夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 正直な話、あの時は凄い怒っていたよ。

 本当にもう全部、消してやろうって思っていたけど。

 冷静になれたのはね、もっと怒っている人がいたからだよ。

 気づいたとき、生きた心地しなかったからね。







愚者の選択・4

 

 

 目標地点にて、彼女は周囲を見ていた。

 

 忌々しいことに、彼女達には『あいつら』を排除することは不可能だった。砲撃も魚雷も、航空機による強襲もすべてが『壁』に阻まれて届かず、損傷を与えられない。

 

 何度か駆逐艦、巡洋艦クラスが突撃していったが、壁に阻まれて戻ってきた。

 

 こちらからの攻撃手段はすべて封じられたが、相手側からの攻撃は一切ない。遠巻きに見ながらじっと静観しているのみ。

 

「目的はなんだ?」

 

 小さく呟き、親指を噛む。人間らしい仕草をしながらも、彼女の姿は人間とは決定的に異なっていた。

 

 白い肌、しっぽのような漆黒の武装。

 

 レ級と呼称される個体に『転生した』彼女は、忌々しそうにそいつらを見ていた。

 

 知識としては記憶にない船体。巨大な五百メートル以上の船の左右には飛行甲板、通常なら飛行甲板は貧弱で爆弾の一つで穴があけば無力化できるのに、あの壁が邪魔して攻撃が届かない。

 

 あれは知っている、『クライン・フィールド』だ。霧の艦艇が装備している防御システムを搭載しているのだから、あれも霧の艦艇だろう。

 

 しかし、あんな船体を持つ船を知らない。戦艦の船体の左右に飛行甲板、さらに艦舷には主砲が見えている。

 

 はっきり言って意味不明だ。飛行甲板の下は格納庫だろうに、そこを削ってまで主砲塔を搭載する意味はないはずなのに、あの軍艦は搭載している。

 

 霧の艦艇だから配置は意味がないのだろうが。

 

 それに、だ。艦橋の上、対空監視所のところにいる『メンタル・モデル』は見たことがある。

 

 片方は、『イオナ』。伊401のメンタル・モデルのはずの少女は、見覚えのある白いドレスを纏っていた。確か映画に出ていたヤマトを吸収した後の衣裳が、あれだったはずだ。

 

 もう一隻は、意味が解らない。見た目は完全に『ムサシ』なのに、纏っている衣裳はイオナと同じもの。

 

 解らない、巨大な二隻以外に様々な艦艇が周り一帯を封鎖するように囲み、配下の艦艇を一隻も逃すことなく監視していた。

 

「ク、忌々しい」

 

 ギュッと拳を握ると同時に、尻尾の艤装からうめき声が聞こえてきた。

 

 そういえば、まだ生きていたのか。最後の最後まであきらめなかった、いや『見逃しておいた』馬鹿な艦娘。

 

 

 人間を逃がすなんて愚かなことをして、仲間を犠牲にした愚か者。本当に馬鹿馬鹿しい、あんな人間なんて救う価値ないのに。

 

 もう一匹はもう沈んだか。散々に魚雷の的にしてやった戦艦は、波間に浮かんで虚空を見上げていた。

 

 本当におかしい、こんな力しかないのに人間を救いたいなんて、おかしくて笑い転げて腹が裂けそうだ。

 

「おまえらも同じだ」

 

 ニヤリと笑うレ級の視界に、イオナと『ムサシらしい少女』が小さくため息をついた。

 

 なんだ、何がそんなに『哀れ』だというのか。

 

 ギリっと奥歯を噛みしめた彼女の視界の中、二人は同時に指を向けてきた。銃のような形にした指の先は、自分ではない。

 

 左右に控えている姫を狙っているようだが、ついに攻撃してくるのか。いいだろう、お手並み拝見と行こうか。

 

 レ級がにやりと笑った瞬間、左右の姫級二人が『上空からの砲弾によって弾け飛んだ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命中確認」

 

「やっぱ扶桑さん! ハンパない!!」

 

 自由落下中、いくら敵の真上を降下中で狙いは打ちおろせばいいとしても、風圧や艤装の展開で体が揺れる中を、狙ってすぐに撃って命中を出せるのは扶桑しかいない。

 

 大和と長門は体を固定して艤装を出す段階で、上手くできなくてもがいているのに、扶桑だけは涼しい顔で狙って撃破していた。

 

「轟沈確認!」

 

 瑞鳳が艤装から空中管制機を出す。同時に鳳翔も管制機と空中給油機を出す。

 

「航空機発艦!」

 

 赤城の合図で、加賀と大鳳が航空機を展開、速やかに海上の敵空母を殲滅にかかる。

 

「瑞鶴?」

 

「加賀姉も赤城姉も速すぎ!」

 

 ジタバタと慌てている妹分に、誰もが小さくため息をついた。

 

「空中自由落下時に攻撃するなんて!」

 

