オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

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前回のあらすじ
サボテン「女子に泣かれた」
月棲獣「なんか変な集団がこっち来てる」
サボテン「マ?」


第九話 魔の手

「あー、これか。村に転がってる騎士とは違うみたいだけど……正規兵にしては装備がバラバラだな。傭兵か何かか?」

「このあたりの常識がこちらには無いので、何とも言えませんね。人とのファーストコンタクトがこんな状況なので、仕方ないですけど」

「……」

 

月棲獣(ムーン・ビースト)から正体不明の集団接近の報告を受けた詐貌天(さぼうてん)とモモンガは、崩壊したカルネ村の中で辛うじて無事だった家のひとつにエンリを連れて立てこもり、遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモートビューイング)を使って村に接近する集団を観察していた。

詐貌天の見たところ、先頭を走るリーダーらしき男を除き、どいつもこいつも今自分の後ろで不安そうに震えている村娘に一対一で勝つことすら不可能だろう。無論、映像越しなので正確なステータスまでわかるわけではない。だがどうやらエンリが特殊な状況下で生まれた例外なだけで、ザリュース達から得た強さの基準のようなものは概ね正しい様だ。

長年必死に訓練してきた訳でもないのに、ある日急に強大な力を手に入れてしまったエンリは、これから先それを持て余して苦労することになるかもしれないな。と哀れに思う。急に力を手に入れたことに関して、自分たちプレイヤーの事は完全に棚上げである。

 

「さーて、あのおっさんどもはこの惨状を見て友好的に接してくれるかね」

「最悪、我々が大量殺戮の犯人だと疑われるのでは……」

「まあ、これだけモンスターが転がってればそっちが犯人だと思ってくれるはず……多分、おそらく、きっと……」

 

村人はともかく、モンスターと騎士の死体に関してはエンリが犯人で間違いないのだが、そこは黙っておいた方が賢いだろう。そもそも言ったところで信じてもらえないだろうが。

 

「なんと言って切り出すべきか……何かいい手は無いですか営業の鈴木さん」

「急にリアル名で呼ばないでください。あと営業だからってこんな時の対応の仕方なんてわかりませんよ」

「ですよねー……って、え?」

「どうしました?」

月棲獣(ムーン・ビースト)が何かと戦闘して……っ! 5体も殺られた!?」

「は?」

 

月棲獣(ムーン・ビースト)の見た目を考えれば見つけ次第討伐されてもおかしくはない。問題は警戒していた騎馬集団以外の存在、しかもレベル35相当の月棲獣(ムーン・ビースト)5体を即座に葬れる相手が探知に引っかからずに突然現れたという事だ。不可知化、もしくは転移を使えばそれは可能となるが、いよいよ真偽が怪しくなってきたザリュース達の情報を根強く信じるのであればこの世界にそんなことのできる強者はそうそう居ない。つまりこの存在はプレイヤーの可能性が高い。そしてプレイヤーの大半は異形種に厳しく、おまけにアインズ・ウール・ゴウンも棘付き盗賊団も恨みはこれでもかと言うほど買っている。

詐貌天は即座に窓の傍に張りつき、月棲獣(ムーン・ビースト)を潜ませていた森の方を凝視する。モモンガも即座にローブ姿に戻り、いつでも魔法で対処できるように構えた。エンリが後ろで仰天しているが未知のプレイヤーと戦闘することになるかもしれないとなれば、なりふり構っていられない。一応仮面とガントレットは装備しているのでアンデッドだとバレてはいないはずだ。

装備の変更を終えたモモンガが外の様子を伺っている詐貌天へと目を向けると、その顔が青ざめ、滝のような冷や汗が流れていることに気づく。

 

「最悪だ……」

 

そう漏らす詐貌天が一体何を見たのか、それをモモンガが問うよりも早く、奈落の底すら明るく見えるような濃い暗闇が村全体を包み込んだ。

 

 

 

 

