※タイトル被ってたので変えました。
「……なんかめぐみん、変わったよね」
「はい?」
ゆんゆんとボードゲームを始めてからそれなりの時間が経った頃、急な話題に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
今日はあまりにも暇だったので外出していためぐみん。アクアは農作物やゼル帝を育成中、ダクネスは用事で実家に戻り、カズマはウィズの店に行きバニルと何か取引をしているようだ。
暇を持て余し冒険者ギルドにやってきためぐみんは、相も変わらずぼっちなゆんゆんとボードゲームで遊ぼうと誘ったのだ。それだけでゆんゆんは猛烈なまでに喜び泣いてしまう。
駒を差しつつめぐみんは口を開く。
「急にどうしたのですか? まぁ成長期ですから、私の醸し出す女性の魅力に今更気が付いたようですが」
「それはないと思う」
「本当に貴方は普段オドオドしてる癖に口だけはいっちょ前ですね!!」
「いはいいはい!! ふぇふみんいはい!!」
テーブルから身を乗り出しゆんゆんの頬を左右に引っ張る。涙目になってきたので頬を放し、溜め息を吐く。
「で、具体的にどこが変わったと思ったんですか?」
「うーん、何て言えば良いんだろう……めぐみんの言い方がちょっと大げさだったけど、でもなんとなく見た目が大人っぽくなってきたっていうか……ここにしよ」
「ほう。つまり前までは中身どころか見た目も子供っぽいと感じていたんですね!? 嫌味ですか! その胸に垂れ下がっている脂肪をこれ見よがしに私に見せつけるという最悪な嫌味を私にしてきたわけですか!」
めぐみんは駒を差す手に力を込めてしまい『ダァン!』と叩きつけるように駒を置く。周りにいた冒険者はビクッと体を震わせ振り向くが、相手が有名な問題児の紅魔族であると気付いたのか、そそくさとその場を去る。
ゆんゆんは慌てつつ、
「ち、違うよ! 確かにめぐみんはちょっとしたことでも怒るし変なことばっかりするけど、私よりも頭が良いし……あれ、でも最近はバカなんじゃないかなぁって思ったりも……」
「一度貴方とはきちんと話し合った方が良さそうですね」
「で、でもでも、本当に変わったなぁって思ってるよ?!」
額に青筋が浮かんできためぐみんにゆんゆんは弁解する。
「でも何でそう思ったんだろう……あ」
「どうしました? 懺悔なら聞いてあげますよ」
「物騒なこと言わないでよ! そうじゃなくて、気付いたの! めぐみんが変わったなぁって思ったところ!」
「ふむ……ここにしましょうか。で? 私の変わったところとは?」
あまり興味無さげなのか、駒を差す手を止めないめぐみん。ゆんゆんも駒を差しつつ、
「めぐみん、髪伸びたよね」
駒を差す手が止まる。どこに置くか悩んでいるわけではない。ゆんゆんの指摘に戸惑っているからだ。
めぐみんは駒を差しつつ、頬を赤らめながらぼそりと呟いた。
「……やはり、伸びてきましたか?」
「え、どうしたのめぐみん。顔がすっごい乙女っぽい」
「あぁ、いえ……その……」
「髪切らないの? 前までのめぐみんだったら、鬱陶しいからっていう理由でちょっとでも伸びたらすぐ切ってたのに」
「……そうですね。前までの……カズマと出会う前だったら、すぐ切っていたでしょうね……」
「だよねー」
駒を差しつつゆんゆんは適当な返事をしてしまったが、ふと違和感を覚える。
『カズマと出会う前だったら』
めぐみんは確かにそう言った。つまり、髪を伸ばしているのはカズマが原因である可能性が高い。そうつまり――
「えっ、めぐみんってカズマさんが原因で髪伸ばしてるの?!」
「……えぇ、まぁ……その通りです……カズマが、髪が長い人が好きだって言ってましたから……」
更に頬を赤くしてしまった新鮮なめぐみんを見て、ゆんゆんはボードゲームをやっているのを忘れたかのように勢いよく立ち上がる。
「か、カズマさんのために髪を伸ばしてるってことだよね?! えっ?! っていうことは、カズマさんの事が好きなの?!」
「好きですよ」
慌てふためくゆんゆんの質問にめぐみんはさらっと答えてしまい、あまりにもストレートな返しに逆にゆんゆんの勢いは衰えていく。
