Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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重ね着した理想『如月』『弥生』
第76話 Valentine's Day 2012年2月14日(火) 天気:曇・雨


 

朝…

 

その日はシンが寝坊したため、鳴上たちと登校していた。

なんでも、あの寂しいシンジュクに繁華街を作っており、それが徐々に出来上がっているらしい。

その様々なやりとりがシンの登校時間を遅らせているらしい。

 

「なぁなぁ!どーかな?今日の俺?」

花村は少しテンション高めに鳴上たちに話し掛けた。

 

「どうって…いつもと変わんねぇっスよ」

「だらしない顔が体にくっ付いている」

眠そうな完二とシンがそう答えた。

 

「だーっ!!そこじゃねぇ!ってか、だらしないってなんだよ!」

シンは欠伸をすると目を擦り花村を見た

 

「…朝からうるさいな……ヘッドフォンが変わったんだろう?」

「おっ!流石!名探偵だな!!」

花村は嬉しそうにシンと肩を組んだ。

 

「でも、陽介は気をつけたほうがいい」

鳴上は花村に言う。

 

「?」

「ペルソナの"運"が低い」

その言葉に完二は軽く吹き出した。

 

「し、失敬な!俺だってそんな、運が悪いわけじゃ…「ナンパ作戦」…」

花村が話している最中にシンの言葉で花村は言葉を詰まらせる。

忘れもしない、あの日、得たものは花村が得たものはバイクの修理代と虚しさだけだった。

ポジティブに考えるのであれば、少し大人になっただけであろう。

 

「た、多分、大丈夫だ。」

「まあ、とにかく気を付けることだな」

シンはそういうと欠伸をした。

 

 

この時期、特有の灰色の空は妙に生徒たちのこの日の憂鬱さを表現しているようなものであった。

いや、憂鬱なのは一部なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。

 

紛れもなく今日はバレンタインデーだ。

いくら、不平を叫ぼうとも、時空改変でもしない限り、この時間流れは紛れもなく今日である。

無論、貰える人は貰えるし、貰えない人は貰え無いものだ。

鳴上たちに関してはそれはあまりにも酷な話になりそうになっていた。

 

 

放課後……

 

花村の強制的な呼び出しにより、鳴上や完二、クマ、シンはそれぞれジュネスに集められていた。

 

「何故、集めた」

シンは腕組みをして、不審そうな顔で花村を見た。

 

「だーっ!!今日が何の日か、分かんってんだろ!?」

「何の日…っつわれてもな…」

完二は首を傾げる。

 

「クマ知ってるクマ!!バレンタインデークマ」

「「ああーなるほど」」

完二とシンは打ち合わせでもしたように同じ返事をした。

 

「だが、こうして、集められる意味がわからん」

シンは花村にそういうと花村は腕を組む。

 

「無論!報告のためだ!」

「なんのスか」

「チョコの数だよ!!」

花村は突っ込みすぎて、息切れをする。

 

「何故そんなことをする」

「意味なんかねーよ!!ただ、そのなんだ……」

花村は頭を掻く。

 

「……それなりに貰えて自慢したいんだな」

シンの言葉に顔を赤くして花村は反論した。

「ち、ちげぇしー!!なんか、こう、あれだよ!!」

「まぁ、別にいいんじゃねースか?オレァ、0個っスから」

「俺もだな」

完二とシンは肩を竦めて答えた。

 

花村はスッと上がっていた熱が冷め、首を傾げる。

「ん?完二はあれだけどよ、シンなんか普通に貰えんじゃねぇの?」

 

「俺に言われても知らん。大体、教室全体が甘い匂いに包まれていて、不快だった」

「そうか?」

「そうだ。ここはベルギーじゃないんだ…」

 

シンはあまり甘いものを好きじゃない。理由はピクシーのせいだ。

ピクシーは事あるごとに甘いものを食べている。

また、ボルテクス界では殆ど行動を共にしているため、体に甘い匂いが付くのだ。

 

それのせいもあってか、シンは甘いものを食べなくなったし、匂いに関しては悪魔になりより感覚は敏感な為、尚一層嫌なのだ。

 

「ふーん。そうかー」

花村は棒読みで答えた。

 

ふと、鳴上は思い出したように紙袋をシンに出した。

その紙袋は包装された箱が何個か入っていた。

 

