このすば!短編集   作:ヒザクラ

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はい、ヒザクラです。いつもより長めな文章なのに内容は超絶薄くて申し訳ないです。そろそろマジでネタ尽きそうです。頑張れ、俺。
あと、ちょっと別件で更新ペースが遅くなると思われます。まぁ気分転換に書くとは思いますので、そこら辺は適当ですね、はい。

今度はカズめぐ以外にもちょっとした団欒話とか書きたいですね。ハチャメチャなお話とか。

ではでは~


極稀にカッコいいあの人

「カズマさんて顔は三流だけど、まだカッコいい方だと思うんですよ! あの、彼女いないなら立候補で私も視野に入れてくれませんか?」

「顔は三流とかいうブラコンにはもったいないわよ。ここは、紅魔族でももっとも常識人な私と付き合うべきだと思うんですよ! カズマさんってお金もあるし、めちゃくちゃ優しいし!」

「……えっと」

 佐藤和馬は困惑していた。現在めぐみんたっての希望で紅魔の里に里帰りしていたのだが、この状況は一体どういうことなのだろうか。

 現在、紅魔族随一の居酒屋に来ており、カズマはめぐみんとゆんゆんのかつての同級生、ふにふらとどどんこに両サイドから好意をぶつけられていた。いわゆる両手に花というやつである。

 紅魔族の女性は比較的に美人が多い。めぐみんの同級生なので彼女達の年齢もおそらく14歳なのだろうが、彼女達も顔立ちは整っている方だ。男としては現在この状況は他者から見れば羨ましい光景だろう。

 

 ただし、めぐみんがカズマを殺意の目で見ていなければ、の話だが。

 

 紅魔族特有の、気分が高まると目が紅く光っている状態で睨みつけられている。両サイドからの適度に育ち始めている肉体がこれでもかと言わんばかりに押し付けられ、その柔らかい感触は大変心地良いのだが、その心地良さがどうでもよくなる程にめぐみんの視線がとてつもなかった。これからは秋の季節でのどかな気候のはずなのに、冷や汗が背中から流れてくるのでとても肌寒い。

 やがてふにふらと呼ばれている女の子がめぐみんの視線に気付き、

「あれ? めぐみんまだいたんだー。今カズマさんと大事な話してるから、できれば出て行ってほしいなー」

「そうそう。私達の命の恩人だしさ、お礼とかしたいんだよねー。色々と」

「えっ」

 言いつつ更に体を密着させてくる二人に、いつものカズマであれば容易くあの手この手で回避することはできただろう。

 ただし、先程以上に殺気を漂わせるめぐみんがいなければ、の話だが。

(……ど、どうしてこんなことになっちまったんだ……)

 

――――

 

 遡ること半日前、カズマとめぐみんはアクセルのテレポート屋に来ていた。

「すいません、カズマ。急に付き合わせてもらって……」

「気にすんなって。まぁ、正直言えば家でゴロゴロしたかったし、ギルドの受付嬢さんのところに行って胸とかガン見したかったけどいたたたたたあああ!! アイアンクローはやめぇえええええ!!」

 アークウィザードであるにも関わらず、レベル差があるとはいえ腕力はめぐみんの方が圧倒的に上である。見事に片手で決めている姿を、テレポート屋の店員はドン引きしていた。

「全く、今日は一応私にとっての大事な日にもなるのですから、そういう戯言はやめてください。胸なら……わ、私のを見れば良いんですから」

「ぺっ」

「あっ!」

 唾を吐き捨てるカズマにめぐみんの紅い目が攻撃色になるが、さすがにこれ以上時間を無駄にするわけにもいかない。

 カズマは溜め息を吐いて、

「わかってるって。ウォルバクが封印されてた場所に行くんだろ?」

「……はい」

 ウォルバク。魔王軍幹部の一人でもあり、怠惰と暴虐を司る女神とも言われ、めぐみんに爆裂魔法を教えた張本人。いや、恩人でもあり師匠とも言えるべき存在。

 めぐみんの目標でもあったその人物を、教えてもらった爆裂魔法で葬ったと思われる。少し曖昧な表現だが、いくら爆裂魔法とはいえ何かしらの痕跡は残るはずなのだが、ウォルバクの痕跡は一切見つからなかった。

 生きているのか死んでいるのかわからないが、それでもめぐみんはウォルバクを――恩人でもあり師匠でもあるその人に尊敬の意を込めて、墓参りにもにた行為をしようとカズマに相談してきたのだ。

