このすば!短編集   作:ヒザクラ

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はい、どうも。自分でも驚くほどのペースで書きなぐっています。そろそろペースダウンするところでしょう。
ちょっと今回の話は無理やり感がありますね。反省します。

さて、自分はこのすば作品の原作14巻までようやく見終わりました。他にもスピンオフ作品も大体見終わり、今は『この愚か者にも脚光を!』を黙読しています。ダストの過去が非常に気になりますが、カズめぐはまだまだ書き続けます。

ちなみに今回でカズめぐが恋人同士になりましたが、次の作品は恋人からなのかと言えばそうでもないです。時間軸なんてバラバラですし、そもそも私は書きたいものをただひたすら書いてるだけですからね。
なので、恋人未満のカズめぐばかり書いていきますが、コンゴトモシクヨロ。


悪夢を見るか、幸せを掴むか

 それは、とてもとても暗い空間にめぐみんは一人立っていた。右も左も、前も後ろも、そして上も下もただただひたすらに真っ暗だった。そんな空間にいても、めぐみんはどこか落ち着いていた。

(……また夢ですか……)

 既に何度も見た夢だ。この暗すぎる空間を何度も見てしまえば、必然と慣れてしまうもの。

 そして、これから現れるであろう同じ光景を何度も見せられる。

 変化は突如として起こる。暗い空間から光が上から降り注ぐ。まるで何かを照らし合わせるように。それが祝福の光であればどれだけ救われたか。

 光に照らされているのは、カズマと膝からガクリと地面に着き、今にも泣きだしそうなめぐみんだった。しかし、自分の意識は別にある。まるで劇場でも見るかのように、本物のめぐみんは無表情で二人を見ていた。

 二人はお互いに見合わせているが、カズマはふと偽物のめぐみんから背を向け、どこかへと歩き始める。

『待って下さい! カズマ!』

 偽物のめぐみんが悲鳴にも近い声をあげる。自分はそんな声など出さないと声を出したかったが、何故か口をパクパクと開けることしか出来ず、声も出ない。

 やがて二人の距離はドンドン遠くなっていく。

『私たちを……私を置いてどこに行くつもりですか……!!』

 大粒の涙を流し、偽物のめぐみんは絞り出すかのように声を出す。

 やがてカズマは闇の中へと溶け込むように消え去り、見計らったかのように偽物のめぐみんは勢い良く立ち上がり、叫んだ。

『カズマぁああああああ!!!』

――――

「……またあの夢ですか……」

 目が覚めると、そこはいつもの自分の部屋だった。日が昇っているのがカーテン越しでもわかる程に光が隙間から注がれていた。

 気怠い自分の体を起こす。先ほどの夢のせいか、汗をかいていた。びっしょりという訳ではないが、軽くシャワーでも浴びたい気分になる。少しよろめいてしまうが、体をなんとか起こしてカーテンを開けた。

(……もう何度、あの夢を見たことでしょうか……)

 先ほどの夢を見始めたのは、あれはエリス&アクア感謝祭の日からだろうか。カズマ、ゆんゆんと共に祭の催しを見ていたのだが、ふとカズマが物憂げな表情をしたのだ。似合わないと思いつつ傍に近寄ったのだが、

『俺……本当に異世界に来たんだなぁ』

 そう呟いたのだ。一体何を言っているんだろうと思ったが、その時の状況から察するに、無意識化で呟いていた可能性が高い。

 つまり、本音。

 こんな時に察し能力が高く、自分の頭脳の良さを呪った日はない。

 カズマが、異世界からの来訪者。

 もしそれが真実ならば、彼がこの世界に来た目的はなんなのかと問うべきなのだろうが、めぐみんが思い浮かべたのは、もっと最悪な予想だ。

 もしカズマが、元の世界に帰りたいと思っていたら?