「そ、そんなあっさり言わなくても……でも、めぐみんの理想って確か、勇者みたいな人だって言ってなかったっけ? それなのに、悪い評判しか聞かない最弱の冒険者のカズマさんのことが好きになったの?」
「仮にも私の好きな人を愚弄するのはやめてもらおう」
ギラリとめぐみんの紅い双眸が輝き、ゆんゆんはビクッと怯える。
しかし、すぐさまめぐみんは目を閉じ、溜め息を吐いた。
「まぁ、私自身もカズマの事を好きになるなんて、出会った時は考えられませんでしたよ。第一印象は変な人でしたし」
「そうだよねー」
「それに人のパンツをスキルで盗む、一緒にお風呂に入ってしまう、オマケに私の親の陰謀とはいえ、一緒の布団で寝たりと節操なさすぎなんですよあの人は」
「あはは……」
だんだんと愚痴が漏れるようになってしまっているが、フッとまた見たこともない笑みを浮かべ、
「でも、やる時は本当にやる人ですからね、あの人は。魔王軍の幹部にとどめを刺しているのは私達ですが、カズマはそのための作戦を思いつく凄い人なんです。ダクネスを助けたこともあるんですが、その時のカズマは自分の財産を全て使う覚悟を持っていました。ヘタレなのに、肝心な時はカッコよくて……そんなカズマを見て、好きになってしまったのかもしれません」
普段のめぐみんからは考えられないほど乙女な表情をしており、ゆんゆんは正直感心を覚えていた。
「めぐみんがこんなにも変わってるなんて……1に爆裂。2に爆裂。3、4にも爆裂。5も爆裂しか考えていなかっためぐみんが……」
「やっぱり馬鹿にしてますよね? 喧嘩なら受けてたとうじゃないか」
再び双眸を輝かすめぐみんに怯えつつも、変わっていない部分もあったため少しホッとするゆんゆん。
「でも、そういうことなら応援する。こんなに頑張ってるめぐみんは放っておけないもん。わ、私達……し、親友だし……」
「いえ、貴方は私の自称ライバルですよね?」
「どうしてそこで素直にありがとうとか言えないの?! 今の私の勇気を返してよ!」
涙目で訴えてくるが、めぐみんは気にもとどめず再びボードゲームを再開する。
しかし、めぐみんの表情はどこか上の空だった。
(……カズマに会いたいですね)
今の会話ですっかり気分が変わったしまったようだ。そわそわと落ち着かない様子をしているのだが、ゆんゆんは気付かない。
めぐみんが適当に駒を差すと、
「掛かったわね、めぐみん! 幾らめぐみんに恋愛で負けてもこの勝負は私の勝ちよ! ここにこの駒を置けば、私の王手! 今日こそは――」
「エクスプロージョン!」
「あぁーーーーー!!!」
盤上をひっくり返すという問答無用なルールに、ゆんゆんはガクッとテーブルに突っ伏す。
「うぅ……何でこんなルールがあるのよぉ……でもルール上、エクスプロージョンは一日一回しか使えない! めぐみん、もう一勝負――」
「すいません、急用を思い出したので、また次の機会に」
「えっ……えぇーーー?!」
泣き叫ぶゆんゆんをよそに、めぐみんは早歩きでギルドを後にした。
――――
めぐみんはウィズの店の扉を開ける。カランカランというベルが店内に響き、その音に反応して店番をしていたであろうウィズが、普段以上に青白い表情で微笑みながら顔を上げた。
「いらっしゃ……あ、めぐみんさん」
「こんにちわ……な、なんか普段以上に顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。ちょっと一週間ぐらい寝ずの店番をやっているだけですから」
「大丈夫じゃないですよね?! 何時からこの店はブラック企業になったんですか?!」
「心配しなくても大丈夫よ。私リッチーだから死なないし……あ、めぐみんさんの後ろに私のかつての仲間が……」
「怖いこと言わないで、早く休んでください!」
かつて自分たちの屋敷に幽霊がいたことを思い出してしまい、めぐみんも顔を若干青くしてしまう。
そんな会話が聞こえていたのか、店の奥からバニルがやってくる。
「おや、あの小僧に今すぐ会いたくて会いたくてウズウズしている紅魔族の娘よ。残念ながら小僧はついさっき出て行ってしまったぞ」
「そうですか。行き違いになってしまいましたね……」
