夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 後悔ってやつは何時だって後からくる。

 前にあったら、後悔じゃないからな。

 けどな、やる前から痛感することはあるんだよ。

 『ああ、こいつは絶対に悔しいな』って思えることはな。






愚者は道化のように舞台の上で踊り

 

 町はずれの寂れた喫茶店、誰も来ないような場所に男が二人、テーブル席に座りながら、コーヒーを楽しんでいた。

 

「本当なのか?」

 

 片方の言葉に、もう一人は小さく頷く。

 

「はい、確証はありませんし、証拠もありませんが。確実に、そうです」

 

 丁寧に報告された内容に、男は渋い顔で腕組みした。

 

「出鱈目だとしても、言っていいことと悪いことがあるぞ」

 

「私も虚言を弄しているわけではありません、確実に動き出しています」

 

「おいおい」

 

 呆れて溜息をつく。ようやく、平穏への道を見つけたのに、今度はそれを壊そうというのか。

 

「海軍か?」

 

「陸軍も一部、賛同している様子です」

 

 どういうことだ。昔から陸軍と海軍の仲は悪い。同じ国家の軍人とは思えないほど反発しあい、まるで『水と油』のようだと笑われたこともある。

 

 犬猿の仲同士が手を組んだとは、話半分でも信じられない。

 

「他にも政治家や企業なども参加している様子もあります」

 

「おいおい、本気か?」

 

「はい、それと諸外国も、という話も」

 

 話が膨れすぎていないか。目線で相手に問いかけるが、彼は小さく首を振った。ほぼ、間違いない話ではあるが、証拠は何一つ出てこない。

 

 あくまで噂だ。人の流れ、物資の流れに不審な点があって、探っていたら妙な集まりが、不定期に各所で行われていることが解った。

 

「今の御時世、外国人が国内にいたら目立つだろう?」

 

「情報関係も何人か、それもかなり上の役職を抱き込んでいるようです。後は地下とか」

 

 冗談じゃない、と男は言いたくなった。

 

 この法治国家の日本で、そんなバカなことをやっている連中がいるのか。黒幕は誰だ、そもそも目的は本当に『あの鎮守府』なのか。

 

「詳しい話だな」

 

「危ない橋を渡っていますから。ですが、軍令部では話ができません、東堂総長」

 

 名を呼ばれて男は鋭く相手を見つめる。

 

「おい、まさか」

 

「そのまさか、です。軍令部の中にも『同士』がいるようです」

 

 自分の足元に獅子身中の虫。せっかくの平穏を棒に振ってまで、『自分達が主役でいたい』と考える奴がいるなんて。

 

 嘆くべきか、反骨精神があって大いに結構と笑うべきか。

 

「例の『警告』は知らないのか?」

 

「恐らく偶然か誇張だと思っているのでしょう」

 

「愚か者の集団なのか?」

 

「人は自らが思ったことしか見ない。そう言うことです」

 

 苦虫をかみつぶしたような表情で、東堂は瞳を閉じる。

 

 テーブルに突き刺した短刀。意味を察することは容易のはずが、誰もが眼を向けようとしない。

 

 誰にも知られず、誰にも悟られず、妖精や艦娘の警戒網をすり抜けて鎮守府の最重要区画、提督の執務室に短刀を突き刺すことが出来るならば。

 

「止めろ。何としても止めろ、下手したら『あいつら』に日本が滅ぼされるぞ」

 

「はい」

 

 短く答え、男は喫茶店から出ていく。その顔に薄く笑みを浮かべて。

 

 一人、残された東堂は窓から外を見つめ、小さくため息をつく。

 

「止められないだろうが、俺達はその方がいいか」

 

 呟いた言葉に、東堂は唇の端を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テラ・エーテルとホシノ・ルリは、吹雪を伴って建造ドックに来ていた。

 

「よ」

 

『はうわぁぁぁ! 提督!』

 

「おい、待て」

 

 何故か、ドックにいた妖精たちが一斉に動き出して土下座。見ていて気持ちいいほど整列して土下座する妖精たちに、テラは頬を引くつかせる。

 

「あ、提督、どうしました?」

 