「……っ」

 胸の奥がズキリと痛むのを感じ、手を胸の辺りで押える。

 考えたくはなかった。カスマとかクズマとか鬼畜カズマと酷評を受けている彼だが、それでも自分の悪知恵で魔王軍の幹部や大物賞金首を倒し、なんだかんだと街の皆から信頼を受けている。屋敷では引き籠りで滅多に動こうとしないが、仲間のピンチになると「しょうがねぇなぁ!」と文句を言いつつも助けてくれる。そんな彼が、自分たちを置いて元の自分の居場所に帰るなど、考えられない。

 それからだ。あのような悪夢を見始めたのは。

 最初の頃こそ酷いものだった。初めてあの悪夢を見た時は、目が覚めて早々に吐き気がしたものだ。しかも起きたのは深夜で、それからは寝ることに恐怖してしまった。朝になって、フラフラとした足取りでリビングに降りた時は、唯一起きていたダクネスに心配された。

 しかも、一週間に一回しかその夢を見ることはなかったのだが、最近では二日に一回はその夢を見るようになってしまった。すっかり慣れてしまったが、それでも気分の良いものではない。

 めぐみんはパジャマからいつもの私服に着替え、重い足取りで自室を後にする。しかし向かうのはリビングではない。

 あの悪夢を見た後は、必ずカズマの部屋に向かうことにしている。絶対にそんな事は無いと思っているが、カズマが消えていないか確かめるためだ。

 めぐみんはカズマの部屋の前に立ち、コンコンとノックをする。

「カズマ……入りますよ」

 返事を待たずにドアを開ける。今は朝方だ。またいつものように徹夜をし、この時間帯であればまだ寝ているだろうと確信している。そしてめぐみんは、そんな彼のだらしない寝顔を見ながら手を握るのが、あの悪夢を見てしまった時の習慣になっているのだ。

 めぐみんはドアを開けてカズマが寝ているであろうベッドを見て、

 カズマが、いない。

 ベッドは綺麗に整頓されていた。まるで彼が、この世界にもう存在しないかのように。

 めぐみんは乱雑にカズマの部屋を出ていき、リビングへと走る。バァン! と勢いよく開けると、紅茶を飲んで寛いでいるダクネスが驚いた表情でめぐみんを見ていた。

「め、めぐみん? どうしたんだ、そんなに慌てて」

「か、カズマ! カズマはどこですか?!」

「カズマなら、アクアと一緒にギルドに向かったが……」

 それを聞いてホッとしたのか、めぐみんがその場に崩れ落ちた。ダクネスは紅茶をテーブルに置き、めぐみんの傍に駆け寄る。

「ほ、本当にどうしたんだ? 顔色も悪いぞ」

「……い、いえ、ちょっとカズマに文句があったもので……その、すいません。騒いでしまって」

 めぐみんはゆっくり立ち上がり顔でも洗おうと洗面台がある風呂場に向かおうとして、

「めぐみん。嘘をついているな?」

 ダクネスに腕を掴まれ、止められてしまう。めぐみんは振り向きもせず、

「……なんのことですか?」

「紅魔族というのは実に分かりやすいな。目が光っていたぞ。ただ、あんなに不安になるような光り方は初めてだ。一体何があったんだ?」

 優しく言葉を紡ぐダクネスだが、めぐみんは振り向かない。

 振り向けない。

「大丈夫です……大した事じゃありませんから……」

「私たちは仲間だ。もし不満があるなら、遠慮なく言ってほしいんだがな」

 振り向いたら、今の醜い自分の顔を見せることになる。それだけは絶対に見せられない。

「本当に大丈夫です……顔洗ってきますから、手を放してくれませんか」

「めぐみんが本当のことを言うまで、放さない」

 ダクネスはそう言って、めぐみんの体を背後から抱きしめる。

 いつもであれば憎たらしい胸に反応し激昂するところだが、今は母性溢れる優しい抱擁に甘えてしまいたくなってしまう。

「無理しなくて良いんだぞ」

「っ……ふ、くっ……」

 ダクネスの腕を抱いて、めぐみんは涙を流してしまう。プライドが許さないのか、声を押し殺して泣いているが、ダクネスは全てを受け入れるかのように、めぐみんの嗚咽を聞いていた。

