誰だって痛いものに触れたいなんて考えない。
真実を伝えられて苦しくなるくらいなら、優しい嘘を求めるものだ。
そうだろう、違うのか?
話は、唐突に広がりを見せる。
「新型機、ですか?」
変わらない執務室。書類を確認していたルリは、唐突なテラの呟きにこう返した。
「そう新型機」
テラは何処か悪戯っ子のような笑顔で告げながら、右手を真っ直ぐに上げる。
「明石が電磁推進に取り掛かったから、そろそろ新型機が欲しいなって」
唐突に何を言っているんだろうと大淀が見ているが、テラは気にした様子もなくさらに言葉を重ねる。
「ほら、世間じゃ零戦だけじゃないじゃん。なら、こっちもF-14以外にも何かってね」
「はぁ」
右手を下ろしてグッと親指を突き出すテラに、ルリは『確かに』と思ってしまった。
最初は瑞鳳が使っていたもの、やがて赤城や加賀が使えるようになってきたのだから、そろそろ機種転換の時期かもしれない。
深海棲艦もF-14に対応してくるだろうから、ここでまったく違った機種を搭載することで、相手側に混乱を与えつつ味方の損害を減らす手段を講じるのは指揮官の勤めだ。
指揮官が『じゃ、新型創ろうぜ』なんていうかどうかは知らないが、ルリの中ではテラの意見は、『妥当』と判断できる。
「とすると、どうしましょう? 妥当なところで、F-18『ホーネット』ですか?」
「それでもいいんだけど、空中管制機もあることだから、いっそのこと」
テラは言葉を止めて、今度は人差し指を上に伸ばす。
「F-22行こうぜ」
とても気楽な笑顔で告げる我が主に、巫女であるホシノ・ルリはちょっと呆れてしまう。
レーダーがやっと出来上がったかな、というレベルの戦争にステルス機を投入するとは。我が君ながら情け容赦ない、そこまで戦力差を広げたいのか。
「後さ、レールガンって主砲に使えないかな?」
追加で出された内容に、ルリが引きつった笑みを浮かべる。
そこまで上げますか。深海棲艦が根こそぎ消えませんか、そもそも第二次世界大戦レベルの戦争の中に、レールガンとかぶっ飛んでませんか。
色々な考えがグルグルと脳裏を回った後、ルリはポンっと手を打った。
「あ、テラさん、まさか、あの艤装を使いたいとか?」
「・・・・・・」
露骨に顔を背ける彼に、『どうしてそんな危険な考えに』とルリは目線で問いかける。
「あの艤装って何のお話ですか?」
横から口を挟む大淀に対して、ルリはため息交じりに答える。
「提督と吹雪と明石が悪だくみして作った、とっても凶悪かつ暴力の塊のような艤装です」
あれは大変だ。もうジェット戦闘機が赤ん坊に見えるくらいの艦載機と、四十六センチ砲が豆鉄砲に見えるくらいの主砲を搭載した、凶悪な暴力の化身でしかなかった。
「それほど何ですか?」
「それほどなんです。そもそも、前提となる動力炉が違っていますから。対空火器も光学兵器と空間兵器でしたし」
思い返して見ても頭痛がしてくる。何処をどうしてあんな艤装を作ったのか、そもそもあの当時の明石の技量で組み上げることができたのは、どうしてなのだろうか。バッタ達と妖精たちが手伝ったにしても、あんな艤装になることはないはずなのに。
「そ、そこまでですか?」
ちょっと顔色が悪くなった提督代行に対して、大淀はかなり腰が引けてしまった。
「使ったら、戦闘の余波で二十キロ圏内が消滅しますね」
「絶対に使わないでください」
鋭く顔を向けて釘をさす大淀に対して、テラは『解ったよ』と両手を上げたのでした。
「でもさ、新型機は欲しいよね」
「まあ、それは」
ルリもその点だけは同意している。他は、ちょっと頷けないが。
「それで、本当にF―22を?」
「ん~~~VFって言ったら、怒るでしょ?」
「そもそも、妖精たちや艦娘達が扱えるんですか?」