 カズマ自身もウォルバクに関しては思うところもあったため、快く承諾。ダクネスとアクアは外せない用事があるため、今回は共に行くことはできない。ダクネスがアクアを引っ張りながらギルドに向かって行ったような気がしたが、カズマは何も見ないようにしておいた。

「んじゃ、紅魔の里までテレポート頼むよ」

「あいよ」

 お金を支払い、魔法陣の上に二人は立つ。店員はテレポートの呪文を唱え、カズマ達の視界がグニャリと捻じ曲がるがすぐに元通りになる。周囲を見渡すと、見覚えのある場所が幾つもある。それを見て、紅魔の里だというのはすぐに気づいた。

「さて、行きましょうか……?」

 めぐみんが先頭切って歩き始めようとして、立ち止まる。

「どうした?」

「いえ、なんか里のの様子が……」

 言われ、周りを観察する。前は急な来客に慌てて里の雰囲気を変えようとバタバタしていたのだが、今回はそれとはまた別の意味で慌てふためいているように見える。

「おお、めぐみん!」

 背後から声が聞こえ振り向くと、声を掛けてきたのは靴屋のせがれ兼ニートのぶっころりーだった。どこか青ざめた様子だ。

「急にどうしたのですか? まさかそけっとにセクハラでもして、鬼の形相で追われてるからかくまってくれとでも言うんですか? 自業自得なので諦めてください」

「違うから! 確かに昨日、尻とか触りたいなーとか思ったけど、んな自殺行為するわけないから!」

「そうだよな。触るなら胸だよな」

「わかってくれるか!」

「わからなくても良いです! なんなんですか、そんなに胸が大きい人が好きなんですか?! 私の胸に文句があるなら聞こうじゃないか!」

「おい、目光らせんな! ってか、こんなバカなことやってる場合でもないんだ! 二人とも、ふにふらとどどんこ見なかったか?!」

 ぶっころりーに言われるが、二人は首を傾げることしかできなかった。

「知りませんよ。大体私達も今来たばかりですし」

「何かあったのか?」

「そ、そうか……実は森の方で奇妙なキマイラが現れるようになってな……」

 キマイラ。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ合成モンスターの一体で、知能も高く極めて危険なモンスターの一体。かつてカズマ達も討伐したことがあるが、かなり苦戦を強いられた強敵でもある。

 そんなキマイラが村の近くに出没するとは、考えただけでカズマは悪寒が走る。

「我々紅魔族ならキマイラなぞ簡単に真っ二つか黒焦げでしょう。何をそんな……」

「それが、そのキマイラ……魔法が効かないんだよ」

「……はい?」

「いや、正確には魔法を喰らってるって言った方がいいんかな……とにかく、俺達でも手が負えないやつなんだよ」

 紅魔族の魔法が効かないとなると、そのモンスターは今まで以上に危険な存在なのだろう。クーロンズヒュドラと同等と考えるべきか。

「それで紅魔族のみんながこんなに慌ててるのか?」

「いや、それとは別件なんだ……実は、ふにふらとどどんこが里のどこにもいなくて……」

 ピクリと、めぐみんの眉が静かに動く。カズマも嫌な気配を察知し、嫌悪感を顔に出してしまう。

 そんなことにも気づかずにぶっころりーは更に続ける。

「昨日二人が新しい魔法を習得したって喜んでいた矢先にこの騒ぎだ。もしかしたら、あの二人は変なキマイラのところに……!」

 顔を青ざめるぶっころりー。紅魔族特有の中二発言ができていないところを見ると、相当に焦っているというのが伝わる。

「……カズマ」

「やだ」

「ま、まだ何も言ってないじゃありませんか!」

「いや、絶対探すの協力しろーとか、ついでにそのキマイラ倒してくれって言うんだろ? 俺にはわかる。大丈夫さ、あの二人も紅魔族なんだろ? キマイラなんてちょちょいのちょいさ」

「話聞いてましたか?! 魔法効かないんですってば!」

「気合があれば人間なんでもできるさ。さ、早くお参りして帰ろうぜ」

 カズマの無慈悲さにさすがのぶっころりーも唖然としていた。

 カズマは自分さえ無事ならば後はどうでも良いのだ。安寧の日々をただむさぼって行く日々を送りたいのに、何故わざわざ死地に自ら向かわねばならないのか。あのカツラギだかなんだかを呼べば一瞬で済むだろうに。