「明石、建造だ。空母三隻」

 

 ひょっこりと顔を出した彼女に、テラは指を突き付ける。

 

「狙って出せるものじゃないですよ」

 

「そうなのか?」

 

 チラリとテラが妖精たちを見つめると、全員が一斉に起立し敬礼した。

 

『いえ! 空母つくります!』

 

 決意に燃える瞳を向けてくる彼らに、テラは『ここにも洗脳された者達が』と内心で嘆いていた。

 

「じゃ、頼む」

 

『オーダー!!! 提督からのご命令だ!!』

 

『おうさ!!』

 

 妙な掛け声とともに一斉に走り出す妖精たちを見送り、テラはポツリと呟いた。

 

「独裁者になったみたいだ」

 

「そうですね、新鮮な気持ちになります」

 

「うむ・・・・・俺、いい人達に恵まれたなぁ」

 

 自分の本来の立場を思い出し、『あの国の国民は、あんなに心酔したような態度じゃなかったなぁ』とテラは胸中で呟いた。

 

「やっぱり、空母が不足って話になりましたか?」

 

 明石が何故か、ほんわかした気持ちでいる提督と提督代行を余所に、吹雪にそっと話しかける。

 

「はい。瑞鳳に負担がかかりすぎますから。それに、瑞鳳一人に任せっきりだと艦隊を分けた時に、色々と困りますので」

 

「へぇ~~~吹雪さん、お願いですから敬語は止めてください」

 

「え?」

 

 納得していた明石が、何故か項垂れてしまい、吹雪はきょとんとした顔を向けた。

 

「なんだか、自分がとても悪いことをしている気になります」

 

「え、でも、私は駆逐艦ですから」

 

 偉くないですよと語る吹雪に対して、明石は思う。

 

 何処の世界に、戦艦を素手で沈め、艦隊を単艦で壊滅させる駆逐艦がいるのか、と。貴方の中の駆逐艦は、『魚雷を駆逐すための艦』ではなく、『すべてを殲滅させ駆逐する艦』ですか、と思った。

 

「鎮守府の初期艦ですから、皆の誰よりも偉いんですよ」

 

「はぁ、そうですか。なら、これから気をつけます・・・気をつける」

 

「それがいいですよ。私達は皆、吹雪さんの背中を見て育っているんですから」

 

 明石が誇らしげに告げるのだが、彼女自身としては他の背中を真っ直ぐ見詰めて進んでいるのみだ。

 

 提督と提督代行の、テラ・エーテルとホシノ・ルリの背中だけを見て、強くなろうとしているだけなのに。

 

「よっし、建造指示だしたから戻るか。明石、俺の艤装、ちょっと調整しておいてくれ」

 

 背伸びしながらテラは真っ直ぐ水平線を見つめていた。

 

「はい、完璧に仕上げておきますよ。丁度、新しい技術も教えてもらっていますから。電磁推進、搭載しておきますね」

 

「お、いいね。ついでに、全員分できるか?」

 

「お任せください」

 

 スパナを持ち上げ、にやりと笑う明石。マッド・サイエンティストの片鱗が見えた気がしたが、誰も気にした様子はない。

 

「夕張のほうの手が空けば、手伝うように伝えます」

 

「ありがとうございます」

 

 ルリの提案に明石はお礼を言って、すぐに自分の工廠へと向かっていく。

 

「テラさん、ちょっとおかしい話になっているようですよ」

 

「ん、そっか。まあ、人の性だからな」

 

「ええ、そうですね」

 

 テラとルリが何か話をしているが、吹雪は口を挟まない。二人が見つめる先を見つめ、二人が目指す道をしっかりと歩くのみ。

 

 もし、その道の途中で邪魔する者がいれば、排除すればいい。彼女はニコニコと笑いながら、かなり物騒なことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かなのか?」

 

「ああ、あの鎮守府の空母が扱っている艦載機は、『F-14トムキャット』だ」

 

「馬鹿な。艦娘の艤装で扱えるのは第二次世界大戦までのはずだ」

 

「一部、架空の、計画されていた艤装に発展する可能性はあったが、そこまでとは」

 

