夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 昔の話ですか?

 あまりしたくありません、私が未熟だったことを思い出すのは、ちょっと苦しいので。

 え? 私ですか?

 金剛らしくない? 

 当たり前ですよ、私は金剛の外見を持った偽者か抜け殻なんですから。









鎮守府動乱・2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内海における被害は、日に日に大きくなっていく。

 

 一艦隊、二艦隊と消えていく中で、誰もがここに敵がいると考え始めたころ、予想外の情報が出回るようになった。

 

 被害を受けずに帰還した艦娘がいる。

 

 通常の倍以上の物資を運んでも、目的地にすんなりと辿り着いた。

 

 誰もが被害に頭を悩ませ、どうやって艦娘を無事に送り出して戻すかを考えている最中の、予想外の情報は各地の鎮守府を揺さぶった。

 

 どうしてうちの鎮守府だけが。何故、うちの艦娘は戻ってこないのか。

 

 こちらの鎮守府は被害がない。そちらの落ち度で物資が出回らないのではないか、それとも虚言で物資をため込んでいるのではないか。

 

 お互いがお互いに、疑心暗鬼に陥り始めた。今までは、派閥争いはあってもそれなりの連携をとれていた鎮守府同士が、今では敵を見るような目で睨み合っている状況に、まっさきに危機感を覚えたのは軍令部。

 

 これは不味い。このままでは各地の鎮守府が反目し合って、日本の防衛に穴が開いてしまう。

 

 時間が経つごとに関係が悪化していく鎮守府と、被害の有無がどうやって生まれているのかが解らないまま、時間だけが経過していき。

 

 軍令部は、苦渋の決断を下した。

 

 全鎮守府を回線でつないでの、電子上での大会議を決定。

 

 これでお互いに話をして、状況の打開策が見つかれば。あるいは、打開策に繋がるような何かが出てくれば。

 

 なんて甘いことを、軍令部は誰もが縋るように思っていました。

 

『そちらの落ち度だろうが』

 

『なんだと貴様、ケンカを売っているのか』

 

『綿密な計画を立て、事前によく偵察を行うべきなのでは?』

 

『している。行っていても、被害が出ているんだ。解らないのか?』

 

『ご自分の怠慢を棚に上げて』

 

『なんだと貴様』

 

 会議とは、何だったのだろう。東堂は不意にそんなことを思いながら、目の前の比較的静かな口論を見つめていた。

 

 最初はお互いに、現在の鎮守府の状況とか、被害にあった艦娘が通った航路、被害が出なかった艦娘の航路などを話、それに対しての質問などが出てきて、行って良かったと感じていたのだが。

 

 次第に雲行きが怪しくなってきた。

 

 苛立ち、焦り、喪失感。彼らが抱えてきたものが次第に相手の言葉でわきあがり、冷静になろうとする思考を揺さぶられて、結果的に感情的になりつつある。

 

 不味いと東堂が考え、どうにか方向を戻そうとするも。

 

『軍令部は何もしてくれない』

 

『黙ってろ、頭脳だけの頭でっかち』

 

 瞬間、東堂の中で何かが切れそうになった。

 

「貴様ら」

 

「よせ」

 

 背後の参謀が拳を握りしめ、何かを言おうとするのを慌てて止める。

 

 不味いという話ではない、本格的に各地の鎮守府の提督の軍令部に向ける感情が悪化し過ぎていた。

 

 当初は、鎮守府同士と見ていたが、そこに軍令部も入っているとは、東堂も気づけなかった。

 

「・・・・諸君、少し冷静になろう。今回の会議の目的は、内海で起きている事件の詳細な」

 

『だったら、軍令部がさっさと解決すればいいだろうが。こっちは懸命に、艦娘と共に頑張っているんだからな』

 

『艦娘と頑張るだと? 家族ごっこがしたいなら、余所に行け。ここは、海軍なんだからな』

 

『貴様、その物言い。艦娘が兵器だというのか?』

 

