夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 あの当時のことですか?

 そうですね、あの頃は色々なことがあって一口では言えませんけれど、一番に印象に残っている事としては、予想外でしたね。

 そうじゃないですか?

 誰に聞いても、『予想外』だって答えると思いますよ。







栄転、左遷、人事移動、ようするにお引越し

 

 

 その日、ホシノ・ルリ提督代行は東堂軍令部総長に呼び出され、土下座されていた。

 

「はぁ?」

 

「すまん、移動してくれ」

 

「はい?」

 

 意味が解らない彼女の前で彼が語った内容は、提督代行を納得させるに十分な内容ではなかったが、心情的には理解できたので同意した。

 

「総理も限界らしくてな。胃潰瘍で倒れたらしい」

 

 『祝、エーテル鎮守府大金星。政府のトップを撃沈す』、とルリの脳裏にそんな単語が躍ったのだが、表に出すことはしない。

 

 なるほどと提督代行が頷いていると、目の前で東堂も胃を抑えて蒼白な顔になった。

 

「俺もなぁ」

 

「・・・・・とりあえず、勝利宣言しておきますか」

 

 『大勝利、エーテル鎮守府。連戦連勝、軍令部総長も撃沈す』。妙な単語がまた流れるのだが、無視しておこう。

 

 蒼白になってそのまま床に蹲る軍令部総長を前にして、ルリは冷静に内線で軍医を呼んだという。

 

 この日、エーテル鎮守府は総理大臣だけではなく、軍令部総長も胃潰瘍で撃沈するという、大変に名誉な称号を得た。

 

 後日、ホシノ・ルリ提督代行がこの件をテラ・エーテル提督に報告すると、彼は嬉しそうな顔で告げた。

 

 『じゃ、次は陸軍のトップだ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり決まったお引越し。住み慣れた場所を離れる寂しさはあっても、命令では仕方がないと割り切るのが軍人。言いたいことは多々ある、思うことも多々あるかもしれない。

 

 そんなことはないのが、規格外揃いのエーテル鎮守府の面々。いきなりのお引越しに誰もが『じゃ、準備ですね』と返すのだから、頭のネジが一つや二つは緩んでいるのだろう。

 

 さて、ここで問題です。この一件で最も狂喜乱舞したのは、誰でしょう。

 

 答え、バッタ師団。

 

『ピ! お仕事が来たぁぁ!』

 

『ピ! 図面持ってこい! 鎮守府再建だ!』

 

『ピ! 都市開発やり直し! 経験が生かせるぞ!』

 

『ピ! 資材持ってこい! 出し惜しみするな!』

 

『ピ! 全バッタ師団は即応体制実施! 八丈島の調査だ!』

 

『ピ! 急げ急げ! お仕事の時間だぁぁ!』

 

 ドタドタと駆け抜けていく一団と、すぐさま飛び立っていく大型輸送機の数々。ついでに資材を満載した資材艦の出港準備、護衛用の戦闘艦の出港準備、並行して行われる鎮守府の再設計及び新規建設計画。

 

 妖精たちも建設関係は片っ端から輸送されていく姿に、妙な哀愁が漂っているように見えるのは、気のせいとしておこう。

 

『ピ お仕事優先です』

 

『はうぁぁぁぁ!』

 

 妖精達の悲鳴が聞こえた気がしたが、誰もが空耳だと信じ込むくらいに、バッタ達は一心不乱に八丈島の鎮守府化計画を推し進める。

 

『ピ 浮沈要塞って憧れですよね』

 

『あ、それは私達もです』

 

 哀愁が漂っていたはずの妖精たちが、一斉に黒い笑顔を浮かべてバッタ達と笑っていたことは、誰もが見ないようにした。

 

 話を持って行って数分後、『思案です』と渡された図面を見た大淀は、軽く気絶しかけたという。

 

「て、提督代行、これは正気なんですか?」

 

「まあ、正気でしょうね」

 

「でもこれって、浮沈要塞っていうよりは、『殲滅体制万全です』じゃないですか?」

 

 顔面蒼白になって図面を握り締める大淀に対して、ルリはチラリと再び図面を見た後に、手に持っていた紅茶を飲んだ。

 

「大淀、いい機会なので言っておきます。私は『敵は残らず消す』主義です」

 

 真顔で告げる提督代行に対して、事務全般を受け持っている艦娘は、とても苦い顔で告げたのでした。

 

「こんな時に思い知りたくありませんでした」

 

「まあ、バッタ達も久しぶりの仕事でハイテンションなだけでしょうから。けれど」

 

 再び図面に視線を戻したルリは、細部まで改めて確認した後、ポツリと呟いた。

 

「でも、かなり抑え気味な設計ですね」

 

「何処がですか?!」

 

「重力兵器で固めたり、空間兵器を前面に押し立てない。通常兵器で周囲を固めているあたりとか?」

 

「六十八センチ四連装砲を三十二基も設置してですか?!」

 

「常識的ですよ」

 

「この四十六センチ電磁投射砲ってなんですか?!」

 

「レールガンじゃないですか」

 

