Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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更新が遅れて申し訳ありません。
普通にここ1週間は最近はゲームをやってました(´・ω・`)すみません。

あと、急遽この話を挟んだために次のは実は1ヶ月前には完成していましたが、なんか、話のジョイントが欲しかったのでこの話を書きました。

なので、次話は早く上げる予定ですが、誤字チェックとか色々と済ませてからあげます。


第75話 Was God 2013年1月30日(月) 天気:曇

 

 

 民話や伝承には様々な類似点が見受けられる。

代表的な例は神隠しや越界などが挙げられる。

例はアメリカのリップ・ヴァン・ウィンクルが挙げられる。内容としては非常に浦島太郎に類似していると言えるだろう。

 その原型はドイツの民話に原型が見られる。その起源は不明ながら、各地でそういった神隠しや越界などに似た現象が起きていることにほかならない。

 

 

 

 

シンは八十稲羽の図書館で本を読んでいた。

人が少ないためか、その静寂さは咳一つさえ許されないほどの空気感がある。

 

そんな所にシンがいるのは暇潰しの為ではない。

 

(……霧の世界に閉じ込められたイザナギ・イザナミ。そして、マリーの話を統合すれば、この地にはイザナミに関連した何かがある)

 

シンは本を置くと席を離れ、民俗学関連の本棚へと移動した。

 

「……『神話の科学』」

 

 部落や集落では昔、『森は異界に繋がっている』とされたり、神様がいる神聖な場所とされていた。

そのために、森に神社を建てることでその地域の繁栄を祈祷していた。

 また、政に楽器などを使用し演奏するのは、音や音楽で他の世界との境界を近付けることを目的としている。

 

(…神社…か)

シンは本を本棚へと戻し、腕を組んだ。

そして、『八十稲羽民俗学』という本を取ると席に戻る。

 

ゆっくりと席につくと、その分厚い本を開く。

そして、本の目次を見て、それらしい所でページを止めた。

 

 

 

 この八十稲羽には八十稲羽特有の神がいる。『伊邪那美尊』である。

天地開闢(てんちかいびゃく)の際に生まれた伊邪那美との関係はイザナミノミコトは本家のイザナミの分霊とも言える。

 とある県にある『イザナミ神社』の唯一の分社として、この八十稲羽市に存在していた『イザナミ神社 分社』。

しかし、その後の開発により分社は縮小され、その名前も変わり、八十稲羽商店街の一画に存在している。

 また、名前を変えた際に、分社としての扱いも取り払われており、

この地で崇められていた『イザナミノミコト』は徐々に忘れ去られていることも事実だ。

 

 

 

シンは本を閉じると、眉を潜めた。

(…そもそも、人の意思を見極める為に何故、『イザナミノミコト』とやらが出てくる必要があったのか……憂うほど。)

 

(八百万というほどの神がいて、何故、ここである必要があった……)

 

 

 

 

 

俺は目を閉じると微かに痛む頭を抑えた。

 

……違う。ここである必要はなかった。イザナミノミコトである必要もなかった。『鳴上 悠』という人間である必要があったのか?

 

 

『ワイルド』という力。

 

それは誰しもが持ちえたものなのだろう。

しかし、環境が周りの人間が『お前はこういう人間だ』と決め付けることによって、自分でもそういう人間なのだと思い込んでしまう。

 

それは空っぽだった瓶に自分の知らぬ間に詰められた、『幻』に過ぎない。

しかし、その幻に取り憑かれ、自分はこういう人間なのだと決めつけてしまい、やがて可能性という道は狭くなるばかり。

 

だが、彼らはその瓶に何も詰めることなく、純粋なまま、ここまで育ってきたのだろう。

 

結城 理はその体に『Death』を宿していたから、ワイルドになり得たのかもしれない。

だが、鳴上 悠はそうではない。彼はただ、この町の外から来て、足立や生田目、そして、鳴上に能力を与えられたものであった。

 

ペルソナは心の具現化だと、イゴールが言っていたことを考えると、結城と鳴上、2人に共通点がある。

 

 

…そう…2人とも、空っぽであった。

 

 

結城に関しては本人が言っていた。

『ここで、多くの人と出会いと別れが無かったら、僕は世界なんか救うつもりなんて無かった』

 

その話を聞いて、鳴上を見ると、明らかに人間が変わっていたことは確かだ。

この八十稲羽で多くの人と出会っていることは、監視から報告は受けている。

 

2人とも親不在の時が多く、環境としては人との関わり合いが少ないと推察される。

結城は爆発事故により親は死亡。鳴上は両親の共働き、そして、海外転勤。

 

……類は友を呼ぶとは言い得て妙だ。

 

俺も両親は共働き。顔を合わせることはほとんど無かった。高校生になって、少し話す程度だったか…。

 