 そんなことを考えながら踵を返し、歩き始める。

「……そうですか。貴方はそういう態度を取るのですね?」

「……な、なんだよ」

 カズマの歩が止まる。

「ふにふらとどどんこは確かに性根が腐っているところもあるどうしようもない二人ですが、あれでも一応私の同級生でもあり、ゆんゆんの友人です。私は二人を探しに行きます」

「お、お前正気か? 相手は魔法が効かないキマイラだぞ? お前の爆裂魔法も通じるかどうか……」

「ふにふらとどどんこさえ見つければ、キマイラは放置しても大丈夫でしょう。ただ、万が一のこともありますし、森にはキマイラ以外にも危険なモンスターが蔓延っています」

 めぐみんはカズマに背中を向け、

「それでも、私は探しに行きます。放っておけば、どこぞの鬼畜みたいに人間の心を捨ててしまうことになるでしょうから」

「……」

「でも――」

 めぐみんは歩き始めつつ、言う。

 

「私の大好きな人は、仲間を、仲間の友人を見捨てるような人じゃないって信じていますから」

 

 だんだんと距離が大きくなる。

 相手は魔法が効かないキマイラ。正直勝ち目はほぼないと思っていいだろう。

 それでも彼女の歩は止まらない。

 言い出したら聞かない爆裂娘を見て、

「あああああああああああ!! くそったれぇええええ!!」

 頭をがしがしと掻き毟りながら叫ぶ。近くで呆気に取られていたぶっころりーは、カズマの叫びにビクッと震える。

(勝ち目ないのに自分から突っ込むとか、バカなのかよお前は!! 何が仲間を見捨てるような奴じゃないだ!! んなもん自分が一番良く分かってるっつーの!!!)

 頭で叫びながら、大股で歩き始めた。

 めぐみんの元に。

 命を自ら投げ捨てるように進む彼女の事を放っておけない。そんな気持ちでいっぱいだった。

 お互い様、という奴だ。

 

「しょうがねぇなぁあああああ!!」

 

 カズマがそう叫ぶと、めぐみんは振り返る。満面の笑顔で。

 

――――

 

「問題なのは、そのキマイラがどこにいるか、ですが……」

「できることなら先に二人が見つかればいいんだがな……」

 小声で二人は森の奥を、カズマの潜伏スキルを使いながら進む。めぐみんはカズマの手を握っている。潜伏スキルは使用者の体のどこを触っても発動するようになっている。手を繋いでおけば、、強力なモンスターが蔓延る紅魔の森でもすぐに身を隠せることができるとめぐみんが提案し、実行している。実際、一撃熊とかファイアードレイク等と出くわしても、お互いに手を引っ張りながら木や雑草の中に瞬時に隠れて見過ごすこともできている。

 なのでこれは仕方がないことだ。決してめぐみんと手を繋いでドギマギしている訳ではない。めぐみんの頬も若干赤くなっている気もするのだが、本当に些細なことなので気のせいという可能性も否めない。

 カズマは敵感知スキルで周囲を警戒する。

「……今んところ敵感知に反応なし、か」

「それならそれで好都合です。なるべく早くゆっくり探しましょう」

「そうだな……えっ」

「えっ?」

「今お前、早くゆっくり探そうって」

「言ってません」

「いやだって……すいません、空耳でした。だから手強く握るのやめろ! なんかミシミシ言ってるんですけど!!」

「大きな声出さないでください! モンスターに気づかれますよ!」

 思わず口を手で塞ぎ、めぐみんを引っ張りつつ木の陰に隠れる。横目で奥を見ると、サンダードレイクが鼻をピクピクと痙攣させながら周囲を見渡していた。先ほどのバカなやり取りをした際の声に気付いてしまったのかもしれない。

 カズマは細心の注意をしつつめぐみんを見て――時が止まる。

 めぐみんを引っ張ったのは覚えていた。だがそこから何故、こんな状態になっているのかがわからなかった。

 めぐみんと正面から抱き合い、手を繋いでいたはずの手はめぐみんの腰に添えており、傍から見ると確実に抱き寄せていると思われるだろう。一方のめぐみんもされるがままで、両腕をカズマの背中に回しつつ両頬を真っ赤にしながら上目遣いでカズマを睨み付けていた。

「ち、違うから! これは事故だから!」

「わかってます! わかってますから声を抑えてください!」

 もう一度横目で確認するが、サンダードレイクは既にいなくなっていた。ホッと胸を撫で下ろし、めぐみんを解放する。彼女は睨み付けたまま、しかしどこか名残惜しそうに再びカズマの手を繋ぐ。

