夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 楽しいこと大好きです。

 悲しいこと少ないほうがいいです。

 ですが、こんな日々ならば拒否します。





クリスマス・プレゼント

 

 小さく針が動いて、時間を刻む。まるで心臓の音のように小さな音色は、薄暗い執務室に響きながら、消えることなくしっかりと室内に木霊する。

 

「そういえば、もうすぐですね」

 

「そうだね」

 

 ルリの言葉を聞きながら、テラは書類を二度、三度と流し読みする。

 

 よし、見事にできた。これならばと提出した書類は、ルリの前で一瞬で改変されて『処理済み』の箱に納められた。

 

「無常だなぁ」

 

「ええ、テラさん、どうして真剣にやったほうが誤字脱字が増えるんですか?」

 

「無常だなぁ」

 

 質問されても答えられないことは多い。世界を見通す眼など持っていなくても、世界中の情報を集める図書館や情報局のようなものは持っているから、答えを探せば見つかるのだが。

 

 自分自身のことは、そんな場所にも載っていないのだから、答えられないで正解なのだろう。

 

「で、もうすぐだねって話だよね?」

 

「はい。もうすぐクリスマスですね。あっち―帝国はアイリスさん達に任せるとして、ここはどうしますか?」

 

 誠に申し訳ないが、帝国は丸投げにしよう。不本意なのだが、今はここの鎮守府が最優先だ。

 

 帝国のほうで、『ヤッタ』、『あの馬鹿が不在で楽勝ね!』とか言ってそうだが。

 

「飾るか」

 

「はい」

 

「全部を」

 

「解りました」

 

 天井を見上げて呟いたテラに、ルリは頷いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスと聞いて、吹雪は軽く首をかしげた。

 

「えっと、キリスト教のお祭りでしたよね?」

 

 自信がなくなって周りを見回すと、誰もが顔を反らしてしまう。

 

 元軍艦、今は人間のような艦娘とはいえ、知っている知識に差がある。乗員達が騒いでいるのを見ていた記憶はあるが、具体的な情報までそろっているかというと、『否』といえる。

 

「そうですよね、陽炎!」

 

「私?! いや吹雪さんが知らないのに、私って・・・・・どうなの、荒潮」

 

「なんで私に振るの? 私じゃなくて鈴谷が詳しいとか?」

 

「ええ~~? 鈴谷、知らないよ~」

 

 なんで間延びした返答なのだろうか、と誰もが視線を向けた先にいた彼女は、ソファーに寝転んだまま雑誌を見ていた。

 

 題名が、『砲撃における蹂躙戦の仕方』とか書いてあったが、見なかったことにしよう。

 

「赤城さんとかが詳しいんじゃないの? さすが一航戦」

 

「いきなり話を振られても、私も知っていることしか知りませんよ。ね、加賀さん」

 

「はい。赤城さんは食欲に関しては情報無双ですが、一般知識となると」

 

「加賀さん?!」

 

 いきなりの相方の裏切りに、赤城は真っ赤な顔で詰め寄るのだが、相手はどこ吹く風でモニターを見ていた。

 

 何を、と赤城と、偶然に近くにいた夕張が覗きこむと、『世界のお城シリーズ』とタイトルが流れていた。

 

「やはり、船は海に浮かぶ城でなければ」

 

 普段から冷静で落ち着いているとはいえ、加賀も感情があるらしい。何処か高揚とした表情で見つめる彼女は放っておくことにした一同だった。

 

「だ、誰か詳しい話を知りませんか?!」

 

 最早、誰も頼れないのではないか。吹雪は焦燥感にかられて叫んでしまった。

 

 それが最大の原因かもしれない。

 

『ピ!! 呼ばれて飛び出てバッタ師団です! 詳しい話をさせていただきます!』

 

「あ」

 

 吹雪、その時点で自分の失態を悟る。同時に室内にいた全員が、一斉に立ち上がって逃げ出す。

 

 バッタ達は頼りになる。普段から色々と助けられ、あらゆることでサポートしてくれる万能集団だが、困ったことがいくつかある。

 

