サボテン「爆発オチなんてサイテー!」
漆黒の世界があった
自分が何か、というのがよくわからない
目を開けているようで――閉じられるような構造ではなかった気がするが――目というものが分からない
漆黒という意味も、世界という意味も分からない
ならばなぜ、そんなことが浮かんだのかも分からない
何も分からない
消えていく
消えるというのがどんなことなのかも分からない
でも消えていく
だが、ふと、引っ張られる感覚がする
上に、上に、上に、上に、上に、上に、上に――ちょっと待って高い高い
引っ張る相手は、慣れ親しんだ世界
本来あるべき場所から奪い去られた哀れな
わーい、たのしー! と思考を閉ざした者
そして――白き爆発によって閃光が世界を染め上げた――めっさまぶしい!目が!
――目というものが分からな――やかましい!
「はい、レベルダウンです! PKお疲れ様でした! ガッデム!」
これで最後だからと、課金アイテム大盤振る舞いな
「あ、アイテムは!?」
自分のレベルダウンなどいつもの事なので今更気に留めるようなことではないが、最後の最後に大事なアイテム達が破壊されるなどと言う結果はあまりに無念だ。どうせユグドラシルのサービス終了と共に消えるのだが、それはそれ、これはこれだ。
慌てて財宝の山を見渡し、ほっと胸をなでおろす。財宝は衝撃で散らばったものの、どれ一つとして欠けていない。宝の山の頂上にあったギルド武器(盗品)が盾になってくれたようだ。かなりダメージが入っているようだが、まだまだ壊れたりはしない。
「……あれ? この惨状でなんで欠けてないってわかったんだ?」
今、詐貌天は軽く一瞥しただけで当たり前のように財宝のすべてを正確に認識――どこに何があるのか、さらにはその状態まで把握――することができた。
確かに自身の持つ
そもそも意外と広いこの拠点を埋め尽くすほどのアイテムのすべてを完全に暗記など流石にしていなかったはずだ。だというのに今は拠点内すべてのアイテムの情報がしっかりと頭の中に入っている。
「変な感じだな……ところでサービス終了まだ? もう時間すぎてね? あの連中ももうログアウトしたっぽいし……」
ようやく別の事に気を回す余裕が出てきた。先ほど数多のプレイヤーが拠点を取り囲んだとき、すでにサービス終了まで1分を切っていたはずだ。空を埋め尽くしていたプレイヤーたちは一人も見当たらない。時間が来て強制ログアウトとなったのだろう。
ではなぜ自分は今もこの拠点内にいるのか? 詐貌天は腕を組んで頭をひねる。
「……終了直前に死んだからバグったのか? コンソールも……開かない。バグってるわコレ……え、どうしよう」
大きく取り乱しそうになり、次の瞬間、何かに押さえつけられるように気分が沈静化した。
「……あれ? なんだ今の?」
焦りは落ち着いたが、今度は違和感が大きくなっていく。自分はそこまで冷静な方では無く、どちらかといえばノリと勢いだけで生きているような人間ではなかっただろうか? 事実、
「うーん、さっきからなんか変な感じなんだよな……ま、深く考えても仕方ないか」
運営が気付いて出してくれるか、サーバーダウンで強制排出されるまで黙って待っていようと、再び宝の山に寝そべることにした詐貌天。
最悪、脳内ナノマシン濃度が下がるまで待てば自分の側の安全装置が働いてログアウトできるはずだ。その場合、数日間飲まず食わずで現実世界の命の危機なのだが、そこは助かることを祈るしかない。
「ま、最後にアイテム達をゆっくり堪能できる時間が降って湧いたことに感謝しよう。ありがとう運営。死んだら化けて出てやるけどな」
詐貌天は金貨の海を泳ぐかの如く財宝の山をかき分け、その中心部に沈み込んで満足げな表情を浮かべて深呼吸する。ゲーム内でそんなことをしても意味は無いのだが、気分の問題である。
