夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 常識、それは人それぞれに違うものかもしれない。

 自重せよ、きっと言われて気づくのは常識人のみ。

 落ち着いて行動すること。忠告が耳に入る状態ならば、きっとこんなことはしない。

 たぶん、そんな状況です。



せめて相談してからにして

 

 その日、ホシノ・ルリは久しぶりに『あ、そうですか』と思考が真っ白になるのを感じた。

 

 まさか、そんなバカな。どうしてそうなったのか。普段なら疑問が浮かんで考察が始まって、結論が出て次の行動に移れるのだが、今日はまったくといっていいほど、何も浮かんでこない。

 

 目の前でブイサインしている明石とか。

 

 ガッツポーズしている吹雪とか。

 

 何より、だ。二人の前で腕を組んで高笑いしている我が主の姿とか、すべてを見ていると、もう何もかもがどうでもいいように感じられるから、とても不思議だ。

 

「バッタ」

 

 どうにかこうにか絞り出した思考の末に、言葉はゆっくりと零れ落ちた。

 

『ピ』

 

 そっと差し出されたデータ・ボードに表示された内容は、間違いなく目の前の物体が『馬鹿の暴走の結果』だと示している。

 

「テラさん、何してんですか?」

 

 やっと思考が回り始めたルリは、あまりの内容に卒倒しかけた。

 

「がんばった」

 

「特級機密情報どころか、最重要機密まで使われているじゃないですか」

 

「おう、全部やった」

 

「ちょっと待ってください。帝国の機密じゃなくて、テラさんの一族の最秘奥を使っているじゃないですか」

 

「うん、頑張った。やっぱ、最強だよな」

 

 大きく頷く彼の姿に、ルリは大いにいいたいことがあったのだが、どれもが脳裏を過ぎ去っていく。

 

 『あばよ』とかかっこよく去って行ってくれるならば、納得して理解して見送れるのに、未練がましく追い掛けてしまうのは何も言ってくれないからかもしれないが。

 

 数秒ほど迷っていたルリだったが、何とか踏ん張って意識を戻す。

 

 

「ぎ、艤装はテラさんの分と吹雪の分だけですね?」

 

「最初はそっからかなって。で、だ。ルリちゃん」

 

 瞬間、ホシノ・ルリは嫌な予感が盛大に鳴り響くのを感じた。

 

「ちょっと試運転に」

 

「却下します!」

 

 笑顔全開で親指を立てる彼に対して、彼女は初めてと言っていいくらいに遮ったのでした。

 

 その日、鎮守府の工廠の最奥に別の部屋が増築された。厳重な扉で閉鎖された場所に、ルリは大きく文字を刻む。

 

 『使用不可。大陸ごと消したい時のみ使っていいですよ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府の艦娘は、基本的に一人部屋。暁達のみ四人部屋。

 

 居室の内装に関してはルリやテラは口出しするつもりはなく、誰がどう飾ろうと好きにさせている。

 

 最初は困惑していた艦娘達も、徐々に染まっていって自分なりの飾りや家具を置くようになっていく。

 

 元々、配置されていたクローゼットとかが邪魔な場合は、バッタ達に相談すれば速やかに変更してくれるため、誰もが自分の居室を模様替えしたりして楽しんでいた。

 

 艦娘とはいえ女の子、元軍艦とはいえ年頃の女性。

 

 色々と思うことは多い今日この頃、特に訓練は徹底的に地獄、油断していれば死ぬんじゃないかと圧迫されるほどの恐怖、といった日々の中。

 

 訓練以外の日といわれると、全員がちょっと止まってしまう。

 

「休み?」

 

 死ぬほど疲れた訓練の後、入居してすっきりした荒潮は、個人端末の予定表を見て、ポツリと呟いた。

 

「え、明日、荒潮は休み?」

 

 隣で着替えていた陽炎が、横から彼女の端末を覗きこむ。そこには確実に『休』の文字が書かれていた。

 