時は少し遡る。

詐貌天達の訪れたカルネ村へと続く道を、およそ20ほどの騎兵達が疾走していた。その先頭の男は馬の上で額に皺を寄せながら、短く刈り揃えた黒髪を風に揺らす。彼は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。

国王の懐刀とも言われ、普段は王の傍に仕えるガゼフが王都を離れて辺境の村に向かっている理由は、その王から受けた命にある。

帝国騎士がこの近隣を荒らしまわっている、という情報がもたらされ、その征伐の任を負うこととなったのがガゼフ率いる王国戦士団だ。ガゼフとしても王国の民を守るために剣を振るう事には異論など欠片もありはしない。だがこの件に関して、引っかかることがいくつもあった。王の直轄領での事とはいえ、国王に対立する派閥の貴族たちが異様なほど大人しかったのだ。貴族としての特権階級意識の強い彼らは、平民出身でありながら王に重用されるガゼフを毛嫌いしており、平時であればガゼフを活躍させるようなことはしたがらない。むしろあの手この手でガゼフの足を引っ張ろうとしてくるだろう。それがどうしたことか、彼らは妨害どころかガゼフを完全武装で送り出すよう強く推したのだ。おかげで今のガゼフは最高位硬度素材であるアダマンタイト製の守護の鎧(ガーディアン)と疲労しなくなる活力の小手(ガントレット・オブ・ヴァイタリティ)、常に自身への治癒をかけ続ける不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)、さらに戦士としての力を限界を超えて高める指輪で身を固め、鎧すらも抵抗なく切り裂く魔法の剣、剃刀の刃(レイザー・エッジ)を帯剣している。これだけの装備を身にまとったガゼフであれば、たとえ周囲の村を襲っている帝国騎士とやらが、帝国の誇るかの”四騎士”であっても無事に討ち果たして帰還することができるだろう。

故に解せない。ガゼフが迅速かつ確実に任を果たして帰還することは、その主である王の問題解決能力への評価を高めることとなる。それはそのまま国防に関する会議における王の発言力を増すことになり、自分たちがより多くの権力を握りたい貴族派閥の連中は決していい顔などしないだろう。ではなぜあの連中は自分から王に力をつけるようなことをしているのだろうか?

 

「……もうすぐ村に到着する。余計なことを考えるのは止しておくか」

 

元々ガゼフは政治的な事には疎い。貴族たちの一見すれば王に力を与える事になるような奇妙な動きも、実は己の利益のための行動なのかもしれないし、ガゼフには思いもよらないところから足を引っ張ってくるつもりなのかもしれない。いくらか考えてみたところで連中の頭の中など読みきれるものではないだろう。ならば自分は今自分にできることを全力で成すべきだ。

 

「カルネ村、だったな……無事でいてくれ」

 

今まで巡ってきた村々は最早村としての機能を果たさないほどに念入りに焼き払われていた。残るものはそうなってしまった村では生き残ることのかなわない、わずかな生存者のみ。彼らは部下の一部を護衛として近隣の城塞都市エ・ランテルまで送り届けさせたためそのまま死んでしまうということは無いが、故郷を家族と共に奪われた悲しみが消えるわけでも、この先問題なく生き残ることができると決まっているわけでもない。そんな人間をこれ以上増やすわけにはいかない。一刻も早く騎士の姿をした賊を捕えなくてはならないと、手綱を握る手に力がこもる。

そうして馬を走らせることしばし。視界の向こうにカルネ村が……否、正確にはカルネ村だったと思われるものが見え始める。

 

「なっ!? なんだアレは!?」

 

ガゼフを始め、戦士団の全てが驚愕の声をあげ、馬はその足を止める。

彼らの視線のにあったものは牧歌的な雰囲気の平和な村でもなく、蹂躙され焼き尽くされた無残な廃墟でもない。

まるでその場所だけすべての光が奪われたかのごとき闇が、村の敷地をドーム状に覆っている光景であった。




???1「各員傾聴ry」
???2「隊長! 村が謎のドームに覆われています!」
???3「あと何故かガゼフがフル装備です!」
???1「ファッ!?」

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