夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 強くなりたい。

 誰もが思い描くことは、決して簡単ではない。

 誰もが諦め、立ち止まる。

 だからこそ、その先に進んだ者は強くなっていく。

 しかし、何事にも限度というものがある。



本当に駆逐艦なのか疑問ですが

 

 闇の中、声だけがした。

 

 進む先は見えなくて。

 

 何処に向かっているかも解らないまま。

 

 けれど、微かに見える姉の背中が見える限り。

 

 進むしかないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前六時丁度、特型駆逐艦一番艦の吹雪は、今日も元気よく大空を飛んでいた。

 

「ふぎゃ!!」

 

 決して女の子があげてはいいものではない声を出しながら、海面に勢いよく叩きつけられ、ゆっくりと沈んでいく。

 

『ピ はい、狙撃』

 

 空かさず、港に待機していたバッタ師団歩兵科狙撃班が、特注された弾丸を吹雪に当てる。

 

 バケツの成分で作られた弾丸が、吹雪に対して炸裂、同時に回復。

 

「復活しました!」

 

「おお」

 

 今までよりも素早い復活に、テラは称賛した。

 

「さすが、バッタ! 仕事は常に最速だな」

 

『ピ! もちろんです!!』

 

「私じゃないんですか?!」

 

 予想外の褒め言葉に、吹雪が驚いて叫ぶのだが、テラとバッタ達は一斉に首を振った。

 

「いや、吹雪は別の意味で凄い。だって今の宝具、全部Aクラスだし。八割以上は回避してるじゃない」

 

「え、そうなんですか?」

 

「その上、耐久度がもう・・・・・本当に駆逐艦?」

 

「はい、駆逐艦です」 

 

 真面目に答える彼女に、テラは少しだけ考え込む。

 

 いや、耐久度がおかしい。本当に本気で、円卓の騎士の聖剣すべてとか、乖離剣とか、施しの英雄の宝具とかぶつけてるのに、大破で止まるとかありえなくないか。

 

 しかも、一週間で。

 

 普通の艦娘がどう成長するのか知らないが、テラから見た吹雪の成長速度は尋常じゃない。

 

 回避能力、耐久値共に駆逐艦レベルを超えているのではないか。

 

「そろそろ真名解放してもいいかな?」

 

「はい」

 

『ピ?! いや、テラ様、本当に吹雪様を殺しますよ』

 

 バッタ達が止めるのだが、テラとしてはこれ以上の訓練というと、他には重力の渦の底での殺し合いしか思い浮かばない。

 

 いっそのこと、次元回廊で多次元重ねて、物理的以上の圧力をかけてみるか。

 

 空間崩壊した時は、バッタ達やルリが何とかするだろう。

 

「ん、やっぱりここは宝具だけではなく、多角的に訓練していくべきか」

 

『ピ テラ様が高度な考えをしている・・・・・明日で世界が終わりだ!!』

 

「こら、バッタども」

 

 半狂乱になって祈りを捧げだすバッタ達を睨みつけるのだが、バッタ達は一瞬だけ止まって、全員―通りがかったとか警備とかすべて含めて数千匹―が少しだけこちらを見た後に、深々と溜息をついた。

 

『ピ はいはい、なんですか、馬鹿君主』

 

「上等だ、おまえら全員、『光滅』で斬ってやる」

 

『ピ! いや~~~~!! なんで一族の最終兵器を持ち出しているんですか?!』

 

「叩きつけられたボケには最大の突っ込みだ!」

 

『ピ!! ありがとうございます!!』

 

 カキーンとか心地よい音がして、数十匹のバッタは青空に飛んで行った。

 

『ピ テラ様、『光滅』ですよね? 誰も消滅してないですけど』

 

「封印してあるから。いくらなんでも、突っ込みで欠落はないって」

 

『ピ 私達にはご褒美ですが』

 

 バッタが胸を張っていったことに、テラは何とも言えない顔を向けたという。

 

「というわけで、吹雪、朝飯の後の訓練は実地にしよう。艤装を纏って外洋な」

 

「はい。ところで、提督、『光滅』って危ないんですか?」

 

 言われて、彼は手に持った剣を振る。

 

 漆黒の鞘におさめられた剣は、全長が二メートルを超える巨剣。柄と鞘の間にダイヤ型の封印が施されたそれは、一族が辿り着いた究極の一。

 

