バーッと書き上げたので、相変わらずの誤字脱字があるかと思いますし、確認もせずにあげてますので、文書がおかしな部分があるかも知れないので、その際はお教えして頂ければ幸いです。
それではどうぞ。
現代の社会構造やシステム、経済などがあまり自分には関係の無い話だと思っていたし、どちらかと言えば嫌いな人間であった。
今思えば、労働によって、両親を縛り付け苦しめていたからこそ、嫌いだったのかもしれない。
我ながら子供らしい発想だが、その本音を隠すために屁理屈をつけては資本主義社会を嫌悪し罵倒していたのだ。肥大化しすぎた人類のエゴが滲み出ているようなシステムだとか、とにかくそれらしい理由を付けては社会を否定あるいは貶めようとしていた節がある。
だが、人間を辞めてそんなエゴイズムを排除した時に見えたのは、社会の役割とそのシステムの虚構さである。
人間が社会システムや資本主義を構築し、稼働させていたはずなのに、今となっては
人間は何一つコントロール出来ていない。社会も他人、自分の人生でさえ。
「こんにちはー。イナバタウンの明智です」
明智はその日、巽屋に来ていた。彼の『法外電波受信機』のものではなく、普通に仕事として来ていた。
「ああん?」
「どうも、巽くん」
襖の奥から出てきた少年に明智は平然と尋ねた。普通であれば彼の外見に恐れ慄くが東京の荒々しい人々に揉まれに揉まれた明智には彼など『金髪ひよこ』に見えていた。
「けっ、あんたか。なんか用かよ」
「いや、そういえば、先日はありがとうね」
「?」
「事件のことだよ、キミに色々聞いたからね。
明智は商品を見ながら話す。
「…それで、何の用だよ」
「取材だよ。最近話題のこれ」
明智はそういうと編みぐるみを手に取った。
「それで取材されたのか!?」
花村は驚いた表情で完二を見た。男子5人は相変わらず、ジュネスのフードコートに居て、花村とクマはバイトの休憩中に集まっていた。
「え、ええ。まぁ、なんつーか…はい」
完二は少し照れながらそう答えた。
「むきーー!!クマよりも先にマスコミデビューなんて、許せんクマ!!」
「いや、完二の場合は既にテレビデビューしてんだろ…」
「でも、良く受けたな」
鳴上の言葉に完二は少し照れた様子で答えた。
「その、何つったらいいんですかね。相手の記者が話しやすいやつで、悪い気がしなかったんスよ」
「…それがヤツらの仕事だからな」
シンは鼻で笑うとビフテキにかぶりついた。
「いや、まぁ、そーなんスけど…なんつーか、すげぇ、自然体な人だったんスよ。頭とかボサボサでやる気なくて。でも、とにかく、話し易かったんス」
完二は上手く言えずに終始頭をかいて答えていた。
「まぁ、確かに変わった記者がいるとかってのは聞いたけど、あの人がか…」
花村は明智の顔を思い出しながら背もたれに寄り掛かり天を仰ぐ。
時計の針が22時を周り始めた頃。校正を終えた明智の部下である神田が口を開いた。
「…どうして、先輩は一人で踊ろうとするんですか?」
明智は原稿を書いている最中にそんな言葉を後輩に掛けられた。神田という、自分には勿体ないほどのアシスタントと明智は思っていた。ページの校正をしたりなどは彼女の仕事になる。明智はパソコンから目を離さずに口だけを動かした。
「…随分と詩的な表現だね。中々、素敵な表現だ。それを僕の凡夫な脳みそでも分かるように説明してくれ」
「…分かってて聞いてますよね」
ジト目で神田は明智を睨む。