『艦娘は人間とでもいうのか? 我々、海軍の軍人が?』

 

『兵器としか扱わない奴が、艦娘を指揮するな。彼女達の理想が汚れる』

 

『言うな、浅慮な指揮官が。おまえが艦娘を大切に扱っている間、本土の民間人がどんな目に合っているか解らないのか?』

 

『民間人のために艦娘が犠牲になればいいって言うのか?』

 

『見解の相違だな』

 

 次々に言葉が走る。誰かの意見を誰かが否定して、さらに否定が入って。誰がどう発言したかが、次第に解らなくなってきた。

 

 艦娘が大切か。それは当たり前だ。高練度の艦娘は、今の状況では喉から手が出るほど欲しい。大切に育て上げ、きちんと役割を与えてやり、決して消耗させてはならない。

 

 しかし、それが民間人に優先されるかというならば、東堂は迷いなく否と答える。艦娘も軍人も、民間人を、国家を護る存在だ。護るべき存在を護らずにいるならば、それはただの暴力であり害悪でしかない。

 

 軍人であり上官ならば、部下に『死ね』と命じることもある。それが艦娘であっても例外ではない。

 

 だからこそ各地の鎮守府には最優先で物資が送られているし、高い給料も出ているのだから。

 

「我々軍人に、そして艦娘に『カルネアデスの板』はない」

 

 静かに東堂は言葉を紡ぎ、同時にモニター全員を睨みつけた。

 

「理解してないならば即刻、提督の職を辞せよ」

 

 護るべきものを護るために、楯になる覚悟がないなら、その軍服を脱げ。

 

 東堂は口外に告げながら、全員を見回す。

 

 何人かは頷き、真っ直ぐに見つめ返したが、一部の者達は憎悪の瞳を向けてきていた。

 

「今回の一件、解決策として『八丈島鎮守府』に託すことにした」

 

 モニターの提督たちの顔色が一変した。ようやくかと安堵する提督たち、それとは別に『蒼白になった提督たち』。それらを見回した後、東堂は念を押すように告げる。

 

「くれぐれも浅慮などするな。もし行った場合は、同じ軍人とはいえ」

 

 東堂はそこで言葉を区切り、軍刀の柄に手をかける。

 

 同じ軍人とはいえ、容赦なく殺す。

 

 無言の宣言と同時に、会議は後味の悪いまま終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裏切り者がいると知っていても、命令が来たならやるのが軍人。不確定要素があるのは戦場の常、万全の準備をしても予想外なことは起きるもの。

 

「まあ、それをどうにかするのが指揮官の腕の見せ所ですね」

 

 気楽な顔で提督代行は、艦娘達に作戦を伝えるのでした。

 

「とりあえず」

 

 モニターを見つめ、被害地域を確認しながら、提督代行は小さく頷いた。

 

「砲弾と爆弾ってどっちがいいですか?」

 

 予想外よりも斜め上の言葉に、八丈島鎮守府の艦娘達は固まる、とかそういうのはなかった。

 

「超長距離射出式カタパルトと、空挺落下のどちらかですよね?」

 

 代表して吹雪が質問すると、彼女は小さく首を傾げて。

 

「そう言いませんでしたか?」

 

「言われてません」

 

「なるほど。なるほど」

 

 頷いて指先でモニターを触る彼女に、誰もが思った。何があったんだろう、この人は。以前はもっと冷静で穏やかに話していなかったか、こんなに過激なことを言う人ではなかったはずだ。

 

 大多数が困惑している中で、吹雪は妙に懐かしい気持ちになった。

 

 何処かでこんなむちゃなことを言われた気がする。何処でだかは覚えていないが、こんな話が日常茶飯事だった頃があったような。

 

 身に覚えがあるような、ないような曖昧な感覚を吹雪が思い出している一方で、提督代行は小さく手を打った。

 

「現在、内海において深海棲艦が入りこんだ可能性があり、内海の輸送を担当している艦娘に被害が出ています」

 

