オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

7 / 12
前回のあらすじ
サボテン「プレイヤー見っけ!」


第六話 死の支配者と百貌の神

「さて、ここか……一度見て知ってたけど、見事に全滅してるなぁ……」

 

蜥蜴人(リザードマン)の集落を発って半日ほど。相手がプレイヤーであるなら元の姿で居るのは危険かもしれないため、再び人間化してから装備を変更し、トロールたちの殺された場所にたどり着いた詐貌天(さぼうてん)は、隠密スキルを最大に発揮して現場を近くの木の傍から眺める。月棲獣(ムーン・ビースト)達にも協力させ、探知系のスキルで周囲を捜索したが、トロールたちを殺害した者は既にどこかへ去ってしまったようだ。しかし地面をよく探せば、トロールたちの素足の物ではなく、靴による足跡が微かに残っていた。それも新しいもので、この場から離れるように続いている。

 

「現地人も社会形成してるって言うし、靴ぐらい履いてるだろうけど、まあプレイヤーだよな……たどってみるか?」

 

その場をいくら探しても足跡の他にはトロールの傷一つない死体が無数に転がっているばかり。死体を調べても毒の類は検知できなかったためやはり即死魔法、もしくはスキルの線が濃厚である。

詐貌天は一旦左手の革手袋を外すと、アイテムボックスから即死耐性上昇の指輪を取り出し、左手の指輪をそれに付け替える。

 

「ゲームの時ならともかく、現実で片手に一つしか装備できないのは納得いかねえ……何のために指が5本あると思ってるんだ」

「「「「「「ギッギィ?(なにいってんだこいつ)」」」」」」

「あっ こいつら……」

 

月棲獣(ムーン・ビースト)達の態度にイラつきつつ、外した指輪をアイテムボックスにしまい込む。この世界に来てから不思議に思ったことの一つで、現実になり、装備もコンソールから選ぶのではなく自分の手で装着するようになった。にもかかわらず装備の仕様がユグドラシル時代のままなのだ。詐貌天は自身のスキルで職業、種族などによる制限はごまかして装備できるが、そのスキルを使わずにグから奪ったグレートソードを振ってみようとしたら剣が手から離れて地面に落ちるという結果になった。つまり装備制限に引っかかって強制解除されたという事だろう。

また、指輪もユグドラシルでは片手に一つという制限があり、現実になった今なら左右五個ずつ装備できるのではないかと試してみたのだが、結果は”不可能”であった。

どうやらこの世界が現実であっても、詐貌天自身はあくまでユグドラシルのプレイヤーキャラクターであるという事のようだ。納得はできないが理解はできた。この辺りは接触したプレイヤーと話し合う必要があるだろう。

 

「友好的な奴であってくれよ……さて、この足跡を追いかけるぞ」

「「「「「「ギィ(了解)」」」」」」

 

詐貌天は蜥蜴人(リザードマン)の集落がある湖へ向かった時と同様、6体の月棲獣(ムーン・ビースト)に周囲を警戒させつつ、自身の探知系スキルも総動員して足跡をたどり始める。

 

しかしその捜索はわずか数分で終わりを告げた。詐貌天は不意に足跡の続く方向から自分たちの方へ高速で近づいてくる気配を感じ取った。月棲獣(ムーン・ビースト)達も同様らしく、前方に向けて槍を構える。詐貌天はすぐに月棲獣(ムーン・ビースト)達を散開して隠れさせ、自身も隠密系のスキルを全開にして近くの木の影に飛び込む。足跡の主がわざわざ引き返して来たというなら既に気づかれているのかもしれないが、しないよりはいいだろう。そうして待ち構えていると、すぐにステータスを感じ取れるほどにまで近づいてきた。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)か。それで、種族はアンデッドか? HPとMPからして多分レベル100。それも装備でかなり強化してるな……プレイヤーだ。そして戦ったら俺は死ぬ)

 

戦うという選択肢は即座に放り捨て、このまま隠れ続けているべきか、五体投地で丁重に出迎えるべきか、はたまた全力で逃走するべきか迷っている間にも距離はどんどん縮まっていく。

 

(ん? 後から別の気配が……やたらデカいな。モンスターか。大して強くないが……このプレイヤーを追いかけてる? おいおい、何で逃げてるんだ? あのプレイヤーなら余裕で倒せるだろ。相性の問題とかか?)