「セクハラされましたが、何か言うことはありますか?」

「めっちゃ柔らかくていい匂いが……ごめんなさい、ホントそんな目で見るのやめてくれますか」

 いよいよ侮蔑の目で睨まれたので即座に弁解する。

 その時だった。

 

 森の奥から轟音が鳴り響いたのは。

 

「ちょ、何だこの音?!」

「魔法っぽかったですね……行きましょう!」

 正直言うと行きたくはないのだが、めぐみんの方が腕力があるので無理にでも行くしかないことを悟る。

 念のため敵感知スキルを発動する。すると、敵意剥き出しの気配が丁度走る方向の先で引っかかったのを確認できた。キマイラかどうかはわからないが、行ってみなければわからないだろう。

 無防備のまま走り出したため潜伏スキルは最早意味をなしていないが、どうやらあちこちにいるモンスターも逃げまどっているようにも見える。それほどまでに凄まじい何かが存在するのだろうか。

 ある程度まで進むと、だいぶ開けた場所へと足を踏み入れた。地面のあちこちには小さなクレーターができており、凄まじい戦闘がこの場で行われたというのが理解できた。

 問題なのは、カズマ達の目線の先。

 前に対峙したキマイラよりも、ひと際大きいキマイラが、二人の少女相手に睨み付けていた。

「か、『カースド・ライトニング』!!」

 ツインテールで紅魔族特有のローブを羽織る少女が、手の平から黒い電撃を放つ。普通のモンスターであれば、あの魔法だけで黒焦げになってしまうだろう。それはキマイラとて同じはず。致命傷とまではいかないが、ある程度のダメージは与えることはできるはず。

 しかし、キマイラはニタリと笑う。

 瞬間、キマイラは口を大きく開き――黒い電撃を食す。

 口に収まらなかった余波は地面を伝い、小さく抉れる。

 キマイラはゲップをしつつ、

「おいおい、こんなもんかよ。もうちょい威力上げてくれると助かるぜ?」

「う、嘘……」

 それは、絶望を垣間見るには十分な光景だった。

 そもそも、魔法を喰らうモンスターなど聞いた事は無い。吸収や魔法が効きにくいのならまだわかるが、その常識が一気に崩れ去った瞬間でもある。

 カズマは生唾を飲み込み、

「よし、帰ろう」

「駄目ですよ、諦めないでください! あそこにいる二人がふにふらとどどんこです、早く助けましょう!」

 キマイラに気付かれないように雑草の中に隠れ、潜伏を使いながらめぐみんは怒る。

「いや、今回マジで無理だって。なんだよ、あれ。元々強いキマイラに更にあんな能力加わったら勝てる気もしねぇよ。大丈夫、お前の友達は星となってお前をいつまでも見守ってくれる筈さ……」

「勝手に殺さないでください! ああ、もう……ここに来る前の決断はすごくカッコよかったのに……」

 めぐみんは頭を抱えるが、今回ばかりはさすがに無理だろう。そもそもアクアもこの場にいないのだ。死んでしまえばもう二度と生き返れないだろう。

 ふと、ふにふらとどどんこを見る。小声で何か会話をしていたため、読唇術を使う。

『そ、そんな……私の新しい魔法も効かないなんて……』

『だから言ったじゃない! 試し打ちはもっと弱い相手にしようって! いくら里のみんなが困ってるからって、これはないでしょ!!』

 全くもってその通りである。

『うぅ、こんなお姉ちゃんでごめんね……』

『こんなところで死にたくないよぉ……』

「……」

 ついに泣き始めた二人に、カズマは軽く溜め息を吐く。

「めぐみん」

「……何ですか?」

「あのキマイラに爆裂魔法、打ち込めるか?」

「えっ?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、カズマの目を見て気付く。

 それは、決意の目。

 幾度となく魔王軍の幹部を退け、そして仲間がピンチになると見せるその勇ましい顔に、めぐみんは柔らかく微笑んだ。そして、キマイラと二人の距離を計算する。

「……あのままだと二人も巻き込んでしまいます。カズマ、なんとかキマイラから距離を離せませんかね?」

 めぐみんに言われ、思案する。確かにこのままでは二人も巻き込まれる可能性がある。となれば、囮役が必要となるだろう。めぐみんを隠しつつ、ふにふらとどどんこが巻き込まれない位置までキマイラを移動させる必要がある。もちん、囮役も爆裂魔法に引っかからないようにしなければならない。

