唐突に出た先が異世界ってよくあります。
いきなり戦闘って、いつものことです。
けれど、未知の物体に会うことは滅多にありません。
妖精って、もっと別のなら会ったことがあるのに
話を聞く限り、彼らは妖精らしい。
元々は過去の軍艦に乗っていた船員の残留思念が形となったもの、らしいのだが、今一つ確証が持てない。
「たぶん、そんなもの?」
泣きそうな顔で土下座している相手に、テラは軽く唸る。
「はい。で、さっきまで戦っていたのが深海棲艦。怨霊が形となったものらしいです」
「はぁ」
テラは曖昧に頷いて、続いてベッドに横になっている少女を指差す。
「で、艦娘?」
「はい。過去の軍艦が少女の形になったもの、らしいです」
「何故、少女? いや、待った、軍艦は女性扱いだったっけ?」
確かそんな知識を教えられたことがあった。
乗組員はたいていが男性のため、船は母として包み込むために女性として扱うとか。
だから、軍艦に女性が乗るのは縁起が悪いとか。
女性は嫉妬深いから、反発して船が沈むとか。
色々な逸話はあるのだが、本当のところはテラもあまり詳しくない。
「オラクルを呼び出すか」
『サイレント騎士団』情報総省の統括スフィクスの名を出と、ルリはおおむねで同意しながらも意見を述べる。
「具体的な歴史を学びたいなら、そうでしょうね。でも、今はあまり関係ないのでは?」
「まあ、そうだろうけど」
軍艦の歴史を学ぶよりは、現状に対しての考えや行動をしたほうが建設的か。
「で、ここが深海棲艦に攻め落とされた鎮守府だって?」
「ええ。妖精達の話ならばそうでしょうけど」
「ん~~」
過去に鎮守府としてあったのだが、深海棲艦が攻めてきた時に防衛しきれずに陥落。
多くの艦娘が犠牲になり、提督や軍人達も全員が死亡したらしい。
いや、逃げ出したが正しいようだが。
「指揮官を逃がすために部下が犠牲。いいことなのか、悪いことなのか」
「頭が消えれば作戦が破綻する、と考えたなら指揮官は最後まで生き残るべきですが」
テラさんを逃がすためならば、『サイレント騎士団』すべて潰しますがとルリは小さく呟く。
重いな、とテラは感じるが、それが当たり前なのだろうとも思う。
彼女は元々、自分を補佐するために生まれ、自分が馬鹿をやらないため造られたのだから。
「とにかく・・・・・・バッタ達、設計図は引き直しですよ」
『ピ!』
紙を持って止まっていた集団が、盛大に項垂れた。
頑張ってやっていたことが否定されて、落ち込むのではないか。
テラはそんなことを考え、『いやないな』と思い至る。
『ピ! ではでは!』
『ピ!! お仕事が増えるんですね?!』
『ピ!! やったー!!!』
「あ、うん、ワーカーホリックね」
拍手喝采、千客万来。増えた仕事に大喜びするのは、バッタ達くらいなものだろう。
『ピ! 設計図を引き直し! さあさあ、妖精さん、こちらへどうぞ』
『ピ 施設はどんな? 艦娘ってどのような?』
『ピ 通常設備でOK? それとも特殊な環境が必要で?』
一匹の小さな妖精を取り囲むバッタ達と、それに怯える妖精。
これでバッタ達に悪意があれば、テラもルリも即座に止めるのだが。
完全に善意、むしろ仕事を持ってきてくれたから、敬ってすらいる。
「あっちは任せるか」
「はい、ではこちらの話を進めましょう」
どちらのとテラが顔を向けた先、ベッドの上で体を起こした少女と目線がぶつかった。
「あ、あの、司令官ですか?!」
「はい?」
「初めまして! 私は特型駆逐艦一番艦の吹雪です!」
「・・・・おう」
これが後に、『鬼神』とか、『終焉』とか呼ばれる吹雪との会合だった。
