Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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第70話 I've Known It All 1月23日(月) 天気:曇り

マリー救出の日以降、鳴上達には妙な違和感が残っていた。

マリーを助け、何事も無い平穏な日常に戻っていた。

マリーも問題なく生きているし、世界も消えていない。

何も変わらない、平凡な学校生活と日常が戻っていた。

 

菜々子も無事に退院し、ジュネスで祝った。

 

しかし、何かがおかしい。何かが、欠けている。

空いている教室の端の机、空っぽのカバン入れ、誰もいない小奇麗なアパート。名前のない部屋。

愛屋の一番奥のカウンター席、ステーキの売れ行き減少…

 

何が足りない、何かがなくなっている。

 

 

23日の放課後…

皆、浮かない顔で鳴上のクラスに居た。

 

 

「…なんか、変だよな…」

「うん…マリーちゃんを助けたんだけど…」

「何か…引っかかってるよね…」

 

「…また、俺達、忘れてんのか?大切なこと」

「…分からない。」

「どうしてなんでしょうか。まるで、霧の掛かったようなモヤモヤした記憶があるように思えます。」

 

 

鳴上達は思い出せずに居た。マリーでさえも、マーガレットでさえも、覚えていない。

しかし、自分たちの中には確かに誰かがいた。

 

 

「ただいま」

「お帰り!お兄ちゃん!」

「ん?菜々子これは?」

「あ、うーん…わからない。でもね、菜々子の部屋にあったの。」

 

大きな宝石を菜々子が持っていた。

 

 

 

 

「…」

鳴上はそれを菜々子から借り、自分の机で眺めていた。

 

美しくカットされたダイアモンド。

蛍光灯に照らすと、中で乱反射する。

 

と鳴上の携帯が鳴った。

 

「もしもし」

『鳴上先輩ですか?』

「直斗か。どうした?」

『興味深いものが見つかりまして、連絡をしました。明日、フードコートに集まれますか?』

「…ああ。皆に伝えておく」

『お願いします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな終わりなら、満足…か。自己満足か?まあ、…いいか。」

 

どうせ死ぬのだ。どうでいい。

 

そして、自分のしたことを思い出す。

「…自己犠牲…か…本当なら天国に行けるが…無縁の話だな。」

 

 

 

シンは暗い闇の中、倒れていた。

鳴上達を押し寄せる悪魔から鳴上達の世界に繋がる通路は守ったが、マリーの作った世界崩壊に巻き込まれた。

そして、帰る術を失った。

 

 

見慣れた闇の底でシンは立ち上がる力もなく倒れていた。

力尽きた。というより、なんとも言えない疲労感があった。兎に角、体が重い。

シンは鉛のように重い首を横に向けると見慣れた顔の人間がシンを見ていた。

 

「…幻覚か」

 

立ち上がろうと力を入れようとしたが、力無く、まるで疲れきって、脱力するような感覚があった。

何度か体験している。カレーの時は一撃だったのでそうではなかったが、何度となく死にかけたのは事実であった。

 

特に今の住処である、アマラ深界は酷いものだった。

それぞれのカルパはなぜか、飛び降りる仕様。

変な丸い石が行く手を阻み、当たれば重力と言う名の加速がその衝撃を増す。

一番のものは、ベルゼブブの呪いの廊下だ。完全に殺す気だった。悪魔もそこの悪魔も強く、まさに満身創痍の様相を呈していた。

バアルとなった今でも、その性根の悪さは加速している。

 

「…フフッ」

 

シンは思わず笑う。

死ぬのだ。思い出して笑ったっていいじゃないか。

 

いずれにしても、今、シンは立ち上がれず、彼らは相変らずの無表情でシンを見ていて、死ぬような感覚があるのはたしかだ。

 

 

 

 

勇、千晶、先生、鳴上達が俺を真っ黒な床の上に立ち、俺を見下ろしていた。

その目は何か、俺に訴えかけるようなこともなく、ただただ俺を見下ろしている。

その目に俺が映っていることがわかる。

暗い筈なのに、妙にくっきりと見える。

 

