オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

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前回のあらすじ
サボテン「ヒャッハー! 落としたマジックアイテムだァ!」
グ「渡さんぞ! くらえ!」
サボテン「グの骨頂! 効かぬわ!」
グ「逃げろぉ!」

↑グの骨頂って書きたかっただけです、はい。


第五話 プレイヤーの影

「よっ……はっ! ……ダメか」

「なあ……いったい何をやってるんだ? 邪悪な儀式とかではないんだよな?」

 

蜥蜴人(リザードマン)緑爪(グリーン・クロー)族の集落を襲っていた東の巨人、グを横から襲い、アイテムを奪い追い払ったその翌日、大湿地付近の木陰で6体の月棲獣(ムーン・ビースト)に囲まれながらクネクネと奇妙な動きを繰り返していた詐貌天(さぼうてん)――ちなみに常時発動型特殊能力(パッシブスキル)の〈宇宙的恐怖〉はトロールたちが居なくなった段階でオフにしている――は、後ろからかけられた声に振り返らず応える。

 

「おお、ザリュース君。いやね、この鏡……遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・ビューイング)って言うんだけど……使い方がっ! ふんっ! よくわからないんだ。ホァア!」

「その……お前の動きを皆が不安がっているんだが……」

「マジか。ゴメン……でもこれ結構便利だからさっさと使えるようになっときたくてさ……ってあれ? できたわ。広範囲を映すにはこうするんだな」

「これは……まさか、ここを上から見た様子が映っているのか?」

 

鏡には当然、詐貌天とザリュースが映っている。ただし正面ではなく、彼らを囲む月棲獣(ムーン・ビースト)や、周囲の木々と共に上から小さく映っていたのだ。ザリュースは思わず上を見渡すが、空には虫や鳥の一匹すら発見できなかった。

 

「しかも映す場所をこうして移動できる」

「お? おお! これはすごいな!」

「建物の中は見えないけどな。さて、試しに昨日のトロールたちがどうしてるか探してみようかね。こっちの方向に行ったよな……拡大して……お、足跡発見……ククク、盗賊&レンジャースキルの眼から逃れられると思うなよ?」

「……奴らには同情する」

 

苦情を言いに来たはずのザリュースだったが、初めて見るアイテムへの興奮や、逃亡した東の巨人の動向は確かに知っておきたい、等の理由から、詐貌天と一緒になって遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモートビューイング)をのぞき込む。遠巻きにその様子を眺める蜥蜴人(リザードマン)達は皆不安そうだ。元々、どちらかといえば閉鎖的な種族だった蜥蜴人(リザードマン)にとって、詐貌天の異形の姿にはたとえ助けてくれた存在だとしてもやはり警戒が強くなってしまうのだ……蜥蜴人(リザードマン)でなくても、詐貌天の場合は誰でも警戒させそうではあるが。

 

旅人……部族から離れて各地をめぐり、様々な異種族とめぐり合ってきたザリュースだからこそ、異形である詐貌天と、なんとか、ある程度、ではあるが打ち解けることができていた。故に、先日の戦闘が終わった後の詐貌天への対応は直接現場で戦っていたこともあり、ザリュースとその兄であり族長のシャースーリュー・シャシャを代表とし、そこに族長を補佐する長老会、そして豊富な魔法関連の知識を持つ祭司頭を加えた面子で行った。

結果としては蜥蜴人(リザードマン)側が一番知りたかった、結局のところ詐貌天は自分たちにとって害があるのか否か、というところは「こちらが彼の”落とし物”を所持していなければほぼ無害(多分)」と判明し、次の獲物……もとい、目的地が見つかるまでの間は集落付近に滞在していても文句は言わないという方針が決まった。触らぬ何とかに祟りなしだ。それでも今のあまりに不気味な奇行は看過できず、ザリュースが苦情係として出動と相成った訳だが。

 

そして詐貌天の側も、知りたかった情報がいくつか手に入った。まず、ここはほぼ間違いなくユグドラシルとは違う異世界である、という事。詐貌天の拠点があったアースガルズを始めとするユグドラシル内の地名を知っている者は長老の中にも居なかった。また、この世界の住人はユグドラシルプレイヤーからすると、驚くほど弱いという事も分かった。魔法を例に挙げるなら第3位階が使えれば相当の熟練者という事らしい。戦いで怪我をした蜥蜴人(リザードマン)達を、恩を売ることも兼ねて治癒してやろうと、アイテムと巻物(スクロール)で広範囲化した大治癒(ヒール)を使ったのだが、話を聞いた祭司頭は「第6位階ィ!?」と叫び、顎が外れたのかと思うほど口をあんぐりと開けて固まってしまった。蜥蜴人(リザードマン)にそんな顔をされると、こっちを食うつもりかという気がしてくるのでやめてほしい、などと思ったが、詐貌天の容貌もこっち見るなとか、それ以上近寄るな(刺さるから)とか言われそうなものなので、どっちもどっちである。

それとどうやらこの世界にも人間はいて、社会を作り上げているらしい。

 

これらの情報も、地名に関しては蜥蜴人(リザードマン)が知らないだけという可能性がある。強さに関しても、ゲーム的に言うなら高レベルの者に、誰も会ったことがないというだけかもしれない。それでも何も情報がないよりはずっといい。不確かな情報でも一応知っておけば、別の者に確認をとって精度を高めることができるのだから。

 

「さて、もうすぐ見えるんじゃないかなっと……」

 

