「あったりめぇ、じゃねぇっすか!こっちは1回命を救われてんだ!!」
完二はやる気充分のようだ。
完二だけではない皆がバアルを見た。
「そうクマ!」
だが、その反応とは裏腹にバアルはため息を吐く。
「…言葉の意味を分かっていないようだな。」
「どういう意味だ?」
鳴上はぐいっと前に出て尋ねる。
「相手は大天使、最悪、熾天使。そう簡単に倒せるとでも思っているのか?」
「相手が誰であれ、やるしかないっしょ!」
千枝は軽く跳ねながら言った。
「珍しく、お前に賛成だよ…」
花村も準備を始めた。
「可能性か」
バアルはそう呟くと目を閉じた。
「あら、やっぱ、捕まっちゃったんだ」
『これはピクシーか』
フワフワと来たピクシーにゴウトが反応した。
「"やっぱ"とは?」
ピクシーの言葉に直斗が反応した。
「…とりあえず、行きましょ。説明しながら。」
ピクシーはライドウに軽くお礼をする。
「ライドウ、ありがとうね」
「報酬は貰ったから構わない」
ライドウはそう答えると、1マッカを指で弾き、マントを靡かせ、去っていった。
ピクシーはそれを見送ると建物の方へと向かった。
皆もそれについて行った。
「シンはハメられたのよ。天使たちによってね」
「どういうこと?」
千枝も含めた皆が意味不明と言った感じだ。
「あなたが上手く使われちゃったのかな?」
ピクシーはマリーを指さした。
「私?」
「そ。あなたを助けることでハメられたの。手順としては至って、簡単。アマラ経絡に準備していた大量の悪魔をなだれ込ませた。」
「でも、それだけ倒せるほどやわじゃないって知っていたのよ。だから、タイミングを合わせることにした。
あなたたちが、彼女を助けることによって、世界は消えることを知っていたの。それに、シンが助けるだろうって予測もしてた。」
ピクシーは建物前にくると、その丸い扉に触れた。
すると軽い音ともに開いた。
「だから、あなた達を返すことに専念する。結果的に無の世界にシンを追いやることができた。というより、大天使 ハニエルが出てきたみたい。
それでも、シンは他の仲魔が崩壊に巻き込まれないようにって、強制的に帰還させちゃった。
だから、被害としては明らかに天使達のほうが大きいわ。
大天使ハニエルを含めた、多くの大天使を消せたのは大きいわ。」
そういうと、ピクシーは止まった。
「でも、それ以上にこっちは大きな被害を受けそうになっていたわ。というより、受けたでしょうね。」
「…そしたら、どうしてた?」
鳴上は少し不安げに尋ねる。
「…私はいつだって冷静よ。そうありたいと思っているわ…でも…シンが居なくなっていたらって考えると…私は冷静でいられる自信はないわ。」
ピクシーは濁りなく、鳴上達に言った。
「私にとっては大切な
「…」
その言葉から、信頼よりも、もっともっと深い意味を感じ取れた。
ピクシーは首を振り話を戻した。
「…まぁ、結果的には監視者ってやつに助けられたのかな?」
「監視者?」
「シンにしか姿を見せたことが無いのよ。でも、隠密的に入らせた悪魔から、白い少年と共に檻の中にいるって話よ。」
ピクシーは止まるとため息を吐いた。
「…檻の中ということは…」
直斗は不安げに言う。直斗の言葉を引き継ぐようにピクシーが言う。
「あいつらの想定の範囲内ってことね。こんな建物まで建ててね。それに、シンは別になんとも思ってないだろうけど。」
ピクシーの話に改めて深くシンを知れた気がした。
「…やっぱ、センパイ人間らしいスね」
完二はしみじみと呟く。
「真意が読めませんからね。僕達よりも遥か先を見てますから」
「でなきゃ、王で居続けることなんてできやしないわ。」
ピクシーは自慢げに言った。
「ってか、マリーちゃん大丈夫なわけ?」
「…しらない。でも、多分大丈夫。」
「そんな時はクマがマリちゃんを守るクマ!!」
クマはやる気満々だ。だが、マリーがちょこんと押すとクマはゴロンと倒れてしまった。
「た、立てないクマー」
「相変わらずなのかよ…」
「…ここまで来ちゃったんだし、私が守っておくから、あなた達だけでも行けば?」
「私もここから、案内するよ!」
りせはそう言って意気込む。
