考えてみれば、容赦ない人達と一緒にいるわけなんだが、それを感じさせない馬鹿さっていうのかな、そんな雰囲気をあの人達は出している。
本当に、どうしてこう馬鹿ばっかりなんだろうな。
めちゃくちゃ強いのによ。
あ、今の、吹雪さんには内緒な。
「私はいいのね?」
暁さんはもっとだめだ!!
昔のことを思い出しているのだろうか、現実を見ながら彼は遠い昔を夢想してしまう。
あの時は、梅やウグイス、季節を感じさせるものを眺めながら、軽くため息を吐いてしまっていた。
なんでだろう、とても風流なものを見せられているはずなのに、どうしてこう全身の力が抜けてしまうくらいに、『呆れてしまう』のは。
『ピ! ウグイスの位置がおかしい!』
『ピ! 梅はもっと軽やかに華やかに!』
『ピ! 締切まで後十分! 後十分!』
大騒ぎの機械生命体らしい連中の隙間を縫うように、妖精たちも走り回っている会場を見つめながら、相沢・宗吾は再び、今度は盛大に溜息を吐いた。
「あのな、おまえら。俺は『庭があればなぁ』って言っただけなんだよ」
『ピ?』
全員、あるいは全機と数えるべきなのだろうか。バッタ達が一斉に振り返ったことに、さすがの宗吾もちょっとだけ顔が引きつってしまう。
和の暴力ってこう言うことか。
「だから、庭だ。庭。なんで庭って言っただけなのに、日本庭園にしてんだよ?」
『ピ? え、それが庭なのでは?』
「んなことあるか、馬鹿野郎」
呆れた顔を片手で隠して、宗吾は全身を脱力した。
「ホントに呆れた奴らだよな」
そして現在、相沢・宗吾は自宅の縁側に座りながら、溜息をつく。
半年、その間にどっかの国立の庭園みたいに広くなった庭を眺めながら。
「ほんとうにマジで、一か月ごとに広げていくとは思わなかったよ、クソバッタども。なんだこれ、兼六園か、それとも後楽園か、偕楽園じゃないだろうな」
どこも行ったことないが、そう口の中で言葉を転がす宗吾の足元で、一匹のバッタがピッと起立する。
『ピ! 合わせてみました!』
「いい度胸だ、てめぇら日本の風流を叩きこんでやろうか」
『ピ!! いいんですか?! 是非! 是非!!』
喜んで体を近づけてくるバッタに対して、宗吾はにこやかに笑いながら蹴とばしたのでした。
『ピ! 我が人生は庭園のために!!!』
「今日もうちの鎮守府は平穏だなぁ」
溜息交じりに宗吾はそう告げて、現実から目を反らすのでした。
明石は考える。最近、自分の仕事とは何なのか。
「次、魚雷発射管の点検」
「・・・・夕張さん、私って工作艦だよね?」
「そうじゃないの? 何、どうしたの?」
隣で魚雷発射管をいじっていた夕張が顔を上げてきたので、明石は思いっきり手の中の道具を机に置いて立ち上がる。
「書類しかしてない!」
「いや、それ申請書類でしょうが。スケジュールを調整して研究に入りたいから書くっていいだして、まだ十分しか経ってないんだけど」
「書類は私の仕事じゃない!」
「いやいや、仕事でしょうが。なんであんたは書類ができるくせに、時々はそうやって暴走するわけ?」
半眼で見てくる夕張に、明石は手の中の書類を盛大に放り投げて、歩きだす。
「提督と悪だくみしてくる!」
「・・・・あ、行ってらっしゃい。提督代行に見つからないようにね」
ヒラヒラと手を振る夕張の言葉に、明石の足が止まった。
提督代行の、こういった書類を投げ出した時の怖さを思い出す。
『できないならできないでいいですけど』。浮かんだ顔はちょっと呆れた顔だった。怒りが浮かんでいるとか、冷笑をうかべているとかじゃない。
一般的な怖さはまったくない顔なのに、明石は動かした足を止めて、再び机に向った。
何故だろう、呆れた顔が一番怖い気がしてきた。激怒より呆れ顔が怖いなんて、世界中を探しても提督代行くらいだ。詐欺じゃないか、あんなに穏やかな雰囲気なのに、もう殺されるって覚悟するしかないってどうしてだろう。
「明石、ようやく気がついたってわけ?」
「私は気づきました。提督代行は、ちょっと呆れた方が怖い」
「まあ、あの人に『期待してませんよ』なんて言われたら、私は轟沈する自信がある」