 事あるごとに『綺麗な服』を着せて撮影しようとするのは、その中でも最大級の困ったことではないだろうか。

 

 瞬間的に誰もが思い浮かんだ、『着替えと撮影』に怖くなって逃げ出そうとしたのだが、世界はそんなに優しくはないらしい。

 

『ルリより総員へ。これよりクリスマスのために飾ることになりました。提督であるテラさんの命令です、全員、『大人しく飾られなさい』。後、大和は別命あるので執務室へ』

 

 無情。動き出しかけた誰もが足をとめ、涙を流しながら立ち尽くす。

 

『ピ~ さすがテラ様、解っておられる。では、皆さま、どうぞそのまま。ご安心ください、すぐに終わります』

 

『ピ! すぐですから!』

 

『ピ! 最速で終わらせますから!』

 

 何処から現れたのか、バッタ数十匹それぞれが銀色のスーツケースを持って迫ってきている。

 

 いや、周りを見ればその後ろに化粧箱や鏡などを持ったバッタ達が控えていた。

 

「できれば、大人し目でお願いします」

 

 せめてもの抵抗で、吹雪はそう告げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和は自分の幸運を感謝していた。

 

 最後の出撃は苦い思い出として自分の中にあって、国や人々に何もできなかったことを後悔していた。

 

 自分は運がないのではないか、そんなことを思いながら艦娘としてこの地に生まれ落ちて、そして知った苦行の数々。

 

 綺麗な服を着ることは苦痛ではない。艦娘とはいえ女の子、綺麗とか可愛い服を着ることは嫌ではなく、むしろ嬉しいといえる。

 

 けれど、だ。艦娘として生まれてからわずか三日しか経っていないのに、数百着も私服が用意されているのはどうかと思う。

 

 オープンクローゼットに収まりきらず、衣装部屋が別室として用意されているのを知ったとき、さすがの大和も顔を引きつらせて身を引いてしまった。

 

 世界最大の戦艦、圧倒的な火力と装甲を持つ偉大な戦艦とはいえ、今は女の子。身の危険というのか、あるいは本能的な恐怖というべきか、そういったものが自分の体を勝手に動かしたのは、記憶に新しい。

 

 今回もそれかと身構えていたら、執務室へ呼び出し。

 

 助かったと軽くスキップしそうなほど軽い足取りで執務室に辿り着き、ノックを軽く二度、間をおいて二度する。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

 気のせいか、口調も軽いようだ。まるで音符でも乱舞していそうな声を出して、ゆっくりと執務室のドアを開いて中を見た瞬間、大和は反射的にドアを閉めた。

 

「大和、どうしました?」

 

「提督代行! 私は呼ばれてきただけですから!」

 

「はい、私が呼びましたよ。どうしました?」

 

「何かの手違いですか?!」

 

 半ば悲鳴に近い声を出しながら、しっかりと執務室のドアを握り締める。絶対にこの扉を開けてはいけない。開けてしまったら、開いてしまったならば自分は飲み込まれる。

 

「手違い? いいえ、違いますよ。これは必然であり、当然です。大和、いいから入ってきなさい」

 

「お断りします! 任務は拒否できましたよね?! 大和はその権利を行使します!」

 

「なるほど。貴方は実に好ましい成長をしているようです。私としてはきちんと自分の意見を言えるのは、とてもいいことだと思いますよ」

 

 慈愛が含まれているような穏やかな提督代行の声に、大和は安堵よりも全身に震えを感じてしまう。

 

 本能的恐怖だ、と無意識に思いながらも両手に力を入れてドアを固定した。

 

「ありがとうございます! なら!!」

 

「ですが、今回は拒否は許しません。開けなさい」

 

 冷たい声ではなく、穏やかなまるでお日さまのような声だったと、後に大和は語ったという。

 

「はい」

 

 観念してドアを開けて中に入った大和が目にしたのは、カラフルに装飾された自分の艤装と、赤と白の衣裳だった。

 

