Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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久しぶりの投稿で色々間違いがあるかもしれませんが、平常運行です


欠けた地図
第x11話 Deconstruction


「それでさ、数学の間西がさ…」

「ハハハ、アホくさ。だよな、シン」

「ん。そうだな」

 

時々、自分が誰と話しているのか分からなくなる。

俺は…一体何に話しているのだろうか。

俯きながら歩いて、彼らの後をついて行っていた。

 

俺は誰と話しているのか、顔を正位置に動かす。

彼らは笑い、数学の教師の今日の失敗を笑い話にしていた。

 

だが、そんな話をしているお前達は誰だ?

なにを取り繕っているのだろうか。何をそれほどお前達を楽しませ、何がそこにお前達をお前達足らしめているんだ?

 

俺は自分でも分かるくらいに眉を寄せた。

 

俺は『お前達』と話しているはずなのに、まるで『空っぽな人形』に話しているみたいだ。会話に意味がない。たわいもない会話、くだらない会話。日常的な平凡な会話。

 

それが…俺達とお前達の正体なのか?

…分からない。それが、友達という正体なのか?

 

そして、俺は気が付いた。俺もそんな人形みたいになっている。

俺は…お前達の本心を知りたい。でも、そう尋ねた所でお前達は答えてはくれないだろう。

 

 

何故なら、俺は……お前達が……怖い。

 

 

「…」

「どう、なさいましたか?」

ベットの上で天井を見つめるシンにメリーはそう声をかけた。

だが、シンは何も答えずメリーの顔を見た後、再び天井を見上げた。

 

 

憂鬱だ。たった、2日の休日を不意にした。ただ、考えてみると『良い休日』とはなんだ?

 

外に出て、人と会って、楽しく笑って、恋をして。

それが『良い休日』なのか?

俺のように朝起きてから、テレビを見て情報を集め、それが終わったら、ドラマを延々と見る。

それは『ダメな休日』なのか?

 

『良い休日』と『ダメな休日』。決定的な差はなんだ?

ドラマを見ることが時間の無駄?だとすれば、生きること自体が無駄だ。客観的に見れば。

結局のところ、自分を納得させたいだけなんだ。

人と同じような休日を過ごして、『自分は人と同じだ』と思い込みたい。

 

…こんな時、皆はどうするんだ?

不安になる。他人と違うことが、まるで罪かのように軽蔑するような目で皆が見る。

 

みんなは埋めようのない孤独をどうするんだ?

 

中学生の時だって、俺は…泣いていた。夜になると、孤独が襲ってくる。一人では解決出来ない悩みだ。

贅沢な悩みか?贅沢?…そうか?

 

俺にとって、それは死ぬほど苦しいことだった。

誤魔化すことのできない現実でしかなかった。

他人から見れば大した悩みでもないかもしれないが、当人には潰されてしまいそうな程の悩みだったりする。

それが…毎日毎日襲ってくるんだ。

 

そうやって自問を繰り返しては自己嫌悪と思考迷宮に落ちていく。登ることもなく、底もない暗闇に落ち続けていたを

 

 

「間薙様」

「…ん」

メリーが顔を覗き込むようにシンを呼んだため、シンは思考迷宮から出た。

 

「お客様です」

「ありがとう」

「私は見られないようにとの、ケヴォーキアン様の命令でした事でしたが」

メリーは恐縮した様子でシン尋ねる。

 

「対応くらい大丈夫だと思うから、次回は頼む」

「分かりました」

メリーは少し嬉しそうに答えた。

 

 

 

「こんにちは」

シンは顔を見ることなく、ドアの前で対応した。

 

「…ああ、どうも。こんにちは」

シンがドアを開けるとそこには直斗が立っていた。

すっかりと夏の格好をし、トレードマークの帽子を被っていた。

 

「通りかかりましたから、挨拶をと思いまして」

「…そうか」

「久慈川りせさんが検査入院した話はご存知ですか?」

直斗は探るようにシンを見た。一方、シンは上の空で直斗をぼーっと見つめた後に口を開いたを

 

「…お前は誰と喋っているんだ?」

「?どういう意味ですか?」

「お前は『俺』が見えているのか?」

「?」

 

直斗は怪訝な顔でシンを見た。そんな直斗を見て、シンは首を横に振ると答えた。

 

「……悪いな。忘れてくれ」

「…寝起きですか?」

 

「そうともいうし、そうでもない」

シンはドアの外に出るとドアに寄りかかり腕を組んだ。

 

「少し事件について、話せますか?」

「…別に構わない」

「どうせなら、歩きながら話しませんか?僕も気分転換がしたいので」

「賛成だ」

シンはそう提案され、ドアから離れた。

 

 

 

「…久慈川さんも数日、捜索願が出されていたみたいですね。ですが、突然、戻ってきた。」

「みたいだな」

シンは素っ気なく答えた。

 