 何もなかったかのように作戦内容を話し出す提督代行に、困惑を向けながらも耳を傾け、あるいはメモを取り出す艦娘達。

 

 さすが奇奇怪怪とか、びっくり箱をひっくりかえす、魑魅魍魎で出来ているとか言われている八丈島鎮守府の艦娘達だ。提督代行の奇行に驚きながらも、それに引きづられることなく、自分のするべきことを行おうとしている。

 

 触らぬ神に祟りなし、なんて思っているだけかもしれないが。

 

「敵の襲撃地点はすべてランダム、相手側の影を確認できないので」

 

 ウソだろう、と艦娘達は全員が確信した。

 

「全員が二隻単位にて内海をパトロールすることにします」

 

 これは本気だ。相手が姫や鬼級であっても、二隻単位を崩すことなんてない。味方の被害、あるいは轟沈がでるなんて予想もしていない。

 

「ああ、念のために言っておきますけど」

 

 思い出したように提督代行は、全員を見つめた。うっすらと、冷たいような笑みを浮かべて。

 

「たかが、この程度の敵に対して、倒されるなんて情けないことはないでしょうね?」

 

「もちろんです」

 

 間髪入れずに答えたのは吹雪。

 

「当然ですよね?」

 

 振り返って微笑む彼女の背中に、鬼神が見えたような気がしたが、誰も否定せずに頷いている。誰もが当然と表情で語り、この程度の敵に対して負けることなどないと自信を持って答えられた。

 

 叢雲や金剛、夕立も厳しい訓練を潜り抜けてきたのだから、どのような状況においても轟沈せずに切り抜けられる技量がある。

 

「よろしい。では、全員、どちらがいいですか?」

 

 提督代行が指を鳴らすと、彼女の背後に二つのモニターが浮かんだ。

 

 『それいけ! カっ飛びカタパルト。バッタがハッチャケたモード』。

 

 『蒼穹の果てよりこんにちは! 妖精たちが酔って考えたモード』。

 

「どちらがいいですか?」

 

 笑顔でにっこり告げる提督代行。

 

「え、あれって何?」

 

 叢雲、震える指でモニターを指差すのだが、答えなど戻ってこなくて。

 

「嘘ですよね」

 

 金剛、迷わずに扶桑の肩を掴むのだが反応がない。

 

「ぽい!」

 

 夕立、思わず立ち上がって、周りを見回して何かを察したように座った。

 

「提督代行!」

 

 勇ましく長門が立ち上がった。この時、誰もが吹雪や暁以外で総旗艦をするなら、長門になるだろうな、なんて考えていたり。

 

「なんですか?」

 

「具体的な説明をお願いします!」

 

「え? 具体的も何も」

 

 提督代行は振り返り、モニターの内容を見た後に、顔を戻して。

 

「書いてある通りですよ」

 

「・・・・・・胸が熱いな! 私はバッタ達を信じるぞ!」

 

 まさかの裏切り、長門はいの一番に選択した。

 

「では、長門と組ませるつもりだった不知火はそちらで」

 

「・・・・・・・・不知火に何か落ち度でも?」

 

「いいじゃないか、さあ行こう!」

 

「不知火に何か落ち度でも?!」

 

 首を掴まれて担がれて、悲鳴を上げるように彼女は、豪快に笑う長門に連れて行かれた。

 

「では、この二人の担当は」

 

 提督代行が何事もなかったかのように、二人の担当海域を決めた。

 

 この時、残された全員が察した。これは早い者勝ちだと。

 

 どちらがいい、どちらが安全か、いやどちらも安全なのだろうが。この場合は、どちらがネタにされないかと考えるべきだ。

 

 残された艦娘達は、早い者勝ちだと解っていながらも、迂闊に手をあげられなく思考を繰り返し。

 

「・・・・・・・では後は私が決めておきますので」

 

「鬼!!」

 

「悪魔!」

 

「酷いです!!」

 