――――

「すいません。急に泣いたりしてしまって……」

「気にするな。中々新鮮だったぞ」

 すっかり目元まで赤く腫れてしまったため、めぐみんは顔を洗い改めてダクネスに礼を言う、ダクネスは相も変わらず女神のような笑みで紅茶をゆっくり飲んでいた。

「それでは、話してもらうぞ。何であんなに不安そうな顔をしていたのか」

「……笑いません?」

「笑うものか。もし笑う奴がいたら、私がそいつをぶっ殺してやる」

 紅茶を優雅に飲む貴族令嬢のギャップに、めぐみんは少しホッとしたのか柔らかく笑う。

 めぐみんは茶を飲んでから、語り始めた。

「最近夢を見るんです」

「夢?」

「はい。私とカズマがいて、そのカズマが私を置いてどこかに行ってしまう夢です」

 全てを吐き出すかのように言うめぐみんに、ダクネスの表情は厳しいものになる。

「もしや、前にめぐみんが酷い顔をしていたな。あの時からか?」

「はい、そうです。最初こそは信じられないと思っていましたが、最近そういう夢が頻繁になってきて……それで、その夢を見た後は、カズマの顔を見て安心していたんですが……今日の朝にカズマがいなくて、それで……」

「そうだったか……」

 笑わずに真剣に聞くダクネスに、めぐみんは微笑む。

「笑わないんですね。こんな子供みたいな下らない話なのに……」

「何故笑わなければならないんだ? めぐみんはカズマの事をそれほどまでに大切にしている。笑う要素がどこにあるというんだ」

「ありがとうございます……」

 一息入れるように、不安でカラカラになった喉を潤すため、茶を飲む。

「ダクネスは……どう思いますか? カズマはどこかに行ってしまうという可能性は考えられますか?」

「……想像したことないな。確かに私たちを厄介者みたいに扱うことは多々あるが、それでもこの屋敷に置いてくれている。文句を言いつつも仲間を大切にしているあいつだ。何も言わずにどこかへ行ってしまうなど、考えられない」