「…何かあなたは知っていますね」

「ああ、知らないな」

シンは何事もないようにポケットに手を入れた。

 

直斗はため息を吐くと困った表情で話し始めた。

 

「…どうも、僕はあなたの事が読めない。失礼を承知で言いますが、何か…普通の人間ならあるであろう『枷』みたいなものが…欠乏しているように思えるんですよ」

直斗は歩きながら言葉を続ける。

 

「どんな質問にも無表情で答え、僕がいくら揺さぶっても逸れることのない瞳。行動にも、それが顕著に出ています。久慈川りせの監視、足立さんの誤認逮捕の際の行動」

 

「あなたは…何か人間として欠乏しています。誰がどう見てもそういうと思います」

 

直斗は言葉を濁すことなくそう言い切った。そう言い切ったのは直斗の賭けでもあった。ここまで言われ、何も言わずにいられる人間などいない。

 

それに、直斗もそれなりの結論があって、それを導き出した。足立の話にあった、一瞬、犯人を車の往来が激しい道路につき飛ばそうとした動き。

足立は気のせいだと言っていたが、直斗には彼にはどうも、『普通の人間』ではない彼の神経があるのだと。

 

直斗は殴られる覚悟でシンにそう言った。

そうすれば、彼が口を開くと思った。

 

だが、直斗が想像し得る反応などでは無かった。

 

 

「だからどうした」

「え?」

直斗は思わず情けない声を出した。

 

「お前がいくら俺を罵倒したところで、お前のしたいことが見え透いていて、何も思わん。」

シンは歩きながら、苦笑し答えた。

 

「突然、歩きながら話したいなどというものだから、何かと思えば、俺を激昴させて何かうっかりを狙ったつもりか?なら、それは失敗だ」

 

「お前は巽完二や久慈川りせの家にわざわざ出向き質問をしていた。それは相手を安心させるためだ。巽完二と会った2回目は歩きながら話した。理由は巽完二を揺さぶり、巽完二という人間を知ろうとした。であれば、『変わった人ですね』などと言うはずはない。」

シンは小西商店の前の自販機で足を止める。

 

「手口が同じでは良くないな。それに、緊張のせいか心拍数の上昇と顔が若干白くなっていること。明らかな『吹っ掛け』だ」

 

「…本心だとしたら?」

直斗の言葉にシンは呆れたため息を吐いたあと、答えた。

 

「…まだ、そういうか?なら、手の震えを抑え、血圧を上げてから言った方がいい。顔が白いぞ。下手な芝居を打つより、もう少し相手の情報を調べてから行動すべきだ」

シンはそういうと緑茶を買い、直斗に手渡した。

 

「……」

直斗は俯き震えながら、それを受け取らずどこかへ行ってしまった。

 

「…負けず嫌い。子供っぽいな。いつも、そうなのですか?」

シンは振り向きながらそう尋ねた。

 

 

「…驚いた。キミは本当に何者だ?」

そこには初老の白髪の男性が立っていた。

 

「暑いですから、喫茶店はありませんが馴染みの店に行きませんか?」

 

 

愛屋のカウンターにシンと初老の男性は席についていた。

「名前はあえて名乗らんよ?」

「賢い手段です。情報は開示し過ぎない。最善の方法ですね」

「分かっておるようで、助かる。それでだが、君から見て直斗はどうだ?」

初老の男性は冷たいお茶を飲み尋ねた。

 

「…何か焦っているように見えました。事件のパターンを見つけて被害者に警告をしながらも、相手は誘拐されてしまった。加えて、家名を背負っているその負担から焦っている。

他人の期待を背負っている。”彼女”自身、そう思っていないと言葉にはするでしょうが。」

シンの彼女という言葉にも一切の動揺を見せない初老の男性にシンは感心した。

 

(無駄な揺さぶりは不要か…)

シンはじっと彼の顔を見ながらそう思った。

 

「…よく見ているな。直斗の先程の無礼は申し訳なかった。祖父として、謝罪する」

初老の男性は軽く頭を下げた。

 

「焦りは人を不安にさせる。それが、さっき程の稚拙な行動に繋がってしまった」

直斗の祖父は残念そうにそう言った。

 

「…しかし、あなたも随分と…孫には甘いようですね。わざわざ、心配で見に来る程ですからね」

「…お主が言った通り、直斗は子供っぽい面もある。それで、周りの人間に煙たがられる面もある。直斗は両親を早くに亡くしてしまった。親と子。例え私のような肉親であっても、その代わりにはなれんものさ」

 

「ですが、可愛い”娘”には旅させろという言葉もありますから」

「…フフフ、お主も親になれば分かるものだ。どれだけ成長しようとも『親と子』その関係は変わらないものだ。例え『祖父と孫』であってもな」

「…そういうものでしょうか」

シンは肩を竦めて答える。

 