…俺達は空っぽのまま、こんな年齢になっていたわけか。

 

 

俺は本のページを軽く指で叩く。

 

 

2人は自分で自分の瓶を詰めようとしている。

 

人と関わることで自分の空っぽな瓶を埋める。

他人が映し鏡であることを十分に理解し、そして、短絡的ながら自分を『自分たらしめよう』としている。

 

それが力となりペルソナをより強力なモノへと変化させていった。

 

 

一方、俺は…他人もいない世界で好奇心と神を呪うことで、永遠に満たされることのない瓶に汚い水を流し込んでいる。

最高に汚れた水だが、俺はその味が一番好きなんだ。

飲み慣れた水が一番だった。

 

だが、俺達に言えることは誰も空っぽな瓶であることを悲観していないことだ。

 

空っぽな瓶には何でも詰められる。

透明であれば、中身で色も変わる。

 

鳴上はペルソナを変化させながら戦っている。

器用貧乏ともいえるし、ある種の『矛と盾』とも言えるだろう。

たが、そこに潜む『矛盾』と如何に相手をするかが問題になる。

 

無自己なことを嘆くか、空っぽな瓶と受け取るか。

 

鳴上次第なのだ。俺もそうか。

 

 

 

(……今の俺は何色だろうな)

 

シンはふとそんなことを考えながら、『死体の見方と解剖学』という本を手に取っていた。

 

 

 

 

シンは夕日が赤い川面を作り出す頃に川沿いの土手を『死体の見方と解剖学』という本を読みながら歩いていた。

人はほとんど居ないその川沿いはまだ冷たい風を更に冷たくさせていた。

 

 

 

「あれ?シン君じゃん」

シンは本から顔を上げると、セントバーナードの大きい犬を連れている千枝が歩いていた。

シンは本を閉じると、肩掛けのカバンにしまった。

 

「犬か」

シンが頭をなでると気持ちよさそうに目を細めた。

 

「うん。ムクって名前」

「ムクね…変わった名前だ」

 

 

そこへ対岸の川沿いの土手を男が現れ何かから逃げるように走っていた。

そして、その後に警官が2名走って土手に上がってきた。

 

「ちょっと、持ってて」

そう千枝はリードをシンに渡すと、走り出した。

橋を渡り、犯人を追いかけ始めたのだ。

 

「……」

 

シンは肩をすくめるとムクの頭を撫でるのを止め、橋を渡り違う方向へと歩き始めた。

 

 

 

「待てーっ!」

千枝は住宅街をひったくりらしき人物を追いかけていた。

体力に自信のあった犯人なのか、もう10分ほど走りっぱなしだった。だが、流石の犯人も今にも倒れそうな時に狭い道に入った瞬間。

 

「ぎゃぁ!」

 

犯人は伸びてきた手に片手を捕まれ、そこから光るものが零れ落ち、腕をひねられ、コンクリートの地面に倒された。

 

千枝が角を曲がると、そこにはシンとムクがいた。

 

 

 

 

「ご協力ありがとうございました」

「いえいえ」

 

そう警官に言われた千枝は少し納得いかない顔でシンを見た。

 

「どんな手品を使ったの?」

「手品ではない。予測だ。」

 

「?…どういうこと?」

「逃げた犯人は体力に自信があった。理由はあんな見晴らしのいい川沿いに来たこと。そして、この土地の地理に詳しい。理由は土手に上がってきた時に細い道から出てきた。」

 

「それらを考えると、体力に自信がある分、人気の少ない道を使うだろうと考えた。だが、それは決定力に欠ける。」

「なんで?」

「理由は犯人は必死に逃げているから、冷静な判断。しない可能性がある。」

シンはそういうと、肩をすくめた

 

「……じゃぁ、たまたま?」

「そうだな。今回は推理ではなく、単純に運が良かっただけだ」

「なーんだ」

 

そんな呆れた千枝にムクはワンと吠えると、構ってくれとイワンばかりに千枝に擦り寄った。

 

 

「…犯罪が嫌いなようだな」

「あったりまえでしょ?」

「…だが、包丁を持った犯人に接近戦は感心しないな」

シンはムクのリードを千枝に返した。

 

「え?持ってたの?」

「なら、あいつは何故ポケットに片手を入れて走っていた。」

「あ」

千枝は思い出した。一瞬だが、光るものが見えたような気がした。

 

「猪突猛進も結構だが、それでは、守りたいものを守る前に自分が守れなくなるぞ」

「は、はい……本当にその通りです、はい」

「……だが、運動能力はいいセンスだと思う」

 

シンはカバンから本を取り出しながら千枝にそう言った。

 

「そう?」

「戦闘中の蹴りは鋭くて良い」

そうシンが言うとシンの携帯が鳴った。

 