「はぁ……なら、正確に言います。どうして、1人で何もかも抱え込んでいるのですか?校正も先輩はライターですからやらなくて良いのに、今日印刷屋さんとの打ち合わせから戻って来たら終わってて、私の軽いチェックだけの状態にしないで頂きたい」
その怒りの言葉に明智はやっと、目線をパソコンから外し、神田を見た。
「それは申し訳なかった。僕と違って君はこの仕事に誇りを持っているんだったね」
「…そういう先輩はどうなんですか?」
ジト目で明智を見つめると明智は椅子を回転させ言った。
「僕はほら、発行部数増やすとか、有名な賞を取るとかそういうの興味無いし。いや、まあ、昔はあったけどもう、そういうことやってると際限ないからね」
明智は肩を竦めると再びパソコンへと向きを変えた。
「…私は先輩のような発想が無いですからね」
「そうじゃないよ。なんだい?君は賞でも欲しいのかい?記者として有名になりたいのかい?」
「…私は真実を書きたいんです。真実を皆さんに伝えたい。」
神田のその言葉に明智は手を止めた。
「…難しいことを君は言うね」
「?」
「いや、なんでもないよ。その話はまた今度で。早く帰りな。僕はもう少ししたら、帰るから」
明智は再びタイピングを始めた。
幻想を相手に一生を掛けられるほど…僕は純粋じゃなくなった。そんな人生が陳腐に思えて、次第に自分のやりたい事ってヤツが分からなくなってた。自分が何をしたいのか、もうかつての自分を失うことに対してコントロールがきかなかった。
記者ってやつは、人の不幸や幸福を飯の種にする人間だから。政治家並みに生産性はないし、あるとすれば、ありもしない
あるいは…僕自身もそんな
「ちっ、なんだまた来たのかよ」
「お客さんにそれは手厳しいね」
「けっ…」
完二はそう言うと編みぐるみを編みながら少し恥ずかしそうに言った。
「そのよ…ありがとうな」
「ん?何が?」
「あんたの記事のおかげか知らねぇけど、あんまりサツも色々、言わなくなってきたんだよ」
完二がそう言うと明智は一瞬、ポカーンとした後に笑った。
「な、なんか…おかしかったのかよ!!」
「アハハ…いや、違うよ。案外、警察ってやつも”公務員¨なんだなって」
「?」
「僕…というか、マスコミの役割は権力の監視機能がある。キミの意外な一面やありもしない噂を今回の記事で僕は消したつもりだ。寧ろ、住民達からすればキミに対して好印象を与えたのかもしれない。ともなれば、キミは良い意味でも悪い意味でも目立つから、そんなキミを邪険にしたら、警察が批判を受ける」
明智は編みぐるみのジャックフロストを弄りながら続ける。
「?」
「…まぁ、つまりさ。これまで、君が嫌ってた『他人の目』ってやつがキミを厄介事から多少守ってくれるってことさ。僅かな期間かもしれないし、もちろん、キミが悪いことをすれば、それは相殺される。」
明智の言葉に完二は数秒考えて口を開いた。
「なんで、オレにそこまでしてくれんだ?」
「…うーん、慈善事業って訳じゃないな。僕達は人の不幸や幸福を飯の種にしてる。それが仕事だからって訳でも無いね」
明智はジャックフロストを置くと腕を組んだ。
「今回は単純にキミが羨ましかったからかもね」
「?」
「理解者がいて、同じ方向を向いていられる仲間が居て。それがきっと羨ましかった」
明智は座ると口を開いた。
「少しだけ、独り言を言うよ」
明智はそういうと語り始めた。
道で迷った時、どこを向いていれば良い?
