夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 ルールというのはとても大切なものです。

 法律や規律ではなく、ルール。人と人が過ごす上で重要な、とても大切な取り決めのことです。

 ルールを破りたい、破るためにルールはあるって人はよく言います。

 けれどね、ルールを守るのは、『貴方達をルールが護る』ためでもあるんですよ。ルールから外れた者は、その加護の一切を失います。

 解りますね?





血の十字架

 

 作戦は順調に滑り出す。

 

 さすが各鎮守府から集められた精鋭だ。動きに迷いはなく、また無駄も少ない。ああいった動きが出来る兵士は強いというが、傍から見ているとよく解る。

 

 使用する弾薬、移動時の燃料の消費、上げればキリがないほど周りの艦娘は優秀だ。

 

「へぇ」

 

 小さく眼を細めるテラの前を、一人の艦娘が横切った。

 

 特に動きにムラがない、真っ直ぐに軽やかに動き続ける彼女の視線が、こちらを見つめた。

 

 ジッと見ていたから不快に感じたのか、それとも違う理由があるのか。テラはそんなことを考えながら軽く頭を下げる。

 

「貴方は、男なんですか?」

 

「一応、男だね。初めまして、テラ・エーテル。そっちは?」

 

「不知火です」

 

 駆逐艦の子か。魚雷も主砲も的確に使って、敵戦艦をあっという間に撃沈していたから、もっと上の巡洋艦クラスかと思っていたが。

 

 世の中は広いな、とテラはちょっとだけ嬉しく感じた。まだまだ自分の知らない強さがある、まだまだ自分よりも上手い相手がいる。それは、『自分がまだまだ強くなれる』ということで。

 

 僅かに心の何処かで、『強くなれ、もっと上に、誰も寄せ付けないほどに』と囁く声がした。初代から脈々と受け継がれた、慟哭と絶望の塊。上を目指し最強を打破し、絶対を足蹴にできるくらいに強くなれと囁く声を振り払うように、テラは軽く手を振ってみた。

 

「見事な動きだって思ってね。ちょっと見惚れた」

 

 何気なく彼が告げた言葉に、不知火はどうもと答えた。

 

 しかし、だ。その言葉を聞いたテラ配下の艦娘が鋭く振り返る。間髪入れずに同じタイミングで振り返った彼女たちの目に、怪しい光が灯っていた。

 

「妹に負けるなんて」

 

 陽炎がとても解り易く項垂れているが、すぐに気を取り直したように真っ直ぐに不知火を見つめる。

 

「すぐに追いつくから、待っていろ」

 

「は、はい」

 

 思わず不知火が引くくらいの圧力を持って、とても『凄みのある笑顔』を向けた陽炎だった。

 

「前方、敵艦隊です」

 

 静かに吹雪が告げる。それは通信を経て全艦娘に伝わり、全員が顔を引き締めた。

 

「さすが、あの装備だと索敵範囲が違うな」

 

 テラはポツリと呟いて、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特型駆逐艦一番艦『吹雪』。秘匿艤装の開発は、とても素晴らしいテンションのテラを筆頭に、技術を使ってみたかった明石の悪のりと、訓練しちゃダメと言われた吹雪のストレスの発散の結果、途轍もなく凶悪なものになっている。

 

 話は変わるが、『アーセナルシップ』という言葉を知っているだろうか。

 

 世界や作品によって内容は違うが、簡単に言えば多数の武装を使用し、圧倒的な火力で敵を制圧する軍艦、となる。

 

 とある架空戦記では、戦艦大和の後部甲板と三番主砲を撤去、さらに二番主砲も撤去して艦橋を前に出し、後ろの広大なスペースにVLSを並べて巨大なミサイル発射艦に改造したものもあったという。

 

 また、別世界においてはミサイルと巨大な主砲を備え、単艦にて海域を火の海に染め上げた軍艦もあったらしい。

 

 『サイレント騎士団』において、『アーセナルシップ』といえば『武器庫艦』と訳される艦種であり、多種多様な艦種と一種類につき、百隻は存在する艦隊の中でも、僅か十二隻しか存在しない艦種を示す。

 

 『リヴァイアサン』級と呼ばれるそれらは、特殊なミサイルを発射するために開発された。

 

 弾頭に『サイレント騎士団』の重装甲戦艦と同じ装甲を使い、内部に反物質を満載、その外部装甲もかなりの強度を持たせた、一発の値段が戦艦と同じという異常なミサイルを、これまた頭を疑いたくなるような数の十二万発を搭載。同時発射数は一万発という、話を聞いたまっとうな軍人が『え、おまえらは何と戦うつもりなんだ』と真顔で返すほどに、頭のイカレた艤装を持っている。

 

 実際の戦闘で、最初の一斉射を行っただけで惑星が『抉られるように消えた』こともあるそれを、『吹雪の艤装のコンセプトに持ってきた』。

 

 推進機は電磁推進と空間反発式推進機の併用。ついでに小型魚雷発射管を前方に配置、『潜水艦の構造で行けるさ』とか言ったテラに、『あ、出来ます』と答えた明石により、超音速魚雷十二本が足元の推進機部分だけで搭載されている。