「悪い、出る」

「うん!じゃぁね!」

千枝の言葉にシンは手を軽く挙げて応えた。

 

 

 

 

 

 

「わるいな、ホント。ってか、殆どあいつのせいだけどな」

花村は倉庫でぶちまけられた乾燥麺の箱の中身を箱に詰め直していた。

 

シンはそれを手伝っている。

夕方にクマが箱の山を崩してしまい、中身をぶちまけたのである。

 

 

「ごめんクマ…」

しゅんとしているクマに花村はいつもと変わらぬ顔つきで答えた。

 

「俺よりも、シンにお礼しとけよ。ワザワザ、来てくれたんだからさ」

「…別に構わない。考えが煮詰まってたし、どうせ、家に帰っても本を読む予定だった」

シンは軽々と思い米袋100kgを持ち上げた。

 

「シン君……クマ、惚れちゃう」

「そんなことより、手を動かせ、手を。終わらないと、飯も食えねぇぞー」

「すぐに終わらせるクマ!」

 

そういうと、クマは素早い動きで店内へ戻って行った。

 

「で、考えって何だ?事件のことか?」

「事件……というよりは、そもそもの発端について考えていた。」

「発端?」

花村は箱を運びながら首をかしげた。

 

「鳴上はこの町に来たことで、テレビに入る能力を得た。だが、それを与えたのは誰なのかを突き止めたい。」

「でもよ、そんなことどうやって突き止めんだ?」

「それを考えているところだ」

 

シンは台車に米袋を降ろした。

 

「ただ、さ、そのなんだ、1人でやるなよ?そーいうこと。俺達、仲間だからさ」

「……」

 

 

そこへ、クマが閉店作業を終え、走ってきた。

だが、

 

「あ、」

「うひょー!!」

 

クマが台車につまづき、宙を舞い、そして、バレンタインデーに合わせて積んであった箱にダイブした。

 

呆然と2人はそれを見ていた。

そして、数秒間固まり、シンが先に口を開いた。

 

 

「……手伝う」

「……わりぃ……マジで助かる」

 

 

 

 

 

 

シンはバイクのガソリンが少なくなっていることに気が付き、ジュネスの帰りに入れることにした。

いつもは、違うところで入れているが珍しく一番近いガソリンスタンドで入れることにした。

 

理由としては、噂好きの高校生がいると完二が話していたのを聞いたからである。

 

閉店のギリギリにシンはバイクを滑り込ませた。

 

「いらっしゃいませー、」

「…レギュラー満タンで」

「はい!!かしこまりましたー」

 

シンはヘルメットを外すと、ため息を吐く。

すると、店員がシンの顔を見ると言う。

 

「あれ?もしかして、間薙って人ですか?」

「……そうだ」

「うっそ!本当に!?私、八十神高校の1年なんですよー」

 

高校生らしき少女は嬉しそうに微笑んだ。

シンは最悪だ、といった顔で顔を顰めた。

 

「写真いいですか?」

「…断る。」

「えー!!いいじゃないですかー、一枚くらいー」

「それより、仕事をしろ」

「ちぇ…」

 

バイトの高校生は仕方なくシンのバイクの給油口を開け給油を始めた。

シンはふと、バイクに付けてあった傘がここで借りた傘であることを思い出した。

 

給油ついでに返そうと考えていたが、ここで給油することを避けていたため、すっかりと忘れていたのであった。

 

「そういえば、傘を借りっぱなしだった。」

「?貸した覚えはないけど、ってか、先輩くるの初めてだし」

「?いや、確かに……」

 

シンはそこで、違和感を覚えた。

 

「……ここの従業員の人数は」

店員は奥でテレビを見ているおじさんを見ていった。

 

「ご覧の通り、私と店長だけですよー、まさか、先輩、バイトする?」

「……」

 

シンは悪魔になってから記憶力は抜群に良くなっていた。

ましてや、この街に来て初めて来た時に会った人位は覚えている。

 

「…お前はいつからやってる。」

「えーっと……中学卒業してからじゃない?これでも私ー、危険物の資格持ってるんですよー」

 

「……なるほど、そうか。」

シンはニヤリと笑った。

 

「ありがとうございましたー」

 

シンはバイクに乗り冷たい風を受けながらも、珍しく頭は怒りに満ちていた。

 

 

(……忘れられた神がでしゃばるとどうなるか、教えてやる)

 

 

 

 




ちなみに本当にイザナミ神社は存在します。
兵庫県の淡路市の『伊弉諾神宮』です。

行ってみたいですが、関東圏の人間なので辛い(´・ω・`)。

そして、ご存知だと思いますが、この物語はフィクションです。また、民俗学の話は結構適当推論ですので、ご了承ください。

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