オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

8 / 12
ちょっと物理的にパソコンを触れない時期が出来てしまいものすごく遅れました。

前回のあらすじ
サボテン「はじめましてギルド武器強奪前科持ちです」
ガイコツ(無言の逃走)


第七話 合流

「モモンガ? 誰の事です? 私の名前はダーク・ウォリアーです」

「とぼけるならせめて声くらい変えろ」

 

巨大化した謎のナーガを撃破したあと即座に逃走したモモンガをようやく発見したかと思えば転移魔法でさらに逃げられ……という事を繰り返した詐貌天(さぼうてん)は、魔法で生成した漆黒の全身鎧を身に纏ってまでとぼけ倒す目の前のガイコツに発砲する(ガチギレ)寸前であった。詐貌天の積み重なった怒りを表すように激しく燃え盛る三つの眼を見たモモンガはようやく諦めたようで、頭部を覆う兜を消し去り、骨だけの顔をさらけ出す。

 

「冷静に考えてみれば、こんな状況で他のプレイヤーから恨みを買うような真似はしませんよね。さっきも加勢してくれたわけですし。逃げてしまってすみませんでした」

「……まあ、いいですよ。他の人から見れば俺はある意味、この状況で絶対会いたくない相手だろうなってのは分かるので。さて、話ができるようになったところでとりあえず、情報交換しません?」

「ええ、そうしましょう」

 

詐貌天も取り出しかけていた銃をしまいなおし、月棲獣(ムーン・ビースト)達に周囲を警戒させつつ、これまでに得たこの世界の情報――蜥蜴人(リザードマン)の集落でのことや、そこで聞いた、どうやら人間の社会があるらしいこと、またこの世界の存在はユグドラシルプレイヤーからすると異様にレベルが低いこと等――について話し始める。モモンガは詐貌天と出会うまでに自身の魔法やアイテムの効果を可能な範囲で試していたようで、その実験結果を教えてくれる。こうしてようやく詐貌天は自分以外のプレイヤーと、この世界に来てから初の交流を果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

周辺国家のひとつ、バハルス帝国の紋章が刻まれた鎧を身にまとった男、ベリュースは己の運の無さを呪う。楽な任務のはずだった。帝国騎士に成りすまし、抵抗する力もろくにない辺鄙な村を襲い、適当に何人か生かしてあとは殺し、建物は焼き払って次の村へ。それをいくつか繰り返し、あとは別に動いているらしい部隊に任せて自分たちは帰還する。このような大した危険もない任務で、自分は国のために部隊を率いたという箔を付ける事ができる。だからこの任務に隊長として参加した。しかし実際はどうだ。確かにいくつかの村への襲撃は何事もなく成功した。だがここ――確かカルネ村とか言ったか――を襲撃している最中、森の方から村人の悲鳴が聞こえてきた。最初はそんなもの、気にも留めなかった。単に森に逃げた村人が部下に斬られたというだけの事だろうと思ったのだ。しかし次に聞こえた悲鳴は聞き覚えのあるものだった。たしか先ほど話した部下の一人がこんな声だったはずだ。

 

そして次の瞬間、森の方からおびただしい数の異形の影が迫ってくるのが目に入った。

自分が狩る側の存在だと信じて疑わなかった男は状況もろくに理解できないままその首が宙を舞う事となり、そこまで行ってようやく自分が狩られる側になったのだと理解し、自らの運の無さを呪いながら、そのまま道端の虫けらのように死んだ。

 

 

ロンデス・デイ・グランプは己の信じる神に罵声を浴びせかけたくなるのを必死で抑え込む。敬虔なる信徒である彼がそんなことになっている原因は目の前に広がっていた。少し周囲を見渡せば、そこには視界を埋め尽くさんばかりの下級悪魔、アンデッド、果ては不定形の、どういう存在なのかよくわからない者まで……すぐ近くのトブの大森林内を探し回ってもこれだけの数を見つけるのは非常に骨が折れるだろうというほどのモンスターがひしめいていた。そのすべてが間違いなく人類に仇をなす存在であり、今も手近な者を見境なく襲い続けている。幸いなのはモンスター同士でも殺し合ってくれているのがあちこちで見られる事だが、襲い掛かる優先順位は人間の方が高い様で、ほとんどが大挙してこちらに駆けてくるのが見える。自分たちが全滅するのにそう時間がかからないであろうことは明らかだ。現に、そこらには何人もの騎士の死体が転がっている。

 

「撤退だ! 馬と弓騎兵を呼べ! まだ動ける者は前に! 時間を稼ぐんだ!」

 

ロンデスは震える体を抑えつけるように声を張り上げ、既に死んだ隊長の代わりに部下の騎士たちに指示を飛ばす。

突如として襲い掛かってきた暴力と悪意の波にのまれかけていた騎士たちはその声を聞いて一斉に動き出す。

何人かが剣を構えて飛び出し、後ろに下がった騎士の一人が背負い袋から取り出した笛に全力で息を吹き込み甲高い音を響き渡らせる。

これで笛の音を聞きつけた騎兵たちが後方から駆けつけてくれるはずだ。そうすれば離脱できる。

ロンデス達にとって誤算だったのは、笛の音を聞きつけたのは味方の騎兵だけではなかったという事だ。

 

「ああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

雄たけびと共に下級モンスターを跳ね除けながら高速で駆けてくる()()な影を最初に認識したのは、()()に跳ね飛ばされ、7メートル以上も宙を舞う事となった騎士、エリオンだった。彼は最初、魔法で軽量化されているとはいえ、金属製の全身鎧をまとった成人男性である自分が浮き上がっている意味が分からなかった。そして空中で半回転したところで一瞬前まで自分がいた場所が見えた事で理解する。そこに立っていたのはまるで死を具現化したようなおぞましい存在。全身を返り血で暗い赤に染め、そしてそれよりも濃い真紅の目を光らせ、こちらを悪鬼のような形相で睨みつけてくる、形だけは人間の少女のような何か。

エリオンは吹き飛ばされながら、この常軌を逸した化け物とまともに対峙することなく一瞬で死ねる自分は、もしかすると幸運だったのかもしれない、などと考えながら地面に叩きつけられ、絶命した。

 

「返セ……返せェエエエエエエエエエ!! 村のみんなをォ! 私の家族を返せエエえええええええ!!!」

 

血まみれの少女がこの世のすべてを覆い尽くさんばかりの怨嗟のこもった声で喚き散らす。それだけで騎士たちの構える剣の先は小刻みに震え、鎧がカチャカチャと耳障りな音を立てる。

どうやら化け物たちの仲間という訳ではないらしく、鎖の巻き付いた獣のアンデッド、悪霊犬(バーゲスト)が少女に飛びかかるが、あっさりと片手で捕まえられてそのままひねりつぶされてしまう。その光景を見て耐えきれなくなった騎士の何人かが時間稼ぎを忘れて背を見せ駆けだすが、数歩と進まないうちに紅い光の尾を引きながらすさまじい速度で追いついた少女が、素手で鎧の背中を殴りつける。たったそれだけで逃げ出した騎士はエリオンと同じ運命をたどる。

 

ロンデスは今度こそ己の神を思いつく限りの言葉で罵倒し、運命を呪いながら、自分が血まみれの少女に殴り飛ばされ、宙を舞って死ぬまでの数十秒を震えて過ごした。

 




血まみれの覇王爆誕
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