 当然、囮役はカズマだ。

「めぐみん。俺が奴をなんとかして引き付けるから、お前はいつでも爆裂魔法を撃てる準備をしておいてくれ」

「わかりました……信じていますからね」

 めぐみんの心配そうな、しかし力強い言葉に、カズマはフッと軽く微笑んでから雑草を出る。前に進み、今にも二人に襲い掛からんとするキマイラを見据える。

 そして、大きく息を吸い込んで――叫んだ。

「おぉーーい!! そこのロリコンキマイラぁああ!!」

「あぁん?」

 二人と一匹は声の主、カズマへと顔を向ける。

「あ、めぐみんの男だ!!」

「ホントだ! っていうかなんでロリコンキマイラ?!」

「知らないのか? 俺の国じゃあ14で手を出す奴はロリコンって呼ばれるんだぞ」

 自信満々に宣言するが、背後にいるめぐみんから殺気を感じる。冷や汗が流れるが、キマイラ自体は小馬鹿にするかのように鼻で笑う。

「人間の生殖の問題か? はっ、こんな小娘に発情するなら、確かに終わってんな。だが安心しろ、俺は同族なら欲情するかもしれんが、おあいにく人間は食欲の方が沸いちまうからな」

 舌なめずりをするキマイラに、少女二人の顔はすっかり怯え震えていた。だが、カズマは臆することなく更に一歩前へ踏み出す。

「まぁ、待てよ。お前の噂は紅魔の里の連中から聞いている。なんでも魔法は一切効かないらしいな」

「小細工なんざ通用しねぇぞ。回りくどいやり方するくらいなら、いっそ腹ン中にあるもん吐き出しちまえよ」

 さすがに知能のあるモンスターだ。カズマの作戦自体筒抜けなのかもしれない。

 だが、カズマは更に続けて告げる。

「なるほど。確かに時間稼ぎもできなさそうだ。じゃあ、単刀直入に言う。俺と取引をしないか?」

 言いつつ、手を握りしめつつ小声で『クリエイト・アース』を唱え、土を集める。カズマお得意の目くらまし作戦だ。

「取引だぁ?」

「ああ。あんたが何でこんなところにいるのか知らないけど、そんなにエサが欲しいなら、もっと良いところ紹介してやるよ」

「ほう。確かに、紅魔族の連中はテレポートなんざ使うから、食べるに食べれない状態だったがな。最後に食べたのは、其処ら辺に落ちてたクッキーっていう食い物だったか? 正直あれだけじゃあ腹の足しにもならなかったぜ」

「……クッキー?」

 何故こんな辺鄙なところにクッキーが落ちていたのか疑問に思ったが、今はそれどころではない。今はあの二人をこの場から離れさせるのが先だ。

「だがお前さん、俺は人間じゃなきゃ満足できないぜ? なんだったら、その美味しい話は、そこの紅魔族を食ってからでも問題ねぇよなぁ?」

「「ひぃ!!」」

 紅魔族の二人は互いに抱きしめ合い、恐怖の表情でキマイラを見つめる。恐怖するのも無理はないだろう。自分よりも、しかも普通のキマイラよりも大きな個体だ。存在が大きいものほど恐怖もより大きなものとなる。

 実際、カズマも少しだけ震えている。

 この交渉が成功しなければ、あの二人だけでなく自分も食われてしまうだろう。隠れているめぐみんもそうだ。

 だから、ここで折れる訳にはいかない。

「――なら、まずは俺を食え」

「……なんだと?」

 キマイラは疑問の眼差しでカズマを見据える。

「取引って言ったろ? この場でその二人を食うなら、俺が言った穴場は教えない。ただし、その二人になにもしないって言うなら、俺がその穴場を教えて先に食われてやる。そいつでどうだ?」