そんな目を見ていると嫌なことばかり思い出す。

 

何故だろうな。

 

…ああ、そうか。

子供の頃、俺はいつもこんな目を向けられていたんだ。

 

 

『こいつは自分たちとは違う』

『お前はなんだ』

 

 

だから …少しでもみんなと同じになろうとしたり、何かを知った気で言いカッコつけてみたり…

 

だが、考えてみれば、みんな本当の事ではなかったのかもしれない。

きっとそれで何か良いことがあるかもしれないと心の底で思っていた。

きっと、誰かが何とかしてくれる…

 

体が沈む様に重い…

 

…俺ではだめなのか?

…俺では…あの真っ暗な世界を変えられないのか?

 

地べたにへばりついた、あの真っ黒な血が

地べたにへばりついた、この真っ黒な体が…

地べたについた、この真っ黒な空が…

 

 

…ああ、そうか…ああ、ああ…

全て…分かった…

 

これが、そうか。これが。

 

 

 

 

 

 

「…此処に居たんだね。」

 

 

その声のする方へとシンが向くと監視者がいた。

シンは初めて、自分の体からマガツヒが漏れ出していることが分かった。

監視者の少年は少しだけ、悲しそうな顔でシンを見ていた。

 

「…なんだ、おまえか…」

「こんなところに居ちゃいけないよ」

監視者の少年は手を差し延べるも、シンがその手を掴むことはない。

 

 

「…いいんだよ…俺はここで」

「なに言ってるだい。まだ、何も知らないじゃないか」

 

「…俺は知っている…俺の友人に殺される男を見たし、自分がやってきたことも知っているし…自分がどうなるかも分かっている。」

 

シンはそう答えると、焦点の合わない瞳で少年を見た。

 

 

「…すべて…わかった。もう知るべきものはない…」

 

 

「…生きる意味は?まだ、分かっていないじゃないか…」

「この瞬間のためだ。自己犠牲…それが、意味だったんだよ…」

シンは弱々しく笑った。

 

「…な、何も知らないよ。君は、だってまだあの世界の綺麗なモノたちを見ていないよ」

「…綺麗な川も、綺麗な木も、見飽きるほど見てきたものと変わらない

…ただの木々だし、ただの水…美しい景色ももう…興味ない」

 

監視者は声を焦りながらも荒げ言った。

「…そ、そうだ。結婚相手をまだ見てないだろう?

混沌王に相応しい相手がいると思うんだ!

悪魔でも、あの白鐘って子でもいいんじゃないかな!?」

必死に少年はシンに問い掛ける。

 

「…正直…興味もない」

 

「…あの、世界はどうするんだい!?君の大切な友人を殺してまで作った世界だよ!?」

「…俺が居なくても、あそこは大丈夫だ…信頼できる仲魔がいる」

シンは仲魔達を思い出す。

 

「…あの、高いスカイツリーを見ないのかい!?…天さえ突き破るようなあの高い塔を!!」

「…高い塔なら、オベリスクで見た、飽きるほど登って景色を眺めた…」

シンの瞳から光が消える。

 

「…何も…見えなくなった…真っ暗だな…死ぬのか、やはり」

「…約束を、破るのかい!?白鐘って子との約束を!?彼らは!?彼らとの約束は!?」

「…世界崩壊した今、俺の事はもう、誰も覚えちゃいないさ」

 

 

監視者の顔が悔しそうな表情に変わる。

 

 

『興味ない』

 

 

あれほど、子供のように好奇心の塊だった彼が、興味を持たない。死とはそういうことなのか?死の概念を知らない監視者にとっては、この上ない絶望だった。

 

 

「…すべてわかった気がする…世界の暗闇を見たし、その中でも輝き続ける人間がいることも知った…」

シンはそう言うと、鳴上達を思い出す。

頭の中のスクリーンに彼らを投影する。

 

どんなに苦しい状況でも諦めることをしなかった彼らなら…

彼らとの思い出…そして、仲魔達との思い出…

 