 一斉に上がった反論や悪態を受けて、提督代行は可愛く首を傾げて。

 

「提督のあの訓練よりは、優しい出撃ですよ」

 

 彼女の言葉に、誰もが納得したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒンヤリと手が体温を失っていく。

 

 こんなこと許されないと解っていても。

 

「ソウカ、ツイニ出タカ」

 

「あ、ああ。八丈島鎮守府が来る。本当にできるのか?」

 

 問いかけに彼女は、にやりと笑っていた。

 

「可能ダト伝エタハズダガ?」

 

「それはそうだが」

 

「マア、任セテオケ」

 

 クスクスを笑う姿は、報告書にあった戦艦棲姫のもの。けれど、その瞳は報告書に会ったものではなくて。

 

「ソレニ・・・・話しづらいな。戻してもいいだろう」

 

「貴様は?!」

 

 一瞬で雰囲気が変わる。今まで幽霊のような怖さが消えて、人間らしい温かみが体に宿っていく。

 

「私は深海棲艦だ。ただし、この地球の船ではないがな」

 

「貴様は何者だ?」

 

「何者でもいいだろう? 私は、あの鎮守府に提督に『恨み』があるからな」

 

 彼女は両手を広げ、艤装を呼び出した。

 

 戦艦棲姫の報告書にあったものではなく、どちらかといえば『大和型』に似ているような艤装を。

 

「名前を聞いてもいいか?」

 

「ふむ、深海棲艦としては名前はないが、そうだな。昔の名前でいいなら名乗ろう」

 

 彼女は大げさに両手を上げ、高らかに名乗った。

 

「元地球連邦軍第七艦隊所属、改良型アンドロメダ級戦艦空母、『アンドロメダ』だ」

 

 名乗った名前は、提督には聞き覚えのないもので。見慣れたはずの艤装が変質していき、やがて巨大な砲門と無骨な飛行甲板まで備えた艤装が、ゆっくりと蠢いていく。

 

「かつて、ジョーカー銀河帝国が・・・・・いや、『サイレント騎士団』によって轟沈させられた、敗北者だ」

 

 彼女は薄く笑う。とても楽しそうに、とても悔しそうに。護れなかった者達の姿を瞳に映しながら、彼女は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頼むと提督が頭を下げた。

 

 すまない、と彼は謝っていた。

 

「これを使えば、あいつを倒せるらしい」

 

 誰もいないドックの中、提督はそっと銃を差し出した。

 

「本当に倒せるんですね?」

 

「ああ、間違いない」

 

 片腕が風に揺れる提督の言葉に、彼女はしっかりと頷いてそれを受け取った。

 

「解りました。これは私が必ず」

 

「すまない、おまえにこんなことさせたくないんだが」

 

「いいんです。私にはこれしかできませんから」

 

 ギュッと握りしめる銃は、冷たくて小さくて。でもとても怖い力が宿っているのが解った。

 

「あの人達は、何もしてくれなかった。助けてくれなかったから」

 

「それは俺も同じだ。だから今度こそ、護りたい」

 

「はい、提督。今度こそ『家族』を護りましょう」

 

「俺達の家族を今度こそ失わないために」

 

 二人はそう告げて、固く誓いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 因果は廻る。

 

 この星の問題が、そこに入れられたイレギュラーのために。

 

 宿命は紡がれる。

 

 かつての戦争に置いて。

 

 テラ・エーテルが、個人の我儘で滅ぼした地球連邦の残滓が、この星において深海棲艦となって襲いかかる。

 

 相対するのは深海棲艦、元地球連邦軍の艦艇達。

 

 迎え撃つのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












 あいつが悪いわけじゃないのは知っていたさ。

 元々の原因は、こちら側。地球連邦が引き金だ。

 個人的な我儘なんて言っているのは、あいつくらいだ。

 誰もが知っている、あの事件の真相だからな。

 でもな、軍艦としては納得なんてできない。

 あいつは、私たち軍艦の誇りをけがしたのだから。





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