 一瞬の静寂が流れる。

 おそらくめぐみんも驚愕の表情でカズマを見ていることだろう。

 だが、あくまでも食われる気は毛頭ない。

 そのまま奴が応じてくれれば、活路を見出せる。

 次第に、キマイラはニタリと笑い、

「はっ、良いだろう。これでも俺はグルメだからな。こんな細すぎる人間なんざ食っても、満足できねぇからな」

「そうか。んじゃ、交渉は成立だ」

「ちょ、待ってよ! それでいいの?!」

 ツインテールをした娘、どどんこが叫ぶが、カズマは真っ直ぐとキマイラを見据えて離さない。

 カズマは、ゆっくりとキマイラに近づく。

「なに、この里を下りた先にはアルカンレティアっていう観光名所があるんだ。観光客もいっぱいだろうから、人間食い放題だろうぜ」

「ほう、それは良いことを聞いたな。そいじゃあ、遠慮なく――」

 キマイラはギラリと眼光を輝かせ――地を蹴る。

「テメェを食って、そこにいる紅魔族も食った後にその街でもたくさん食ってやるよぉ!!」

 とてつもないスピードで接近する。普通の人間ならばまず反応はほぼ不可能だろう。

 だが、この突進こそがカズマ自身が狙っていた作戦だ。

「『ウィンド・ブレス』!」

「?!」

 カズマは手に持っていた土を風に乗せて勢いよく飛ばす。キマイラは目に土が入り、減速し動きが止まる。

「て、テメェ!!」

「だーっはっはっは!! 騙される方が悪いんだよ!!」

 最早どちらが悪人なのかわからなくなるほどのゲスイ笑みを浮かべつつ、カズマはふにふらとどどんこまで駆け寄る。

「おい、動けるか?!」

「ちょ、ちょっと無理かも……」

「マジかよ……」

 カズマは腰が抜けている二人を小脇に抱えてこの場から離れようとする。チラリとめぐみんを見るが、まだ自分たちが射程圏内なのか、まだ撃てずにカズマ達を心配そうにこちらを見ていた。

「くっそ、早く離れねぇと……!!」

「ちっ、小癪な真似しやがって!」

 ようやく視界が良好になってしまったのか、キマイラはキョロキョロと辺りを見回し、カズマ達を探していた。

(くっそ、間に合えよ……!!)

「カズマ、そこで大丈夫です!!」

 めぐみんの声が聞こえる。彼女の方に目線を向けると、既にその紅い双眸は煌々としていた。撃つ準備は万端なのだろう。

 あのキマイラは確かに魔法を喰らっていた。だが、もし口に含み切れないほどの魔法だったらどうなるか。

 奴は魔法が効かないというならば、めぐみんの放つ最強にして最高のネタ魔法でも死なないと言えるだろう。ただし、そんなネタ魔法とも呼ばれている爆裂魔法は、とてもじゃないが口にも含みきれない程の巨大な魔法だ。

 頼みの綱のようなものだが、今はこれが通用しますようにと願うしかない。そう思ってめぐみんに支持を出そうとして、

「そこか、クソ人間がぁああああ!!」

 キマイラの蛇が、カズマ目掛けて伸びていく。その驚異的な速さにめぐみんも爆裂魔法を撃つのを一瞬躊躇ってしまった。ふにふらとどどんこもその蛇に呆気に取られていた。

「っ、くそったれぇえええ!!」

 

 カズマはふにふらとどどんこをなるべく後ろに放り投げる。

 瞬間、カズマの肩に蛇が噛みついてきた。

 

「がぁああ!!」

「がははは!! 今すぐ引きずり込んで――」

「ぐっ……めぐみーん!!」

 カズマが叫んだ瞬間、周囲の気配が様変わりするのを、キマイラは感じた。

 そして、振り向いてしまった。

 その紅い双眸は先ほどよりも輝き、怒りの眼でキマイラを見据える紅魔族の少女に、怯んでしまった。生まれて初めて、恐怖を感じてしまった。

「……カズマを傷つけましたね」

「ヒッ?!」

「覚悟はできていますか?」

 キマイラの足元に魔法陣が浮かび上がる。強力な魔法だと気付いたのか、口を開け閉めするもどうすれば良いのか困惑しているといった様子だった。

「――喰えるものなら、喰ってみなさい。我が怒りの爆裂魔法を……!!」

 魔法の収束が始まる。キマイラはようやく身を地面から離したが、もう遅かった。

 めぐみんの、渾身の魔法が解き放たれる。

 

「――『エクスプロージョン』!!」

 

――――

 

 結果、キマイラは爆裂魔法によって霧散した。ケガも大事になるほどのものでもなく、めぐみんを背負いつつふにふらとどどんこを連れてようやく紅魔の里に戻ってきたのが、今から二時間前。ケガの治療も終わり、ようやく当初の目的を果たそうとめぐみんと話をしていたのだが、そこへふにふらとどどんこがお礼をしたいとカズマ達に話しかけ、居酒屋で軽く食事をしていたのだが。

 いかんせん、ふにふらとどどんこがカズマにぴったりとくっつきながら話をしてくるのだ。命の恩人だからもっと話がしたい、と言うのだから最初こそ気を許してしまったものの、めぐみんの漏れ出る殺気に気が付いてしまい、すっかり萎縮してしまったのだ。

