DMMO-RPG・ユグドラシル。
仮想世界に入り込み、まるで現実のように冒険することのできる体感型ゲームの名称である。
DMMO-RPGそのものはユグドラシル以外にも存在する。しかしユグドラシルの700にも上る種族、2000を超える職業という、数多の選択肢がもたらすキャラクタービルドの自由度。また、一つひとつが現実の大都市を超えるほどに広大な九つの世界を冒険出来るフィールド。それらの要素により、ユグドラシルはDMMO-RPGと言えばこれを指す言葉だと言われるほどの評価を受け、12年もの長期間にわたりサービスを継続する事となった。
そんなユグドラシルがついに迎えてしまった、サービス終了の日。
九つの世界のうちの一つ、アースガルズの上空に、誰の目にもつかぬよう何重もの幻術と擬装を施された、小さなレンガ造りの建物がゆっくりと
その建物内、住居と言うよりは倉庫と言った風情の、何の装飾も施されていない四角い室内には、その無骨な内装に反して目を見張るほどの煌びやかな財宝の数々が所狭しと並べられていた。一部の例外を除けば最高のランクである
「ヴェァァアアアハッハッハッハッハッハッハ!」
そんな宝の山の頂上を踏みしめて
異形の名は、
「ああ、我が愛しのアイテム達よ……あと数分でお前たちは消えてしまうんだな……惜しいなぁ、チクショウ」
これらのアイテムは詐貌天がユグドラシルで仲間と共にかき集めた、いわばこの世界で生きてきた証だ。しかし所詮はゲーム内のデータに過ぎない。サービス終了と同時に夢から覚めるかの如く消え去ってしまう運命だ。
「せめてアカさんとナスさんの連絡先聞いとくべきたっだかな……新しいゲーム見つけて一緒にできれば……」
詐貌天は今この場にいない仲間との思い出を記憶から引っ張り出す。かつてこの場を拠点とするプレイヤーは詐貌天以外にもいた。アカさんこと
三人で
おかげで某匿名掲示板にて超DQN
「アカさんはPKされまくってレベル上げ直すの面倒って言ってやめちゃったし、ナスさんは
恨まれるのは自業自得だと分かっていたが、仲間を失った時、詐貌天は心から悲しんだ。今でも一人の寂しさと共に悲しみがよみがえってくる。
ちなみに両名がユグドラシルから消えたときのアンチスレは、応援していたスポーツのチームが世界大会で優勝したかの如き大喝采であった。
それを見た詐貌天はPKを行ったギルドと、
当然、返却を求めて猛抗議が来たが黙殺。あの程度で盗めるようにしておくのが悪いのだ。その武器――神器級の立派な両手斧――は今、詐貌天の足元辺りに無造作に転がっている。後者は流石にその件で警戒していたようで、モンスターを放った瞬間に捕捉され、PKされた。無念である。
「ま、一人でもなんだかんだ言って楽しめたかな……おっと、そろそろサービス終了か」
時刻を確認すると既に23時59分。日付が変わると同時に、ユグドラシルの世界と共に異形の怪盗詐貌天は消滅し、ただのつまらない人間が残る。
詐貌天は名残惜しそうにアイテムの山にその身をうずめ……
……直後に鳴り響いた
「終了寸前で襲撃だと!? この拠点全力で隠蔽してたのに、今までずっと探してたのか!? どんだけ恨まれてるんだ俺! 自業自得だけどな!」
慌てて拠点の外の様子をのぞき窓から確認する。拠点の周囲には数えるのもバカバカしくなるほどの数のプレイヤーが巨大な魔法陣を自身の周囲に展開しながら浮かんでおり、その全員の手の中で光を放つ物――砂時計のようなアイテム――を見たとき、詐貌天は何かを悟った表情を浮かべる。と言ってもゲームのアバターの表情は変化しないが。
「うわぁ……あれ全部、
詐貌天のつぶやきを引き金としたかのように、ガラスが砕け散るような効果音と共にアイテムの効果が次々と発揮され、即座に発動した多数の超位魔法により全てを破壊せんとするまばゆい光の雨が拠点の屋根めがけて降り注ぐ。
ユグドラシルのサービス終了まで、あと5秒。光に包まれゆく視界の中で詐貌天は叫んだ。
「爆発オチなんてサイテー!!!!」
次回から異世界編になります。
主人公の詐貌天はドッペルゲンガーの上位課金種族として捏造した這い寄る混沌〈ニャルラトホテプ〉の盗賊系キャラ。
盗賊団のメンバーの名前は棘のついた植物が元、と言うかそのまんまです。
ところでギルド武器って奪えるのだろうか? もし奪えない場合はそこも捏造という事で……