 暗い室内に集まった男たちは、一つのスライドを見ていた。

 

 赤城と加賀、とみえる艦娘が放った矢が分裂して、航空機の形になる。ここまでは普通の空母艦娘達と同じなのだが。

 

 次の瞬間に映し出された艦載機は、とてもプロペラ機に見えず、また日本軍が開発していたジェット機とも違う。

 

 音速飛行可能、ミサイル搭載可能、遠距離から射程距離の長いミサイルで一方的に敵を葬る。加速性能の違いから、深海棲艦側の航空機は付いていけない。一気に置き去りにされて、次の瞬間には撃墜されていく。

 

 ミサイルが実用化されているなんて話は、今まで一度も聞いたことはない。

 

「旋回性能は、やはり深海棲艦側が有利か」

 

「プロペラ機のほうが狭い旋回半径で回れるからな。だが、巴戦にならなければ無意味だ」

 

 航空機の格闘戦である巴戦に持ち込もうとするも、相手側は一気に速度を上げて引きあがす。距離があけば、後はミサイルを搭載した側が完全に有利だ。 

 

「空中管制機まであるのか?」

 

 スライドの中、上空を大型の航空機が舞う。見たことがない形だが、あれが爆撃機の類でないことは、一目で解った。

 

「航空機だけじゃない。見てみろ、あの駆逐艦」

 

「なんだ、あの武器は? 吹雪に近接艤装はなかったはずじゃないのか?」

 

 

 スッと、光の線が残るほどに速い一撃で戦艦だろうと空母だろうと、一撃で沈めていく駆逐艦。他の駆逐艦達も手に持った近接武装で、相手に対して接近戦を仕掛けている。 

 

 だというのに、大破の艦が見当たらない。どういう訓練を積ませれば、あれだけの砲弾の中を無傷で、しかも恐れずに突撃していけるのか。

 

「戦艦は、扶桑。まさか、長門、それに大和だと?!」

 

「馬鹿な! まだ大和型は未発見のはずだ!」

 

 驚愕に室内が揺れる。砲撃している戦艦は三隻、だというのに敵艦隊に対してかなり優位に進めているように見える。

 

「驚異的な命中率だ。あの距離で初弾命中が狙える戦艦など、聞いたことがない」

 

「空中管制機に弾着観測をさせているのだろうか。となると、かなり性能のいい無線機を搭載しているのか」

 

「まて、あの長門型、レーダーの形が違うぞ。あんな形のレーダーが第二次世界大戦時にあったか?」

 

「見たことない形だが、確実にイージス艦と同じシステムではないか?」

 

「馬鹿な、戦艦にイージス・システムを搭載など、あり得ない話だ」

 

 次々に出てくるスライドに、室内の誰もが驚愕しかなかった。

 

 今まで近代戦の装備を搭載する話はあった。何度も艦娘と試し、時に妖精や明石達とも試みてはいたのだが、一度も成功したことはない。

 

「あのノウハウがあれば、我らも」

 

「だが、あの鎮守府は技術公開をしていない」

 

「馬鹿な。あれだけの技術を公開しないなんて話があるか。軍令部から命令を出していないのか?」

 

「拒否したのではないか?」

 

 誰かの言葉が、波紋のように全員に広がる。

 

 嫉妬、妬み、次々に生まれてくる感情は、多くの人の精神を支配するように『あの鎮守府だけが独占している』という考えを植え付けていく。

 

「あの話は本当だったな」

 

 誰ともなく呟いた言葉に、室内にいた全員の目が血走る。

 

 かつて、無念に散った友がいた。かつて、慟哭を上げて敵に向かっていった軍人がいた。軍艦も航空機も、敵を退けるために散って行った。

 

 護りたい者が護れずに、自暴自棄になった同期がいた。民間人を守り切れずに自害した者たちがいた。

 

 あの鎮守府は、そんな彼らのことを足蹴にして自分達だけ栄光を掴もうとしている。周りのことなど一切、気にすることはなく。

 

「許せない」

 

 小さく呟かれた言葉は、次々に伝わっていき、やがて室内にいた全員の心の中に刻まれていく。深く、狭く、とてもドロドロとした感情と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室にて、テラはテーブルに腰かけたまま床を見つめていた。