「いいなぁ。私は明日、夜間訓練で、その後に長距離遠征訓練」

 

 夜から次の日の夕方までの突貫訓練。戦場に置いて時間とかこちらの予定なんて関係ないから、そろそろやってみようかで始まった訓練だ。

 

「元々、時間なんて関係なしにやっていたからね」

 

 着替え終えて藍色の浴衣を纏った吹雪が、思い出したように告げる。

 

「懐かしいよね、吹雪さん。あの頃は提督が怖くて怖くて」

 

「今では懐かしい思い出なのです」

 

 腕を組んで頷く向こう側で、電が牛乳の入ったケースを見つめている。どれを飲むかで迷っているようだが、意を決したようにケースを開けて一本を手に取る。

 

 『貴方の疲労を一撃クリアー』と書かれた、フルーツ牛乳を。

 

「バッタ達のセンスって」

 

 誰もが牛乳に書かれたラベルに、大きくため息をついた。

 

「で、荒潮は明日はどうするの?」

 

 如月の問いかけに彼女は少しだけ考え込んだ後、思い出したように告げる。

 

「そうね、お部屋をいじろうかしら?」

 

「あ、そっか。まだ荒潮達は標準だったよね。私は三日前に直したよ」

 

 得意げに語る陽炎は、個人端末に部屋の様子を映し出す。

 

「意外にシックなのね」

 

「そうかな?」

 

 画像を見ながら、それぞれが色々といい合っている姿を見つめながら、吹雪は『こういうのも楽しくていいなぁ』と思っていたりするが。

 

「でも、家具とかって何処で買うの?」

 

「オンライン・ショップ」

 

「何それ?」

 

「後はバッタ達を捕まえてカタログを見せてもらうとか」

 

 そんなことがあるのかと荒潮は納得しかけて、あのバッタたちならもっと凄いことをしていそうだと思いなおした。

 

 良くも悪くも、この鎮守府で最も驚いたのはバッタ達の対応力の高さ。それに追従する妖精達の柔軟性だ。

 

「桜色のベッドが新発売していたわよ」

 

 暁からの情報に、『え、それってどんなの』と全員が集まってオンライン・ショップのページを大型モニターに表示。

 

 脱衣所に設置されたモニターに表示されたのは、『ピンク』というより日本の桜を連想させる色合いの普通のベッド。

 

 飾りなどはついていない、シンプルな作りのタイプから、昔の王族が使っているような天蓋付きまで、次々と表示されていく。

 

「白のガラス細工が出てる」

 

 ちょっと興味が引かれた響が、別のページを表示させる。次に出てきたのは雪をイメージした白一色のベッド。寝具一体式ではなく、ベッドの上に寝具を敷くタイプのようで、布団の敷き方も映像で流れてくる。

 

「ちょっと、響、これ高いわよ?」

 

 雷が驚いて金額を示すと、彼女はゴクリと喉を鳴らして、ゆっくりと自分の端末を持ち上げる。

 

「買えないことはない」

 

「誰かこの子を止めて!」

 

 気の迷いか、それとも何か理由があるのか、無謀なことをしようとする響を全員で止めたのだが。

 

「あ、二段ベッドでタンス一体型」

 

「どれ?!」

 

「こっちはベッドの下が机とタンスみたいね」

 

「あ、可愛い」

 

 止めた全員が別々の画像に夢中になって見入ってしまい。

 

「夕食の時間だよ~って何してるの?」

 

 何時までも来ない駆逐艦達を心配した鈴谷の声で、全員がやっと夕食の時間を過ぎていたのを知ったのでした。

 

 その後、荒潮はバッタ達と相談して自分の居室を模様替え。

 

「桜色?」

 

「桜並木みたいでしょう?」

 

 後日、彼女の部屋にお邪魔した艦娘は、彼女のこだわりの深さを知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦隊は一路を進む。

 

