Persona 4-マニアクス-   作:ソルニゲル

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まず、誤字報告をして下さった方々に感謝を。ありがとうございます。見てくださっているかは分かりませんが…


第x13話 52hz-whale

友人とは何だろうか。

気兼ねなく話せる人のことだろうか。

感情を素直に出せる相手だろうか。

一緒に居て楽しい人だろうか。

 

『勇』にとって俺は良い友人であっただろうか。

『千晶』にとって俺は良い友人であっただろうか。

 

彼らのことを…俺は…『友人』と呼んでいて良かったのだろうか。

 

 

 

 

「にくー!」

「うるせぇ!!耳元で叫ぶなよ!!」

雨の日ということで、いつもの5人で愛屋へと来ていた。

 

「天城さんは、旅館は大丈夫なのか?」

「うん。この時期はお客さんが少ないから」

シンの問に天城は最近追加された、杏仁豆腐を食べて答えた。

 

「…梅雨に旅館に来る人もいないか」

シンは酔狂だなとは思いつつ、雨の日の旅行ほど気分が滅入ることはないと思った。予定が狂いどこか陰鬱な印象を持ってしまう場所が多いが、雨だからこそ、シンとしては静かに文化財などを巡りたいという気持ちの方が大きい。

そう考えると旅行の雨も時と場合によっては悪くないものだとシンは思っていた。

 

「にしても、まさかシンがなぁ…」

花村は椅子に深く座ると感慨深そうにそう呟いた。

 

「でも、オーラが違ったからね。ここで会った時も」

「そうだね。あれを食べきってる人初めて見たし」

「いや、そこかよ…」

千枝と雪子の話に花村は呆れた様子でツッコミを入れた。ふと、鳴上がシンに尋ねる。

 

「シンって何をして暮らしているんだ?」

「なに…とは?」

「あー、確かに気になるかも」

千枝は興味深そうに腕を組み考える。千枝が真っ先に思いついたのは『勉強』であった。理由としてはやはり、彼は頭が良いし頭もキレる。だが、考えてみると彼の家には何も無かった。大きなテレビが1つだけ。あとは綺麗に何も無かった。

次は『スポーツ』であるが、これもないとすぐに判断した。部活に所属していないし、これもない。

 

「こういっちゃ、あれだけど…お前友達とか居なそうだよな。俺たち以外」

「ああ。いないな」

「否定しないのかよ」

花村は呆れた様子で肩をすくませた。

 

「あまりいると煩わしくて仕方が無いだろう」

 

千枝はこれまた、彼の人間関係について、自分の知っている限りのことを考えはじめた。

彼の人間関係については本当に謎である。

『死の医者』として名高い、外国人医者のケヴォーキアンと一緒にいるのを目撃されることが多々ある。

 

『聖スティル総合病院』はがん治療の患者から終末医療

など、『死』を扱う病院として名高い。

一方で治らないとされてきた病気でも患者を受け入れることからそういった者達にとっての『安息地』でもある。とりわけ、『あの病院いけば余命よりも3倍は生きられる』と言われるほど、世間的には有名な場所である。

 

環境もよく、八十稲羽と沖奈市(おきなし)との中間に位置し交通の便は良くないものの山に囲まれており、静かな湖畔もある。加えて、その周囲に村があり食べ物においても地産地消をしており、地元からも愛されている。そこの院長が『ケヴォーキアン・メレンゲ』という30歳の男性だというのだから驚きである。

 

だが、しばしば、ニュース番組の特集であの病院が登場するも、彼はさほど表には出てこない。患者の特集の時にたまたま彼が出てきた。それで、一時はネット界隈を騒がせた。

 

『…彼についてか?…前の医者がどんな治療をしたかは知らないが、最悪の延命措置だ。薬が多過ぎる。副作用が彼自身を苦しめてる。死の危機が迫っているのだから、精神的不安定な状態だった。』

『今は非常に落ち着いて見えますが?』

『死の恐怖は拭えないものだ。その恐怖が彼にストレスを与えていた。だが、彼自身がここに来て自分よりも早く死ぬ人間達が落ち着き、残りの人生を過ごしていることに疑問を持ち、自ら行動した。その結果が今の彼だ』

