが、運動能力が高いのか、すぐに慣れ花村と共に勢いよく滑っていた。

 

鳴上は滑れないりせに教えながら滑っている。

完二は滑れるので鳴上と同じ要領で直斗に教えているようだ。

 

クマと天城はただの垂直落下の如く、物凄い勢いで滑り降りるだけ。

そして、再びリフトで上がる。

 

シンは案外、滑れるようでマイペースにスノーボードをしている。

 

 

シンが頂上から滑ろうとしていると、隣に陽介並んだ。

「よう。シン。」

「花村か」

「お、なんだかんだスノボにしたんだ」

 

「まあ、これの方がいいと思った」

 

シンはスキーもスノボーもやったことがないと言っていたが、花村に少し教えてもらっただけで、その身体能力の異常さと理解力の高さであっという間に滑れるようになった。

 

「じゃあ、競争ね!負けたらジュース奢り!」

千枝はそういうと、すぐに滑って降りて行った。

「あ!ずりぃぞ!こら」

「…仕方ない」

 

シンは滑りながら、まるで、スパコンのように最短距離を脳内で叩きだす。

悪魔の無茶苦茶な攻撃を避けれるほどの動体視力、

数秒、コンマ秒でも短くしようとすると、あっという間に二人を抜いた。

 

「うお!速!」

「わ、私も負けてらんない!」

 

 

結局、シンは下に付いたすぐあとに千枝が付き、その後数秒後に花村が付いた。

シンと千枝はスノボを外し並んでいた。

「はい!花村おごりね」

「…お前ら本当に初心者かよ」

 

花村がスノボを外そうとした瞬間、何かが太陽を遮った。

「?」

「…里中さん。一歩後ろに」

シンが小声でそう言った。

 

「え?うん」

千枝はそれに従うように一歩下がる。

 

「ったく…なんだってうお!!!」

 

大きな手と足が生えた雪玉が、花村と共に更に下に転がって行った。

そして小さな小屋に突っ込んだ。

 

「…新生物だな。」

「まあ…ある意味そうなんじゃない?」

 

そこへ、鳴上とりせそして、恐らくその新生物と滑っていた天城がそれを茫然と見る。

そして、天城はツボに入ったのか笑いだし、りせと鳴上は顔を合わせると笑った。

 

 

 

 

 

「いつつつ…ったく、何しやがんだよ…」

「センセイ達が居たから避けようとしたら、宙を舞ったクマ」

「ある意味すげぇよ、それは」

花村は雪を払うと言う。

 

「それよか、どうよ?俺のスノボテクは。惚れ直しちゃっただろ?」

「滑ったっつーか転がってたってほうが正確じゃないっすか。それに毎回クマの野郎俺に突っ込んできやがって」

完二は腰を押さえながら言った。

「カンジはナオちゃんと、ワンonワンレッスンなんてズルイクマ!!」

「そうは言っても、僕は立っているのがやっとでしたから…」

「もう疲れたよー。足ガクガク」

りせも直斗も慣れないことをしたためか非常に疲れているようだ。

 

「明日明後日、もある訳だし、今日はもう引き上げようぜー。里中は腹へってねーの?」

その言葉に思い出したように里中は飛び上がった。

「忘れてた!…今減った!ペンションの夕食、なんだっけ?」

 

「舌平目の無国籍風料理だったかな…

だって、無国籍風っていうのが気になったんだ…」

天城は少し嬉しそうに言う。

 

「"無国籍"なのに"風"なんですね…つまり、どういう味なんでしょうか」

「俺も予約をしながらそれは思った。

"風"ということは…恐らく…『多国籍と思われているけど、実は同じ国の料理でした。』という感じなのか?」

「…どんなものなんでしょうか。謎ですね」

「興味深くてな…俺もそれで良いと思ったんだ」

直斗とシンは無国籍風というものに魅かれているようだ。

 

「なんか、自信ないときに付けるイメージ。"無国籍風"って」

「シェフもお前らには言われたくないだろうな…」

 

そんな会話をしながら、シンが予約したペンションへと向かった。

 

 

 

 

「こちらが鍵でございます。間薙様」

「ん」

シンは管理しているペンションの受付で鍵を受け取る。

 

「…ここ、滅茶苦茶有名なところじゃん…」

「マジでか!?」

「うん…だって、ウチの事務所の社長が行くっていう場所だし…」

「な、なんですてぇ!?っていうか、どうして取れたの?お金は!?」

 