 編成は、長門、扶桑、大和、赤城、加賀、夕張。なんだか、消費資材が怖い編成なのだが、今回はどうしてもこの編成をやるしかなかった。

 

「新型機関の調整は上々だね」

 

 艦隊の最後尾から全員の機動を見ながら、夕張は手に持ったデータボードを入力していく。

 

「電磁推進との調整がまだまだ甘いという話だったが、これはこれで十分じゃないのか?」

 

 長門が振り返って告げるのだが、夕張は首を振る。

 

「出力的にはまだまだ上がるから、速力よりも小回りが利くようになるって話だからね」

 

「回避率が上がる、というわけですね」 

 

 扶桑が小さく体を動かして様子を見る中、大和も見習おうとして僅かに姿勢が揺れた。

 

「微妙にバランスが取り辛いですね」

 

「うん、そこが調整が甘い部分なんだよね。ほら、大型艦になるほど艤装の重さが増すから、バランスが崩れるみたい」

 

「駆逐艦や巡洋艦は大丈夫と?」

 

 大和の質問に対して夕張は、データボードに視線を落としてから溜息交じりに告げる。

 

「吹雪さん仕込みだから」

 

 全員が、『ああ』と納得してしまう。同じ体格くらいならば、彼女の教導で意地でも慣れさせる。無理やりにでも、巡洋艦クラスならば『やれ』でやってしまう。

 

 怖くて恐ろしくて、でもこういった時にはとても頼りになる鎮守府の最古参だった。

 

「赤城と加賀の方は?」

 

 怖くなって夕張は話題を変えた。

 

「新型艦載機は順調ですよ」

 

「瑞鳳さんに遅れていますが」

 

 上空を『F-14』が舞い上がっていく。

 

 瑞鳳は初日に飛ばせたのだが、赤城と加賀は手こずった。元々、第二次世界大戦の空母が、初見で音速ジェット機を扱えるほうが異常なのだが。

 

 彼女が飛ばせるのだから、出来て当たり前の雰囲気があったので、赤城と加賀は悔しく思ってしまうらしい。

 

「瑞鳳は、特殊だから」

 

 苦笑しながら夕張は告げる。

 

 今頃、空中管制機や空中給油機とかを訓練している、小さな軽空母の皮をかぶった何かは、かなり特殊な存在なのだろう。

 

「二人がそれを扱えたら、次はカタパルトを新型に変えて、飛行甲板の装甲を見直すみたいだね」

 

「装甲空母ですか?」

 

「ううん、装甲じゃなくて提督代行曰く、『柔軟性の高い装甲を使うことで、爆発の威力を拡散させて、被害を少なくする』って言っていたけど」

 

 夕張もまだあまりよく解っていないようで、自信なさそうに言葉を思い出しながら伝える。

 

「うちの鎮守府は色々と規格外が多いな」

 

 溜息交じりに答える長門なのだが、その最もたるのが彼女の頭部飾りなのだが。

 

「電探の調子はどう?」

 

「良好だ。以前のようにノイズが混ざることはないが、使い慣れていないと違和感があるな」

 

 感覚的な問題かな、と夕張は小さく口の中で転がす。

 

 一方の長門は今までの電探の感触を思い出してしまい、広範囲かつ精密探査が出来る電探を少し使いづらそうだ。

 

「む、これは、現在の艦隊は私たちだけだったのではないか?」

 

「そうだけど。他のみんなは鎮守府のはずなんだけど」

 

「ではこの反応は?」

 

 怪訝な顔をする長門に、艦隊は足を止めた。

 

 夕張は速やかに鎮守府へ連絡を言える。もしかしたら、予定変更で誰かが外洋に出た可能性もある。

 

『いえ、だしてません』

 

「長門の電探に反応がありました。確かに艦娘、のようです」

 

 チラリと夕張は長門へ視線を向けると、彼女は確実だと頷く。

 

『・・・・・赤城、加賀、『F-14』に高高度偵察ユニットは搭載できますか?』

 