足跡をたどりながらすさまじい速度で遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・ビューイング)に映る景色を移動させていく。先日グが逃走してからの経過時間と、予測されるトロールたちの移動速度からすればもうすぐ鏡の映像内にトロールたちを捉えることができるはずだった。そして予想より少し早く、その姿が鏡の中に映し出される。ただし……

 

「……全員、死んでいるだと!?」

「ありゃ? リーダーがほぼ戦闘不能とはいえ、こいつらこの辺では相当強い部類なのよな?」

「そのはずだが……」

「んー、グはともかく、ほかの奴に外傷がない……傷は治ったとして、毒でも喰らったか……いや、苦しんだ様子がない。このレベルの奴らが一瞬で死ぬような強力な毒か、即死系の魔法やスキルか……まさか、やったのはプレイヤーか?」

「ぷれいやー……お前のような奴らの事、だったな……」

「そうそう。真正面からヨーイドンでやりあったら、多分俺じゃ絶対勝てないやつら」

 

詐貌天が絶対に勝てない、と聞いたザリュースは身震いする。それはいったいどんな化け物なんだと。しかし詐貌天からすれば当たり前の事だった。元々正面から殴り合うよりも隠れて先行し、敵の戦力を探る、罠を解除する等のサポートに重点を置いた盗賊職をメインにしているうえ、かと言ってそれに特化しているわけでもなく、レンジャーやガンナーの職業(クラス)レベルを中途半端に上げ、〈収集家(コレクター)〉や〈贋作師(イミテイター)〉等のアイテム管理、生産系の職まで取っていることでさらに戦闘力は低くなっている。しかもスキルの数を考えれば種族レベルは一切上げない方が強いキャラを作れる、というのが通説である中、種族レベルを30も上げている、完全なロールプレイ用ビルドだ。

 

極めつけに、ユグドラシル最後の瞬間にPKされた事で今はレベルダウンしている。ある程度強さを求めた100レベルプレイヤー相手に正面から戦って勝てるわけがない。もっとも正面から戦った事などほとんどないのが詐貌天というプレイヤーなのだが。グと真っ向から戦ったのは相手があまりに弱いので調子に乗っていただけである。もしグが100レベルだったら、集団転移の腕輪だけはあらゆる手段を駆使してスリ取り、蜥蜴人(リザードマン)達は見捨てて逃げていただろう。

 

「距離的にこいつら、ついさっきまで移動してたはずなんだよな。つまり、たった今死んだばかりだ……やった奴は多分まだこの近くにいる」

 

詐貌天はそう言いながら少しずつ表示範囲を拡大しながら捜索を始めるが、数分ほど探したところで不意に遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモートビューイング)に亀裂が入った。

 

「なんだ? 割れたぞ……」

「退避いいいいいいいいいいい!!」

「!?」

 

詐貌天の叫びと同時にザリュースの視界は光に包まれ、思わず閉じた目を開くと、そこは先ほどの木陰ではなく、集落のど真ん中であり、突然現れたザリュース達に皆困惑している。

 

「……昨日の腕輪か! 本当に転移できるんだな」

「ふう、セーフセーフ……」

「おい、さっきから一体何を……」

 

事情を言おうとしない詐貌天にザリュースが焦れ始めたとき、集落の付近――遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモートビューイング)が置いてある辺り――で、轟音と共に大爆発が起こった。その勢いはすさまじく、集落の方まで風が届くほどであった。

 

「な……」

「即死攻撃に、覗き見への攻勢防壁……第3位階が凄腕レベルって情報を信じるなら、こんな事ができるのは間違いなくプレイヤーだな。俺以外にいたのを喜ぶべきか……俺に恨みの無い奴だといいけど」

「……こんなのに恨まれるとは、何をやったんだ?」

「昨日トロールたちにやったことを数百倍卑劣なやり方で大規模に……」

「納得した」

 

もし恨まれていて、ゲーム時代の事を現実となった今も引きずるタイプであれば相当危険だが、ともあれ、遠くから探れないのであれば、接触してみなければ何もわからない。

 

「ひとまずの目的ができたな。ザリュース君、世話になったって族長に言っといてくれ」

「もう行くのか」

「ほっとしているのが手に取るようにわかるぞ……あ、これ置き土産ね。宿代だと思ってくれ」

 

そう言って詐貌天はアイテムボックスからモンスター召喚系の消費アイテムを数種類取り出し、ザリュースに手渡す。どれも単体でこの集落を容易に滅ぼせるだけのモンスターを呼び出し、従わせることができるものだ。効果を聞いた周囲の蜥蜴人(リザードマン)は一斉に距離をとる。

 

「集落に直接泊めたわけではないのだが……いいのか?」

「いいのいいの。出てけって言われなかっただけ有り難かったよ。あ、プレイヤーに会ったらここは襲わないでくれってお願いしとくわ」

「そうか……感謝する」

 

こんなものを使わなければならない事態になど二度となってほしくはないが、戦争を経験している身としてはもしもの時の戦力があって困ることはない。それに、恨まれているらしい詐貌天の交渉が通じるのかどうかは不明だが、こんなとんでもない攻撃ができる存在が襲ってくる確率が減るのは非常に有り難かった。

詐貌天には未だに警戒してしまうが、その感謝の言葉だけは心から出てきたものだった。

 

「じゃあ行くぞお前ら!」

「「「「「「ギギギギギィ!」」」」」」

 

蜥蜴人(リザードマン)達は、6体の白い異形を引きつれ、東の巨人が逃げた方向へと去っていく詐貌天が見えなくなるまで見送っていた。無論、ザリュース以外は怖くて目が離せなかっただけである。




即死攻撃に、〈爆裂〉による攻勢防壁……いったい何ンガ様なんだ……
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