 そして冒頭に至る、という訳だ。

 ふにふらとどどんこはめぐみんをまるで敵でも見るかのように鋭い視線を向けている。

(いや、確かに俺もこいつら助けるために必死になってたかもしんないけど、トドメ刺したのめぐみんなんだけどなぁ……)

 そう口に出したかったが、この一触即発なムードに余計な事を言えばどんな飛び火がかかるかわかったものではない。かといってこのまま成り行きを見守るのもカズマ自身の精神力も持ちそうにない。

 めぐみんはちびちびとジュースを飲みつつ、答える。

「別にその男がちやほやされようが私には一切関係ありません、ええ。カズマの機転が無ければ間違いなく貴方たちはキマイラに食われていたことでしょうね。なのでその男に色目を使おうが何しようが私には一切の権限はありませんので、どうぞお好きに」

 ドスの効いた声色にカズマは思わず身震いする。流石のふにふらとどどんこもめぐみんの恐ろしさを知っているのか、彼女の静かな怒りに恐怖し、少しだけカズマから距離を離した。

「あ、アンタも素直じゃないわねー……カズマさん取られたくないんだったら初めからそう言えば良いのに……」

「おや、弟に性的興奮をしてしまう貴方に言われたくありませんね。早く素直になったらどうですか?」

「待って。一回ちゃんと私との人間関係について話し合わない?」

「さて、そろそろお開きにしましょうか」

「無視?!」

 めぐみんが席を立つ。カズマも慌てて立つが、二人が不満の声を出した。

「えー。もうちょっと話ませんか?」

「そうですよ、めぐみんなら一人でも大丈夫でしょ? 学校にいた時も大体そんな感じだったし」

 言われ、めぐみんは眉間に皺を寄せる。更に不機嫌になったのだろうが、事実でもあるのか言い返さない。

 だが、当初の目的はめぐみんと共にウォルバクの手向けをすること。

 今日はめぐみんと付き合う約束をしているのだ。色々と災難はあったが、これ以上彼女の機嫌を損ねる訳にもいかない。

「悪いけど、今日は本当はめぐみんの用事に付き合うつもりでここに来たんだ。また改めて礼でもなんでもしてくれ」

「おや、鼻の下を伸ばしている人間の台詞とは思えませんね」

「いい加減機嫌直せよ……ほら、行くぞ」

 カズマが先行して居酒屋を後にし、めぐみんも続く。後方からブーイングっぽい声が聞こえるが、聞こえないフリをしておく。

(めぐみん怒ってんのに、よくやるなぁあの二人)

 同級生だから、というのもあるだろう。めぐみんも確かに不機嫌だが、本気で怒っている訳でもないというのも雰囲気で伝わってくる。久しぶりに同郷と会えたのだ。少しはあんな言い合いができたのも嬉しいと思ったのだろう。

 そう思いながら二人は歩くも、何故か沈黙状態に陥っていた。

 カズマはチラリとめぐみんを確認する。俯きながら歩いており、表情は見えないがまだ機嫌を直していない、といったところだろう。

(……いつもなら軽口叩いて仲直りっていきたいところだけど……どうすっかなー……)

 カズマは頭を乱雑に掻く。機嫌の悪くなったとしても、めぐみんの場合は大抵はすぐにくだらない会話で良くなるものだが、今回はそういう訳にもいかないらしい。

 どうすれば良いのかと考えに考えて、ふと自分の手に違和感を感じた。

 

 横に振り向くと、いつの間にか隣に立っていためぐみんが、カズマの手を握りしめていた。

 

「うぇ?!」

 大胆な行動に素っ頓狂な声を出してしまう。同時に、森にいた時の事を思い出してしまい、頬が熱くなってしまう。

 ドギマギしながらも平静を保ちつつされるがままのカズマに、めぐみんは口を開く。

「……他の女の子にチヤホヤされて、嬉しかったですか?」

「え?」

「……いえ、あのブラコンと存在感の無い二人に言い寄られていて、少しだけ……そう、ほんの少しだけ……妬いちゃっただけですから……」

 言いつつ、頬を赤らめつつそっぽを向くめぐみんに、カズマは思わず心臓が高鳴ってしまう。

(めぐみんが可愛い……だと?! いや、こいつは俺に好意をぶつけるような奴だ。これも戦略の一つに違いない……俺を陥れるための作戦に違いないんだ……!!)

