テラ・エーテルとホシノ・ルリの鎮守府生活第二弾です。
設定は削ったもの、引き継いだもの、色々ありますが。
とにかく読んでいただければ。
皆さまの日常の小さな楽しみの一つになればと考えています。
では、どうぞ。
ハロー見知らぬ場所
広い海、青い空、眩しい砂浜。
「じゃないな、これ」
軽くため息をついて座り込んだ彼―テラ・エーテルは、一面の大パノラマを眺めながら、どうしようと考えていた。
銀河の大航海時代に生まれたとはいえ、惑星暮らしをしたことがないわけでもなく、まして海などは日常的に見慣れていた。
宇宙を進む軍艦が、惑星内の海上からの発進が大好きとか、そのほうがかっこいいとか訳が解らない理由を言って、誰もが固執するものだから。
「宇宙の海は俺の海とか言った人がいたなぁ」
今は関係ない話だ。
「どちらかといえば、『宇宙の海は俺のもの』ですね」
「言わないでよ」
背後からの声に振り返ると、ちょっと困った顔をした少女がいた。
少女、いやもう女性か。十八歳ってどちらなのかテラは迷ったが、とりあえず彼女の名前を呼ぶ。
「で、ルリちゃん、どうしたのさ?」
「はい」
名を呼ばれた彼女は、困った顔をしたまま、少しだけ体の位置を変えて右手で後ろを示した。
「あの瓦礫の山ですが」
いかにも建造物が倒壊したというような山があって。
「バッタ達が泣きそうな顔で『修理していいですか』って言っています」
黄色い物体の集団が、プラカードを抱えて四つのカメラからオイルを流していた。
『修理させて』、『再建させて』、『壊れたまま放置は無理』、『私たちに仕事を』、『もういっそやっちゃっていいよね』、などと書かれたプラカードを持った集団は、悲しそうな音を出しながらも近寄ってこない。
「デモ?」
「ストライキに発展しそうですけど」
「いや、あれって俺達の領地でも関わりのある場所でもないよね?」
「バッタ達にそれが通じれば、ですけど」
通じるわけがない、とテラは思った。
彼らにとって瓦礫は除去するもの、壊れた者は修理するもの、だ。
無関係なんて関係なく、そこにあるから実行する。まさに『山があるから昇る』という簡単な話だ。
しかし、ここはまったくかかわりがない場所。その上で、この世界は単一惑星国家でもない。
人類は未だ、宇宙にさえ言っていない世界。やっと空を飛ぶことができたといった科学レベルの世界だ。
技術レベルを抑えての再建、なんてバッタ達が許すわけがない。
ダメといったら彼らはそろって集団自殺、この場合は自壊かもしれないが、とにかく終わりを選択するだろう。
「許可」
「だそうですよ」
『ピ!!! ありがとうテラ様!!』
そして一陣の風が通り抜けて行った。
『ピ! 資材出せ!!』
『ピ!! 設計図を引くぞ!!』
『ピ! 建造目的が先だ! どのような目的で作るつもりだ!?』
『ピ! 主計科総員集合! 会議だ!』
騒がしいこと、この上ない。
「テラさん、私は『サイレント騎士団』を収納しておきますね。念のため、直属の第零艦隊のみ、近海に配置します」
「あ、うん、お願い」
「はい。後、イオナとアリアも直属の戦隊と共に展開させます」
ちょっと過剰戦力ではありませんか。
疑問を口にする前に、顔を上げたところでルリが画像を見せてきた。
「この世界にはちょっと厄介な敵がいるようですよ」
「何これ?」
映像の映るのは、見知らぬ物体。けれど、人工物ではなくどちらかといえば怨霊の類のような印象を受ける。
「・・・・バトラーかジャンヌか、あるいはアインズあたりを呼ぶべきかな?」
「魔王クラスでもないでしょうし、私かテラさんで十分なのでは?」
そうなのだろうか。
画像からは印象のみで、実際の戦力は予想できない。