透き通るくらいの空だろうか。分厚いコンクリートの地面だろうか。手を引いてくれる人は居ない。それでも、手を貸さない人々は言う。
前を向いていろと。そんな言葉を信じて、いつの間にか自分のコントロールを失う。幻想だ。
勝手に幻の自分を作り出して、その人が手を引いてくれていると誤解させる。自分が崖から落ちているのに気付かない程に幻に縋る人もいる。
なぜなら、この現実ってやつがどうしようもないほど幻想に近づいてきているからだ。それなのに、夢は遠ざかった。このひどい矛盾をどうしたら解消出来るんだろうか。
自分をコントロール出来ないんだ。
「…」
明智はパソコンから目を離し時間を見た。
隣にはせっせと校正をしている部下がいる。
「…前の話だけどね、神田くん。」
「はい?」
パーテーションの仕切りから顔を出し、明智は言った。
「僕は君と同じように真実を書きたかった。それで、世界を救えるって本気で思ってた。世の中を変えられるって。『ペンは剣よりも強し』ってね」
「でも、新聞なんかじゃ世界は変えられない。良くなるどころか、気が付けば悪いことを伝えることばっかりになっちゃったんだ」
明智は指を折りながら説明を続ける。
「収賄、殺人、強盗、世間を賑わした人の自宅に押し掛けたり、とにかくそんなことばっかりが目に付いた。そんなある時、被害者の子供にこう言われたんだ」
「『お兄さんはどこへ行くの』ってね。話の流れ的にはおかしな事じゃなかった。僕は次の仕事に行かないとって言ったら、子供がそう言ったんだ」
明智は大きく背もたれに寄りかかり言葉を続ける。
「その時の僕には目的地が見えてなかった
その日に起きた事件を追うだけ。一日先も見えてなかった。道に迷ってたんだ」
明智は顔を上げると言った。
「でも、昼間に言われたんだ」
「…それは別にテメェだけじゃねぇよ。オレだって前まではそうだったんだ。でも、鳴上先輩や他の色んなヤツに『テメェはテメェのままで良い』って教えて貰ったんだ」
「オレだって目的地なんてねーよ。でも、オレがオレらしくいりゃぁ、多少、まともな目的地が見つかるんじゃねぇかなって思ってんだ」
完二は鼻の下を少し恥ずかしそうに擦りながら言った。
「ニセモノの自分でも、テメェがテメェを信じなかったら誰が信じてやれるんだって」
青二才が何をと思うかもしれないけど、
「…若いってのは羨ましいよね。僕達だって、好きで歳をとったわけじゃないのにね」
「先輩と一緒にしないでください。私はまだアラサーですから」
「高校生からみたら、ドングリの背比べだよ。大した違いはないよ」
「
神田が強く言うと明智はあはははと頭を掻きながら誤魔化した。
「僕は君も羨ましい。真実を伝えたいって気持ちは、『幻』や『偽物』が跋扈するこの社会じゃ、実現は難しいかもしれないけど、それでも探し続けることに意味があるとすれば、それはそれで儲けもんだよ」
「……」
「完二くんに言われて思い出したから、下手くそなりに君より長く生きてる僕が教えてあげる。もし、君が真実を追いかけていて、苦しくなっても一つだけ忘れちゃいけないことがある」
明智はパーテーションに隠れると言う。
「自分の本心を誤魔化すのは止めた方がいい」
「?」
神田は首を傾げた。
「…本当の自分の声が聞こえなくなるからさ、僕みたいに」
『君は何と戦っているんだね?』
『それはもちろん、新聞としての役割を果たすために、不正や汚職とです。世間の人達に真実を伝えたいんです』
『確かに、君の記事はよく読まれているし、読者の反応も大きいみたいだね。加えて、世界的にも評価された』
僕の大学時代の恩師はそういうと、僕を見ながら言った。
『でも、ボクとしては大学時代に書いた君の幻想や肉声の方が好きだった。今の君は軽蔑しているんだ。君自身の夢や君自身の肉声を』
『……』
『それはよくないよ。君が君の肉声を軽蔑したら、聞こえなくなってしまうよ。それを今の君が偽物と否定したところで、『偽物』と声をあげるその声も『偽物』だと思っている君自身の声も……どれだけ否定しても『君の肉声』なのだから』
「あー、そこを通すんですよ。んで、ここに入れるんス」