「じゃあ、お願いします。」
そう言って、鳴上達は歩き始めた。
「ああ、あと。」
ピクシーは鳴上達を止めていった。
「ここはあなたたちの世界とは違うわ。価値観も思想も、考え方も。それだけは言っておくわ。」
鳴上達は頷き、丸い扉をくぐった。
「大丈夫なの?」
マリーは少し心配そうに言った。
「恐らく…ね。」
ピクシーはマカロンを齧る。しかし、その瞳はどこか不安そうだった。
りせはペルソナを召喚し、サポートを始めた。
「クー・フーリン!フーリーの羽衣借りて来なさいよ!!」
「…はっ!」
「属性を誤魔化さなきゃ、カテドラルへの道には入れない…あるいは、Lawかしら…全く!セトはどこに行ってんのよ!!」
ピクシーはカテドラルのてっぺんを見つめる。
「…いつものように帰ってきてよね」
一抹の不安の中、ピクシーは目を閉じた。
中は白を基調とした、ダンジョンとなっていた。
1階の中央は吹き抜けており、上から光が差し込んでいた。
「ここまでくると、如何にもって感じだな。真っ白な感じとかさ」
花村は辺りを見渡し言った。
「天使って言ってたよね…相手。でも、天使なのに『悪魔』って言ってたね」
「結構、フクザツなんじゃない?そういうところさ。」
「ある種の名称みたいなものかもしれません…」
そんな会話をしていると、声が響いた。
『…おお。何者か、迷える神の子らよ。汝ら、なぜこの地に赴いたか。』
「知ってて聞いてんだろごらァ!!」
「シン君を助けに来たの!!」
完二と天城が答えた。
『何と、何と愚かな事を…堕されたモノたちに仲間した混沌王を助けると?何故、助けるのだ?』
鳴上は上を見上げて、真っ直ぐとした目で答えた。
「友人を助けるのに理由は必要ない」
『…何たる浅慮。ヤツは神に選ばれながらも、多くの大罪を犯したのだ。そんなモノを助けると?』
『…その浅慮、救い難いぞ。』
そう答えると、声は聞こえなくなった。
鳴上達は特に気にすることなく、先のドアを開けた。
「なんか、白いね」
鳴上達は辺りを見渡すと、広く小部屋が何ヶ所かあるような雰囲気があった。
早速、一つの小部屋の中に入ると。
「人!?」
「…おや。」
そこには白いローブを着た男性がいた。
「あわわわ!何やってるクマ!?早く戻るクマ?」
「戻る?どこへ戻るのですか?」
「どこって…」
花村は辺りを見渡したとき、気がついた。
「ちょっとまて…霧ないぞ」
花村はメガネを外した。
皆もメガネを外すと変わらぬ景色が広がっていた。
「ど、どういうこと?」
仲間たちが慌てている中、鳴上はその男性に尋ねる。
「あなたはここで何を?」
「私は神に選ばれた為、大洪水を免れたのです。これも、神の思し召しでしょうか。」
「洪水って…あの、水がそうだったのかな…」
千枝はあの草原の前にあった、シーンを思い出した。
「ここは、何ていうかところなんですか?」
天城が尋ねる。
「知らないのですか?…まぁ、いいでしょう。ここはカテドラル。私達、メシア教徒が建てた聖堂ですよ。」
「聖堂?何の為ですか?」
「無論。唯一神を迎え入れる為ですよ」
鳴上達はその後、様々な人と話した。
悪魔が出る様子もないのでふた手に別れた。
「俺は選ばれたんだ…選民なんだ…俺の人生は正しかったんだ!」
周りに人だかりができている。その男の表情は恍惚とし、天を見上げ、笑い声を上げていた。
「…あのツラァ、やべぇっス」
「…」
「先ほど、天使、パワー様が人を裁いておりました。神に従えないと言ったので、仕方ありません…私の夫だったんですが…仕方ありません。それが、すべての秩序のためなのですから」
白いローブを着た女性が黙々と答えた。
「大洪水は神が我々に与えた試練なのです。我々は千年王国の到来をただ信じていれば、救われるのです。
神は我々を試されているのだ。」
皆、次の階層へと向かう階段の前で集合した。
「そっちはどうよ。」
「口々に神、神、神、だから、なんか、ちょっと気持ち悪かったかな…」
千枝はため息を吐いた。
口々に出てくる言葉は、神、千年王国。
まるで、宗教のようなそんな気さえした。
「…完全に盲信しているといえるでしょう。」