新型機として開発はできるだろう。バッタならば、艦娘の艤装として『バルキリー』あたりは作ってしまえる。そもそも、F―14の原型を作ったのバッタ達であり、その後の量産は妖精たちが行ったものだ。
普通、開発で当てるしかないって話は、ルリは聞き流していて、テラには伝えていない。
「『ワイバーン』は許せる方?」
「いや、テラさん、どういう基準で言っているんですか? 許せるって何に対しての話ですか?」
頭痛がしてきたルリは、彼がどういった考えの元で話を進めているのか解らなくなってきた。
Fシリーズならば史実通りの人類が開発している戦闘機だから、妖精達もすんなりと製造できるかもしれない。
しかし、だ。VFシリーズはそもそも戦闘機というカテゴリーの中のものではなく、どちらかといえば機動兵器扱いになる。
翼あって胴体あって空飛べる、これが戦闘機。翼あって胴体あって空飛べて、変形しますは戦闘機ではないはずだ。
『あれは戦闘機だ』と昔にパイロットが暴動を起こしたことがあったが、ルリの中では機動兵器扱いで譲るつもりはない。
「ストームソーダーとかは?」
どうしてそっちに行った、とルリは内心で叫びたくなった。今まで機械だけだったのに、機械生命体を入れてくるなんて。ゾイドは、ゾイドというカテゴリーなので戦闘機や機動兵器とは別系統になるのに。
「メイヴも捨てがたい」
「もう、好きに作って艦娘達に選ばせればいいんじゃないですか? これから空母が六隻になるんですから」
「おお、そっか」
盛大にルリが放り投げた結果に、テラは嬉しそうに笑ったのでした。
そして、結論として、空母艦娘の大混乱が始まった、と。
結論として、開発できた。製造できました。
テラが工廠に突撃して、図面とイラストを見せて妖精たちに解説。テラのことを崇拝しているような妖精達は、直々の命令に敬礼してすぐさま開発開始。
バッタ達も喜々として参加した大開発闘争は、熾烈を極めた。
飛び交う図面、殴り合う怒声、次々に開発されては『没』と貼られて放り投げられる部品達。
寝る間も惜しんで、食事を忘れて、けれど譲れないプライドのぶつかり合いは明石と夕張の二人に『しばらく工廠に入りたくない』といわせるほど、かなり強烈なものだった。
後に報告書を受け取ったルリは語る。
『馬鹿ばっか』と。
飛び散る血とオイル。妖精同士だけではなく、妖精対バッタとか、バッタ対バッタとかって戦争の果て、新型航空機は開発終了となった。
なったのだが、出来あがったものは当初の予想の遥か斜め上を行くものばかりだったという。
一つ目、『真・ゲッター』。
「え、世界を滅ぼすんですか? いや、戦闘機なのは解ります。確かに変形前は戦闘機ですね。確かに。え? ゲッター線ってこの世界にあるの?」
提督代行、一つ目の書類を握り潰してしまう。
二つ目、『デルタカイ』。
「・・・・・ナイトロ搭載して、妖精たちに何させたいんですか?」
提督代行、二つ目の書類をシュレッダーに放り込む。
三つ目、『ADF-01フォルケン』。
「レーザーですか? 大型気化爆弾で薙ぎ払いたいと? 両方搭載可能って誰にケンカ売りに行くんですか?」
提督代行、三つ目の書類を燃やす。
四つ目、『デスザウラー』。
「そもそも戦闘機じゃない!」
提督代行、迷わずに四つ目の書類を丸めて原始分解。
五つ目、というところでルリは思いっきり工廠の扉をたたき壊した。
「テラさん! いったいどういうつもりで開発しているんですか?!」
「あれ、ルリちゃん」
彼が振り返り、妖精やバッタ達も振り返る。とても禍禍しい瞳をした集団が、一斉に。
「何を・・・・・」
嫌な予感がして立ち止まり、彼らの前にあるものを見た瞬間、ルリは思いっきり叫んでいたという。
「見て、イデオンが」
「そもそも戦闘機じゃないって言いましたよ!!」