「ふむ」
巽屋に完二とシンが居た。シンは完二に絶賛、編みぐるみを教えて貰っている最中である。
シンとしては気まぐれで始めてみたが、これまた、完二の熱の入りように多少圧倒されつつ、暇な時に巽屋に来て、こうして指導を受けている。
綺麗に編まれたそれは、ジャックフロストの帽子のボンボンが完成しつつあった。
「…よくわかんないなぁ。何をどうしたらそうなるんだ?」
明智の方はただの毛糸の塊でそのまま猫が遊びそうなものであった
「その、アンタ不器用ッスね」
「…べ、別にいいさ。僕は文章で飯を食べてるんだ。編み物が出来なくても」
明智は諦めたように毛糸の塊を置くと横になった。
「君たちも分かるさ、どうしょうもなくて、救いようのないドン臭くて、ただ歳を食った大人にでも何かしらの取り柄があるってことがさ」
「……ちっと、休憩しましょう。茶菓子とかあるんで持ってきます」
完二はスルーすると奥へとお湯を沸かしに行った。
「…どうにも僕には不向きのようだよ」
「違いない。必ずしも、最良の教師から最良の生徒が生まれる訳では無いさ」
明智はゆっくりと起き上がると皮肉そうに肩を竦めた。
「それもそうだね。僕は編みぐるみには向いてない。それだけの話だね。言葉にすると呆気ないけど、口に出すと自分の情けなさが痛感できるね」
明智はコートを着るとシンを見て言う。
「…幻と戦い続けるのは辛いと思う。足を止められたら、止めてみるのも悪くないよ?」
明智はシンの瞳を見ながら囁くように言った。
「…違うな。幻など初めからない。あるとすれば、醜悪な現実を隠すため自分の作りだした現実でしかない」
「随分とリアリストなんだね」
「お前みたいなやつをロマンチストと呼ぶならそうなのだろう」
その言葉に明智はフフッと笑い答える。
「僕がロマンチストなら、キミは星の王子さまかな」
「そういう一面があることは否定しない」
シンは出来上がり途中の編みぐるみを持ち上げると答えた。
「醜い現実に醜いと言ったところで美しくなる訳ではないのなら、一層のことコントロールを諦めて、享受するしかない時もある。成すがまま、成されるがままだ。」
シンは再びあみぐるみを編み始めた。
明智は何も言わずに店を出ていった。
「…その先輩はどうして、編みぐるみなんて?」
明智が帰ったあと、シンに尋ねてきた。シンは黙々と編みぐるみを作りながら答えた。
「単純に興味があったからだ。他意もない」
「そうっスか」
「お前達と違って俺はもう何千年と生きてる、数えられないくらいにな、加えてあの世界はただ停滞している。改めてこんな世界に来た時に、こうして自分の視野を広げて見るのも悪くないと思っただけだ」
「…そういうもんなんスかね」
完二は後ろに倒れるように畳に寝っ転がる
「自分のしたいことをする。俺はそうしてきたし、これからもそうだ」
「…やっぱ、センパイが羨ましいっスよ」
「今のお前もそう大差ないだろう?」
シンの言葉に完二は照れながら笑った。
コントロールは幻想だ。
しかし、その幻想も現実だ。
自分の認識のコントロールが完璧に出来たらと時々思う。あるいは、自分の知覚する世界だけでも、コントロール出来たらと思う。
そうすれば、この癒えない痛みからも多少なりとも解放されないだろうか。
この醜い現実をどうにかして美しく出来ないものだろうか、夢を追い続けるために辛い現実を書き換えられないだろうか。
そんな、夢物語ばかり想像してしまう。
それに、この問いの行先は『他者の否定』だ。
…勇と同じ答えにたどり着くだろう。
成すがまま、成されるがまま、手の届かない事をコントロールしようなど意識したところで、手が伸びるわけでもあるまい。
それを後悔したところで、得るものは酷い自己嫌悪と他者への猜疑心の増長だ。
コントロールは幻想だ。
今回、とある海外ドラマに触発されて書きました。
わかる人というか、調べれば分かると思います。
タイトルとかモロですからね。
今回は完二の話というです。完二の真っ直ぐな感じが出せれば良いかなと思いました。
次回はいつになる事やら…
お待たせしてしまうかもしれませんが、どうぞよろしく