 

 その隣で、ルリは自分の机においてあるチェスボードを見ている。

 

『本当にいいの?』

 

「ん、いいさ。オラクル、放っておいて」

 

 彼はテラの返答を聞いた後、ルリに目線を向けた。

 

 彼女は答えることなく、チェスボードの黒のナイトを動かす。

 

『二つ、三つ、放っておくってことでいいのかな?』

 

 オラクルの念押しに対して、テラはニコニコ笑ったまま、ルリは別のコマを動かす。今度は黒のビショップと、黒のルーク。

 

『艦隊も動かさずにってこと?』

 

 声は部屋の隅から、不機嫌そうな顔のバビロンは、腕組みして歩き出す。

 

「本気?」

 

「本気なのでしょう」

 

 イオナとアリアも不満を顔に出してはいたが、同時に呆れたように告げる。

 

『ルリ、本気で現状維持のまま?』

 

 バビロンがチェスボードに手を伸ばし、白のルークを動かす。

 

「ええ、テラさんがそう言っていますから」

 

『相手は明らかにこっちを敵視しているのに?』

 

「はい」

 

『本当にまったく、君まで』

 

 呆れて顔を覆って机に突っ伏すバビロンに、ルリは小さく微笑む。

 

「らしくないですね。帝国創立の時、二千隻の艦隊に単艦突撃した時は、もっと切迫した状況でした。でも、貴方は『楽勝』といっていましたよ」

 

 昔の話を持ち出され、バビロンは小さく呻いて顔を上げた。

 

『あの時は事前準備があったから。今は何もしていないのに、さ』

 

「だから、らしくないと言いました。バビロン、相手の総戦力評価、思い出してください」

 

 言われて彼はデータを読みだして流し読みして、『ああ』と納得した。

 

『そっか、そっか。なるほどね』

 

『バビロン、そこで籠絡されないで』

 

 オラクルが呆れたような顔で告げるが、彼は妙にすっきりした顔で両手を広げる。

 

『僕たちは、ちょっとナーバスになっていただけだよ。オラクル、君なら解るんじゃないの?』

 

『それはそうだけど。僕は小心者って設定だからね』

 

 不安要素はできるだけ消したい、というものらしい。

 

「私達は最後の楯、敵意があって向かってくる敵がいて、所在地が解っているのに手を打たないのはストレスになる」

 

「相手がどのような力を持ち、それがどのような結果になるかわかってはいても、姉様と私には負担になりますから」

 

 イオナがちょっと首をかしげて溜息をつきながら告げ、隣にいるアリアは真っ直ぐにテラを見つめて言う。 

 

「だとしても、です。私達は『サイレント騎士団』、テラ・エーテル様の剣なのですから、剣が主に無断で動くなんてありえません」

 

 チェスボードから視線を外し、ルリは全員を見回す。『ちょっと全員、ナーバスになり過ぎてませんか』と呆れを目線の乗せながら。

 

「今はこっちが優先だろ? 深海棲艦が何を目的にしているか知らないけど、艦娘達に協力するって決めた以上は、向かってくる敵は潰すだけだ」

 

 テラは視線を上げて、室内の全員を視界に収める。

 

 昔から変わらない人たち。『サイレント騎士団』として、常に自分の傍にいた存在達は、今も変わらずここにいる。

 

「だから、『サイレント騎士団』は使わない。艦娘達の力で平穏を勝ち取ってもらおう」

 

 方針に変更なし。テラは口外にそう告げているが、同時にこうも言っているように聞こえた。

 

 向かってくる敵は潰す、それは『相手が深海棲艦でない場合でもこちら側を襲ってくるなら潰す』と。

 

 

 

 

 






 善人じゃない、ヒーローには憧れるけど、自分がそういった存在じゃないのは痛いほどよく解っている。 

 悪鬼羅刹? 暴君? 悪魔? 邪神? 

 好きに呼べばいい。俺は、何処までいっても俺だから。

 破壊神って呼ばれてでも、護りたいものを護る。そのために世界を消す必要があるなら、俺は迷わずに世界を消してやる。




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