「む。戸惑いすら見せぬとはな。悪感情すら発さぬならば、とっとと小僧を追いかけるがよい」
「言われるまでもありませんよ。それよりも、ウィズを休ませてあげたらどうですか? 三途の川が見える寸前でしたよ」
めぐみんの指摘にバニルはウィズを見る。虚空に向かって手を振る姿がなんとも痛々しい。
バニルは額を抑えつつ溜め息を吐くと、忌々しそうに話を始めた。
「そうは言うが紅魔族の娘よ。このポンコツ店主はギリギリまで働かせなければ何をしでかすかわからん。またゴミを大量に仕入れるやもしれぬからな」
「その様子だとまた何か大量に仕入れたんですか?」
「その通りだ」
バニルが手にしたのは、どこにでもある水晶玉だ。黄色く輝く水晶玉を見て、気に入ったのか食い入るようにめぐみんは見ている。
「結構綺麗ですね。ふふ、紅魔族最強を名乗るのであれば、その見事な輝きを持つその水晶玉は私に相応しいでしょう」
「相変わらずであるな。まぁ処分する予定だ。一つくれてやろう」
めぐみんは水晶玉を手にする。
「綺麗ですね……どうしてこれが問題なんですか?」
「うむ。それは恋愛水晶玉と言ってな。魔力を注ぐだけで自分の想う相手の未来が見れるという物らしい」
「ちょっと待ってください。お金払います」
めぐみんが財布を取り出し、お金を出そうとするがバニルに止められる。
「愚か者。それはゴミだと言っただろう。観賞用ならば問題ないが、実際に魔力を注げばそれが如何に欠陥品なのかがわかるぞ」
「えぇー……一体どんな欠陥が?」
「うむ。一度魔力を注いでしまうと、使用者の魔力どころか命すら奪ってしまう代物だ」
めぐみんは無言で水晶玉を床に叩きつけた。
――――
「えっ? 帰ってきてない?」
バニルにお詫びに占ってもらった結果、今日はもう屋敷に帰るのが吉と言われたので帰ってきたのだが、まだカズマは帰っていないとアクアは言う。相変わらずゼル帝を撫でているものの、掌に穴が空きそうなぐらいに突かれているアクアがものともせずにソファーに座りながら話を続ける。
「そうよー。全くカズマったらなにしてるのかしら。ゼル帝のご飯買っておいてって言っておいたのに。これはもうアレね。今夜のおかず一品減らしておいた方が良いわね」
「地味な嫌がらせですね……まぁいいです。その内帰ってくるでしょう。ちょっと早いですが、お風呂入ってきます」
「はーい」
アクアの気だるげな返事を聞きながらリビングを後にする。自室に行き着替えを持ち風呂場へ向かう途中、無意識に溜め息を吐いていたことに気付き、口を押える。
(……カズマに会えないってだけでこんなにも気が参ってしまっているのですね……)
ゆんゆんの言う通り自分は変わったかもしれない。それは良いことなのかどうかはわからないが、少なくとも今の状態はさすがによろしくないと自分でも思う。
恋を自覚したのはいつなのかは分からないが、少なくとも今気が参っているのは明らかにカズマのせいだと微笑みながら思う。
(いてもいなくても私を惑わすとは……カズマの癖にやりますね)
そう思いつつ風呂場に着いためぐみんは、服を脱ぎ浴場へ。水を張り魔道具に魔力を送り、お湯に変わったところでいったんシャワーを浴びる。
(……やっぱり少し髪が伸びましたね)
最近は髪を洗うのに時間が掛かっている気がする。前までは肩にも届かなかったというのに、今では少しだけ届くようになっている。
もう少しで彼の理想のタイプに近づける。そう思うと、ニマニマと口元が緩んでしまう。誰もいないので気にする必要なないが、他人から見れば確実に変人と思われるだろう。
「はふぅ……」
湯船に浸かり、気持ちよさそうに息を吐く。肩まで浸かったところで、めぐみんはまたさびしそうな表情になる。
(……なんだかんだ今日はまだカズマの顔を見てませんね……)
朝はいつもと同じような時間に起きたにも関わらず、屋敷にいたのはアクアだけだった。カズマの顔を見ていないだけでこんなにも弱々しくなってしまっていく自分は、果たしてこれが良い変化なのだろうかと考える。
カズマの声が聞きたい。
カズマに会いたい。
そんな欲求が彼女の心を包み込み、泣きそうになってしまう。
顔半分まで湯船に浸かり、
「めぐみん。いるか?」
「?!」
