オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

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前回のあらすじ サボテン「我が名は臆病者(キリッ」


第四話 怪物の強盗、略して怪盗

(ふっ……決まった。一度やってみたかったんだよこういう登場の仕方。ユグドラシル時代はスキル全開で隠れるのがデフォだったからなぁ)

 

シュバッ とか、ビシィッ というような音が聞こえてきそうな、キレのある動きで両手を上げ、体でYの字を描くポーズを決めた詐貌天(さぼうてん)は、よそのギルド拠点に忍び込んでアイテムを盗み出していた頃のことを思い出し、感慨深い気分に浸っていた。

ユーザー名と同じ〈怪盗〉の職業レベルを手に入れて最初は大喜びしていたのだが、他のプレイヤーに対してフィクションの怪盗のように予告状を送り付け、サーチライトの元に派手な登場をかまそうものなら拠点防衛ゴーレムに叩き潰されるか、待ち構えていたギルドメンバー総出で囲んで棒で叩かれる(PK)等の悲劇が待っていた。そのため結局は気配を殺してコソ泥のように動くしかなかったのだ。

 

(今この場ならかっこいいロールプレイし放題だ! 出来れば人間種相手にやりたかったところだけど、まあ予行練習だと思おう)

 

などと、詐貌天が心の中で大はしゃぎしているのとは裏腹に、先ほどまで叫び声や武器を叩きつける音の鳴り響いていたはずの戦場は、まるですべての音を奪われたかのように静まり返っていた。

トロールの集団対蜥蜴人(リザードマン)の部族の戦いに突如として乱入した異形の化け物に、周囲の視線が集まる。登場と共に何か言っていたような気がするが、ほとんどの者は直前まで戦っていたので、内容は聞いてもいなかった。唯二人だけ話を聞いていたザリュースとグだけはそれぞれ別の意味で詐貌天に視線を送る。

 

(急に現れたと思ったら自虐しだしたぞ。本当に何なんだこいつは……助けてくれたという事は少なくともこちらの敵ではないのか……?)

 

「俺の持つアイテムだと? この剣の事か!」

「確かにそれにも心惹かれるが、違う。君の左腕についてる腕輪……1日1回だけ集団で転移できるマジックアイテムだろ? 俺の落とし物だ。頂く、とは言ったが、正確には返してもらう、だな。仲間との思い出の品でね……盗品だけど

 

詐貌天が最後になんと言ったのかはよく聞き取れなかったが、これで何故東の巨人が縄張りから離れた北の湿地に現れたのか、ザリュースは合点がいった。

 

「そんなとんでもないアイテムがあるとは……しかもそれが東の巨人の手に……」

 

集団で転移できる。どれだけ高位の魔法であるのか想像もつかないが、そんなことができるというなら、それはつまり敵の本拠地を、戦闘準備をする間も与えず襲撃できるという事だ。かつて蜥蜴人(リザードマン)の間でも戦争があり、ザリュースの属する緑爪(グリーン・クロー)族は勝利したが、もしそんなものを相手側が持っていたら結果は間違いなく変わっていただろう。

実際、何の前触れもなく集落の目と鼻の先に出現したトロールたちへの対応は遅れ、戦闘は蜥蜴人(リザードマン)側にとって圧倒的に不利な状態から始まった。おかげでザリュースは切り札の氷結爆散(アイシー・バースト)を3回使い切った状態でグと戦う羽目になったのだ。間違いなく、超が幾つも付くほどの一級品アイテムである。

 

そしてそんなアイテムの本来の持ち主であるこの化け物も、自分たちとは明らかに桁の違う存在だという事は、この場にいる全員が、心の底から湧き上がる恐怖と共に感じ取っていた。これは詐貌天の種族、這いよる混沌(ニャルラトホテプ)の持つ常時発動型特殊技術(パッシブスキル)、〈宇宙的恐怖〉の効果で、効果対象となったものはレベルに関係なく高確率で恐怖状態、中確率で錯乱状態、低確率で気絶状態にすることができる。ただし悪魔やアンデッドなどには一切効かないうえ、精神耐性系のアイテムや、獅子ごとき心(ライオンズ・ハート)などの魔法で簡単に軽減、もしくは無効化することができるため詐貌天は微妙スキルだと思っていた。それでも戦闘中に余計なひと手間をかけさせたり、耐性を上げるため装備の枠を一つ潰させる等、間接的な有用性はそれなりにあるのだが。

 

スキルの影響によって動けないザリュースが必死で思考している目の前で、詐貌天とグの会話は続く。

 

「気づいたら知らない場所にいたのはこの腕輪のせいか!」

「効果も知らないのに発動させたのか? というか気づいてなかったのか……まあいい。大人しく返してくれると、こちらも手間が省けて助かるんだが、どうする?」

「お、俺が臆病者のいう事を聞くと思ったかぁ! お前も殺して食ってやる!」

「……食えるところあるのかな、俺」

 

自らの頭に向けて渾身の力を込めて振り下ろされたグレートソードを、詐貌天はそんな間抜けなことを言いながら、事も無げに片腕で受け止めた。

 

「な、なんだと!?」

 

グの悲鳴に近い驚愕の声が響き渡る。周囲のトロールはもちろんのこと蜥蜴人(リザードマン)達も、声には出せないものの、詐貌天から発せられる圧力に晒されながらも攻撃に移ることができたグに戦士として尊敬の念を抱き、そしてその直後、グと同様に驚愕する。

東の巨人たるグの腕力はこの場の誰もが嫌というほど知っていた。それに加えて戦士としての技量に目覚めた、ウォートロールとでもいうべきグの振るう剣の威力は正に覇者の一撃であり、それを受け止めようとすれば防御ごと両断されるか、そのパワーで潰されることになる。それが分かっていたからザリュースもグの攻撃を躱し続けていたのだ。しかし目の前の異形はあっさりと防いで見せた。トロールたちが目に見えて動揺し始める。当然だ。自分たちの長であり、最も強者であるグの攻撃が一切通じていないのだから。

 

(……予想外にちょっと痛い。上位物理無効でもあれば完全に平気でいられたのかね?)