「まぁ、色々と方法はある」

シンはそういうと、カバンを持ち上げた。

 

「なんか、お前がいうと怖いわ…」

「おお、流石、おお…おお??おおお!?」

興奮したクマが何かを言いたそうに高まるも言葉が出てこずに一気に冷め切る。

そして、陽介を見た。

 

「およ…なんだけ?ヨースケ」

「オークラ大臣な」

花村がクマに言った。

 

「"お"だけで分かるって、もう花村とクマは一心同体だな」

鳴上はそういうと、笑った。

「…ヨースケ、クマの心…あげちゃ「気持ちわりぃからやめろ!!!」」

 

そんなことをしながら、ペンションへと向かった。

ホテルのすぐ近くにあったそのペンションは明らかに大きく。

豪華な雰囲気がだだよっていた。

 

 

「おお!!でけぇ!!!」

「それに、すごい、高級そう!!」

ラウンジには大きな暖炉と、座り心地の良さそうなソファなどがあった。

ラウンジからは湖と何ものにも邪魔されない、澄み切った湖があった。

 

「うおー!!こんなところ、この先ぜってぇ泊まれねぇ!!いいのか!?いいのか!?こんな豪華なことがあって!?」

花村は妙にテンションが高く、ソファにダイブするように座った。

 

「噂には聞いてましたが、本当に素晴らしい所ですね」

「それに、凄いお風呂でかかったよ」

流石の直斗や天城も嬉しそうだ。

 

「うおー!!肉だ!!肉だ!!」

千枝は明日の献立を見ているようだ。

 

「自由だなお前たちは」

シンは冷静に荷物を降ろし、ソファについた。

「良いところだ」

鳴上も表情はあまり変わらないものの、どこか楽しげだ。

 

 

そのあと、女子達が先に風呂に入り、男子達はソファでくつろいでいた。

 

 

「無国籍風…うむ…平凡だな」

シンは食材を冷蔵庫から出しながら、言う。

 

「残念?」

「…期待値より平凡で面白みがない」

鳴上はそのシンの反応が面白く笑った。

花村達もそれを見て笑っていた。

 

「?何がそんなにおかしい」

「いや…なんでもねー」

花村がそう言いながら笑っているのをシンは首を傾げる。

 

鳴上達は最近、直斗とシンをセットで見ていると面白くて仕方ないのだ。

普段は冷静で、シンに限っては刺々しささえある。

 

しかし、不思議なことに彼らは疑問を持ち、子供のように話を始める。

今回の無国籍風料理の件もそうだ。

それにこの前もそうだ。

 

 

「…何故、商店街に異質な"だいだら。"という店が生き残っているのか…」

「…客単価が高いのかもしれません。」

「なるほどなー」

 

シンはアイギスのように言う納得すると頷く。

そんなことを話している二人を鳴上が目撃した。

そのギャップで思わず笑ってしまった。

 

花村もジュネスで同じような光景を目にしているため、笑ってしまった。

 

 

 

「…」

鳴上の監視体制を信じて料理は女性陣に任せることにした。

シンは湖に迫り出したバルコニーに出た。

 

寒空の下、シンはバルコニーにある椅子の雪をどかし、座ると空を見上げた。

 

「…うっっ、寒いですね」

「どうして出てきた」

「僕も星を見たくて…」

 

シンは直斗を案じたのか、外で暖を取るための火鉢のようなモノに火を灯した。

それにより、少しだけ暖かくなった。

 

「いいのか?料理の方は」

「ええ、鳴上先輩の先導の元やっていますから」

そういうと、直斗は笑った。

 

「さながら、カルガモの親と子のようでした」

直斗の例えにシンも少しだけ口元を緩める。

 

直斗はシンの前にとあるものを出した。

「これ、持っていてください」

「…"たんていちょう"か」

シンはそのメモ帳らしきものを開く。

 

「ウチに強盗が入ったというのは、嘘でした。祖父が僕に思い出させようとさせたんです」

「知っていた」

「…そうだと思いました。」

直斗は予想通りと言った雰囲気で頷いた。

 