 正論だった。何も悩む必要は無いのに、それでも未だに胸に突っかかってしまうこの言いようのない不安に、めぐみんはまた目を伏せてしまう。

 それを察したのか、ダクネスは微笑み、

「一度カズマと話し合ったらどうだ?」

「え?」

「不安なら、本人に直接聞いた方がいいだろう」

「確かにそうかもしれませんが……ダクネスは、その……」

「私の事は気にするな。カズマに振られた女のことを気にしてどうする」

 まるで自分に言い聞かせるかのように言うダクネス、めぐみんはふと笑ってしまう。

「そうですね。カズマのファーストキスまで奪ってしまう女性に情けを掛けるのもどうかしていますよね」

「なっ?! め、めぐみん! まだ根に持っているのか?!」

「当たり前じゃないですか。私が奪う予定だったのに、まさか横取りされるなんて思いもしませんでしたよ。全く、年中発情しているカズマみたいですね」

「くぅ! こ、これが言葉攻めというやつか?! なんだかすごく体がゾクゾクするぞ!」

「普通に引くのでやめてください……」

 冷ややかな目ででダクネスを見るが、逆効果だったらしい。更に顔を赤らめていた。

 いつもの調子が戻ってきた気がするのを感じ、朝食でも取ろうと席を立って、

「カズマさぁーん!! このクエストは嫌ぁーー!!」

「だぁーー!! うっせぇ!! 元はと言えば、お前が生活費以上に金使うのが悪いんだろ! だったらこのクエスト行ってこい! 俺は行かないからな!」

「そんなぁ!!」

 カズマとアクアが帰ってきた。いつも通り騒がしい二人を……いや、カズマの顔を見て、一安心する。胸に突っかかっていた何かがスッと取れていくのを感じる。

 ダクネスはやれやれといった感じで立ち上がり、

「今日はどうしたのだ? 二人とも珍しく早起きしてギルドに行ったかと思えば……」

「ああああああん!! 聞いてよダクネスぅーーー!!」

 アクアがダクネスの腰に抱き着く。アクアの涙と鼻水で服が汚れてしまっているが、どうやらそれもダクネスにとってはご褒美のようだ。息が荒々しい。

 カズマは不機嫌そうに頭を掻きながら椅子に座る。

「また何かやらかしたようですね」

「いつもの事だから仕方ねぇけど、あいつ学習能力無さすぎだろ……」

「まぁ、付き合ってあげてるカズマもカズマですけどね……それよりも、カズマ」

「ん? どうし、た……」

 カズマは若干動揺していた。何故なら、めぐみんがカズマの肩まで顔を寄せていたからだ。少しでも振り向けば、くっついてしまう程の距離だ。

 めぐみんは紅い双眸を若干輝かせ、微笑みながら、しかし不安そうな声で、カズマの耳元で呟いた。

「今夜、カズマの部屋にお邪魔しますね」

――――

 佐藤和馬は非常に動揺していた。

 現在は既に夜。そろそろめぐみんが訪ねてきてもおかしくないだろう。

 アクアとダクネスは、アクアの借金返済のためのクエストに行っている。明日の昼頃まで掛かると言われた。

 つまり、今夜は誰にも邪魔されず、めぐみんとたっぷりしっぽりイチャイチャできると確信していた。

(でも、俺とめぐみんの関係ってまだ仲間以上恋人未満だよな? どうなんだこれ。でもそういうお誘いだよな? でなきゃこんな出来すぎた状況にならないよな?! エリス様からの日ごろの感謝ってことで良いんだよな?!)

 女神エリスが聞いたら神罰が降りそうな程に欲望を頭の中で語る。

(ど、どうする? 一応バニルから避妊具的なのを買ったけど、今か? 今がその時なのか?! あ、でもどこに閉まったっけ。くそ、こういう時どうすりゃ良いのかわかんねぇ!)