直斗は冷静に答えた。
「彼らを
「誰!?」
突然声をかけてきた男に千枝はすぐさま反応した。
その男は腕を組みほくそ笑む。黒いスーツが良く似合う黒髪の男性だった。
「私はセト。主を助けるために来たが、Law-Darkの私ではここが限界らしいな」
「Law-Dark?」
鳴上は首をかしげた。
「お前たちは…属性無しか。ニュートラルというわけでもなさそうだが」
「ちょっと、待ってくれ!なんの話なんだ?」
「…属性も知らぬか…まぁ良い。この世界ではLaw、Chaosに属性が分けられる。Lawは秩序を。Chaosは混沌をそれぞれが思想として持っている。Light、Darkは性格を表すものだ。
しかし、主の世界は違った。コトワリという思想に分かれ、そして我が主の"混沌"という思想があの世界を統治している。」
「…元々、天使たちはLawであった。しかし、主の世界ではヨスガに加担した。弱肉強食の世界を創ろうとした。
ある種の選民思想なのだと、私は解釈した。
しかし、我が主の混沌となった世界では、彼らは耐えきれず、他の世界でLawとなって、こんな大聖堂などを作り上げていた。それを導いたのは熾天使か、あるいは大天使か。」
セトがクマを見ると、クマは眠っていた。
それに気付いた花村がクマを叩いた。
「…簡単に言ってしまえば、コインの裏表。水と油のようなモノなのだ。Law-Chaosという属性は。Neutralというのもあるが、これは揺るぎやすいものだ。」
「人を殺すのが秩序なのか?」
花村は強くセトに尋ねた。
「絶対的な統制には不穏分子は邪魔なのだろう。
それも、秩序の為、千年王国のため。神を信じるものだけが、選ばれた民。選民になれると。」
「お前たち、人間も傾けばそうだろう?」
セトはそういうとニヤリと笑みを浮かべる。
「聖地奪還といい、多くの遠征を行った。
救われるためにと関係のない人間を多く殺している。
宗教や思想が違うだけで多くの血を流し、争っている。何一つ変わらない。何世紀も変わらぬことをしている。固い信念や信仰がロクでもない大量殺戮を正当化する。そうではないか?」
「そ、それは…そうだけど。」
多くの争いの世界史や日本史で学んでいる。
だからこそ、セトの言葉は納得せざるを得なかった。
「だから、絶対的な統治が必要なのだと奴らは思っているのだ。
絶対的な
だが、カオスやダークのような自由を好むものには虫酸が走るのだろう。」
「シンを主と言っているが…あなたはLaw-Dark」
「確かに。なんつーか、逆なモノのようなイメージだけど…」
鳴上の疑問に花村も同調する。
「…私は秩序的に破壊行動を好んでいるのだ。
しかし、あの世界においては属性というものは意識的に薄いものだ。コトワリと言う形で、その属性を踏襲していることには間違いない」
「それに、あの世界は混沌としているが、弱肉強食の世界ではない、事実、弱者のマネカタも不自由なく生きている。
一方で、他のコトワリ残存を圧倒的な力で殲滅することもある。」
セトはそういうと、少し不気味に笑った。
「そう考えると、私の主は非常に面白いのだ。コトワリに属さないマネカタを救いつつ、他のコトワリには苛烈に攻め立て殲滅する。矛盾。実に矛盾している。だが、それこそが、まさに混沌たる所以だ。全てを殺すニュートラルとも違う。ただ、自己の赴くままに統治し、反応を楽しんでいる。怒れば殺す。楽しければ良い。まさにカオスに相応しい。」
それにと、セトは続ける。
「あの世界での属性は無意味だ。混沌というコトワリが開かれた今、唯一神と闇とのそのどちらしかないのだからな。まさに、天使と悪魔の戦いなのだ。」
「…ややこしいね」
流石の天城もスケールが大きすぎて完全に理解はできていない。
完二やクマに至っては完全に思考停止。白い壁の汚れを見ている状態である
「…何れにせよ、お前たちはあの階段を上がれるだろう。この先は敵の警戒が厳しくなる。気をつけることだ。」
鳴上達は頷くと、目の前の扉を開けた。
「全く…緊張感に欠ける連中だ。」
Lawは全体主義、Chaosは個人主義みたいな感じです。
今回はLawのエグイ部分メインで進みます。