 少しの間があり、彼女は偵察任務を二人に伝達。

 

 鎮守府から出せないことはないが、長門の試作型電探に反応があったということは、かなりその『艦隊』は接近している。

 

 鎮守府から光速で向かったとしても、相手側に見つかる前に発見できる可能性は低い。

 

 転移とかで送れないことはないが、その場合も出現地点の『光』を見られる可能性がある。

 

 ならばここは、赤城と加賀の完熟も含めて、偵察機を送り出した方がいいと判断した。

 

「講習で習いました。できます」

 

「問題ありません」

 

『では、二人に偵察を命じます。相手側は確実に日本の艦娘でしょうから、迂闊に接触は禁止します』

 

「解りました」

 

 命令を受けて、赤城と加賀から特殊な偵察ユニットを搭載したF-14が舞い上がる。

 

 長門の電探が反応した先、その場所へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えてみれば、今回の任務は酷く曖昧なものだった。

 

 未確認の艦娘を発見せよ。未確認とはそもそも何だ。艦娘はすべて鎮守府に所属し、他にはドロップするか、建造するかしかない。

 

 海上をドロップ艦が進んでいるならば鎮守府を目指すはずだし、なにより妖精たちが鎮守府へ行くように艦娘に伝えるのに。

 

「敵レ級見ユ」

 

 小さな発見の知らせに、艦隊は緊張感に包まれる。

 

 見た目は駆逐艦クラスなのに、戦艦並の砲撃、空母のような艦載機を放つ、魚雷まで搭載した異常個体。

 

 前に何処かの艦隊が接触し、一隻相手に六隻が瞬時に轟沈させられたとの話を聞いたことがある。

 

「怯むな! この長門に続け!」

 

 威勢のいい声と共に駆けだす彼女。さすがビックセブンと背中を見つめた先、その長門に向けて砲弾が突き刺さった。

 

「まさかもう?! 全員警戒を・・・」

 

 回避運動を始めた霧島へ魚雷が命中、水しぶきの中に彼女の姿が消える。

 

「長門さん!? 霧島さん!?」

 

「私は大丈夫だ!」

 

 噴煙を破ってできた長門だが、決して無傷とは言えない。

 

 霧島も四つあるうちの二つの主砲が破損、速力も低下している。

 

「艦載機を!」

 

 振り返った先にいる味方空母―赤城へ視線を向けた矢先、彼女へ艦載機からの爆弾が降り注いだ。

 

「上空敵機!」

 

 遅い発見の知らせに、空母が二隻も損傷を受ける。赤城と加賀の飛行甲板破損、艦載機の発艦不可能。

 

 届いた報告に、彼女は唇をかみしめる。

 

 自分の今の艤装は対潜装備。とてもレ級相手に戦えるものではない、残る手段はと考える彼女の頭上、黒い物体がゆっくりと落ちてきた。

 

「五十鈴!!」

 

 ハッとして顔を上げた。落ちてくる砲弾は、ゆっくりとスローモーションのように、自分へと向かってくる。

 

 遠くで仲間が何か叫んでいる。自分の耳はそれを聞いているはずなのに、頭に入ってこない。

 

 『あ、私はここで沈むんだ』。漠然とそんなことを考えている視界の中、砲弾は空中で何かに破裂させられた。

 

「え?」

 

「助太刀御免!!」

 

 聞き覚えのある声と同時に、五十鈴の隣に見覚えのある顔が並ぶ。

 

「長門、さん?」

 

「無事だったか? 後は任せろ! そっちの長門もよく見ておけよ! これがビックセブンの力だ!」

 

 誇るように、見慣れぬ『三連装』の主砲を振りかざした彼女は、まるで雷鳴のような砲撃を行った。

 

 

 

 

 

 




 
 出会うことは、いいことなのかもしれない。

 悪いことじゃないと思いたい。

 でも、世の中ってものはいいことばかりじゃないから。

 吉兆だといいなと思う。



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