「ま、耐性がないと持っただけで消される」

 

「・・・・・・はい?」

 

「斬ったものには耐性とか関係なく、『滅びた』事実を刻みこむ」

 

「え?」

 

「運命さえもそこで『消す』。まあ、つまり、そういうもの」

 

 俺もよく解らない、とテラは口の中で言葉を転がす。

 

 何がどうやって生み出されたものか、テラもよくは解らない。

 

 けれど、彼にとってそれは生まれたときから持っているものであり、彼の一部でもある。

 

「よし、吹雪、とりあえず朝飯」

 

「はい!」

 

 まあ、いいかと吹雪は思って大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バッタ師団とは、あらゆるサポートを行う部隊である。

 

 頭部と胴体ユニットを基本として、足のパーツを交換することで、あらゆる状況に対応する。

 

 ニューロ・コンピュータとか量子コンピュータとか、量子通信とか、色々とぶっ飛んでいる技術をギュッと詰め込み、全機が一つとしたネットワークを構築し、全データを共有。

 

 その上で、各部隊ごとに特化させた。

 

 バッタは機械ではなく、機械生命体である、といわれる所以はそう言ったところ。

 

 五感を実装し、六感さえも装備させたバッタ師団は、歩兵科、航空科、機動科、清掃科、整備科、主計科、海兵隊、近衛兵からなる。

 

 それぞれの部門は相互的に助け合い、競い合い、戦争しあい、日々のデータを高めて自分達の存在を常に進化させていく。

 

 バッタ達に『妥協』の二文字はない。

 

 常に最高を、最大級が最低ライン、手を抜いた仕事に後悔しか残らない。

 

 彼らは常にそう言いながら、今日もボケにさえ手を抜かずに主に尽くす。

 

 即ち、『一杯のご飯のために時間操作します』。

 

『ピ! はい、吹雪様、塩鮭定食です。ご飯は選択されたとおりコシヒカリで対応させていただきました!』

 

「あ、はい」

 

 ちょっとだけ吹雪は引いてしまう。

 

 いくらこの鎮守府で生まれ、他の鎮守府を知らないとはいえ、かすかに軍艦時代の記憶が残る彼女にとって、ご飯の種類から選択できるメニューは完全に理解を超えていた。

 

『ピ すみません、まだまだ設備面で不備があって、お魚の種類とか味噌の種類の選択が不能でして』

 

 頭を下げてくる主計科料理大隊のバッタに、慌てて手を振る。

 

「大丈夫です! いつも美味しくて楽しいですよ!」

 

『ピ! そう言っていただけるとありがたいです。ですが、後三日。三日以内に整備の野郎どもを締め上げて、実施させますので』

 

 怒り心頭といった様子のバッタに、大丈夫ですと言い残して、吹雪はトレイを持って提督とルリの席へと進んだ。

 

 広い食堂には今は三人だけ。百人や二百人は座れるだろう室内に、三人というのは寂しく見える。

 

「お待たせしました」

 

「ん、じゃ食べようか」

 

「はい。それでは」

 

 三人はそれぞれに手を合わせて、同じ言葉を紡ぐ。

 

 いただきます、と。

 

 少しだけ静かな食事の時間、他にも妖精たちが思い思いの場所で食事をしているようだが、基本的にこちらには近寄ってこない。

 

 怖がっているのではなく、邪魔しないように配慮しているらしい。

 

「それで、テラさん、鎮守府の建物とかは出来上がったので、工事は周りの設備に入ります」

 

「工廠とかできたんじゃないの?」

 

「はい、一応は形になりました。ドックも、艦娘用と通常艦艇用で作り分けてあります。けれど、防御陣地がまだです。他にも土地があるので、都市機能とか作ってみたいので」

 

「何のために?」

 

 目玉焼きを箸で掴んで口に放り込むテラに、ルリは小さくパンを千切りながら、吹雪へと視線を向ける。

 

「今後、艦娘が増えた場合、鎮守府内の売店ではなく、街のほうでの買い物や食事、映画鑑賞といった娯楽を提供するためです」

 

「ん、娯楽は必要だね。で、バッタ達はなんて?」

 

 問題の解決手段にして、問題を加速させる連中の動向をテラは口外に心配していると告げる。

 

 一方、ルリは少しだけ虚空を見つめた後、小さく首を振った。

 