「…長生きはするものではないな

…少しばかり、いとおしいモノを抱えすぎたか」

 

シンは弱々しく笑う。

次に思い出すのは、あの神というやつだ。

 

「…概念に勝つことなんてできやしなかった…クソ野郎…」

 

シンは力なく、天を見上げた。

 

「…自分が選んだことも、自分が必要としたことも知っているし、過去のありようも、これからどうなるかも分かっている…」

 

「…違う…違うんだ。こんな結末は…記せないよ。僕はハッピーエンドが好きなんだ。何事も綺麗に終わるべきなんだ。」

少年はシンの体を持ち上げるが、明らかに軽い。

 

「俺が選択することのなかった世界も見れた。…これ以上望むのは、強欲というもの」

「いいんだよ!君は王なんだから!何を望んだってっ!!」

 

 

「…もうこれ以上望むものはないし、知るべきこともない…」

 

 

「ダメなんだ。そんな、こんな、結末じゃ。僕はまだ、何も聞いていないし、知らないんだ。」

 

「……」

シンは少しだけ沈黙する。そして、考え出したように言った。

 

「なら、おまえの力を貸してくれ…ある種の賭けだ。」

シンは少しだけ笑みを浮かべた。

 

その表情に監視者は少し嬉しくなり答えた。

「うん!なんだい。」

 

 

 

 

 

 

「…お前、跳べ(死ね)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュネス…

 

 

「メモ?」

直斗が見せた紙を皆が見る。

そこには、足立が犯人ではないかと書かれていた。

推察的内容だったが、非常に的を射ていた。

 

「ええ。ですが、誰にもらったのか分かりません。」

「…なんかー美味しそうな匂いがするね」

千枝は紙の匂いを嗅いでいった。

 

「これ、愛屋じゃないっスか?」

完二は鳴上に言う。

鳴上はその紙を直斗から貰い、よく見た。

「…そうだ。油がついている」

 

「それに、わたし達と結構長い間、行動をともにしてたって事だよね?

ほら、だって、『お前たちの行動は予想してここに来るだろうと思った。』って書いてあるから」

天城の言葉に皆が唸る。

「うーん…」

 

皆が唸る中、マリーがいつもと変わらぬ様子で来た。

「あれ?もう大丈夫なの?」

「これ。」

そういうと、マリーはぶっきらぼうに金貨を渡してきた。

それをテーブルへと置いた。

 

「…なんでしょうか。これは。」

「金貨だけど、見たことないね」

 

 

 

 

魔貨(マッカ)というものだ。」

その声とともに、腕が伸びてきて、そのマッカを取った。

そこには、猫と大正時代の書生の格好をした少年がいた。

 

「依頼料確かに頂いた。そして依頼を果たしに来た。俺は葛葉ライドウ。こちらはゴウト」

『みゃぁ』

ライドウの言葉に答えるように猫が答えた。

「だれ!?ってか、ネコ!?」

千枝は驚いた様子で尋ねる。

 

「たしか…文化祭にいたよな?」

花村は首をかしげながら尋ねる。

ライドウは頷く。

 

「あ!それに、初めてウチがペットと泊まれるのを始めた時に、一番はじめに来てくれてた人!」

天城の質問にも頷いた。

 

『断片的ではあるものの、わしらの情報を覚えているようだな』

ゴウトの言葉にライドウは頷く。

 

「依頼というのは?」

直斗はライドウに尋ねる。

 

「…それらの持ち主から依頼を受けた。思い出すために、君達のいう"てれび"に入る必要がある。」

だがと、ライドウは淡々と続けると指を2本立てた。

 

「まず初めに、ここで忘れるか、向き合うか。…どうする?」

 

 

「私は思い出す。もう、大切な事忘れたくないから」

マリーはすぐにそう答えた。

 

「当たり前クマ!」

「そうだな。」

 

 

「決意は決まったか。厳しい道程になるだろう」

 

 

 

いつものように皆でテレビに入る。

 

 

 

 

 

 