「え? 訓練しませんでしたっけ?」

 

 きょとんとした顔で問いかけるのは吹雪。あれ、やりましたよねと周りを見回せば誰もが顔を反らした。

 

 やったような、やらなかったようなが正しいかもしれない。

 

 高高度からの自由落下訓練はした。非常時には輸送機での移動もありえるから、敵地に呑気に着陸あるいは着水して艤装を展開、水上に進出しての軍事行動など、敵に狙ってくださいと言っているようなものだ。

 

 淡々と語る提督代行は、その時だけ『え、本気』と誰もが思うほどに、冷たく二コリと笑っていた。

 

 八丈島鎮守府で自由落下から艤装展開、水上に着水しての戦闘行動は誰もがしている。後から参加した不知火でさえ、出来ると自信を持って言えるほどに訓練を積んだ。

 

 しかし、だ。自由落下中に戦闘態勢へ移行して、戦闘行動開始はやったことがない。誰もが自由落下中は着水か着地のみに意識を振っていて、攻撃が来るとか攻撃するなんて考えることはしなかった。

 

 例外、吹雪とか、暁とか、響とか、扶桑とか。

 

 『あれ、これって落下中に先制攻撃したら、後の展開が楽にならないかな』なんて考えたのが、八丈島筆頭、つまり初期艦様。

 

 考えたが最後、実行しなければ気が済まないのが同じく初期艦様。

 

 提督代行に頭を下げ、渋る提督代行に土下座までして、さあやろうかと考えていた時に合流したのが暁と響と扶桑。

 

 同じ考えですか、同じこと考えますよね、ならやってみましょうよ。と、気軽にランチに誘うようにして四人は、ひたすらに空を飛んで空中で攻撃して移動している的に攻撃を当てるを繰り返した。

 

 毎日のように上空から落下してくる吹雪達を見た赤城と加賀は、ふと思ってしまった。

 

 あ、これは次は空中で航空機を発艦させられる、と。思ってしまった二人の行動は速かった。

 

 後になって鬼のような吹雪の顔と一緒の訓練するくらいなら、まだまだ自分の制御で未熟な吹雪に付き合って、訓練してしまおうかと。

 

 赤城と加賀が参加したことにより、一個艦隊分の人員が揃ってしまった結果、この訓練は他の艦娘も誘おうという話になったのだが、これに待ったをかけたのは提督代行。

 

 そんな状況を作るほど、甘い作戦を考えると思いますか、と。

 

 もっと言えば『私がそんな戦況を作るほど、低能だと』と。

 

 凄みではなく、背後に鬼か魔王が浮かぶほどの気配を持った提督代行に対して、流石の吹雪も土下座して謝ったという。

 

 こうして自由落下しての訓練は続行したのだが、落下中の攻撃は行わないという方向で話をまとめていこうとして、ここに鎮守府最大の馬鹿が口を挟んだ。

 

 彼曰く、『俺はできるよ』と。

 こうして目出度く、あるいは多くの艦娘にとっては苦々しく、そして一部の艦娘にとってはご褒美な訓練は続行されたのでした。

 

「あれ、してなかったかな?」

 

 ふっと吹雪は首を傾げながら、左手の砲を真下へ向けて一撃。動き出しかけたホ級を一撃轟沈。続いて魚雷を降らせて、イ級の何隻かを轟沈させていく。

 

「ね、下に向けて撃てば何かに当たりますから!」

 

 グッと手を握って笑顔で語る吹雪に、誰もが苦笑するしかなかった。

 

「あ、そろそろ着水ですね。では」

 

 笑顔が消え、吹雪は冷たい顔を浮かべて笑う。

 

「戦闘開始」

 

 そして、空から死神達が降ってきたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がと、レ級は周りを見回した。爆音と硝煙、戦場にいたなら何時でも見慣れているものが、今日は色濃く見えていた。

 

 一撃一撃が違う、今までの艦娘とはまったく違う。一撃が重い、狙いは正確で外すことが少ない。というよりも、外した砲弾と魚雷がない、航空機の爆撃や雷撃は必ず外すことが多いのに、一発の無駄もないほどに攻撃を突き刺してくる。

 

 なんだこれは、何なんだ。今までの艦娘とは全く違う、攻撃の重さも密度も格段に違う。

 

「何者だ?」

 

「貴方こそ、何者ですか?」

 

 レ級はハッとして顔を向けた。炎と煙が流れる、今まで水面も見えないほど流れていたものが消えて、ゆっくりと彼女が姿を見せた。

 

「駆逐艦・吹雪が、一隻で来たなんてね。本当にバカじゃないの」

 

 嘲笑うようにレ級は笑う。

 

 弱い駆逐艦一隻が何の用だと、たかが一隻でレ級に勝てるものか、と。

 

「その人、離してください」

 

