オーバーロード 詐貌の棘怪盗   作:景名院こけし

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前回のあらすじ
覇王「騎士とモンスターどもゆるさんぶっころ」
副隊長「神のバカヤロー!」



第八話 人間

アンデッド、悪魔、不定形の何か、そして人間の騎士。世界の終わりを告げる最終戦争もかくやと言うような多種多様な存在がその場に集まっている。しかし、そのどれ一つとして()()()とも動かない。ただ一人を除き、全てが生命活動を停止しているからだ。それらのさっきまで命だったものに囲まれて、呆けたように座り込む血まみれの少女。彼女の名はエンリ・エモット。周囲に横たわる亡骸のほとんどは彼女がその手で殴殺したものだ。ほんの数時間前までは何の力も持たない唯の村娘であったはずの自分が作り上げた地獄の光景を、エンリはまるでそこには何もないかのような空虚な瞳で見つめている。

 

そしてそのエンリを、この死屍累々のカルネ村の近くの森から遠巻きに眺めている人影が二つ。人間に化け、緑色の軽鎧とマントに身を包んだ詐貌天(さぼうてん)と、漆黒の全身鎧を纏ったモモンガである。二人が森の中で話し合っている最中、村で兵士が鳴らした笛の音を詐貌天の召喚した月棲獣(ムーン・ビースト)が感知したため、遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・ビューイング)で軽く偵察した後、二人そろって様子を見に来たのだった。対話できそうな相手が全滅しているのは遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・ビューイング)で見ていたが、一応は異形種であることを隠せる装いにしている。当初モモンガは元々着ていた漆黒のローブを装備したうえで骸骨の体を仮面やガントレットで隠して行こうとしていたのだが、その姿を見た詐貌天の漏らした「いくら魔法詠唱者(マジックキャスター)にしても怪しすぎる」と言う評価を受けてこちらの全身鎧に変えた。

 

「……ピクリとも動きませんね、あの狂戦士(バーサーカー)少女」

「ですね……眺めてても仕方ないんで、とりあえずステータス探ってみます」

 

詐貌天は気づかれないように、遠くからでも相手の大まかなステータスを知ることができる野伏(レンジャー)スキルを発動させる。低位の魔法やスキルで簡単に妨害できるものだが、仮に失敗しても相手に察知されにくいという利点がある。結果としてはスキルは無事に発動し、モモンガ曰く狂戦士(バーサーカー)少女の状態が感覚で理解できた。

 

「さてどんな感じかね……ん? あの女、なんかすごい数のバッドステータスがかかってる? アンデッドでも構わず素手で殴ってたし、そのせいか? 他には、HPからするとレベルは40台前半……グが相当強いって話はどこに行ったんだザリュース君……いや、この頭のおかしい数のモンスターを仕留めてレベルアップしたのか?」

「でも元々それくらいのレベルが無いとこの数は倒せませんよね? いやそもそも、あれ見てください。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が死んでますよ。それも複数」

「え? ……マジだ。40台前半じゃあそもそもあれを一体倒すのもひと苦労のはず……ていうかなんだよ、森の外は蜥蜴人(リザードマン)にとっちゃ魔境か?」

 

詐貌天の記憶が確かなら、ユグドラシルにおける八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)のレベルは48。無論、現実世界でいきなりレベル48の状態で生まれてくるとは思えないので当然個体差はあるのだろうが、それでも今読み取ったこの少女のステータスで複数相手取るには非常に厳しい強敵であることは間違いない。仮にこんなものが()()()()居るなら、集落を離れて旅をしたザリュースが無事生還したのは奇跡だろう。

 

「今のレベルでアレを倒したとなると……ひょっとして例のナーガみたいにパワーアップしたとか? 場所も近いですし。と言うかこの数のモンスターも詐貌天さんがばら撒いたっていうアイテムのせいでは?」

「ナーガの件は否定しきれないですけど、少なくとも八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を召喚するようなのは無かったと思いますよ……? だからそんな目で見ないでくださいこの惨状は俺のせいじゃないゼッタイチガウ!」

「声が大きいですって……ほらバレた。こっち見てますよ?」

「あっ、やべ……」

 

思わず大きな声を出して見つかるのはこの世界に来て2度目である。詐貌天の学習能力はやや低かった。

ともあれ、見つかってしまったものはどうしようもない。

 

「諦めて話しかけましょうか。蜥蜴人(リザードマン)に言葉が通じたって話ですし、人間にも行けるかと」

「……ですね」

 

二人とも茂みから全身を出し、なるべく警戒させないように少女の方へ歩み寄る。モモンガの全身鎧はどう頑張っても威圧感たっぷりだったが。

 