「なんだこれは」

「シン宛のチョコ」

「なんですとー!?」

花村は驚いた顔で紙袋を見た。

 

鳴上曰く、声を掛けたいのだが基本的に殺気に似たオーラを出しており、声を掛けにくく、また、とにかくシンは休み時間はブラブラとどこかへ行ってしまうため、捕まえること自体難しい。

そのために共に行動をしている鳴上に多くの生徒が頼んだ次第である。

 

「…俺は6個だ」

「クマはーこんなに沢山、貰ったクマ!」

 

クマはそういうと、袋を取り出した。

 

「はいはい。全部、パートさんの義理チョコな」

「クマ、義理でもいいクマ。お腹膨れる」

クマはそういうと、自分の袋のチョコを開けて食べ始めた。

シンはそれを見ると、自分のチョコをクマの袋に入れた。

 

「ちょ!?おい!」

花村は勢い良く、椅子から立ち上がりシンを止めようとしたが、少しばかり遅かった。

もう、どれがどれだか分からない。随分と丁寧に包装されていたのだろう。

 

「いらん」

シンは不機嫌そうに腕を組んだ。

 

「…本人達が見てたらショック受けんだろうなぁ…ってか、お前は痛まないのかよ、良心がさ」

 

「良心の呵責があるなら、俺は何事もない平凡な世界を望んでいたし、それ以前に、俺は殺されていた。つまり、俺は悪魔だ。妙な恋愛感情か好意か分からんがそんなものはいらない。感謝なら感謝されるような覚えもない」

 

シンは肩を竦めて、答えた。

 

「…羨ましい、お答えだよ全く…」

花村は呆れた様子でそう返した。

 

「それで、鳴上は?」

シンは鳴上に尋ねる。

「…まだ(・・)、6つかな」

「まだって、なんだコノヤロー!!」

 

花村は悔しそうに鳴上に飛び掛った。

 

「それで、肝心の花村センパイはどーなんスか。」

『ふふふ、それを聞くかね、巽完二くん』

花村はゴソゴソと自分のリュックサックからデカく包まれたチョコを取り出した。

 

それは、ハートの形をした20cmほどのものだ。

実に上手くラッピングをされている。

 

「……デケェけど、それだけっスか?」

「数じゃないぞ?完二クン。量とその思いは比例するモンなんだよ、きっと」

 

「誰からだ?」

シンは片眉を上げて少し呆れながら尋ねる。

 

「いや、昼休みの間にいつの間にか机に入ってたんだよな。でけぇから、ビビったけどな」

花村はシンにそのチョコを渡す。

シンは鼻をつまみながら、何回かひっくり返す。

 

(実に上手くラッピングされている。丁寧だが、大きい。これほどのモノを作りそして、割ることなく持ち運んだ。細い体型の人間には無理だ。目立つし、なかなかの重量だ。つまり……)

 

数秒固まり。そして、悟った顔をすると花村にかえした。

鳴上もその博識な頭ですぐに察した

 

「…実はこの大きさを自慢したいってのも、あったんだけどさ、相手を知りたいってのが、本音。相手分かりそうか?」

「世の中知らなくていい真実というものもある。」

「そう言われっと気になんだよ。」

「……覚めない夢があってもいいと思う」

鳴上も花村の肩を叩きながら言った。

 

 

シンがジュネスから帰る頃には既に夜になろうとしていた。

鳴上と別れ、完二の家の前で別れると自分のアパートへと帰る。

 

「あっ…ま、間薙先輩」

「…何をしている」

シンの自宅前には直斗がいた。

 

「い、いえ、その、少し用事がありましたから」

「用事があるなら、連絡をすれば良かっただろうに」

シンは家の鍵を開ける。

 

「その、直接渡したかったですから……」

直斗はそういうと、カバンから包装されたチョコを取り出した。

 

「……チョコか」

シンは少し顔を顰める。

 

「き、嫌いでしたか?」

「……ありがとう、頂くよ」

シンはそれを受け取る。直斗は顔を赤くしながら、嬉しそうに微笑んだ。

 

「嬉しいのか」

「あ、いえ!では!失礼しました!!」

直斗は逃げるようにシンの家をあとにした。

 