 悶々とした状態で毛布を頭から覆いかぶさるカズマだが、コンコンというドアをノックする音にベッドから飛び上がる。

「カズマ。入っていいですか?」

「お、おう! 良いぞ!」

 ガチャリとドアを開け、いつものパジャマ姿で入ってくるめぐみん。頬を赤らめ、緊張しているのか瞳が紅く輝いていた。

 しかし、カズマは違和感を覚える。

「あれ? お前枕は? いつもこういう時って持ってきてるだろ」

「……今夜は、必要無いです」

 顔を俯きながら言うめぐみんに、カズマの心臓がドクンと跳ねる。

「そ、そうだよな! これから一緒に寝るんだもんな?! いつでも良いぜ?」

「言っておきますけど、エッチなことは禁止ですよ」

「……………………ワ、ワカッテルッテ」

「片言で言わないでください。全く、そういうことばっかり考えて……」

 怒鳴られると思い、カズマは耳を塞ぐかのように毛布を覆いかぶさる。

 めぐみんは溜め息を吐いて、カズマに近づく。やがてベッドに上がり、カズマの隣に仰向けで寝そべる。

「カズマ」

「何だよ。っていうか、エッチなこと禁止ならなんでそう思わせぶりな態度取るんだよ。俺だけ意識しちまって恥ずかし――」

 毛布から顔を出しそこまで言って、カズマは口を閉ざした。

 めぐみんが、不安な表情でカズマの方へと体を向け、両手でカズマの手を包み込むように握ったからだ。

 いつものようにふざけている場合じゃないと悟る。

「ど、どうしたんだよ、めぐみん。俺、なんかしたか?」

「……いえ、何もしてませんよ。でも、少しの間こうしてて良いですか……?」

 不安げな表情でこちらを見るめぐみんにカズマは溜め息を吐きつつ、

「……良いよ」

 それだけ言うと、めぐみんは大層喜び、手を握る力を強める。痛くはないが、少々恥ずかしくなってしまいそっぽを向いてしまった。

「駄目です、カズマ。私の方を向いてください」

「な、なんでだよ」

「お願い、です」

 泣きそうな声に、カズマは即座にめぐみんの顔を見る。

 そこには、紅い目から涙を溜めためぐみんの顔があった。

「カズマ」

「お、おい」

「カズマ」

「お前、何で泣いて……」

「カズマ」

「ホント、どうしたんだよ」

「カズ、マ」

「めぐみん!」

 いつの間にかポロポロと涙を流し始めためぐみんに、カズマはようやく焦り始める。

 カズマはめぐみんと向き合い、空いた手でめぐみんの肩を掴む。

「どうしたんだよ。いつものお前らしくないぞ。何かあったのか? それとも、俺が何かしちまったか?」

「……う、ふぅ……」

 カズマの優しい声色に、めぐみんは更に嗚咽を漏らす。そして重ね合わせている手を、めぐみんは自分の額まで持っていく。

「どこ、にも……ひくっ……行かないで、ください……」

 悲痛な声に、カズマは眉間に皺を寄せる。これほどまでに弱った彼女を見たのは、ウォルバクに手を掛けたあの夜以来だ。

ただひたすら泣き続けるめぐみんに、カズマは無意識に彼女を抱きしめていた。

「……何のことかわかんねぇけど、俺はどこにも行かねーから」

めぐみんにも言ったが、今の行動は自分らしくないと思っている。だけどこうするしか、彼女を安心させられる方法は無いと思ったのだ。

肩を掴んでいた手をめぐみんの後頭部まで移し、ゆっくりと撫でる。風呂に入ったばかりであろう彼女の黒髪は、しっとりとしていて滑らかで、とても心地良い。

「っ……」

めぐみんも安堵したのか、顔をカズマの胸に埋め、嗚咽を漏らす。息がくすぐったいが、今は我慢する時だ。

今この部屋にはめぐみんが泣く声しか聞こえない。しかし徐々にその声は小さくなっていき、

「す、すいません……取り乱してしまって……」

「気にすんなって。いつもと違うめぐみんが見れたしな」

「うぅ、我ながら情けない……」

軽口が言い合えるまで落ち着いただろうと確信したカズマはめぐみんから離れようとする。が、めぐみんは未だにカズマの胸に顔を埋めたまま動こうとしない。

「えっと……めぐみん? そろそろ離れても良いんじゃ……」

「……もう少し、このままで……」

そう言って、めぐみんは握っていたカズマの手を離し、両手を背中まで回して完全に抱きついた姿勢になる。

ロリっ子呼ばわりしているとはいえ、感触は女性特有の柔らかさがある。胸にコンプレックスを感じているようだが、背負っている時にもなんとなく感じた二つの感触が、童貞カズマの動揺はこれ以上ないものになる。

「お、おい、めぐみん……おま、何回も言ってるけど、お預け喰らう身にもなってくれよ……マジでキツイんだぞ、この状況」

「ワガママなのはわかってます。でも、今日は……離れたくないんです」

ギュッと更に力を込めるめぐみんに、カズマは何も言えなくなる。

「……なぁ、そもそもの原因はなんだ? さっき言ってた……どこにも行かないでくれっていうのが関係してんのか?」

「……笑いませんか?」

「笑わねぇよ」

優しい声色に、めぐみんは微笑む。

全てを話した。

カズマがいなくなるのではないか。そう考えてから、カズマが自分から離れていく悪夢を見続けていたこと。それに動揺してしまった自分を。

想いの丈をぶつけても、カズマはただひたすら真剣に聞いていた。

「……変、ですよね。まだ恋人でもない、中途半端な関係なのに、こんな重い事を話してしまって……」

「そんなことねぇよ。むしろ話してくれて嬉しい。それに、お前がそんなに思い詰めてるなんて知らなかったし……あと……」

カズマは頭をグシャグシャと乱暴に掻き毟る。どうやってめぐみんを慰められるか悩んでいるのが嫌でも伝わってきて、それが嬉しく思う自分がいることに少し驚いてしまう。

「だぁあああ!! 俺らしくねぇ!! めぐみん!!」

「は、はい!」

カズマに二度肩を掴まれ、思わず顔を上げて反射神経だけで返事をしてしまう。

カズマは二、三度深呼吸をして、意を決したかのように真剣な眼差しでめぐみんを見て、

 

「俺と正式に付き合ってくれ!」

 

一瞬、何を言われたのかわからなかった。目を見開いて呆然とするめぐみんに気づかないのか、カズマは更に話し続ける。

「俺さ、今の話聞いてたら、めぐみんがすっげぇ辛かったんだなってのが伝わってきたんだ。んで、そんなめぐみんは見たくないって思った。だから思ったんだ。ちゃんと側にいれば、お前を苦しませずに済むんじゃないかって。だからーーあ、あれ?」

耳まで真っ赤にしながら自分の想いを伝えていたのだが、反応のないめぐみんに若干焦ってしまう。

もしや受け入れてくれないのだろうか。あれだけめぐみんはカズマに対する好意をストレートにぶつけてくるのだ。嫌われてはいないのはわかる。だけど今話した内容にもしかしたら地雷を踏んでしまった可能性も充分にありえる。

「えっと……もしかして、ダメだった……か?」

おずおずとカズマが言うと、先ほどの告白で顔を伏せていためぐみんが勢いよく上げ、

 

「なります! 恋人になるに決まってるじゃないですか!!」

 