「おや、照れてるんですか? 全く、私はこんなにも怒っているのに……仕方がありませんね。可愛いカズマに免じて、許してあげます」

 軽く微笑むめぐみんに、またしてもしてやられてしまう。行き場のないこの羞恥はどうしようかと考え、握りしめているめぐみんの手に力を込める。彼女もまたお返しと言わんばかりに強く握り返す。

 傍から見ると恋人同士にも見える関係っぽいが、めぐみん自体が肉体的にも妹にしか見えていないだろうと自負し、思わず微笑んでしまった。

 やがてウォルバクが封印されていた場所まで辿り着く。花もなにも持ってきてはいないが、もしかしたらまだあの人は生きているかもしれない。そう思って、花とか供え物等は持ってきていない。

 めぐみんは名残惜しそうにカズマの手を離し、ウォルバクが封印されていた場所まで歩き、しゃがんでから手を合わせる。

 日本にいた頃と変わらない伝統的なやり方だ。たったそれだけなのに、その仕草を見ただけで少し感動してしまっている自分がいる。

 カズマはめぐみんの後ろ隣りに立つ。祈りはせず、ただめぐみんとウォルバクが封印されていた場所を、ジッと眺めていた。

「――私は、恨まれるでしょうか」

 めぐみんがボソリと呟いた。

 ウォルバクはめぐみんの爆裂魔法によって消滅したかもしれない。

 曖昧とはいえ、憧れでもあった人物に手を掛けてしまったのだ。後悔していない訳もないだろう。

 その小さな背中に重い罪を背負っているかもしれない。だからこそ、めぐみんはカズマを頼ってそんなことを聞いてきたのだろう。

 カズマは頭を掻いて、溜め息を吐きつつ言う。

「そんなの、俺じゃあわかんねぇよ。けど、お前は後悔してるのか?」

「……半分後悔してる、かもしれません。けど、憧れでもあったあの人に……ウォルバクに私の本気の爆裂魔法を撃ってしまったこと。それを後悔するつもりはありません……何故なら」

「ウォルバクに成長した自分の爆裂魔法を見てもらえるように、だろ? お前の夢だったもんな」

「……はい」

「ウォルバクも、めぐみんの爆裂魔法を喰らう時さ……すげぇ穏やかな表情してたっていうか……後悔なんてしてなかったかもしれないっていうか……」

「……はい」

「……だぁあああ、くそ! こんなん俺らしくもねぇ!!」

「か、カズマ?」

 カズマはウォルバクの封印されていた場所をしっかり見据え、叫ぶ。

「めぐみんに教えてくれた爆裂魔法は色んな意味で役に立ってるから、絶対に恨むんじゃねぇぞ!!」

 鼻息を荒くしながら言い終わるカズマにめぐみんは呆気に取られていたが、次第に笑顔を取り戻していく。

「ふふふ……カズマらしいですね」

「俺はこれくらいしかできないぞ。後はお前の問題だ」

「ええ、そうですね……さて」

 めぐみんは立ち上がり、カズマの前に立つ。

「今日は色々ありましたね。とりあえず、アクセルに帰ったら何か食べましょうか。カズマの奢りで」

「は? 何で奢んなきゃならないんだよ」

「森でセクハラしてきだけでなく、ふにふらとどどんこにあんなに言い寄られて嬉しそうにして、私の機嫌を損ねたのです。何か弁明はありますか?」

「いや、森のあれは事故だし、お前が勝手に機嫌悪くしただけじゃごめんなさい、奢りますんでアイアンクローだけは勘弁してください!!」

 めぐみんがおもむろに片手をカズマの顔に近づけてきたため、慌てて止める。彼女はクスクスと笑いながら、

「冗談ですよ。それに今日のカズマは一段とカッコよかったですし、先ほどの言葉も覚えておかなくてはなりませんしね」

 めぐみんはカズマの手を握る。今日だけで何度も握られているが、カズマが顔を赤くしているところを見るとまだ慣れないのだろう。そんな彼のことが、こんなにも愛おしいと感じてしまう。

「さぁ、帰りましょう。カズマ」

 だから、誰にも渡す気は毛頭ない。カズマの手を引っ張りながら、めぐみんはそう誓うのだった。

 

――――

 

「おい、ポンコツ店主よ。ここに置いてあった菓子はどうした?」

「菓子……? ああ、あのクッキーですか? 紅魔の里に用があったのですが、少々小腹が空いてたので持って行って食べちゃいましたよ?」

「……その菓子は我輩が作った試作品だ。食せば、魔法も食することができる万能菓子だぞ。まぁ、効果は一日だけなのだが……」

「ええ、そうなんですか?! そんな……それじゃあ、私がうたた寝している時にクッキーの数が少なくなっちゃったのは――」

「バニル式殺人光線!!」

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