壊滅した鎮守府の跡地に、新しい鎮守府を。
妖精から話を聞きだしたバッタ達は、工事に入る前に深々と頭を下げた。
四本足に二つの胴体のバッタ達が頭を下げると、傍からは土下座に見えるのだが、彼らは気にしない。
仕事を持ってきてくれた、頼ってくれた、任せてくれた。
その相手に対しての最大の敬意を示し、そして飛び出していく。
『ピ!! 主計科全員集合! 総力戦だぁぁぁぁぁ!!』
『ピ! イヤッホー!!!!』
まるで祭り。
ああ、そういえば最近は執務室にこもっていて、主計科はほとんどが休業状態だったな、とテラは呆れながら見つめていた。
主計科が動く前にアイリスが、『テラがやらないと身につかないから』と止めていたから、彼らは見守るのみで仕事がなかった。
自分以上にストレスがたまっていたのは、彼らかもしれない。
「通常営業ですよ、何時も通りです。バッタ達は仕事の量が、信頼の証みたいに思っていますから」
「あ、うん、そうね」
余計なことを考えているテラの思考を読んだルリの発言に、曖昧に頷いて返してみる。
「で、吹雪だっけ?」
「はい! お願いします!」
敬礼して緊張した顔をしている彼女に、司令官じゃないとは言えない。
偶然にここにいるので、君を配下に加えたつもりはない、とは言えない。
純粋な少女の眼差しを裏切れるほど、テラは冷たいつもりはない。
ルリならば、『違います』と言い切れるかもしれないが。
「どうしよう」
はっきり言って、テラには考えが浮かばなかった。
難しく考えることは、すべてルリかアイリスか、それとも幼馴染のルルーシュあたりに放り投げていたから、今回も任せることにした。
「そうですね。まずは、鎮守府を作ってみましょう。私たちが何時までいるか解らない以上は、吹雪が自立できるような環境を整えるべきです」
「そっか。そうだよね」
「はい。バッタ達も頑張っていますから、とりあえずは鎮守府の建物を、その後に周辺に防衛陣地の構築を。後は、深海棲艦のデータを取りつつ、仲間を増やしていきましょう」
次々に出てくる案に、テラはさすがだとルリを見る。
彼女はそれに対して一礼で返した後、吹雪へと体を向けた。
「では、吹雪、まずは体を休めなさい。今は鎮守府の建物を作っているところです。貴方の武器、艤装ですか? それを作るのはもう少し後です」
「は、はい。でも、そんなにのんびりしていていいのですか?」
「大丈夫です」
ルリは彼女から視線を外し、バッタ達が飛びまわっている場所を見た。
「どうせ、二日以内に終わりますから」
「えええ?! 二日で出来るんですか?!」
驚く吹雪に対して、ルリとテラは大きく頷いた。
あのバッタ達が、住む場所がないまま放置しているわけがない、と。
そして、実際にバッタ達は二日で鎮守府関係すべての建物を生み出した、と。
「え、え、えええええええ?!」
「おお、見事」
「よくやりました」
悲鳴を上げる吹雪を置き去りにして、テラとルリは建物の中へと入っていく。
「待ってください!」
「慌てないように付いてきなさい。貴方はテラさん配下になったのですから、貴方の行動一つ一つが主に品格に結びつきます。毅然として歩きなさい」
慌てて追いかけてきた吹雪に対して、ルリは辛辣に言い放つ。
「はい、すみません」
「とはいえ、最初ですから大目にみます。ですが、次から注意しなさい」
落ち込む吹雪に優しく声をかけて、ルリはテラの後を追う。
「はい!」
元気よく返事をして、彼女も歩き出した。
真新しい建物は、大抵がペンキとか、金属とかの気になる匂いがするものなのだが、この鎮守府は違っていた。