そうして大きく息を吸い込んだとき、先ほどから感じていた、もう一つの違和感の正体に気づいた。
「妙に感覚がリアルというか……アイテムから金属臭がする……」
何かの法律で、現実世界との混同を避けるため五感は制限されていたはず。特に嗅覚と味覚は完全カットされていたと詐貌天は記憶している。
「味もみておこう」
何をトチ狂ったのか、金貨を拾い上げて口元に近づける。そこで今の自分には口、ひいては味を知るための舌がないことに気がついた。
「スキル〈百貌の神〉」
課金種族”
これで詐貌天は意図的に、もしくは外部からアイテムなどでスキルを解除するか、死亡するまでこの姿を保つことができる。
人間種に変化すると、あるスキルの発動条件を満たすことができるが、代わりに種族レベルを取得していない扱いとなるためさらにレベルダウンしてしまう。今の詐貌天は先ほどのPKで95レベルになり、合計30レベル取得しているドッペルゲンガー系の種族レベルが丸ごとなかったことにされ、レベルは65まで下がっていた。それにより身にまとっていた
こうしてめでたく”一人で金貨を舐めまわす全裸の不審者”にクラスチェンジした詐貌天は、嗅覚同様に味覚もあるという事を確認した。
「ふむ。
今までユグドラシルのバグでログアウトできなくなったと思っていた詐貌天は、ここでもう一つの可能性に思い至る。
「スキルも、
ゲームが現実になった、という推測は言葉として口に出すことはできなかった。足場がガクンと大きく揺れ、その直後に訪れた浮遊感。混乱がまたしても強制的に押さえつけられ、一瞬で冷静さを取り戻した頭は、先ほど超位魔法の雨を受けた拠点が浮力を失い、落下しはじめているという状況判断を下す。詐貌天は即座に自身のスキルを発動させる。
「チィッ! スキル〈一斉回収〉」
その瞬間、拠点内のアイテムのほとんどが詐貌天の方へ殺到し、目の前の空間に吸い込まれるようにして消えた。自身に所有権の有るアイテムをアイテムボックスに回収するスキルだ。一部のアイテム――ギルド拠点からこっそり失敬したような類の物は回収されず、結構な数がそこらに散らばったままだ。
(マズイ! もうナスさんがネタで仕込んだ自爆装置が作動する! 拾える分だけは回収して……!)
自爆装置。クラン”棘付き盗賊団”の本拠地は一定のダメージを受けると、嫌がらせのため、内部のアイテムをランダムな場所へ転移させつつ、床下に仕込んだ魔封じの水晶から第9位階魔法、核爆発〈ニュークリアブラスト〉が発動するようになっていた。
ユグドラシルにフレンドリー・ファイアの概念は無かったため詐貌天にダメージは無いはずだが、今しがた脳裏に浮かんだ”ゲームが現実になったかもしれない”という考えが彼に速やかな脱出を選ばせた。
(転移系の
姿勢を低くし、一番近い壁の崩れた場所に向かって疾走する。その直線上にあるアイテムだけは拾う事を忘れない。
詐貌天が崩れた壁から飛び降た数秒後、網膜を焼き尽くさんとするばかりの光と、耳をつんざくような轟音と共に、第9位階魔法、核爆発〈ニュークリアブラスト〉が発動した。
「ほぎゃああああああああああああああああ!」
盛大な爆風に煽られ、少なくない炎と殴打属性のダメージを受けながら、様々なマジックアイテムを抱えた全裸の男が眼下の森に落下していった。
そしてこの日以降、各地でこの世界のパワーバランスを覆すほどの絶大な力を持つマジックアイテムが多数発見されるようになった。
爆発オチなんてサイテー!(2度目)
さて、異世界に神器級装備やらギルド武器やらがバラまかれてしまいました。ツアーさん胃潰瘍、スレイン法国大慌て。さあ大変だ。でも多分一番大変なのは遥か上空とはいえ頭上で核爆発の起こった近所の皆さん。
次回、ようやく現地勢が出てきます。多分。