 

白い髪の毛とメガネ、加えて顔立ちも整っており、線の細く白衣を着ている。それだけで、『美青年』であった。

 

千枝は深く考えずに尋ねた。

 

「あのお医者さんとは何で知り合ったの?」

「…ケヴォーキアンか?彼は…友人では無いな。知人だな」

「あ。あの人よくうちの旅館の日帰り温泉に来るよ」

「うっそ!マジか。イメージなさすぎ…つーか、あの外見で意外だわ」

千枝は雪子の言葉に驚いた。そんな話しをしたことはすっかりと忘れて、それから、数ヶ月が経ったある日…

 

 

「だから、ウチの病院に来たのか」

「…あははは…」

その日、千枝は風邪を引いてしまった。だが、千枝自身は非常に気持ちは元気であったが、熱があるので仕方なくかかりつけの病院に行こうとした。

しかし、運悪く休診日であった。仕方なく、少し遠いがケヴォーキアンのいる病院へと来た。

診察は手早く終わった。風邪薬を処方され、支払い待ちをしているとケヴォーキアンが前を通った。ケヴォーキアンは千枝を見かけると足を止め、千枝の方へと来た。

 

「珍しい患者だ」

「あはは、どうも」

「何だ、病気か」

「風邪をひいちゃったみたいで…」

千枝は照れながら答えると、ケヴォーキアンが隣に座った。ケヴォーキアンはふむと、千枝を見定めるように観察をする。千枝はいやらしい視線ではないが多少、恥ずかしさもあって少しケヴォーキアンから離れた。

 

「あ、あの何か?」

「…いや、なに。間薙シンについてだが、君から見てどう見える?」

「…その強い人だと思いますけど…」

千枝は首を傾げる。彼が悪魔であることは分かったし、彼の生い立ちも知った。それでも、彼は進み続けている。千枝は素直にそう答えた。

 

「なるほど…まぁ、そうだろうな。俺もあそこまで強いやつは知らんな。精神的にも。身体的にもだが」

 

だが、とケヴォーキアンは続ける。

 

「あいつは君たちよりも弱い面もあると思うぞ?」

「?」

 

「あいつは『友人の信頼』を知らない」

 

千枝はそう言われた瞬間、雪子の顔が浮かんだ。雪子は紛れも無く自分が背中を預けられる『親友』である。だからこそ、かつて自分は無謀を承知でテレビの世界に助けに行った。

自分のシャドウが言ったようにどこかに邪推な気持ちがあったのかもしれないし、雪子がどう思っているかは分からない。

分からない……ふと、千枝の心に不安が生まれた。

普段なら、そんなことは思わないだろう。だが、最近雪子は旅館の手伝いで遊ぶ機会が減っている。加えて千枝は風邪気味であった。故に、そんな気持ちが過ぎったのだ。

 

「…何を感じた?」

「…その、私が思っているように雪子も思っててくれるのかなって…ちょっとだけ不安になりました…」

「ふむ…」

ケヴォーキアンはそう言うと携帯端末を操作しながら話し始めた。

 

「君は『52hzのクジラ』を知っているか?」

「……知らないです。有名なんですか?」

「いや、知らなくても問題は無い」

ケヴォーキアンはそう答えると話しを続ける

 

「クジラという生き物の一部は歌でコミュニケーションを取るそうだ。シロナガスクジラやナガスクジラなどがそうするらしい。

その周波数は10-39hz程度と言われている。だが、そのクジラは52hzで歌うそうだ。これが意味することが分かるか?」

ケヴォーキアンは操作をやめると千枝を見た。

 

「いえ…」

「そのクジラは他のクジラとコミュニケーションをとることが出来ないということだ。誰とも話すことが出来ない。『世界でもっとも孤独なクジラ』という訳だ。そして、彼はそれでも歌い続けている…」

ケヴォーキアンは目線を下にやると言葉を選ぶように続ける。

 

「…必ずしも自分が他人と同じだとは限らない。感覚的な部分は尚更だ。『みんなちがってみんないい』。

確かにそうだが、その言葉は『他人と違う人間』にとっては、自分が『他人と違う』という罪意識の免罪符にはならない。みんな普通を求めようとする。そんなものなど存在しないというのにな」