 

 

エンリは森の方から現れた謎の二人組を、それまでと同じく空虚な瞳でじっと見つめる。帝国の装いには見えないので先ほどの騎士たちの仲間という事ではなさそうだが、このタイミングで現れた武装した存在に警戒しないはずはない。とはいえ、既にエンリには先ほどまでモンスターたちを相手に暴れまわっていたときのような、まるでどこかから無限にあふれ出て来るかのような力は既になく、唯の村娘に逆戻り……していないような気がするが、手足は指一本動かせず、出来ることと言えば、こちらへ向かってくる二人に視線を向ける程度。とにかくあの二人組に襲われたらいとも容易く殺されるだろう事は分かる。しかしそれはそれでいいかもしれない。家族を殺した騎士どもに復讐は果たしたし、どうせ家族も村の人間も皆死んでしまい、自分が生きていく術も無いに等しいのだから。唯一、近くの都市に住む薬師の友人の事が思い出されたが、すぐに村のすべてがなくなった絶望がのしかかり、塗りつぶされる。

 

そうしてこれから起こることが何であれ、黙って受け入れることにし、逃げるでも構えるでもなく――どうせできないのだが――ただその瞬間を待つことにした。すると、どうやらこの二人組は襲ってくるつもりはないようで、そっとエンリの前にしゃがみ込み、できるだけ怖がらせないように配慮していると分かるやさしい声音で話しかけてきた。

 

「大丈夫? ……には見えないな。ポーションがあるから、ちょっと待ってて」

 

緑のマントの男はそう言って取り出した瓶の中身をエンリに飲ませる。すると直前まで指一本動かせなかったのが嘘のように体に活力が戻ってきた。知り合いの薬師が時々村にやってきてその効能を語ってくれるため、ポーション一つで重症の人間の命が助かることもあると言うのは知っていたが、ここまで劇的な変化をもたらすものだとは思っていなかった。急激に活動を再開した体に意識が追い付かず、瞬きを(せわ)しなく繰り返したあと、ようやく自分が回復した事を理解する。

 

「えっ? あ……」

「どう? 治った?」

「は、はい……」

「良かった……とは、この惨状じゃ言いにくいけど。 えっと、俺たちは旅の人間でね。たまたま通りかかったらこんなことになってて……落ち着いてからでいいから、何があったか、聞かせてくれない?」

「何が……あったか……」

 

男の言葉を受け、帝国の鎧を着た騎士たちが突然やってきて村で殺戮を始めた光景が脳裏にフラッシュバックする。父が身を挺して自分をかばってくれた事、母が自分と妹を逃がすために囮になってくれたこと……村中から聞こえる悲鳴を背に妹の手を引き必死で逃げる最中、一人の騎士に追いつかれた。抵抗を試みたが訓練された騎士にかなうはずもなく重傷を負って倒れ、視線の先で別の騎士に妹が剣で刺されるのを見てしまった。その瞬間、何かが強く光って……そこからの記憶はひどくあいまいだ。思い出せるのは体の奥から凄まじい力があふれ、怒りと憎しみに任せて騎士たち、そしていつの間にか周囲にあふれていたモンスターを叩き潰していく光景。

不調が回復したことは却って家族を殺された悲しみと絶望が鮮明にのしかかってくる結果となったらしい。話している途中から涙と嗚咽が止まらなくなり、エンリはうずくまって何も言えなくなってしまう。

 

「ああっ、ごめん! 今は何も言わなくていいから」

「……」

 

目の前で少女に泣かれ、詐貌天はあたふたしながら助け船を求めてモモンガの方を向くが、彼は無言で村の方を見つめており会話に参加する気配がない。

 

「どうしたんです?」

「……今まで疑問にも思わなかったんですが、これだけ人が死んでいるのをみて、何も感じないんです。まるで作り物の映像でも見てるような……」

「……言われてみれば確かに。俺もそうです。そういえば拠点が落ちて焦った時も、なんか一瞬で冷静になってすぐに行動出来たんですよ……精神にもキャラの影響受けてるんですかね」

「心までアンデッドに、なんてシャレにならないですよ……」

「俺なんて邪神ですよ、流石に気味が悪……ん?」

 

己の精神の状態について一抹の不安を覚えかけたとき、周囲に潜伏させていた月棲獣(ムーン・ビースト)が村に接近する一団の気配を捉え、二人の思考は中断されることとなる。




ザリュース「ポーションの使い方が俺の時とえらい違いだな」
サボテン「ほ、ほら……か弱い村娘と戦士の違いだよ」
ロンデス「騎士の部隊全員より強い”か弱い村娘”とは」


やっとガゼフさんが出せる!
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