「ん、ちょっと行ってみるよ」
「解りました。お気をつけて」
ルリに一言だけおいて、テラは海上に立つ。
海面を進んでいく主の姿を見送りながら、ルリはちょっとだけ考えていた。
元々は気分転換のはずだった。
『あの馬鹿夫、最近はちょっと疲れているみたいだから、連れ出してくれない?』。
アイリス・クロームクラウン・エーテル。テラの妻の一人が言い出したことを誰も否定しなかった。
確かに最近は、公務とか書類仕事とか頑張っていたから、部屋に缶詰が多かったが。
元々、旅が好きで色々なところに行っていた人だ。
帝国を作ったからで、その気質が変わるわけがない。
けれど、責任感はある人だから、頑張ってやっていたのだろうが。
時々、アイリスやその他の奥様方が呆れるような手段をとっていた、としてもだ。
ルリも今回の件には同意があったから、『サイレント騎士団』の総合演習という理由で連れ出したのだが、まさかこんな結果になるとは。
文句なしの最大戦力、艦艇も騎士も兵器もすべて揃った『サイレント騎士団』の最大編成状態。
銀河戦争なら十二回くらいは殲滅勝利できる戦力が、単一惑星に入りこんでの戦争。
うん、ない。
「さて、テラさんが自分で確かめている間に、こちらも確かめましょう」
『了解、ルリ』
浮かび上がる影は、額からスパイラルホーンを生やした少年。
『サイレント騎士団』総旗艦『アルカディア』のメイン、人工結晶構造生命体『スフィクス』のバビロン。
「こちらの装備が何処まで通用するかのデータは必要です」
『うん、バッタ師団の歩兵科と海兵隊に重火器を持たせて、海上に展開させるよ。追加で何かあるかな?』
「いえ、今は様子見も兼ねてやりましょう」
『了解、じゃやるよ』
バビロンの言葉を消すように、轟音と共に一機の航空機が飛び去って行く。
兵員輸送用の大型機は、後部ハッチを開いたまま海上を進んでいき、やがて敵の姿を捕らえた。
『ピ こちら歩兵科狙撃大隊、これより通常弾から特殊弾までの試験射撃に入ります』
『ピ 海兵隊同時展開。近接火力も含めた総合試験に入ります』
「ルリより歩兵科及び海兵隊へ。全兵装使用自由、特殊兵装も含めて使って構いません」
言葉を途中で止めて、ルリはバッタ達とは別の海上を見つめた。
轟音と衝撃、その上で立ち昇る空間の亀裂、眩い閃光の嵐。
「あちらは、手加減なしでやっているようなので」
『ピ! では開始します!』
そして、通信越しに銃撃のオーケストラが響いた。
結論として。
届いたデータはすべて有効。怨霊ならば、通常弾くらいは弾きなさいとルリが嘆くくらいに、すべての攻撃が相手を沈めていた。
「これ、過剰戦力じゃなくて弱い者いじめっていいませんか?」
「・・・・・・ルリちゃん、俺はね、眷獣すべてぶつけて、乖離剣まで使って、次元回廊もやっちゃったんだよ」
主のあまりのはっちゃけた内容に、ルリは絶句した。
「と、途中で気づきませんでしたか?」
「あ~~ナチュラル・ハイだった、と思う」
ナチュラル・ハイで世界を壊せる攻撃を放つなんて、相当にストレスがたまっていたのか。
「ああ、そうですか」
ルリがいえたのは、それだけだった。
世界は巡り、時は流れ、やがて辿り着く場所へと、進む。
暗闇の中、涙を流す少女が、彼らに会うのはこの後すぐ。
そして、テラ・エーテルとホシノ・ルリはある人物と出会う。
「妖精?」
「はい、妖精です」
「なにこの物体?」
「ですから、妖精です」
テラがつまむ存在は、必死に涙を流しながら手を合わせていた。
沈む、世界の果ての最中で。
夢を見ることも許されないなら、それで終わりかもしれない。
弱いから、捨てられるのか。
それとも弱さ故に助けられたのか。
少女には解らない。