ケヴォーキアンは立ち上がると白衣のポケットに手を入れた。

 

「君は良き理解者に出会えて良かったな」

「…はい」

千枝はにっこりと微笑み答えた。

 

「それにしても、なぜ、そんな話を?」

千枝が不思議そうに尋ねるとケヴォーキアンは気だるそうに答えた。

 

「患者が見るそうだ。クジラ特集のテレビ番組をな。その中で出てくるとか、なんとか。」

「あはは、それだけですか?だっ…」

千枝がそう茶化そうと言った瞬間に千枝は大きく息を吸いこみ。

 

「へっくしゅん!」

「ふふっ、人を茶化す前に、今は休みたまえ」

 

 

 

 

 

「珍しいね、2人だけって」

「確かにな」

 

シンは天城屋旅館の日帰り温泉から出た後、雪子の好意で縁側に座っていた。雪子は和服を着ており、お客の対応を終えたところであった。

 

「…あ!べ、別にその…変な意味じゃなくてね?」

「分かっているさ」

雪子は慌てた様子で否定するもシンは相変わらずのテンションで雪子もすぐに落ち着きを取り戻した。静かな風の音だけが2人を包む。

 

「…そういえば」

シンはそう切り出した。

 

「里中さんと天城さん。君たち2人を見ていると違和感を覚える」

「?」

「こう言っては何だが、2人は対極的な雰囲気がある。里中さんは活発な人で一方、君は清楚なイメージだ。無論、里中さんや君の全てがそういったイメージであると言いたいわけじゃないが」

シンはそう言うと腕を組む。

 

「それでもなぜ君たちは仲が良い?」

「うーん…」

雪子は数秒考え、少し嬉しそうに答えた。

 

「たぶん、千枝と私が『対極的』な人間だからだと思う。千枝は私にないものを沢山持ってて、それを千枝と共有したいからかな?千枝はどう思っているか……分からないし、私は分けてもらってばっかりだけどね」

 

「でも、私は千枝と一緒なら、色んなことがもっと楽しくなるから」

「…羨ましいよ」

シンがそう答えると雪子は照れたように続ける。

 

「私は…この街が嫌いだった。前にも言ったけどね、旅館の跡継ぎとか自分じゃない誰かのレールの上を走らされてる気がしたの。」

雪子は俯くと少し溜めて話し始める。

 

「それしか選択肢がないって思い込んでて、自分で可能性を狭めてた。」

でも、と続けると雪子は屋根からかすかに見える夜空を見上げる。

 

 

「…籠の入口を閉めたのは自分だって気付いたの。それに気付かせてくれたのは、千枝だった」

 

 

 

 

俺は家に帰るとテレビを見始めた。彼女の言葉に偽りはない。だからこそ、俺は彼女たちが羨ましい。

 

『…52hzのクジラはただひたすらに歌い続けるのです…暗い海の中を孤独に泳ぎ続けるのです』

 

『52hzのクジラ』はどんな気持ちで歌を歌い続けているのだろうか。寂しいと感じるのだろうか、誰かと一緒に居たいのだろうか。

自分がほかのクジラと違うと分からながらも、歌い続けているのか?

 

 

『…また、行けなくなったの?』

『悪いな。仕事が忙しくてな』

『また、今度、出掛けましょう?』

『……いいよ。ぼくは大丈夫だから。仕事、頑張って』

 

 

あの頃に戻ったような感覚だ。1人でテレビを見て、膝を抱えている。暗闇の中、自分の影が酷く黒く見える。

最悪の気分だ。みんなはどうやってこれに耐えるんだ?