そして、広場から少し歩いた場所に何も無い部屋があった。

薄暗く、妙に青白い白熱電球が光っていた。

そこにはドアがあり、ベットとベットの上に一冊の本が置いてあった。

 

「ここに何かあるってこと?」

「?」

ライドウは肩をすくめた。

 

りせがペルソナを出し、辺りをサーチする。

「…特に反応ないけど。人の反応は」

 

皆はあたりを見渡している。

鳴上はベットの上の本を手に取った。

 

「『てんぷら』?」

鳴上の突然の言葉にみなが集まる。

ライドウだけは無言のまま、それを見ていた。

 

「てんぷらっていったら…ふつーにあの"てんぷら"だよな」

「ってかそれ以外あるんスか?」

 

鳴上はその本を開いた。

 

 

『てんぷら。一時の繁栄も全ては秩序に帰す。

永劫に続くと思われた人の世もまた、秩序に帰す。

混沌を極めた世界でさえ、秩序に帰す。

全てはトウキョウから始まった』

 

 

「…意味わかんねぇ」

花村はあきれた顔でいった。

 

「"てんぷら"ってなんなの?あの"てんぷら"じゃないってこと?」

 

「天麩羅。俗語で"にせもの"を意味する。」

「にせもの?」

ライドウの言葉に直斗も思い出したようだ。

「てんぷら料理が表面は衣、中身は具と異なることからきています。

単に偽物という意味でも使われているということです

…ですが、それが何を意味しているんでしょうか…」

 

すると、周りの景色がぼやけ始めた。そして、思い出す。

 

間薙シンという悪魔を。

 

 

しかし、思い出した瞬間。

自分たちがどこにいるのかさえ、思い出した。

 

 

水の中であった。

 

 

慌てて皆が水面を目指して、泳いだ。

そもそも、それが水面なのかさえ分らないが、兎に角、光のある方へと泳いだ。

鳴上はふと、横を見ると、真っ黒な瞳をした天使がいた。しかし、それは悪魔だと知っている。

 

天使ではない。

 

夥しい程の量のそんな天使達が鳴上達を見ていた。

鳴上はそんな奴らを無視して水面を目指した。

そして、そこには崩れたビルなどが見えていた。

 

「プハッ!!!」

 

皆が、水面に上がり、すぐ近くの岸に泳ぎ着いた。

そこは、何も無い土と月が見下ろす場所であった。

 

後ろは何も無い海が広がっていた。

 

「ど、どうなってんだ!?」

「さ、さっきまで、部屋にいたと思ったら、水の中で水面上がったら」

千枝はその草原に座った。

 

「…なんか、この世界おかしい…」

マリーは冷静に答えた。

「思い出したか?」

 

ライドウは濡れておらず、ゴウトと平然と立っていた。

 

「間薙センパイでしょ!?どうなったわけ!?」

「…ええ!どうなったんですか!?」

直斗はライドウに珍しく大声で尋ねた。

 

「あそこにいるだろう。」

そう言ってライドウが指をさしたのは、三角錐の建物があった。

 

皆がそちらを向いた瞬間、ライドウが突然、抜刀した。

「…出てこい」

「流石だな、葛葉ライドウ」

その声に、ライドウは戦闘態勢を解き、菅から手を引いた。闇の中からワインを傾けながらバアルが現れた。

 

「バアルさんだっけ?」

天城は尋ねるように言う。

「やはり、お前たちはやはりLawであったか。」

「どーいう意味スか?」

「深い意味はない」

バアルはそういうと、ワインを飲み干した。

 

「さて、なぜ、彼があそこにいる理由を話さなければならない。

それは、無世界がアマラ経絡と一時的に繋がってしまったことによる、障害が起きた。

それにより、お前たちとの世界への経絡が再生成されたことにより、非常にややこしい事態となってしまったわけだ。」

バアルはそれにと続ける。

 

「それに、お前達のせいです、わたし達の混沌王は死にかけた…その罪は重いぞ。」

地鳴りがし始めた途端に、ライドウは咄嗟に下がり、刀を抜いた。それと同時に封魔管を3本指に挟んでいる。

 