それから、2人は夜になるまで様々なことを話した。

 

 

外に出ると車が前に止まった。

「いやはや、楽しい時間であったよ。」

「こちらも、実に為になる話でした。」

「直斗には初心を思い出してほしいものだ…」

直斗の祖父は車に乗りながら少し微笑んだ。

 

「…何かもうお考えがあるようですね?」

「フフフ、楽しみにしておると良い。無論、直斗には秘密にしておいて欲しい」

「楽しいことは好きですよ。とりわけ、他人がその事を知らずに踊っている所を見るのは特に」

「キミはフィクサーか詐欺師に向いていると思う。それでは、また」

 

男性を乗せた車はそのまま走っていった。

 

 

 

(…僕は失態をした。あろう事か重要な情報源を自ら潰してしまう所であった。情けない…)

直斗はため息を吐いた。

 

(…僕は彼に手玉に取られたことを怒ってしまった。でも、冷静なればそうだ。彼は普通ではない。僕は大きな間違いをしている。)

 

「今の僕では、彼には追いつけない」

 

(…悔しい気持ちはある。その気持ちに、僕は負けたんだ。でも、彼の観察眼と人との会話の方法、どれをとっても、僕の祖父と同じ、あるいは上を行く人)

 

「…知りたい」

 

(…自分と殆ど変わらない年齢の彼が何故、あれほど卓越した能力を得られたのか)

 

直斗はドアの前に立つとドアをノックした。

 

『はい』

「し、白鐘です」

『はいはい』

 

シンの声は昨日とは違い、普通の声であった。

 

「おはよう」

「その、昨日は失礼しました。少し…その、言いすぎました。それに…突然、帰ってしまいました」

「構わない」

シンはそういうと、ドアから出てくると鍵を閉めた。

 

「時間あるか?」

「…はい?ええ、大丈夫ですよ」

「少し歩こう」

シンはそういうと、歩き始めた。直斗もそれに続くようにあるき始めた。

 

「…お前は何になりたい?」

「将来という意味でしょうか」

「そう思ってもらってかまわない」

「もちろん、刑事かあるいは探偵です」

「それは良い事だ。目標がより具体的に分かっているなら、進むべき道も見えてくる」

シンはポケットに手を入れる。

 

「…その、何故、そこまで観察眼や人の心理に詳しいのですか?」

「それほど、お前みたいに立派な理由がある訳じゃない。」

「ですが」

と直斗は言葉を続けようとしたがシンに遮られた。

 

 

「お前がこの事件と俺達の関係がわかった時に教えるよ」

 

 

 

1月5日(金) コテージにて…

 

 

「そう言えば、あの時の答えをまだ教えて貰ってませんでした」

早朝のコテージにまだ、皆が起きてくる前に2人は暖炉の前に座っていた。

 

「?」

シンは首をかしげた。

 

「『何故、間薙先輩が観察眼に優れているのか』その答えですよ」

「…ああ。そんなことか」

シンは薪を焚べる。

 

「…あの時は本当に、悔しかったんです。だって、先輩はあの時は普通の人間だと僕は認識してましたから。それが、あんなに僕の心理を読んだんです。それは僕の矜持が打ち砕かれてしまいますよ」

直斗は笑いながら、そういった。

 

「…」

シンはソファに腰掛けると大きく息を吐いた。

 

「……他人を知る為の一つの手段。それだけだ。それが、悪魔との交渉に役立ったのだから、世の中、無駄なことなどないと改めて感じたな」

 

「いえ、間薙先輩の理由もちゃんとしたものだと思います」

「いや、今思えば傲慢だ。理解しようなどとは」

 

シンはそう答えると窓の外を見た。

 

 

子供の頃を未だに夢に見る。暗く、無駄に広い部屋の真ん中で本を広げたり、映画を見ていた。あの頃。

ふと、1人でまだ高かったキッチンの流し台で食器を洗い終え、ふと、振り返った時の光景、眠くなるまで見つめた月光に照らされた薄黒い天井、ふいに現れる孤独は…表現し難い。

 

あの時の孤独感は死ぬまで拭えない。何千年と拭えていないのだから、恐らくそうだ。

 

今は多くの悪魔に囲まれている。それでも時々、孤独を感じる。

 

 

俺は他人が怖い。

だが、それももう関係の無い世界に居る。

 

他人など居るだけで煩わしい。

だが、居ないとそれはそれで……『寂しい』ものだ。

 

 

 

 

 

 




整理するなどといいながら、1年経ちましたね。
そして、このゴールデンウィークを使ってぱっと書いたものを上げる始末。

とにかく、皆様、お久しぶりです。

自分でも終わったという気持ちでいっぱいいっぱいなのですが。
1年前からずっと、『余談』みたいなものを書けたらなぁと思い、書いては消し、書いては消しを繰り返して来ました。

その結果が、これです。
酷いものです。


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