 

……ああ。そうか。これは違う。

これは…違う感情だ。かつての孤独じゃない。

別の感情だ。これは、『憧れ』と『嫉妬』だ。

 

 

 

 

 

「うぃーす…」

「おーっす、花村」

「おはよう。陽介」

花村が教室に入ると皆が挨拶をした。花村がリュックをおろし鳴上たちの方へと行く。

 

「あれ?シンは?」

「お休みだって。柏木先生が言ってたよ」

 

雪子の言葉に花村は少し驚いた様子であった。シンは殆ど休みがない。理由は体調不良がないことが一番大きい。たまに向こう側の用事で休むことがあるが、今回は少し特殊だった。

 

「…珍しいな」

陽介は携帯を見るも特に連絡は来ていない。

 

「だよね、いつもなら私たちにも連絡くれるじゃん?でも、今回誰にも連絡してないみたい」

「単純に忘れてるだけかも」

鳴上も携帯を取り出し、メッセージを送るが既読の付く気配はなかった。

 

「昨日は元気そうに見えたけど…」

「?昨日会ったの?」

「うん。ウチのお風呂に良く来るからね」

そう答えた雪子に鳴上が尋ねる。

 

「何か言っていた?」

「うーん…その…千枝と私が羨ましいって言ってたよ」

「え?なんで?」

「…分からない。理由までは言ってなかったから」

雪子の言葉に陽介は唸り、答えた。

 

 

「…様子見に行くか?」

 

 

放課後…シンの家へと向かっていた。

いざ、家の前についた瞬間、ドアが開いた。突然のことに花村は驚いた。シンも少し驚いた様子で皆を見た。

 

「うお!!!」

「…なんだ。揃いも揃って」

「学校を休んでたから、どうしたのかなって。それに、珍しく連絡もなかったし…」

雪子が心配した様子で答えるもシンは相変わらず淡々と返す。

 

「…理由はない。考え事をしていた」

シンはそう言うと屈伸を始めた。

 

「ん?なんだ?運動でもするのか?」

「ちょっとな、煮詰まっている」

「あ、じゃ、私も一緒にいい?」

「?」

千枝の言葉にシンは首を傾げる。

 

「最近、私も鳴上くんと一緒に運動してるし、人数多い方が面白いでしょ?」

「確かに」

千枝の言葉に鳴上も頷き応えた。

 

「…まぁ、勝手にしてくれ」

そう言うとシンは走り始めた。

 

「じゃね!雪子、花村!」

鳴上と千枝はシンに続くように走り始めた。

 

「…あ、うん」

「…やっぱり、おかしいよな、あいつら」

二人は呆然とシンたちを見送った。

 

 

なぜ走るのか。ひどく単純な理由で、孤独に勝てないが、全速力で走ればそんなことどうでも良くなる。

本の受け売りだが。悩むくらいなら、全速力で走るべきだ。悩みをつらつらと頭の中で綴るよりはよっぽどマシだ。

 

 

「ちょ、ちょっと……タンマ、タンマ!」

「…?」

「し、シンのスピードで……走られたら……死ぬ」

千枝と鳴上は倒れるように土手に横になった。

シンはゆっくりと速度を落とすと少し息を切らしながら、二人のもとへと向かう。

 

「なんだ、だらしないな」

「無理だって……あんな速度…ま、マラソン…選手じゃないんだから­­」

千枝は息絶えだえで、シンに話す。

 

「…突然…どうして?」

「……」

シンは倒れている二人の横に座ると俯き、頭の中で言葉をさがすように目線を上下させた。

そして、短く答えた。

 

「意味はない」

 

その溜めた時間とは対極的なあっけらかんな言葉に二人はどっと笑った。

 

 

 

俺は彼女達のようにはなれない。

なぜなら、人間ではないし、数え切れないほどの罪と屍の上にふんぞり返っているヤツだ。

 

だが、頭で分かっていてもとなりの芝ほどよく青く見えるものだ。

 

俺は『孤独』だ。

 

たぶん、誰かが隣にいてもこれを感じてしまうのだ。自分でも嫌になるくらい、この言葉が俺に付き纏って離さない。

 

でも、それで良い。煩わしさに比べれば、孤独の方が良い。そういったところでまた、恋しくなるのだから、もう、考えたところで意味などない。

 

 

 

 

52hzのクジラ。お前はどんな気分だ?

俺は……今は歌でも歌いたい気分だ。

俺は今…最高に虚しいさ。

 

 

 

 




今回は千枝と雪子を題材に『52hzのクジラ』の話と織り交ぜました。
52hzのクジラの話はゲームで知りました。なので詳しくは知りませんが調べてみるとなかなか、興味深かったです。
内容は何というか……ごめんなさい。って感じです。


次回は完二をやる予定です。

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