めぐみんはまたも涙を流していた。ただ今までと違うのは、カズマと同じく耳も頬も真っ赤に染まり、興奮しているのだろう、紅い双眸は煌々としている。

 そしてカズマの胸に額を打ち付ける。何度も、何度も。

「どれだけ待ったと思ってるんですか……その言葉を、何度聞きたいと思ったか!」

 叫ぶかのような声にカズマはただ呆気に取られていたが、次第に笑みに変わっていき、ただめぐみんの声を聞いていた。

「……私で良いんですか?」

「お前じゃなきゃダメっぽい」

「爆裂魔法しか撃てない落ちこぼれ魔導士ですよ」

「爆裂ソムリエなめんなよ? お前の爆裂は俺たちにとっての切り札なんだからな」

「胸も無いです」

「それは俺がこれから大きくする」

「セクハラで訴えます」

「何で?!」

 締まらないが、二人にいつも通りの雰囲気が流れ始めた。お互いに見合わせ、笑い合う。それだけで、二人はとてつもない幸福感に包まれていた。

「絶対手放しませんよ」

「お互い様だろ」

「胸の大きい美人の方に目移りしないでくださいよ」

「……それは保証しかねいたたたた!!」

「早速浮気宣言ですね。この男は全く!」

 横腹を軽く抓るめぐみんだが、お互いが本気で言っているとは思っていないとすぐに気づく。

「ふふふ……幸せです」

「……そうだな」

 カズマのシャツがめぐみんの涙ですっかり濡れてしまったが、めぐみん自身は気にも止めずにカズマの胸に顔を押し付け、愛おしそうにスリスリと擦り付ける。

 次第に、眠気がめぐみんを襲う。想いの丈を話したからだろうか、それともカズマの傍にいるからだろうか。寝ることに恐怖していたのに、今はとても落ち着いている。

 もう悪夢を見ずに済みそうだ。

 めぐみんの意識は、カズマの胸の中で沈んでいった。

 

――――

 

「……んぅ」

 めぐみんは目を覚ます。すっかり日も昇っており、カーテンの隙間から光が漏れ出ている。

 とりあえず起きようと体を動かそうとして、気付く。

 カズマが隣で寝ていることに。

「えっ、えっ? 何で……あっ」

 混乱している中、ようやく昨夜の事を思い出す。

 カズマが告白してくれた事を。

 今日から晴れて恋人同士なれたのだ。

「……ふふふ」

 思わず笑みがこぼれる。ようやくカズマが自分に振り向いてくれたことに実感がわき出る。

「カズマらしくもない、カッコいい告白の仕方でしたね」

 ふと、めぐみんはカズマに腕枕されていることに気付く。気を使ってしてくれたのだろうか。相も変わらず、心根は優しいところにまた幸福感が生まれる。

「今日は爆裂散歩に行ったらデートに行きますからね」

 めぐみんは呟くが、起きる気配はない。昨夜は自分の我が儘に付き合ってくれたのだ。このまま寝かせようと、めぐみんはカズマの頬を指で軽く突きながら思う。わずかに身を捩らせるカズマに、思わず可愛いとさえ思ってしまう。

「さて、朝食の準備をしましょうか」

 今日の昼頃までダクネスもアクアも帰ってこない。それまでに起きてくれたら、屋敷で少しの間くっつき合えるのに、と思ってしまっている自分は相当重症だ、とめぐみんは思う。

 ベッドから起きて、パジャマからいつもの服に着替えためぐみんはカズマの部屋に出ようとして、ふとカズマに近づき、まだ寝ている彼の耳元まで顔を近づけ、

 

「愛してますよ」

 

 小さく呟いた。クスクスと笑うめぐみんは気付いていた。

 カズマの耳が真っ赤なことに。

(からかいすぎましたかね?)

 自分がこの部屋に出て行った直後に、この男は恥ずかしさと幸福で悶えることだろう。そんな姿を想像して、またもや可愛いと思ってしまう。

 今度こそ部屋に出ようとして、めぐみんはハッキリした声で言う。

 

「早く起きてくださいね。今日は、恋人としての初デートなのですから」

 

 もう悪夢を見る事は無い。それに、次に見る夢は決まっている。

 愛する人の、幸せな未来を見る夢に――

 

 

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