何処か哀愁を漂わせる夕張に、明石は首を大きく動かして頷いたのでした。
「あ、明石! 私の艤装って・・・・・」
「ひぃ?! 吹雪さん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「はい?」
いきなりのトップ艦娘登場に、明石は錯乱。壊れたレコーダーのように同じ言葉を繰り返す。最近は聞かないがレコーダーはまだ現存すると信じている、関係ない話だが。
「いえ、あの私の艤装の話なんですけど、出直した方がいいですか?」
まったく話を聞いてくれない明石ではなく、困った顔している夕張に顔を向ける吹雪。
「いえ、大丈夫ですよ、吹雪さん、それで艤装をどうしますか?」
「はい、もっと装備を削ってください」
「え?」
夕張、言われた内容に固まる。
「できれは魚雷と主砲だけとか。あ、随伴艦艇はそのままで」
「ええ? 吹雪さん、あれを改造しちゃうんですか?」
明石、内容が内容のため復活。飛びつくように近づいてくるので、咄嗟に吹雪は回避。明石はそのまま通り抜けて、資材が置いてある棚に激突。
盛大な音と共に資材に埋もれて行った明石を放置して、吹雪は夕張へと再び顔を向けた。
「あの、吹雪さん、明石のことは?」
「ごめんなさい、私もいきなり飛び付かれたら、避ける権利くらいあります」
ちょっと苦笑している吹雪。きっと条件反射で避けてしまうのだろう、原因は提督だから、この場合は提督を恨むべきか。
いやと夕張は自分の思考を停止させた。提督を恨んだなんて『少しでも感じ取られたら』、自分は間違いなく消される。
「はい?」
目の前で可愛く小首を傾げている、現在の艦娘のトップに。
その日、夕張はこの話は提督と提督代行に持っていくべきです、と吹雪を何とか説得した。
そして、明石は考える。自分の仕事って、ひょっとして資材に埋もれることで始まるのか、と。
「え? あの艤装の改造ですか?」
話を貰った時、提督代行ホシノ・ルリはとてもすっごい笑顔で受けたという。
「今度は大陸を消したいと?」
「いえ、そんなことは」
「何処の鎮守府に殴り込みですか、吹雪。今度は暁も連れていきますか?」
もう半眼。何言ってんだ、おまえって言葉が背後に浮かんでいるように感じてしまう。
「もうちょっと武装の数を減らしたいなぁって思いました」
「ああ、そっちですか。作ってみて放置だったので、実際に使った感触の結果の改造というわけですね」
「はい、鎮守府ができて半年が過ぎたので、そろそろいいかなって」
テヘって笑う吹雪に、ルリはちょっとだけ呆れた顔を向けた。
「鎮守府制覇のご褒美ですか?」
「え、そんなことないですよ。だってまだ、『半分くらい残ってます』よね」
とても眩しい笑顔で告げる吹雪に、ルリのほうが引いてしまう。
この子は何処を目指しているのか、時々ルリのほうが解らなくなってしまう。強さを求めているのは知っている。ただ上を目指していることも解る。しかしだ、頂点に君臨しようと考えているとは思っていなかった。
「やはり、提督と提督代行の初期艦としてはすべての鎮守府を制覇しないと」
拳を握って宣言する吹雪の背中に、巨大な鬼が見えたとか、炎が踊っていたとか。それは幻想だと思いたいルリは、小さく息を吐いて話題を戻す。
「改造は任せます。貴方の艤装なのだから、私の許可を求めなくてもいいですよ」
「ありがとうございます」
「ただし、です」
素直にお礼を言う吹雪に、ルリは嫌な予感がして釘を刺しておくことにした。
「バッタや妖精たちを巻き込んでも構いませんが、明石を巻き込んだ時はあまり無茶はしないように」
「はい!」
元気よく答えて退出していく吹雪を見送り、ルリは通信を繋げる。
「明石、吹雪に許可を出したので艤装の改造をしていいですよ」
『解りました!』
「ですが、また無茶したら今度は『私の艤装』の的になってもらいますよ」
『え?! 提督代行って艤装あったんですか?!』
慌てて画面に食らいつく明石に、ルリは小さく微笑む。
「ええ、提督と吹雪が『赤子に見えるくらい』の奴ですから、楽しみにしていてくださいね。もう魂さえ残らないので」