 

そして当の詐貌天はというと、剣を受け止めた衝撃による痛みを頑張って堪えていた。全身に生えた漆黒の棘は獣人系種族の爪や牙と同じく肉体武器という扱いであるため、ダメージをそれほど受けずに物理攻撃を受け止めることができる。戦士職のプレイヤーからはこれが地味にウザいと評判であった。しかしあくまでダメージを「それほど」受けないというものであり、攻撃はしっかりと喰らっている。人間化を解除してレベル95のステータスに戻った今の詐貌天からすれば微々たるものではあるが、ダメージはダメージ。歩いていてその辺の角にぶつかった程度の痛みはあった。

攻撃を受け止められたグは慌ててグレートソードを引き戻し、再び全霊を込めて振り下ろそうとする。

 

(そう何度も受けたいもんじゃないな)

 

詐貌天は素早くアイテムボックスに手を突っ込むと、リアルで昔使われたという、レッド9と呼ばれる拳銃を外装の参考にした魔導拳銃を取り出す。

 

「〈炎弾(ファイアバレット)〉」

 

次の瞬間、破裂するような音と共に弾丸が発射され、振り上げたグの右腕に大きな穴が開いた。

 

「ぎゃアアアアアア!?」

 

当然、グは悲鳴を上げてその手の武器を地面に落とすこととなる。詐貌天の乱入時に受けた槍の傷同様、トロールの再生能力によってすぐに傷はふさがるかと思われたが、傷が治る気配は一向にない。見れば腕に開いた穴からは肉の焼けた臭いと共に煙が上がっている。放たれた弾丸から炎ダメージが与えられたという事だ。

 

「やっぱり傷口を燃やせば再生しないか……さて、一応もう一度聞いておこう。腕輪を返してくれないか?」

「お、お前たち! こいつを殺れ!!」

 

詐貌天からの問いには答えず、グは無様に周囲のトロールたちへと吼える。しかしトロールたちに動く気配はない。当然だ。ただでさえ〈宇宙的恐怖〉の効果で恐怖に捕らわれているうえ、目の前の相手が明らかに自分たちなど歯牙にもかけない強者だと知れば、戦いに参加しようなどと言う勇気が沸いてくるはずはない。トロールたちはただ、目の前の化け物が自分たちの方へ意識を向けないよう、大人しく縮こまっている事しかできなかった。

 

「く、くそおおおおおおお!」

 

グは動かなくなった右腕をだらりとぶら下げたまま、左腕で詐貌天に殴りかかる。この棘だらけの体を素手で殴ろうなどとよく思えるものだと感心するが、先ほどの剣の攻撃で、格下の攻撃だろうと当たれば痛いという事を知った詐貌天はわざわざ当たってやるつもりなどなかった。

 

「〈炎弾(ファイアバレット)〉」

 

再び炎ダメージを与える弾丸が発射され、グの左こぶしを砕き、再生しないよう焼き尽くす。手首から先がなくなった左腕から、集団転移の腕輪がずるりと落ち、装備が解除されたことでグの腕に合わせて巨大化していたのが元のサイズに戻った。詐貌天はサッとそれを拾い上げ、銃口をグに向けたまま宣言する。

 

「集団転移の腕輪、確かに返してもらった。さて、もう君に用はないんだが、どうする? 戦士らしく死にたいならそうしてやるが?」

「ひっ……ひャァアアアア!!」

 

銃は今まで見たこともないものだったが、それを向けられるというのが何を意味するのか。2度の〈炎弾(ファイアバレット)〉を受けて両腕が使い物にならなくなったことで嫌というほど理解したグは、詐貌天のスキルによる恐怖に耐えられず錯乱状態に入り、背中を見せて逃げ出した。詐貌天はその背を撃つというようなことはしない。グに言った通り、アイテムさえ帰ってくれば用は無い。話は蜥蜴人(リザードマン)に聞けばよいのだから。詐貌天が銃を構えてぐるりと辺りを見渡すと、その場の誰もが震えあがり、中には腰を抜かす者までいる。

 

(なーんか、怪盗というより昔のドラマの銀行強盗になった気分……)

「さて、トロールの諸君。君たちのリーダーがあっちに走っていったけど、追いかけなくていいのかな?」

 

その言葉を聞いた瞬間、トロールたちは弾かれたように駆け出し、グの逃げていった方向へ去っていった。

 

(あいつら、主人の剣拾っていかなかったな。まあいいや。もらってしまおう)

 

グが落としていった毒のグレートソードをアイテムボックスに放り込んだ詐貌天は、トロールが残らずいなくなり、どうしていいか分からず呆然と立ち尽くす蜥蜴人(リザードマン)達に向け、務めて明るい口調で語り掛ける。

 

「さて、蜥蜴人(リザードマン)の諸君……話をしよう」

 

燃え上がる三つの眼を向けられながらの言葉に、ほとんどの蜥蜴人(リザードマン)は全てを奪われる覚悟をしたという。




月棲獣たち「「「「「「ギ(暇)」」」」」」

早く現地の人間出したいけどもうちょっとかかりそうですね……
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