 

何故そんな状況になっているのかいまいちわからず首をひねっていると、やがて飛行していたプレイヤーが視線の先にその姿を見せた。

 

その姿を言い表すなら、まさに死の具現。闇を撚った糸で編み上げられたような、豪奢な漆黒のローブに身を包み、赤黒い、禍々しいオーラを身にまとったその体は皮膚も筋肉もない、骨のみの異形。およそ生気らしきものの感じられない髑髏の顔の空虚な眼窩には、全ての生命を憎むような赤い光が宿っていた。その姿に、詐貌天は見覚えがある。

 

(あれってアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターだよな……モモンガさんだっけ?)

 

ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。”悪”のロールプレイにこだわり、某匿名掲示板においては、詐貌天の所属していた集団(クラン)、棘付き怪盗団と似たような、しかしその規模故によりひどい言われようを誇るDQNギルドである。かつてプレイヤー、傭兵NPCなど、計1500人からなる討伐隊が編成され、それを返り討ちにしたという伝説を持つ。たかだか十数人の討伐隊に何度もやられていた棘付き盗賊団とは大違いである。

 

(アインズ・ウール・ゴウンの人とは幸先がいい。比較的話ができそうな確率が高いぞ!)

 

棘付き盗賊団はアインズ・ウール・ゴウンに手を出したことは無い。ギルド拠点であるナザリック地下大墳墓がヘルヘイムの毒の沼地にあるため、アースガルズの拠点から出向くのが面倒というのもあったのだが、理由として大きかったのはメンバーの一人と個人的な取引(盗品の横流し)を頻繁に行っていたから、というものだ。よそのギルドから盗み出した希少金属やレアドロップ品等を横流しする代わりに、召喚モンスター、装備の外装データや、どこのギルドがどこで何を手に入れた、というような”お宝情報”をもらっていたのだ。

 

(最後の方は音沙汰なかったけど……元気かな、るし★ふぁーさん。あの人の場合あまり元気すぎると困るが……おっと、通り過ぎそうだな。俺には気づいてないのか)

 

見ればモモンガは速度を維持したまま進み続けている。数秒で詐貌天のいる位置を通り過ぎるだろう。そしてモモンガの後ろに目をやれば、木々をなぎ倒す騒音と土煙を上げながらモンスターが姿を現した。その姿は毒々しい紫色のオーラに包まれていてはっきりしないが、巨大な蛇のような長い体の先に人の上半身がついた形をしているのが何とか見て取れた。ナーガというモンスターに似ているが、その大きさは目を見張るほどで、何より翼が生えているという、ナーガにしては異様な姿だった。

 

「くっ! 魔法抵抗難度強化最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉!!」

 

モモンガが速度を落とさないように振り返り、巨大ナーガもどきに向かって腕を振るう。するとモモンガの目の前の空間そのものがゆがみ、対象を両断しようと襲い掛かる。第十位階魔法〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉だ。魔法的防御をほぼ無効化して放つことができる、第十位階の中でもトップクラスの威力を持つ攻撃魔法である。この魔法を、さらに魔法抵抗難度強化最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)で強化して放つというのはこの巨大ナーガもどきのステータスからして明らかにやりすぎではないか、と詐貌天は思った。

 

だが次の瞬間、それがやりすぎでもなんでもないという事と、何故この死の支配者がこの程度のモンスター相手に逃げているのか、という事。その二つを同時に理解する。

 

「嘘だろ!? 無効化しやがった!」

 

詐貌天は思わず叫ぶ。〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉がナーガもどきの体に触れる直前、見えない壁に弾かれたように消滅してしまったのだ。スキルで調べたこのモンスターのステータスからして、絶対にありえないはずの光景であった。

 

「っ! 誰かいるのか!?」

 