「二十二センチ光学熱線砲ってどういうものですか?!」

 

「ビーム兵器ですよ。プラズマ形式なので、普通に科学技術だけです」

 

「重金属投擲砲は?!」

 

「炸裂弾形式のカノン砲ですね。こっちも金属粒子を使っているだけで、ごく普通な火器です」

 

「電磁防護幕は必要なんですか?!」

 

「自らの攻撃に対しての防御力を持つのは、当たり前の話です。大淀、何を動揺しているんですか?」

 

「普通はしますよ!」

 

 大声で言いきって大淀は、肩で息をしていた。精神的なストレスから叫んだらしいが、そこまで負担になる話だろうか。ルリはちょっと疑問を感じて図面を持ち上げて見たが、どう見ても抑え気味なごく普通の基地計画書だ。

 

「何処が・・・・・」

 

『ピ! 修正案です!』

 

 ドアを蹴とばすように入ってきたバッタは、ルリが持っていた図面を奪い去り、変わりの図面を置いていく。そして、入ってきた勢いのままに部屋を飛び出していった。

 

「・・・・・・大淀、これが非常識な基地設計書です」

 

 少しだけ見た後、頭痛を感じた提督代行は、そっと彼女に図面を差し出す。

 

 大淀は恐る恐ると受け取って眼を通して、その場に崩れ落ちた。

 

「ルリより、バッタ師団へ。鎮守府を作るのであって、『移動要塞』を作るのではないので」

 

 通信を繋げてそう伝えると、相手からは盛大な反論が返ってきた。

 

 移動できない基地は難攻不落ではない。移動してこそ基地は本領を発揮する。艦娘の戦闘を完全にバックアップするために、移動できたほうが都合がいい。敵の襲撃に対して、回避性能は必須。防御システムに頼り切った基地など軟弱。現在のバッタ師団の技術ならば、八丈島くらいならば一日で移動基地化できる等など。

 

 なるほど、と提督代行は彼らの意見に同意を示しながら、同時に諭すように告げる。

 

「鎮守府は基地ではないですよ」

 

『ピ?』

 

「鎮守府は、『その場にあって鎮める部署』です。鎮めるはずの存在が、動いてしまったら本末転倒では?」

 

『ピ!?』

 

 通信の向こうで盛大な悲鳴を上がり、ルリはそっと通信を閉じた。

 

 そんなわけあるか、と内心で盛大な突っ込みを入れつつ。鎮守府だろうと基地だろうと、移動は不可なんて話はない。補給拠点が移動式、何処にでも行ける機能があるならば、前線にて移動不可能になった部隊を速やかに回収して前線復帰可能、ついでに基地自体が資材の回収にも行ける。

 

 メリットはこんなもので、デメリットは動き続けるということは所属部隊が常に基地の位置を把握していないと帰還できなくなること。海を進む船と同じになれば、敵の攻撃で撃沈する危険性が高いこと。移動のために常に燃料の消費があること。

 

 メリットとデメリットはこんなところか。パっと思いつくかぎり、こんなにも理由があるのだから、進めていけば色々な問題が出てくるだろう。

 

「ロマンを求めて不都合なことにぶつかるよりは、堅実的な方を選ぶべきですよ」

 

 小さく諭すように付け足したルリだったが、彼女はすぐに意見を撤回するしかなくなる。

 

 彼女が頭が上がらない人が、妙にうれしそうな顔で語るために。

 

「移動要塞! 動き続ける基地! ロマンだね!」

 

「あ、そうですね、テラさん」

 

 半ば諦めたようにルリはバッタ達に『許可』を出し、『通常時は現地点に留まるように』と付け足すのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『鎮守府の移動及び作成に対しての意見書』。

 

 エーテル鎮守府の艦娘全員に送信された書類に、誰もが顔を見合わせてしまう。

 

「えええ~何これ?」

 

 空中に表示された文章を眺めていた鈴谷は、首を傾げる。意味が解らないのだが、どういうことなのか。そもそも、移動した先の鎮守府の設計はバッタ達が行っており、妖精たちが補佐して造り出しているので、そこに意見を挟む余地があるのか。

 

 艦娘が意見を出していいのかどうか、と鈴谷はちょっとだけ悩みながら文章を睨みつける。

 

「誰か詳しい話、聞いてないの?」

 

 周囲に問いかける彼女に、小さく手を上げた存在がいた。

 

「はい。どうせ、新しく造るなら私達の意見を入れてみようって話みたいですよ」

 

 答えたのは吹雪。やっと最近、事務仕事がまともにできるようになって、書類の作成能力も上がってきたので、何処かほっとした様子が見える。今では大淀以上に事務能力が高くなった、らしいが。

 

「でも、作っているんじゃないんですか?」

 

「基礎部分と街と住居エリアのみだそうです。鎮守府に関してはまだ予定地だけで、触っていないとのことですよ」

 

 丁寧に答えてくれる彼女は、とても穏やかな笑顔をしている。泣きそうな顔で補習的なものを受けていた彼女と、同一人物とはとても思えないが、鈴谷にとって吹雪とはこういった人だった。