一定間隔ごとに置かれた花々の香り、天井に埋め込まれた照明から何故か感じられるお日さまの温もり。
木材が使われた廊下と、一枚ガラスの窓達。差し込む日差しは強くはなく、決して眩しくはないけれど、確かに室内を照らす。
「木材に似せたナノマテリアルかな?」
「はい。人は木の温もりに癒されますが、強度的に問題がありますから。吹雪達の時代に合わせての設計ですね」
「へぇ~~~」
壁に触り、天井を見上げ、テラは一歩一歩と歩いていく。
作りたての建物、出来たばかりの鎮守府を確かめるようにすべてを回った後、辿り着いたのは地下にある執務室。
「えっと、提督室?」
「はい、一応はテラさんの部屋ですね。私や秘書艦もここで執務しますが」
「何で地下?」
「指揮官の部屋を見晴らしのいい狙撃できる場所に作れ、なんてバッタ達が許しませんよ」
「あ、そうか」
呆れながら部屋に入ったテラは、室内に僅かに流れる潮の香りに気が付き、天井から降りてくる太陽光に納得した。
「空間置換による直接照明か」
「はい。バッタ達が頑張りましたから。では、提督」
改めてルリは海軍式の敬礼をする。
「ん」
「さっき、妖精から聞いた話をそのまま言いますね」
「どうぞ、ルリちゃん」
「はい、では。『提督が鎮守府に着任しました、これより艦隊の指揮に入ります』」
ビシッとした敬礼をするルリと、慌てて行う吹雪。
二人の他に、机の上に妖精数名、同じように敬礼していた。
テラはそれらを見回した後に、自分の敬礼を行う。
指揮、できるかなと不安になりながら。
ルリもテラに指揮ができるなんて思ってはいない。
ただ、提督として登録するならば、テラしかいないと考えているだけだ。
自分がやってもいいが、その場合テラの立場はどうなるか。
部下、それはあり得ない。
彼こそが自分の主であり、上に立つ人だ。間違っても下に配置されるものではないし、もしそんなことがあったらルリは迷うことなく世界か自分を壊すだろう。
では、他の役職をと考えてはみたものの、ここが鎮守府であり最高指揮官は提督だから、他の役職を作るのは難しい。
特別顧問、何か提督より弱い気がするので却下だ。
色々と考えてみたが、結局はテラが提督として、ルリが提督補佐か代行として配置するのが最もいいと結論が出た。
「ということで、吹雪」
「はい!」
「最初の任務です。鎮守府近海の哨戒任務及び、敵の撃破を」
「解りました!」
「提督と一緒に行ってください」
「はい?」
疑問を浮かべる彼女の隣で、テラは『お~~~』と言って剣を持っていた。
「え? え?」
「行くぞ、吹雪」
「ええええ?! あの提督!? ルリさん!?」
驚いて声を上げる吹雪を引っ張りながら、テラは軽く振り返って。
「じゃちょっと訓練がてら、倒してくるから」
「はい、お願いしますね」
「ちょっと待ってください!!」
大騒ぎする吹雪は、そのまま執務室から消えていった。
「まあ、彼女もそのうちなれるでしょう」
何事も経験ですから、とルリは口の中で言葉を回した。
その後、鎮守府に戻ってきた吹雪は、真っ先にテラへと懇願したらしい。
「お願いします! 私を特訓してください!」
「解った」
「待ちなさい! 吹雪、貴方は死ぬ気ですか?!」
「酷いよ、ルリちゃん」
何故か必死に止めるルリがいたのだが、結局はテラが吹雪を訓練することになり。
毎日、ボロボロになる彼女がいたという。
最初に一緒に出撃した時のことを、今でも忘れない。
敵の攻撃など物ともしない。
相手が誰でも絶対に退かない。
決して振り返らずに進む背中を。
置き去りにされる自分が、悔しくて情けなくて。
だから、強くなろうと思った。