(……ホワイトデーにはまだ、こちらに居るだろうか)

シンは受け取ったチョコの箱を見ながらそんな事を考えていた。

 

 

夜…

 

シンはソファでグッタリとしていると、ピクシーが現れた。

 

「あら、お疲れね」

「…当たり前だ。連日連夜、シンジュクの件で呼び出される。それに、計画者のどっかの誰かさんはいないからな」

シンはピクシーを睨む。

 

「ご、ごめんなさいねー。でも、わたしだって妖精の長として色々あるのよ」

「……ティターニアに丸投げしているのにか?」

「…モクヒ権よ」

シンはため息を吐くと、テレビを再び見る。

 

ピクシーはふと、鼻腔を突く、甘い匂いに鼻をヒクヒクと動かし反応した。

 

「あれー、わたしの好きなあまーい匂いがするわね」

「…悪いがそれはやれん」

「あれ?シンって甘い物嫌いじゃなかったかしら?」

ピクシーは箱を軽々と持ち上げる。

そして、シンの元へと運んだ。

 

「……大切な貰い物だ」

シンはそれを受け取ると、包みを丁寧に開ける。

 

「あら?もしかして、白鐘って子?」

ピクシーは少し頬をふくらませ怒っているように言った。

 

「……ふむ、苦味があっていい。」

シンは手作りながらも、精巧に作られたチョコを齧り、そう呟いた。

 

「苦っ」

ピクシーは1口食べると、それ以降直斗のチョコには手を出さなかった。シンは美味しそうにそれを完食した。

シンは食べ終わると外を見た。窓に水滴が付き、心地よい音を奏でていた。

 

「頃合いか」

 

 

夜になると商店街には雨が降り始めた。

人通りは皆無になり、その静けさが異様に思えた。

 

ガソリンスタンドの店員はいつものように客が来ないか待っていると、少年と少し大きな傘を差したメイドがいた。

そして、傘を少年は差し出した。

 

「いらっしゃっせー」

「傘をずいぶんと前に借りたままだった」

「ああ!わざわざありが!?」

 

店員は傘を手にとろうと少年の手に触れた瞬間、何かを感じ取り咄嗟に手を引き、後ろに下がった。

 

「どうした、受け取れよ…」

「……何者だ?貴様は」

店員の表情が一変し少年を睨む。

 

「何者?こっちが聞きたいな」

「……」

 

街灯は明滅し消え、辺りは一気に暗くなる。

ガソリンスタンドの電気も激しく点滅する。

そして、暗闇から無数の目がじっとガソリンスタンドの店員を見つめていた。

 

「まぁ、そう、気構えることもない。戦いに来た訳ではない」

「では、何用か」

「単純に傘を返しに来ただけだ。」

 

シンはそういうと、傘を投げた。それは店員の前に落ちる

そして、少年は自分の持っている傘を地面に付けると、片手で寄り掛かった。

 

いつの間にか、雨が止んでいる。

しかし、それはこの商店街だけで、店員の耳にはすぐ先の道の雨音が聞こえていた。

 

「目的を果たしたかったら、まだ隠れていることだ。

ニャルラトホテプに見つかったら、お前は『見極める』ことなく再び人々の無意識に消える」

 

少年は縦に傘を回す。

 

「…しかし、本当に気がついてないとはな……これだけの悪魔がコチラに居るというのに…哀れなほど人以外には疎いらしい」

「……」

 

少年は傘を回すのを止める。

 

「それに、来てみればただの集合的無意識から発生したここに根付く忘れられた神ときた」

シンは目を見開き言い放った。

 

「…失望の境地だ」

「!?」

 

辺りが一瞬暗くなって、街灯が明滅始めた時には既に少年の姿はなかった。

そして、バチンとブレイカーが上がった音がした。

 

 

…ベルベットルーム

 

「……ふむ…実に興味深い、お話です」

イゴールはシンの話に不敵に笑みを浮かべる。

 

「あいつの強さを象徴するものが出てくるはずだと推測しているんだ。はっきり言って、相手は集合的無意識から発生した強大な力だ。それも、本体はあのイザナミときたものだ。」

シンの話にマーガレットも本を閉じる。

 

イゴールは何時ものようにヒッヒと笑った後に答える

 