今一番聞きたい人の声が聞こえ、慌てて湯船からバシャッと音を立てながら体半分出てしまう。
「お、おい? 大丈夫か?!」
その音を聞いて只事ではないと思ったのか、カズマの慌てる声が聞こえる。中に入らないのは、彼なりのせめての心遣いだろう。
「だ、大丈夫です! 変態カズマのことですから、遠慮なしに入ってきたんじゃないかって思っただけですよ」
「いや、そこまで節操なしじゃあ……うん、まぁ……」
「いや、否定してくださいよ……」
おそらくダクネスと二回も風呂に入ってしまった件で否定しようにもただの言い訳にしか聞こえないと判断したのだろう。
だがそんなことよりも。
今一番聞きたいカズマの声が聞けて嬉しいと思っている自分がいる。
ここまでチョロかっただろうかと自問自答したいところだ。
「そ、それにしてもどうしたんですか? 一緒にお風呂に入りに来たんですか?」
「ちげぇよ! 俺どんな風に思われてんだ! そうじゃなくて、アクアから聞いたんだよ。めぐみんが俺に用があるって」
もしかしたらアクアが自分に気を使っているのかもしれないと思ったが、あのお気楽な自称女神がそこまで考えているとは考えられないと自己完結する。
めぐみんはクスクスと笑い、
「いえ、カズマに会いたいって思っただけですよ」
「……え? それだけ?」
「それだけとはなんですか。好きな人に会いたいって思うのは自然なことですよ」
「お前なぁ……だからそういう思わせぶりな事言うなって……」
「ふふふ」
少し困りつつ、しかし照れているだろうカズマの顔を想像すると、笑みが止まらなかった。
カズマは溜め息を吐いて、
「とにかく、それだけってんなら早めに風呂上がれよ? そろそろ飯にするから」
「はい、わかりました」
「あぁー……それと!」
急に少し大きく声を出すカズマに一瞬驚いたが、怒っている訳ではないようなのでカズマの会話を待つ。
カズマは何故か一つ深呼吸してから、言う。
「その……髪伸ばしてるみたいだな。似合って、る……」
カズマは恥ずかし気な声で語る。だがめぐみんは、まるで時が止まったかのように硬直してしまい、返事ができずにいた。
(……気付いてくれた? あのカズマが? 肝心な時にヘタレてしまう、あのカズマが?)
信じられない気持ちでいっぱいになるが、同時に嬉しくも思う。カズマが自分のことをきちんと見ているという事に。嬉しくて嬉しくて、顔も耳も熱くなる感覚がする。どうしようもなくなり、湯船にまた顔半分まで浸かってしまう。
「あぁー……と、とりあえず、そういうことだから! また後でな!」
「あ、ちょ――」
めぐみんの返事を聞かずに、カズマがドアを開けて出ていく音が聞こえる。湯船から出てしまうが、今から行っても無意味だろうと判断し、今日何度目かわからない溜め息を吐き、湯に浸かる。
(卑怯ですよ、カズマは……ヘタレなのに、肝心な時に決めて……)
予想外の行動に弱いめぐみんは、先ほど言われたカズマの言葉を思い出す。
『その……髪伸ばしてるみたいだな。似合って、る……』
「え、えへへ……」
自分でも気持ち悪い笑顔をしている自覚はある。でも、こればっかりは仕方がない。これがバニルの言っていた吉というやつだろう。
想い人から思わぬ言葉が聞けたのだ。嬉しくないわけがない。
まだまだ緩みっぱなしの表情をしながら、めぐみんは意を決した表情をして湯船から上がる。
(あのカズマからあんな不意打ちを喰らったんです。紅魔族は売られた喧嘩を買うのが主義。今度は私がカズマにお返しをしないと!)
そう心に決意し、めぐみんは浴場から出る。体を拭き、着替えを早々と済ませる。
(どんなことを言ってやりましょうか。耳元で大好きですと言ってやるのも良いですね。それだけであの人は顔を真っ赤にするでしょう)
くすくすと笑いながらカズマがいるであろうリビングへと足早に向かう。
あれだけ会いたいと願っていたのだ。多少の意地悪ぐらいは許されるだろう。なによりも、自分が願っていた言葉を言われたのだ。仕返しぐらいはしないと気が済まない。
愛しい彼に会うために、リビングのドアを開ける。
この素晴らしい一時に感謝を込めて、めぐみんはカズマの傍に立つ。それこそが、彼女の幸せなのだから――