 そして、諦めたように壁際に立っている『すでに手遅れ』の扶桑に目線を向けると、彼女は清々しいまでの笑顔を浮かべた後にブイサインを出した。

 

「貴方もそのうちに慣れるわ、大和」

 

「扶桑さん、私は・・・・・・・あ、長門さんはどうしたんですか?!」

 

「彼女なら率先して着替えて試射に行きましたよ」

 

 裏切り者。

 

 扶桑と大和の内心の言葉は、ぴったりと一致したのでした。

 

「では着替えて艤装を纏って、行きましょうか。そろそろ全員の着替えが終わるころですから」

 

「あの、提督代行、理由を説明してください」

 

 最後の抵抗として大和が質問する。扶桑も同様に頷いて目線で説明を求めてくる。

 

「言ってませんでしたか? クリスマスなので、プレゼントを配ります」

 

 当然のように、ミニスカサンタの衣裳をまとったルリは、プレゼントの入った袋をかついで告げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保護した民家人の中には、子供もいた。国に見捨てられ、見知らぬ土地―といっても日本だが―に来た子供達は、不安を隠しきれずにいた。

 

 大人たちが頑張って色々と試行錯誤している姿を見て、困らせてはいけないと子供なりに考えて不安を押し込めていた彼らは、その日に『あ、人生って頑張ればどうにかなる』と思ったらしい。

 

「メリークリスマスだ! プレゼントをやろう!」

 

 サンタの格好をした鎮守府の提督テラ・エーテルの姿に、子供たち全員が自然と笑顔になった。

 

 トナカイが立派な角をしていたり、うっすらと白いオーラを放っていたり、ソリが金色に輝いていて船に見えたりしたが、些細な話だろう。

 

 トナカイがいないから霊獣を使ったとか、某英雄王が使っている飛行宝具を改造したとか、そんな話はまったくないので安心してほしい。

 

「その前にだ。ホワイトクリスマスにしてやろう! ルリちゃん!」

 

『はい。では、扶桑、長門、大和、撃て』

 

 瞬間、轟音が周辺を揺らし、青空で爆発が起きた。

 

 何事と集まってくる大人たち、どうしたのと不安そうな子供達の上に、白い粉雪が舞い落ちてきた。

 

「さあ、パーティの始まりだ。バッタ!」

 

『ピ!』

 

 そして街は一瞬でクリスマス装飾に彩られ、何時ものメロディが流れ始める。

 

「飲んで騒いで歌って踊って、食べて楽しんで語りあかそう。大丈夫、俺がいる限り、この鎮守府があるかぎり、不安なんてさせない」

 

 サンタクロース衣装のテラは盛大に両手を広げ、静かに語り始めた。

 

「俺の艦娘がいるかぎり、怖いことなんて来させない。だから皆は、真っ直ぐ自分が行きたい道を歩け。これが俺からのプレゼントだ!」

 

『ピ! メリークリスマス!』

 

 クラッカーが鳴り響き、雪と一緒に蛍日ような光が踊り出す。

 

「さあ! 楽しもうぜ!!」

 

 片手を空に突き上げたテラに釣られるように、誰もが盛大に声を出したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、テラ・エーテルは相沢・宗吾にお説教を貰うことになる。

 

『いきなり相談もせずに始めんな』との言葉にテラは正坐したまま、得意げに答えた。

 

 『サプライズは大切です』と。

 

 馬鹿ものと、相沢は何処か楽しそうに叱りつけたという。

 

 

 

 

 

 

 




 
 ちょっと短めながら、クリスマス話でした。

 唐突に思いついたことです。テラならそうするかな、という話です。

 馬鹿な彼は不安を感じる子どもたちを見て、笑わせるためにどうすればいいかを考えて、艦娘巻き込んでのパーティに発展しました。

 ちなみに、全艦娘にミニスカサンタ衣装を着せたのは、『え、女性のサンタ衣装ってこうじゃないの?』とテラとルリが思い込んでいたためです。

 さて、それでは。

 また馬鹿騒ぎのような鎮守府の生活でお会いしましょう。

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