「やらないとデモじゃなくストライキしてやると」

 

「あいつら、何処まで本気だ」

 

 話が飛んだような。

 

 吹雪はそう思ったが、口には出さない。

 

 二人は時々、自分には解らない言葉で会話しているので。

 

 噛みあっているならば、自分が口を出す必要はないし、もし必要なことなら説明してくれるから。

 

「続いて整備科から、建造システム完成と報告が来ています」

 

「あ~~艦娘を生み出すシステムだっけ?」

 

「はい。資材も溜まっているので、二隻くらい作りますか?」

 

「任せるよ」

 

 何時の間に、と吹雪は思った。

 

 自分がずっと訓練していたので、資材は誰が集めたのだろうと疑問が浮かびかけて、スッと視界の隅を通り抜けたバッタ達がいた。

 

『ピ!! 今日も元気に資材集め!』

 

『ピ! 我らが主のために!』

 

『ピ!! 吹雪様のために!!』

 

『ピ!! 二十四時間なんて生ぬるいこと言いません! 三百六十五日戦えます!!』

 

 元気に飛び去って行く集団が、水平線の向こうへ消えていく。

 

「主計科じゃなくて、なんで海兵隊と航空科が基本装備で行くの?」

 

「装備を使ったら、周り中を殲滅してしまったそうです。せっかくの自然が消えたとお通夜状態でしたので」

 

 機械じゃないのだろうか、と吹雪は呆れてしまったが、口には出さない。

 

 隣の二人が深くため息をついたから。

 

「自然環境の保全に強い関心を持つ機械」

 

「バッタ達だけですから。では、テラさん、私は先に。吹雪、艤装の用意はしてありますので、後でレポートの提出を」

 

「はい、使用した感想ですよね?」

 

「色々です。項目を用意してあるので、チェックしなさい。気になったところは文章で回答を」

 

「解りました」

 

 よろしいとルリは告げて、テラへ一礼して食堂を後にした。

 

「じゃ、俺達も行くか、吹雪」

 

「はい、提督」

 

 そして、二人も席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練しっぱなしの毎日だったので、時には実戦を経験させるのも、いい教訓を与えてくれるはずなのだが。

 

「やっぱり、威力が弱いですね。宝具に比べたら、なんていうか」

 

「あ、そうね」

 

 テラ、ちょっとやり過ぎたと激しく後悔中。

 

 外洋へと出るところまでは、順調だった。

 

 吹雪も新しくなった艤装に戸惑いながら、徐々に慣れて行って最終的には海面を蹴ってジャンプして、宙返りしながらの砲撃ができた。

 

 特訓の成果が出て、実にいいとテラは考えていた。

 

 この時までは。

 

「あ、戦艦ですね」

 

「えっと、ル級だっけ?」

 

 外洋に出てしばらく行ったところで、深海棲艦の一団と遭遇。

 

 相手、ル級四隻、イ級二隻、バランス悪いなとテラが呟いている間に、吹雪が突撃。

 

「一つ」

 

 ル級が沈んだ。もう見事に、砲身の中に魚雷を突っ込んでの誘爆。

 

「へぇ、さっすが吹雪」

 

「はい! 提督の一番弟子ですから!」

 

 笑顔で答える彼女に、『他に教えた奴がいるんだけど』なんて言えなくて口の中で言葉を転がす。

 

 『シンは元気かなぁ』と懐かしく思い出しながら、テラはイ級二隻を斬り捨てた。

 

 炎を纏う剣は、海面を蒸発させて水蒸気を立ち上らせる。

 

 一瞬、ル級からは二人の姿が消えたが、それで終わりだ。

 

「二隻でした!」

 

「ま♪ まだまだ負けるわけにいかないからな」

 

 悔しがる吹雪に微笑むテラは、剣を倉庫へと放り投げる。

 

 七色の粒子になって消えた剣は、僅かな光の残滓を海に落とす。

 

「さて、と」

 

『テラさん、ちょっといいですか?』

 

 ルリからの通信が入り、テラの目の前に空中展開型モニターが開く。

 

「どうしたの、ルリちゃん?」

 

『はい。そこの近くに深海棲艦が集団で行動している場所があります。同じ地点に艦娘の反応もあるので、ちょっと偵察をお願いできますか?』

 

「いいけど、俺と吹雪だけ?」

 

『他は世界各地の調査で出払っていますし、イオナとアリアも動かしているので』

 