怒声が工廠を揺らしたのでした。
今日の注意事項、ナチュラル・ハイには気をつけよう。
「ごめん」
執務室に連行されたテラは、机に突っ伏して謝罪を口にする。
「まあ、最悪の状況は回避できましたので」
変わりに『触れるな危険』という倉庫が増えたのだが、ルリとしては気にしない。決戦兵器は多ければ多いほど、戦術を立てやすいものだ。
と、思いこむことで自分を保とうとするルリだった。
「それで何が開発できたんですか?」
「無難なところで纏めた結果」
「纏めた結果?」
「F-22に落ち着いた」
自信満々に告げるテラに対して、ルリは思う。我が主に対しての敬愛や忠誠は微塵も揺らぐことはないのだが、どうしてこう常識や自重をしないで突っ走ることがあるのだろうか。
しかし、だ。他の開発した危険物よりはマシだろう。これで納得しようとルリがデータを見始めた時だった。
気づいてしまった。これは、確実に不味い、と。
「テラさん、普通、F-22のミサイルって十二発くらいじゃなかったですか?」
「え? そうなの?」
「・・・百二十七発ってどっから搭載しました?」
「うちの奴ってそうだよね?」
純粋に、悪気がなく、テラはそう答えた。
確かに『アルカディア』に搭載してあるバッタ師団航空科のF-22は百三十発くらいはミサイルを搭載しているが、あれは元々外見だけがF-22で中身は別者の技術で製造されているためであって、単一惑星にいたころのF―22はそんなにミサイルを搭載していない。
最高速度がマッハ12ってそんなに加速しないはずだ。しかも、可変ノズルを使っているので離着陸距離がめちゃくちゃ短い。未改造で第二次世界大戦の空母から飛び立てるし、降りられる。
機銃が、レーザー。これもどうかしていないか。
装甲材質がチタン(仮)ってなんだろう。配列パターンが完全にガンダニュウムのそれなのだが。チタンってつけておけば、納得すると考えているのか。
「・・・・・・上手くまとめましたね、テラさん」
「いぇーい!」
ノリノリと親指を突き出す提督に、提督代行は思う。『どうしょうもないので、後は赤城に丸投てしましょう』と。
丸投げされた赤城は、その報告書を受け取った後、普段の彼女を知っている艦娘からしたら、『え、赤城さんですか』というような態度で提督代行に泣きついた。
「私のことが嫌いなんですかぁぁ?!」
「離しなさい赤城、貴方達のためです。いいですね、加賀?」
問いかける青い方は、直立不動のままだったが、すぐに泣き崩れるように座り込み、袖口で顔を隠した。
「赤城さん、これは提督代行の試練よ。私たちなら乗り越えると信じて、地獄に落とすつもりです」
「提督代行ぅぅぅ!!」
煽るような加賀の言葉に、赤城がさらに号泣。
「そんなわけありません。貴方達なら扱えると信じて」
「信じて?」
二人して泣きやんで、真剣な顔で見つめてくる。二人が座り込んでいるから、見上げる形になってしまっているので、まるで『捨てられた子供のように』ルリには思えてきた。
しかし、そこで同情してはテラの従者などやってられない。きっぱりと切り捨てるように告げる。
「いいから搭載して完熟訓練してきなさい」
「鬼! 悪魔!!」
「悪鬼羅刹でいいですよ、それで敵が倒せるなら」
特に気にした様子もなく答えるルリに対して、栄光の一航戦の二人は涙を袖口で拭って立ち上がる。
「せめて、そっちに」
『ダメ』と書かれたリストを指差す二人に、『正気ですか』とルリは叫びたくなって何とか留まる。
「こっちは駄目です。貴方達の技量ではあまりますので、もっと練度を上げてから出直しなさい」
「練度を上げれば、搭載してくださるということですね?」
念を押すように赤城が告げる。いくら上げてもダメと答えるつもりだったルリだが、ふと気がついたことがあって意見を曲げた。