『サーイエッサー!!』
見事な敬礼を決めた明石と通信と閉じて、ルリはポツリと一言。
「あるわけないじゃないですか。貴方が艤装を管理しているんだから、気づきなさい」
「提督代行、それはあまりにひどい気がします」
思わずとった感じで大淀が突っ込みを入れるため、ルリは小さく舌を出してみた。
「可愛いですか?」
「ちょっとトキメキました」
「次は猫耳とか付けてあげましょうか?」
「お供します」
何故か、決意を秘めた顔で言ってくる大淀に、『貴方もこの鎮守府に染まり切りましたね』とルリは小さく呟いたという。
威力を求めた結果、威力を損ねることもある、みたいな。
「つまり、口径こそが大切! ですよね!!」
「そうかしら?」
「いや命中率だろう、そこは」
「そうね」
両方からの話を聞きながら、扶桑はどうしてこの二人は主砲のことになると、両極端に分かれるのか。
大和の口径こそ大切という話は解る。現在の鎮守府で最大口径は、六十二センチ三連装砲。バッタ達が自信を持って作り出した主砲の威力は、それ以上の口径に勝るものがあり、扶桑も使ったことはあるがかなりの威力があった。
続いて長門のほうも命中率も納得できる。どれほどの大口径であっても、威力が高くても、相手に命中しなければ意味がない。攻撃力は、即ち敵に当たってこそだ。
「扶桑さんは大口径ですよね」
「扶桑さんの考えは命中率でしょう?」
「はぁ」
二人から迫られるように告げられながらも、扶桑はまったく別のことを考えてしまう。
大口径で威力を上げるのも、命中率を気にするのも、どちらでもいいのではないか。そんなものは個人の戦い方であって、他に意見を求めるものではない。
要するに、どっちも正しく自分に話を振るものではない。
「戦艦といえば大口径ですよ!」
「戦艦は命中率こそ命だ!!」
「はぁ」
何故か立ち上がって言い争いを始める二人に対して、扶桑はため息をついてしまう。
昔は不幸だと嘆いていたのだが、今は不幸だとは言わないが、幸福とも言えない状況だろうか。大切な後輩二人に、まったく違う意見を言われて同意を求められるなんて、あの頃の自分が聞いたらどう思うか。
「長門さんは解ってないんですよ!」
「大和こそ解ってない!!」
いがみ合う二人、挟まれる自分。本当にまったく、この二人は何時の間にお酒なんて飲んだのか。
チラリと横目を向けた扶桑の視界に、転がっている一升瓶が映る。
五本、六本ならまだいいが、十本は転がっているのではないだろうか。何時の間にそんなに飲んだのか、まだ始まって一時間ではないだろうか。
お酒に酔って自分を失って、自分の主張を通そうなんて。
仕方ないか、と扶桑は小さくため息をついた。
「大和」
「はい!」
嬉しそうに顔を向けてきた彼女に、扶桑も笑顔で伝える。
「せめて、それを搭載して『移動しながら砲撃』できるようになってから、言いなさい」
「はい、すみません」
大和撃沈。床に倒れるように崩れ落ちた。
「長門」
「はい」
冷静ながらも勝ち誇った顔の彼女に、扶桑は穏やかに伝える。
「せめて私以上の命中率を出してから言いなさい」
「はい、ごめんなさい」
長門轟沈、彼女は床に転がってしまった。
「二人とも少し悪のりし過ぎでは?」
床に寝ている二人を交互に見た後、扶桑はゆっくりと枡を傾けた。
「それで?」
翌朝、暁の前で顔面蒼白な二日酔いをさらす戦艦三人娘がいたとか、いなかったとか。
「吹雪が今、夢中でよかったわよ。提督代行には私から伝えておくから」
「はい、すみません」
たまにはいいけど、毎回は止めて。そう告げて暁は、提督代行に話を通し、三人の出撃を自分たちに振り分けたのでした。
「戦艦三人分の攻撃力を、駆逐艦四隻で賄えるって。いいことなのか、悪いことなのか」
ポツリと、提督代行は執務室で呟いたのでした。
本当に、吹雪さんは強いって思うよ。
あの人こそ最強で絶対だ。けどな、暁さんだって負けてない。一人でも強いけど、姉妹が揃った時の強さって言ったらな。
え? 今度は五人相手?
おまえ! 俺に死ねって言うのか?!