 

 その代り、魚雷発射管があった場所には右足が六連装のICBM機構の発射管、左足は巡航ミサイル(気化爆弾搭載型)発射機。

 

 右手には口径の違う主砲が二つ、上が十二センチ『電磁投射砲』。つまりレールガン、弾丸はバッタ達のお祭り騒ぎにより開発が完了した『ヘッシュ弾』。

 

 二重構造の弾頭になっていて、前方が装甲をぶつかると同時に破裂、破砕させ穴を開けたところに、プラズマ徹甲弾をぶちこみ内部崩壊をさせる。

 

 下はプラズマ散弾。超高温のプラズマを散弾のように発射する、対近接用の武装。

 

 頭が痛いが、この武装は瞬時に回転。主砲が後ろへ向くことで主砲後部が前に出ていき、即席の『鈍器』に早変わり。

 

 左手は細長い楯を装備、表側に微細な振動するスケイルを装備させることで、攻撃を任意の方向へ受け流す機構を備え、裏側には小型の『光子魚雷』発射機能を搭載。

 

 背中に背負う主機は特殊規格。核融合炉とか、高温ボイラーとかを遥かに飛び越え、『重力子機関』を副としてメインに次元エンジンを搭載。重力系と空間系の最高峰の主動力のおかげで、両肩と脇の備えつけた対空火器はすべてレーザー機銃。

 

 頭部は耳の上あたりにレーダーアンテナを備え、さらに主機からぶら下げる形で大口径主砲を搭載。

 

 ギリギリ、『駆逐艦吹雪の排水量に入った』形の特殊装備の数々と、それらを十全に発揮させる弾薬庫の拡張までされた特殊艤装。

 

 そして、後ろ腰。『オリハルコン』製だった剣は、今は別の金属の剣へと変えられている。

 

 『ピ 頑張りました』とバッタが言っていたり、『もう何も出ません』と明石が倒れていたりした、いわくつきの剣。

 

 使用金属を聞いた時、『星の聖剣が』とか、『あんな貴重な円筒形の剣を』とか、ちょっと危なくて聞きたくない単語ばかりだったので、吹雪自身も深くは聞いていない。

 

 ただ、それに斬れなければ神様でも無理と全員が言っていたのを、よく覚えている。

 

 これが『吹雪が纏っている分の特殊艤装』。

 

 海原を進む彼女の左右に、四隻の小型船舶が付き従う。一見では小型のモーターボートを小さくした形。人が二人くらい乗れるかな、という形のそれらの上には三連装の主砲が二基、それから戦艦大和と同じ艦橋が乗り、後部は飛行甲板が敷き詰められている。

 

 特殊艤装の真骨頂、『従属艦』システム。どうイカサマやズルしても、艦娘が装備できる排水量は変えられない。ならば、彼女達自身につき従うような形のシステムを構築して、『それ以外の武装を乗せられないか』と考えた末に生み出されたもの。

 

 後に、テラ達の鎮守府において、『第零種艤装』と呼ばれるものの、第一成功例は、こうして白日の元に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にそれを見たとき、彼らは誰もが同じ言葉を叫んでいた。

 

 『なんだ、それは』と。

 

 海原を駆逐艦が突き進む。光を放ったと思った瞬間には、敵艦を突き破る主砲と、航跡も見えずに瞬時に敵を食い破る魚雷。それに光の塊のような物体が敵艦に当たった瞬間、敵艦が弾け飛んだ。

 

 戦艦の砲弾が迫る。彼女は瞬間、映像の中から消えた。何処へと画像が動きまわる中、右手に持った剣で戦艦クラスを三隻も瞬殺した彼女が、何事もなく海原を進んでいく姿を捕らえる。

 

「なんだ、何なんだあれは」

 

 東堂は同じ言葉を繰り返す。嘘だと言いたい、間違いなのだと信じたかったが、これはリアルタイムの映像。心が拒否しようとも、冷静な部分の思考が現実だと認めてしまっている。

 

「そ、総長、あれは『どの艦種の艦娘』なのですか?」

 

 問いかけに答えられる言葉はない。外見は吹雪だ。特型駆逐艦一番艦、特色らしい特色などなかった駆逐艦のはずなのに。

 

「馬鹿な、なんだあの船は。彼女に従っている船体の情報は?」

 

「我々は知らないぞ。あいつめ、まだ隠していたのか」

 

 映像に映り込む、四隻の船。吹雪に従い、彼女が定めた目標に砲撃をする姿に、軽い戦慄を覚えた。

 

 妖精達の姿が見えた。では、あれも艤装というのか。あんな艤装があっていいのか、それに兵装はまるで『大和型』戦艦ではないか。主砲口径はいくつだ、馬力は、推力は。次々に頭を巡る疑問に埋め尽くされ、東堂は次第に冷静な思考ができなくなっていった。

 

 鋭く細く、まるで刃のように吹雪は止まることなく敵陣を食い破る。後に続く艦娘達も、動きが洗練されていくのが解る。

 

 テラ・エーテルの鎮守府の艦娘は、別格といえる実力を持っていたのは知っていたし理解はしていた。ただ、それらを正しく認識はしていなかった。

 