そして詐貌天が思いっきり叫んだことにより隠密系スキルの効果が薄れ、モモンガがその存在に気づき、動きを止めるが、この時点で姿を見せるつもりでいたので大した問題ではない。詐貌天は木の影から飛び出し、ボウガンをナーガもどきに向ける。

 

「俺もプレイヤーです! 援護します! 物理ならどうだ! やれお前ら!」

「「「「「「ギギギギギギギ!」」」」」」

 

詐貌天の指令と共にナーガもどきへ月棲獣(ムーン・ビースト)の槍が殺到する。こちらは弾かれることなくその体に突き刺さり、異形のモンスターは身もだえする。しかしやはりレベル35の低級モンスターの攻撃。トロールたちのようにはいかず、ナーガもどきはすぐに怒り狂った様子で突撃してくる。

 

「一応物理なら効くらしいな……じゃあこいつを喰らえ!」

 

詐貌天はボウガンに希少金属の矢をセットし、発射する。どういう原理なのか、通常の矢よりも数段高い威力を発揮する矢がナーガもどきの体に深々と食い込み、月棲獣(ムーン・ビースト)の槍よりも大きいダメージを与える。ボウガンに仕込んでおいた毒が矢に付着して一緒に撃ち込まれたはずだが、こちらは抵抗(レジスト)されてしまったようだ。

 

「毒もダメか……なら、スキル〈百貌の神〉〈完璧なる変装〉!」

 

ボウガンをアイテムボックスに放り込み、種族変更スキルを発動させる。次の瞬間、詐貌天は〈半魔巨人(ネフィリム)〉の種族レベルを取得し、さらに〈怪盗〉の上位職〈無限面相〉の職業レベル擬装スキルによって一時的に戦士系職業のステータスを得る。そしてボウガンの代わりにグから奪ったグレートソードを取り出し、レベル95の異形種戦士の筋力に物を言わせて思い切り叩き斬った。これは相当効いたようで、ナーガもどきは大きくのけぞって少し後退する。

 

「〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉」

 

モモンガも黙って観戦などしているつもりはない。こちらは魔法によって詐貌天と同様、戦士系職業のステータスを手に入れ、取り出した打撃特化のメイスで顔面と思しき場所を追撃する。

 

「ガアアアアアアアアアアアア!」

 

とうとうナーガもどきが声を上げた。紫色のオーラの向こうから血走った双眸がモモンガをにらみつける。だがそんなもので形勢が変わったりなどしない。やがてナーガもどきは繰り返される斬撃と刺突と殴打の嵐の前に、なすすべなく絶命した。

 

「ふう……死んだな? 第二形態に変身してラウンド2とか、ないよな……?」

「……不吉な事言わないでください」

 

倒れ伏したナーガもどきを詐貌天がグレートソードの先で突っついていると、その体は急激に縮んでいき、みずぼらしい普通のナーガの死体だけが残った。

 

「あ、ナーガだったのかこいつ……」

「モンスターの強化スキルかアイテムの影響を受けていたとか……? いや、でも魔法に対する完全耐性だなんて……あ、それよりも! 加勢してくださってありがとうございます。他にもプレイヤーの方がいたんですね。私はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガと言います」

「知ってますよ、有名人ですからね」

「ははは……あまりいい意味でじゃないですけどね。それで、あなたは?」

 

今この場でほんの少し接しただけだが、詐貌天から見たモモンガの人柄は想像以上に穏やかなものであった。正直、るし★ふぁーの所属ギルドのリーダーという事でもう少し変人ではないかと思っていたのだが。

すっかり安心した詐貌天は〈百貌の神〉を解除し、元の姿に戻り、名乗ることにした。

 

「棘付き盗賊団の怪盗詐貌天です」

「〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉!」

「あれ? ちょっと? モモンガさん!?」

 

怪盗詐貌天。その名を聞き、さらに自身のアイテムボックスに大切にしまい込んである〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(ギルド武器)〉の存在を思い出したモモンガは迷わず逃走を選択した。

その後、詐貌天が隠れたモモンガを見つけ出して説得するのに結構な時間が掛かったという。




ガイコツ「糞! ギルド武器ハンターだ!」
サボテン「盗らないから!」

ようやく合流です。

0ribe様、誤字報告ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。