「薬師寺さんが『彼はあなた様と同じ、あるいはそれ以上の探偵能力があります。』と祖父と話していましたから。」

「過大評価だ。俺は探偵ではないし、経験もない。君の祖父には敵わんさ。」

シンはそういうとたんていちょうを閉じた。

そして、直斗に渡す。

 

「?いえ、これはあなたに「君が持っていた方がいい。大切な探偵としての経験の記録だ」…はい」

直斗はそういうと、それを受け取った。

 

シンはそうすると、バルコニーの先端まで行った。

 

「…ずるいですね。あなたは、やっぱり。」

直斗はボソりと小声で呟く。

 

「何か言ったか?」

シンは直斗の方に振り返った。

 

「い、いえ!何でも、な、ないです」

直斗は顔を赤らめて首を横に振った。

 

「 そうか」

シンはそうすると、空を見上げて、月を見た。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、今日はふつーに飯が食えて感動しているぞ」

「ちょっ、それどーいう意味?」

「そのまんまの意味だつーの。」

花村の言葉に千枝が噛み付いた。

 

「結局のところ、無国籍風というのは普通だったな」

「形容し難い味でしたが、美味しかったことは確かです」

 

「でも、センパイと料理出来て楽しかった!」

りせは嬉しそうに鳴上に言うと鳴上も頷いた。

 

 

 

「…じゃあ、俺達も風呂行くか。」

「クマ、完二ははもういってるみたい。」

 

シンと鳴上、花村は風呂場に向かった。

 

 

「おー、脱衣所も広いな…」

そこには、簡易的とはいい難いほどの、広い脱衣所があった。

 

「旅館のようだな」

花村は早々に風呂場ヘと向かった。

鳴上もシンもそれに続くように入る。

 

 

「おー!!こっちも広れぇ!」

蛇口が3つあり、普通の風呂と露天風呂があるようだ。

「いいところだ」

「うむ。風呂はこうでなくてはならない。広く、そして、美しいじょ…「うひょー広いクマー!!」「泳ぐなよクマ野郎!!」…」

シンは景色を見ようとすると、そこには露天風呂で泳ぐクマ達がいた。

 

「…」

「…」

 

シンは何も言わずに外にある洗い場へ行くと無言で温度を冷たい方に回す。

そして、クマを狙いシャワーのボタンを押した。

 

「うひゃあああああ!!!!」

クマがその冷たさにクマは飛び上がる。

 

「風呂で泳ぐな。情緒というモノがなければならない。」

「わ、わかったから、と、とめるクマー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その声はラウンジまで聞こえていた。

「まったく、あいつらっ…」

千枝は目頭を抑える。

 

「ってゆーか、直斗はどうなの?」

「な、何がでしょうか?」

「間薙センパイと?」

りせの質問に直斗は少し顔を赤らめるも、少し悲しそうに言った。

 

「間薙先輩は僕にとっての憧れの人なんです。…恋愛感情を持っていないと言えば…う、嘘になります。」

「やっぱ、そうなんじゃん」

千枝がそう突っ込んだ。

 

直斗は咳をすると言った。

 

「話を戻しますが…詮索するようでいけないことなんですが、間薙先輩はまだ、僕たちには言ってないことがあると思うんです。」

「そう?…結構、赤裸々だった気がするけど…」

りせは思いだながら言う。

 

「うん…私もなんかあると思う」

天城は少しだけ、ばつが悪そうに言った。

 

「…?どういうこと?」

 

 

「疑問があるんです。

何故、間薙先輩はこちらに残っているのでしょうか。」

「…そういえば、言ってなかったけ?まだ、やることがあるみたいな事を。」

 

「そのやることというのは何なんでしょう。」

直斗はそういうと、考える。

 

しかし、間薙シンという、底知れぬ人物に対して答えを導き出すのは不可能に近かった。

 

「ま、だいじょうぶっしょ!なんだかんだね!」

「…ち、千枝。ど、どこから来るの、その自信は」

天城はそういうと、笑い始めた。

 

皆もそれにつられるように笑った。

 

 

 




気が付けばもう年末、愈々、1つまた西暦が年を取り、また繰り返す…
まだ、生まれて短いが、いつも嫌な気分になりますな…

と、頽廃的な自分です。

さてさて、この作品も何だかんだ長続きしてますね。
一応、完結目指してますけど、どうなることやら…
計画性とか無いんで、盛り上がりなく終わると思います。そうならないように、努力はしてみます…

では、皆さんよいお年を。

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