「あなた様も会われた嘗て、この世界を救った『結城 理』様は多くの人との『絆の力』によって、Nyxを退け、扉の向こうへと閉じ込めることに成功しました。」

「そう。その時にアルカナ『世界』が生まれた本人から聞いている。」

 

「今回もその様なことが起きると?」

マーガレットがシンに尋ねる。

 

「可能性としての話だ。そもそも、俺のこの話も希望的観測に過ぎない。しかし、ケヴォーキアンのおかげで造魔が作れる今、作らない手はない。それも、とびきり強いヤツをな…」

シンのその言葉にマーガレットは笑う。

 

「……フフフ……もし、仮にあなたのこの実験が成功したら、私も悪魔になれるのかしら?」

 

「そうだろうな。それに、お探しの妹も造れるかもしれない。無論、記憶など一切無いが。」

「……」

シンはそういうと、『白金細工のしおり』を机に置いた。

 

「…どこでこれを?」

「結城理から貰ってきた。というより、スってきた」

「……」

マーガレットは黙ったまま、白金細工のしおりを手に取った。

 

「それはあなたに渡しておく。そして、妹にでも会ったら、返しておいてくれ。」

「…しかし、それでは……」

「いや?俺はもっと良いものを貰ってきた」

シンがそう言って見せたのは流石の2人も驚いた表情であった。

 

 

「どこだ!!現れよ!!」

天使勢のパワーは血塗れ。

100体ほどの天使勢の悪魔たちは、唯一、アマラ深界と繋がることを許された『ヨヨギ公園』のターミナルを探し、ヨヨギ公園へと入った。

 

普通であれば、ターミナルはどこにでもいける。

しかし、アマラ深界はシンの統治以降特殊な構造となり、ルシファーお手製の『パス』が必要である。

 

そして、カルパごとにパスのレベル指定がされており、カードキーと同じように規定のレベル以上でなければ、入ることが出来ずに、入り口まで戻される。

それぞれ個体に指定されているため、複製は不可能である。

 

しかし、唯一直通でシンの居るアマラ深界の『第10カルパ』にあるターミナルにいけるのがこの『ヨヨギ公園』である。

 

故に此処に天使達は集まる。だが、ヨヨギ公園は冷酷なティターニアが居る。

何よりも建設途中で止まっていた『オベリスク』に匹敵する高さのタワーの一番上にあるため行くことは困難である。

 

そんなこともあってか、今となってはこの血まみれのパワー一体である。

そして、そのパワーは血眼になりながら、ヨヨギ公園の迷路をさ迷っていた。

 

『…自分の心を制することができないやつは、城壁のない、打ちこわされた町のようだ。と何かに書いてあったな』

『プププッ、バカみたい』

妖精たちの悪い声が公園内に響く。

そして、うすいガラスの割る音がする。

『……この醜い顔も見飽きたな』

 

そう何者かが呟いた時には、パワーはコンテナのような壁に押しつぶされ、マガツヒ化していた。

 

 

「…退屈だな」

バアルはワインをラッパ呑みすると、そう呟いた。

「そう?善戦したほうよ」

ティターニアは呆れた顔で答えた。

 

「違うそうではない。ヨヨギ公園に入ってこれたのはたったの100体。シブヤに現れた時は500は居た。」

「セイテンタイセイが殆ど殺っちゃったみたいね。それでも、討ち逃しが100体は珍しく多いほうかもね」

ティターニアの言葉にバアルは眉を潜める。

 

「……猿は猿でも、かつては王の右腕をしていた猿か。伊達にシブヤを統治していないか」

バアルは不満足そうにため息を吐き、天を見上げた。

 

「…しかし、これでは『混沌王』に仕える前のつまらぬ、環境となんら変わりないな。雑魚を痛めつける下らぬ環境だ」

「……そうね」

ティターニアも珍しく遠い目をした。

 

「……早く戻って来い。お前の居ない世界は酷く退屈で酒が不味いのだ。」

バアルはそう呟くと、グラスを取り出し一杯のワインを飲み干した。

 

「……美味い。相変わらず、酒は美味い」

バアルの言葉にティターニアは呆れた顔でため息を吐いた。





休みにパパッとなおしただけなんで、安定の誤字脱字改行問題あるかもしれません。

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