 

 日常的なところでは丁寧で優しく、ゆっくりと穏やか。ポワポワしているとか、優しくて弱そうではない。一つの芯が通ったような凛とした雰囲気でありながら、周りに圧迫感を与えない、ごく普通の女の子。

 

 これで戦場では苛烈にして烈火の如く。鬼も泣きだして逃げそうな雰囲気に豹変するのだから、『二重人格』を疑われても仕方がないかもしれない。

 

「鈴谷?」

 

 お日様のような暖かい笑顔、なのに何故か寒気がした。

 

「いえ何でも有りません」

 

「そうですか。では、皆さん、意見を出しましょう」

 

 何事もなかったかのように告げる彼女に、鈴谷は『うん、初期組は怖い』なんて思っていたりする。

 

 素で心が読めるのではと疑うような言動があるから、ちょっと油断していると命の危険を感じてしまう。優しいし頼りになる人ばかりなのに、時々のこういった『怖さ』は、ちょっと勘弁してほしい。

 

 鈴谷はそんなことを考えているが、彼女より後に鎮守府に来た艦娘達にしてみれば、鈴谷も十分に『そういった怖さ』を持っているように見えているが気づいていない。

 

「・・・・エステサロンって必要?」

 

 不意に荒潮が告げたことに対して、全員が首を振ってしまう。鎮守府のことなのに、どうしてそんな単語が出てくるのか。軍務を何と心得るか。疑問と少しの叱責が飛ぶことはない、何しろそれは荒潮が考えたことではない。

 

 バッタ達が『最初の図面に入れたこと』だから。

 

「美容室ってなんであるの?」

 

 由良が示した場所に誰が苦笑してしまう。

 

「あ、これ居酒屋だ」

 

 川内の発見に、全員が深くため息をついた。

 

「誰か私に鎮守府内にゲームセンターが必要な理由を教えてくれ」

 

 長門が呆れた顔で告げることに、答えられる艦娘はいなかった。

 

「遊園地が敷地内にあるのだけれど」

 

 如月が示した部分は、鎮守府の敷地の三分の一を占めていた。

 

 全員が図面を改めてよく見てみると、呆れが最初に出てしまう。軍事基地にしたくないのか、それとも艦娘達に娯楽を与えなければならない使命に目覚めたのか、新しい鎮守府の図面は娯楽施設ばかりが目立つ作りになっていた。

 

 水族館とかバーとか、図書館はまだしも映画館はいらないだろう。さらにどうして必要と考えたのか、入渠施設とは別に温泉まである。岩盤浴は必須と振ってあるのは、何か意図があってのことか。

 

 その後、艦娘達全員は一つずつ図面から話し合って削除したり、付け加えたりして意見を出し合って、報告したのでした。

 

『ピ! 貴方達は戦争奴隷ですか!?』

 

「どうしてそうなるんですか?!」

 

 数時間後、憤慨して怒鳴りこんできたバッタ達に対して、吹雪をはじめとした全員で説得することになるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿騒ぎも終わってみれば懐かしい。そんな言葉が浮かぶ一週間だったと、後に誰もが回想する。

 

「はぁ、やっと終わった」

 

 真新しい机に突っ伏す大淀を見つめながら、ルリはまったくですと心の中で同意を示す。

 

 二日で終わることが、一週間もかかるなんて。鎮守府周辺の施設はすべて一日で建造終了し、宗吾達は三日後には移住完了していたのに。

 

 肝心の鎮守府が艦娘とバッタ達の意見の対立、提督と提督代行の駆け引き、さらには内部設備の『新規製造』か、『移設』かで、揉めに揉めて五日が経過してしまうとは。

 

 結局、前の鎮守府は新しい提督が使うことになって、そのままにしてある。さすがに『不味い』と判断された技術や艤装については持ってきたが、それ以外は残してある。

 

 他の鎮守府の提督が移っての使用ではなく、まったく新しい新人提督に任せるらしい、というのは東堂からの連絡で知った。

 

 従来の鎮守府とはまったく様式が異なるため、他の提督では先入観に左右されて十全に使えない可能性があるためだ。

 

 そのため、しばらく直接通信ラインを繋げて、疑問があれば質問が来るか、あるいは直接に出向いて教えることになった。

 

「まあ、いいでしょう。では、提督」

 

「うむ・・・・・・えっと、頑張っていこうか」

 

 新しい鎮守府、新しい場所、新しい任地に任務。新人艦娘や移動を希望した艦娘が来るのでと提督に挨拶を求めたが、結果はいつもと変わらなかった。

 

「各員、状況は変化なし」

 

 溜息交じりにルリは、そう館内放送に流して、締めくくるのでした。

 

 

 

 

 

 

 




 

 馬鹿騒ぎっていうのは、きっとああいうことを言うのでしょうね。

 本当に頭が痛くなるくらい、バッタ達は『娯楽優先』なのだから。

 でもね、呆れたり意味不明だったりしたけど、辛くはなかったから、笑い話にしておきましょう。


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