「はぁ? 何言ってんの? あんた頭がおかしいんじゃないの?」

 

 腹を抱えるように笑う。もうおかしくておかしくて、頭が痛くなって腹がよじれるほどに笑う。

 

 たかが駆逐艦、そんな奴がいたところで自分が負けることはない。レ級は心の底からそう確信し、そして海に浮かんだ。

 

「は?」

 

「ごめんなさい。遅くなりました」

 

 声が聞こえる。誰のと顔を向けた先、尻尾の艤装が確保していた艦娘を抱きしめた駆逐艦が、そこにいた。

 

 何をした、あの小さな体で自分を飛ばしたのか。

 

「ふ・・・・・・ははははははは!!」

 

 レ級は大声で笑う。ふざけた奴だと思っていたら、大物だったか。大した実力者だ、あんなに小さい体で自分を飛ばすなんて。

 

 しかし、すべてが遅すぎた。

 

「おまえらは敗北した! 遅すぎたんだよ! こいつら皆、死んだ! 沈んだ!」 

 

 立ち上がり周りを見回す。沈んで行った艦娘の残骸が、そこら中に転がっている。沈んでいるものも含めれば、艦娘はかなりの数が消えて行ったことになる。だから、こいつらはいくら強くても救えない。

 

 消えた命を救えるような存在は、この世界にはいないのだから。

 

「遅いんだよ! 遅れたんだ! おまえらは敗北したんだよ!!」

 

 ゲラゲラと笑うレ級の視界で、吹雪は周りを見回して、小さく頭を下げた。

 

「ごめんなさい、私達は貴方達を救えなかった。助けられなかった」

 

「そうだ! おまえらは出来なかったんだよ!」

 

「だからせめて」

 

 馬鹿だと蔑み、遅れたと笑うレ級の前で、吹雪は腰の剣を抜いた。

 

「せめて仇くらいとります」

 

「は?」

 

 そして閃光がレ級を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔のまま凍りついたレ級が、波間に消える。

 

 多くの艤装が漂う海に立ち、吹雪は片手で抱えた艦娘を両手で抱え直し、周囲を見回す。

 

 すでに敵艦隊の姿はなく、味方のみがいる海域の中、吹雪は空を見上げた。

 

 強くなったつもりでいた。誰にも負けないくらいに、技量を上げて行ったのに、今回のこれは敗北だ。

 

 八丈島鎮守府が出来て、多くの鎮守府と戦って勝利してきた中、初めての敗北。

 

「もっと強くなりたいなぁ」

 

 小さく呟き、吹雪は体の向きを変えて仲間達のところへと戻る。

 

「作戦終了、撤収しましょう」

 

「はい」

 

 仲間達の返事に笑顔を向けつつ、吹雪はチラリと背後を振り返る。

 

 こんなことしても無意味だ。

 

 戦いは続く、何時だって何処だって。理由なんて何でもいい、相手が憎いから、相手が自分より優位だから、相手が自分より豊かだから、妬ましい、羨ましい、だから奪おう。

 

 何度でも何回でも、同じように繰り返される。

 

「それでも、私達は戦います」

 

 愚か者だ、馬鹿な連中だ。

 

 沈んでいくレ級の瞳が、そう語っている。

 

「それでもいいですよ。愚者なら愚者なりに、戦って戦い続けて最後には笑ってやる」

 

 吹雪はそう告げて、撤収していく仲間達の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさい」

 

 鎮守府について、提督代行が迎えてくれたのだが、その姿はあまりにも普通であまりにも何時も通りで、そしてあまりにも室内が散らかっていた。

 

「えっと、何があったか聞いてもいいですか?」

 

「はい。ちょっと油断して紅茶をこぼしてしまって。本当に希少な、最後の一杯だったのに」

 

「え? あの、それで?」

 

 返答に意味が解らない吹雪に対して、提督代行は小さく首を振った。

 

「八つ当たりしました」

 

 あまりに、一般的な、それでいてどうしょうもない理由に、誰もが盛大に溜息をついたのでした。

 

 その後、連絡を受けた東堂総長はというと。

 

「あいつらは」

 

 笑顔でそう呟き、胃を抑えて倒れたのでした。

 

「総長!」

 

「誰か軍務を呼べ!」

 

「まったくあの馬鹿どもは!!」

 

 大混乱になった軍令部と、何故か誰もが嬉しそうな顔で大混乱していく軍人たちがいたという。

 

 

 

 

 

 

 

 






 本当にまったく、どうしょうもないくらいに呆れるほど馬鹿な人たち。

 一大作戦の後も戦い続けて。

 愚かだとか馬鹿だって言われても、どんなに無謀でも絶対に諦めない人たちばかりだったから。

 私もその一員だからね、解るの。

 私達はどうしょうもないほど馬鹿だけど、絶対に譲れない一線だけは護っている人たちだって。

 だから、今も笑顔でいられるんでしょうね。




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