「ええ、いいですよ」
飴は必要だろう。目標があったほうが二人の練度が上がりやすいのではないか。そうルリは短絡的に考えた。
「なんなら、もっと『凶悪な』艦載機も視野に入れてあげますよ。開発してあげますから」
「二言は?」
加賀も食い付いたように真剣な顔になった。
「ええ、約束してあげます」
「では一航戦、赤城、完熟訓練に向かいます」
「同じ加賀、演習に向かいます」
素早く退出していく二人を見送った後、ルリは深く息を吐いた。
「何とかなりました。だからといって、テラさん」
「ん?」
「次を開発なんてしないでくださいね」
釘を刺しておこう。そうルリが思って告げるのだが、彼はさわやかな笑顔を答えた。
「ごめん、事後」
「何したんですか?」
呆れて固まるルリの前に、テラは一つのデータを表示させる。
そして執務室にルリの悲鳴が響き渡った、と。
軍令部からの通達に従い、F-14を譲渡せよ。そんな電文が来たのは、赤城と加賀がF-22の完熟を始めてすぐにこと。
「まあ、いいでしょう」
すでに艦載機はF-22で固めるつもりでいたルリは、すぐさま全機を軍令部へと提出。
命令を出した軍人たちは、『したり顔』で艦載機を受け取ると、その分配について多いのもめた。
軍人とは言え人間、人間ならば派閥があって当然の話。高性能な艦載機が手に入ったならば、自分の派閥の『鎮守府』へ多く配りたくなるのが、支配欲を持つ人間ならば当たり前の結論。
冷静な話し合いを行いながら、その内容は殴り合いのケンカにも劣るものだったらしい。
『アホらし』と何処かの鎮守府の提督は呟いた会議が終わり、艦載機は多くの鎮守府に配られたのだが、すぐに問題が発生し艦載機は軍令部へと戻されることになる。
曰く、艦娘が搭載できない。曰く、妖精たちが整備できない。等といった意見が吹きあがり、ついには『偽物では』という意見まで出るようになった段階になってようやく、軍令部はテラとルリに呼び出しをかけた。
通信を受けた二人は、そんなことはないと反論したものの、軍令部は取り合わず。ついには、実際に使って見せろとまで言わる始末。
そして、赤城が見事に扱い、その場で艦載機を他の空母艦娘へと渡すまでしたのだが、結局は使えないという結論になっただけだった。
「どういうことだ?」
報告を受けた東堂はテラ達に直接に通信を入れるのだが、テラ達にも意味が解らずに困惑を浮かべる。
「俺達は使えたけど?」
「確かに使っているが、他の鎮守府の空母では使えん。どういうことなのか、解らないのか?」
「そんなこと言われてもなぁ」
理解不能、とテラは答えるしかない。
一方のルリは、ちょっとだけ予想がつく。妖精たちが悪いのでもなければ、艦娘が悪いのでもない。恐らくは提督の気質のため。
『できない』、『不可能だ』とトップである提督が無意識に思い込んでしまったことが、そのまま艦娘の能力を縛りつけて上限を設定してしまい、それが艦載機の搭載不可に繋がっているのではないか。
確証はない、証明するものもないが、これが確実なものであるとルリは確信している。
他の鎮守府の妖精と、自分達の鎮守府の妖精、それがF―14を前にした時の反応が、見事に分かれているから。
危険だと身を引くものと、これは味方だと近寄るものの二つに。
結局、軍令部はF-14の接収は諦めるしかなく、多くの鎮守府から不満がわき上がることとなった。
思い返せば、それが始まりの亀裂だったのかもしれない。
あいつが悪いから、あいつらが何かしたから。
都合の悪いことは他人に放り投げるのに、自分の失敗は知らぬ顔で通り過ぎる。
原因を探らないことの意味はないのに、どうしても人は厳しいものから眼を反らしてしまう。
探って改善すれば、すぐにでも立ち直れるというのに。