「総長、やはりあいつらは危険です」

 

 隣からこっそりと告げられた警告に、東堂はやっと意識を現実に戻せた。

 

「このままいけば、テラの鎮守府が日本を支配します。ここは潰すべきかと」

 

「あ、ああ」

 

 そうだ、何を呆けていた。この機会を待っていた、この瞬間は待っていたのではなかったか。

 

「あのような異邦人どもに、日本を好きにさせていいわけがありません」

 

「そ、そうか」

 

「ええ、日本を護るのは我々海軍軍人であるべきです」

 

 迷いなく告げてくる部下の一人の目には、怪しい光が灯っているように思えた。

 

 いや、『思い込もうとしていた』のかもしれない。東堂は、不意にそんなことを感じたのだが、時はすでに戻せない。

 

「やがて世界のトップに立つために」

 

 その言葉に東堂は答えずに、ただ前を向いた。

 

 男はそれを了承と受け取ったのか、通信機を取り上げる。

 

「予定通りだ。やれ」

 

『了解しました』

 

 通信相手はそう答え、動いた。

 

 同時刻、日本の各地から巡航ミサイルがテラ・エーテルの鎮守府へ向けて放たれた。以前から準備していたのだろう、連中の同士達はテラ達を日本に対しての害悪と判断し、艦娘すべてが出払ったこのタイミングで排除するために動いた。

 

 政府の承認もなく、首相の同意も得ずに軍を動かす。軍備を私的に使用した罪はとても重い。軍隊は管理されてこそ、軍隊でいられる。管理されず暴走した軍隊はテロリストと変わらない。

 

 責任はすべて、この男がとる。その後に犯行勢力をすべて消して、日本は今度こそ自分の主導の元で生まれ変わり、清廉潔白な国に生まれ変わる。

 

 売国奴のいない、国を憂う勇士たちのいる国家へ。

 

 東堂はそう確信し小さく笑みを浮かべた。

 

『本当に貴方達はどうしょうもないですね』

 

「な、なんだあれは?!」

 

 そして、その笑みは凍りつくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界において、核兵器は深海棲艦に対しての最後の切り札だった。

 

 通常兵器では倒せない深海棲艦だったが、核兵器には無力でしかない。超高温の熱量による焼却、人類が手にした科学の焔は正しく、人類に敵対するすべてを焼き滅ぼしてきた。

 

 世界の各国は当然に核を保有しており、その数は国家の規模による。当然、世界最大の国家『アメリカ』の保有する核は、他の国家よりも多いものだが。

 

「・・・では、大統領」

 

「ああ、これでいいのだろう?」

 

「人類の平和のためです」

 

「そうか」

 

 男は、小さく呟いて鍵を差し込み、続いてパスワードを入力する。

 

 地獄の業火に焼かれて、綺麗に消えてくれるとありがたい。男は疲れた顔でそう告げながら、最後のボタンを押しこむ。

 

「悪く思うなよ、『トウドウ』」

 

 こうして、一つの悪夢は天へと昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は少しだけ戻る。

 

 東堂達が吹雪の活躍に凍り付いたように動きを止めた時、あるいは米国の大統領が苦渋の決断をした時。

 

 ホシノ・ルリ提督代行は、執務室で小さくため息をついた。

 

『覆らなかったね』

 

『やっぱり、無理だったのかな?』

 

「さあ? あの人達はそう感じて、必要だからと手を動かした。ならば、私は私の『矜持にかけて』相手をするまでです」

 

 嘆息するバビロンと、嘆くようなオラクルを前にして、ルリは軍服の上着を脱ぎ捨てて、『マント』を羽織る。

 

 背中に大きく血の十字架が描かれた全身を覆うほど大きなマント。右胸には剣持つ鳳、左胸には雪の結晶と鈴の紋章を描かれたそれを纏うことで、ルリの立場は『提督代行』から元へと戻る。

 

 ジョーカー銀河帝国皇帝『神帝』テラ・エーテルの私兵、『サイレント騎士団』団長へ。

 

「我が『サイレント騎士団』総員へ。状況は想定内。もうすぐ巡航ミサイルが到達するでしょう、米国からも『戦略核』が向かってきます」

 

 両方の手のひらを上に向けて、ルリは僅かに視線を上げる。

 

「多く語る暇はありませんし、語るほどでもないのでただ一つだけ。我らは我らの矜持を持って、何時もと変わらぬ行動をするのみです。では、諸君」

 

『御意! 我らが巫女! 我らが団長! 我らは『サイレント騎士団』!』

 

「ええ、そうです。我らの目的はただ一つ」

 

『我が主の前を塞ぐすべてを『沈黙』させる』

 

「結構。では諸君、『戦争の時間』です」

 

『武器を掲げろ!』

 

 瞬間、鎮守府が揺れたという。

 

 

 

 




 

 生物学的に最も弱い生き物を知っていますか?

 ええ、生き物です。

 赤ん坊、惜しいですね。

 アメンボ? いえ、もっと弱い存在がありますよ。

 微生物って、まあ生き物でしょうね。

 答えは、『人間』ですよ。



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