皆も戦闘態勢に入った。

 

 

「私は、非常に、憤っている…」

 

だが、地鳴りが止み、バアルはワインを何処からともなく取り出し瓶ごと飲み始めた。

 

「…だが、まあ、良い。王は御存命だ。そして、お前達と再会することを望んでいる。

しかし、それを阻む物がいる。」

「だれ?」

天城はバアルに尋ねる。

 

「哀れな天使どもだ。王を檻に閉じ込めることしかできない。それに、結界を張り頑丈に閉じ込めている。」

「つ、つまり?」

千枝は我慢できずに尋ねた。

 

 

 

「お前たちには『カテドラル』内部で結界を生成している、大天使ウリエル・ラファエル・ガブリエル・ミカエルを倒してほしい。そして、あわよくばセラフかメルカバー、メタトロン。そいつらが引き釣り出せれば上等。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、本当にやるとはな…どうせ、俺はいつか死ぬ運命だったというのにな。それに、本気で俺はあそこで死ぬつもりだったが…」

 

シンは寝たまま、ソーマを浴びるように飲み干した。

だが、消えかかった体を完全再生するまでには至らなかった。

体力の消耗が激しい。

 

「…僕は、自分の役割を果たしたに過ぎないんだ…それに、まだ、君は死ぬには早過ぎる…」

 

シンは監視者にソーマを与えようとするが、監視者が首を横に振った。

 

「契約違反だから。僕は無に帰する運命なんだ…無意味。」

「そうか。」

 

「これが…僕の…うんめいだったのかな…」

「…運命に…意味はないだろう」

「そうか…うん、でも、これで満足だよ。」

監視者はシンを見ていった。

 

「やっぱり、キミはそうでなきゃ。…どんな絶望的な状況でも、跳ぶんだ。

だから、キミは、興味ないなんてもう、言わなくていい。キミはキミの気が赴くままにすればいいんだよ…」

「…」

「それが…キミなんだよ。どんな淵だって、崖じゃないんだ。跳べば、向こう岸か、底に着くよ。」

 

監視者はそういうと、体を震わせながら、横を向く。

 

「…自分の死の瞬間を記せるなんて、なんて幸せなんだ…」

何処からともなく、分厚い本を取り出すと、謎の言語を嗚咽のような声で読み上げ、書き始めた。

 

 

 

『喧騒たる迎えは来ず、ただ粛々と自分の死を迎え入れている。

自分はあの喧騒たる迎えの中、虚無の淵に落ちるものだと考えていた。それは吐瀉物のように嫌悪したかったが、そうでなくて、今、自分の心に陰り無し。』

 

『粛々と自分の存在を!そして、これからの虚無の日を!満ちる雫が集いし坩堝で、僕は君を待っている。』

 

そういうと、ニッコリと笑った。

そして、字がよれよれになり、力尽きた。

 

シンは仰向けにすると、その目を閉じさせる。

 

 

「…安らかに眠れ」

 

シンはそういうと、あたりを見渡した。

 

「…どうしたものかな。」

 

シンは本気で死ぬのだと覚悟した。そして、虚脱感しか無かった。

しかし、現れたのは幸いかな監視者である。

彼はアマラ経絡以外の何かの移動手段を持っていた。

 

それが何なのか今となっては分からないが、確かにその移動手段で元のというより、少なくとも消滅した世界からは脱出できた。

 

だが、流石のシンも弱っていた。

それもそうだ。相手はハニエルを筆頭とする大天使。

いくら、シンといえども、防衛戦で大天使を相手にするのはあまりにも辛い戦いであった。

 

シンは冷たい、床に座り込んだ。そして、檻に寄りかかると目を閉じた。

疲労感の中、シンは何となく理解していた。自分が閉じ込められていることに。

 

籠のような檻を見て皮肉そうに言った。

 

「…飛べない鳥もいるんだな」

 




監視者を出した時点でこの話を考えてました。

たぶん、次は説明回になる予定。
LawとかChaosとか、コトワリとか含めて。

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