 なるほど、だからか。

 

 それか、とテラはチラリと吹雪を見た。

 

 彼女のいい経験になるから、今回の一件はこちらに振ったか。

 

「解った、ちょっと行ってみるよ」

 

『お願いしますね。吹雪、提督の足を引っ張らないように』

 

「はい!」

 

 元気のいい返事をする子に、テラは片手を振って『気負わない』と伝える。

 

「よっし、座標点確認。行くよ、吹雪」

 

「はい。救出ですか?」

 

「さてね。もしかして、深海棲艦相手に戦っているかもよ」

 

 どのような状況になっているのか。

 

 ルリも意外と、面白い訓練をさせる。

 

 本来ならバッタ達の偵察、あるいは兵力の投入。

 

 もしくはイオナ達に攻撃させるはずなのに、今回は一つもやっていない。

 

 バッタ達の偵察さえないのだから、これは完全に艦娘達の戦い方を学習させ訓練させるためか。

 

 高高度偵察や衛星軌道上からの偵察とか、概念もない時代だからとテラは納得してしまう。

 

 偵察はあくまで、自分達が搭載する艦載機によるものだけ。

 

 基地航空隊はあるだろうが、広大な太平洋では空母や戦艦の艦載機のほうが広い範囲を偵察できる。

 

 たぶん、とテラは自分の考えに結論を出す。

 

 そもそも、テラは偵察といった行動をしたことがない。

 

 行ってみれば解る、とりあえず突撃。彼の行動原理は単純で、後先など考えていないように敵陣へ突撃。

 

 必要ならオラクルに質問すればいいと考えてもいるが。

 

 オラクルが纏めている情報総省は、世界各地、銀河中のすべて、あらゆる場所から情報を集めて保管しているので、質問しただけで相手の指揮官の癖から、兵力の総数まで、かなりの情報が出てくる。

 

 便利な反面で自分の能力が落ちるような錯覚を覚えるが。

 

「目標海域、このあたりですね」

 

 吹雪の声に無言で頷いたテラは、すぐに加速した。

 

「発見した、行くぞ」

 

「はい!」

 

 元気のいい声に背を押されるように、テラは両手に武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き声が聞こえる。

 

 誰のものかなんてわからないほどに、周り中が轟音を立てていた。

 

 水柱が立ち、砲弾が突き刺さる。

 

「いいから行って! 私が囮になるから!!」

 

「暁を残していけないわよ!」

 

 誰かの提案と誰かの否定。

 

 四人しかいない艦隊の周りを、多くの敵が囲んでいた。

 

 怖くて泣きたくて。でも、それでもと思ってしまう。

 

 命を救いたいと願ってしまう。敵だから、相手がこちらを攻撃しているから、沈める気がないように散発的な攻撃をしてくるのに。

 

 まるで虐めのようにしているのに。

 

 彼女達を沈めたくないと思っている自分を、電は自覚していた。

 

「いいから! 響、私はいいから!」

 

 泣き顔で振り返る暁に、響は首を振っていた。

 

 彼女も泣いている。

 

 電も雷も、誰もが泣いている。

 

 『誰か、助けて』。

 

 四人が思ったことは、虚しく海に溶けて、空に消えて逝って。

 

「よぉぉし、良く頑張った。偉いぞ、小さなお嬢さん(リトル・レディ)?」

 

 ポンっと先頭にいた暁の頭をなでた人がいた。

 

 二メートルを超えるような巨大な剣を持った、二十歳くらいの男の人。

 

 艦娘は女性しかいないはずなのに、彼は艤装を足につけて海面に立っていた。

 

「吹雪、その子たちを鎮守府へ連れて行け」

 

「解りました。提督は?」

 

「俺か? そうだな、ちょっとこいつらと遊んでもらうさ」

 

 ニヤリと笑い、彼は背中を向けて深海棲艦の群れに突撃した。

 

 これが最初の出会い、後に暁型が目指す背中と。

 

 後に、『堅牢なる四天王』と呼ばれる暁型四姉妹との出会いだった。

 

 

 

 





 人は信じられないかもしれない。

 命は救いたいと思ってしまう。

 自分が傷ついて沈んでしまうかもしれないのに。

 でも、彼は、あの人だけは何時も笑って背中を見せてくれる。

 だから、追いつきたいと願った。
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