夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 物語には結末があります。

 始まったお話は、必ず何処かで終わります。

 でも、人生においての問題には明確な答えなんてなく、ただ問題に対しての疑問と不満、後は否定と肯定が付きまとうだけで、明確に『これで終わり』なんてことはない。

 そういう話です。







鎮守府動乱・3

 

 

 

 

 

 ある男の話をしよう。

 

 彼は何処にでもいる普通の少年だった。

 

 藤井優人。何処にでもいる、誰もが認めるような平凡な少年だった彼。祖父と父、母が軍人だった以外、何処にでもいる家庭の一般的な少年。

 

 凄い能力を持っていたわけでもない。特別な血筋だったわけでもない、平均よりも少し上の学力で、決して一番になれなくても努力できる体力を持った、そんな普通の少年。

 

 誰よりも優しい人であって欲しい、そう両親が名付けたように、彼は誰よりも優しかった。

 

 人の話をよく聞き、自分のことをよく話し、悪態をつくこともあれば、かっこわるい姿を見せることもあった。誰もが想像するような、とても普通で平凡で、悪いところもいいところも持ち合わせた、そんな人物だった。

 

 彼の家族も家では普通の家族としてふるまっていた。軍人としての職務につけば冷静で冷徹な顔をしていても、家族といる時はよく笑ってよく泣いて、感情を素直に表現する人たちだった。

 

 そんな彼が提督になったのは、両親の勧めではなくて、妖精たちに見出されたからでもない。

 

 ただ深海棲艦が出現して、苦しんでいる人たちを見て、両親や祖父が頑張っている姿を見て、自分も何かしたいと思った。

 

 泣いている人たちを、嘆いている人たちを救いたいとか。正義の味方になって活躍したいなんて思わずに、ただ誰かのために力になりたい、そんな風に思うこともなく、両親の背中を見て、祖父の姿を見て、軍人になると漠然と思って進んだ。

 

 彼が軍人となって適性検査の結果、提督となった。

 

 優秀ではなかった。特筆すべきものがあったわけではない。ただ職務に忠実でありながら、自分のことじゃなく他者のために怒れる、誰かのために意見を言える、そういった優しい心根を持ち続けて軍人となった。

 

 なってしまった。

 

 彼は軍人となって提督となった後も、人の話をよく聞いて、人に自分のことをよく話す人物のままだった。

 

 艦娘の話をよく聞いて、軍令部の参謀たちの話をよく聞いて理解して、疑問はすぐに誰かに相談した。

 

 納得できない、理解できないことは、何度でも繰り返して質問して。

 

 一人で決めないで、作戦は艦娘と話し合い、何度も議論をぶつけて、時には口論になってでも、相手と自分が納得できるように配慮した、そういった甘いだけではない優しい心を持った提督になった。

 

 艦娘のために、誰かのために、軍人のために、国民のために。模範となる軍人であるように、けれど決して自分に無理をさせずに弱音も吐いて、サボる時はサボるような、普通の人間だった。

 

 『軍人としては失格』。彼の教育を任されたある軍人は、彼のことを最終的にそう評価した。

 

 彼は優しい、他人に対して甘い言葉だけを告げることなく、相手に恨まれようとも相手のためになる苦言を言える人物だった。

 

 艦娘のために考えて、国民を守るためにどうすればいいか考えて、誰もが納得できることなんてないかもしれないけれど、話し合いをすることを、相手に自分の考えを伝えて、相手の考えを知ることが大切だと、成長する中で彼は重要なことだと知るくらいに、誰にでも優しい人となっていた。

 

 提督しての彼は決して高い戦果を上げることなんてなかった。

 

 艦娘に無理させず、中破撤退を厳命して、誰かが傷ついたら無理せずに後退を選びながらも、退けない時には歯を食いしばって『追撃だ』といえるような、そういう誰かに優しい人だった。

 

 彼自身も、よく解っていた。自分が率いている艦娘達が、戦い続けることがどういったことか。笑っている彼女たちが、穏やかに過ごしている女性たちが、いつか消えることになることも、理解はしていた。

 

『提督、ごめんなさい』

 

「・・・・・・すまない」

 

 最初の轟沈者が出た時、誰もが提督は悪くないと言った。軍令部が悪いと言ってくれた。

 

 彼自身も、頭では理解して自分のふがいなさを呪った。もっと力があればと嘆いて、何もかも投げ出して逃げたくなった。

 

 でも、彼は踏みとどまった。自分が逃げ出したら、誰がこの鎮守府を支えるのかと。

 

 沈んだ艦娘のためにも、死んでいった人達のためにも、必死に拳を握りながら前に進もうと顔をあげて、涙を流しながら一歩一歩と進んできた。

 

 誰かが泣かない世界のために、誰もが笑顔で自分の夢を語れるように。そう考え始めた彼は、何処までも優しくて、何処までも自分にも優しい。

 

 そんな普通の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レッドアラートとか、緊急警報とか、そういったものが流れる時は大抵が緊急事態と思えるのだが。

 

『ピ!』

 

「降下します」

 

「あ、はい」

 

 世間話を始めるように、穏やかに言われた後に金剛は空中に落とされていた。

 

 くるりと体が回転して、遥か上空に見えるようになってしまった輸送機の、中央部のハッチが閉じていく。

 

 普通、あの手の輸送機なら後部から降りるべきではないのだろうか。それか、側面からとか。パラシュートとかを開く必要があるから、自分のタイミングで降りるべきではないか。

 

 色々と頭の中を廻る言葉に、金剛は思った。ああ、自分は冷静になろうとしているのか、と。

 

「着水まで残り」

 

 ふと顔を向けると、とても冷静な顔をした駆逐艦が、下を向いたまま数を告げてきた。

 

 この編成、ひょっとして何かの罰則なのだろうか。確かに戦艦と駆逐艦を組ませるのは、良くあることかもしれない。装甲と火力を持つ戦艦は、鈍重で細かい動きができないから、普通に小回りが利いて速度だ出せる駆逐艦と組ませるのだが。

 

 はたして彼女は駆逐艦のカテゴリーに入れてもいいものかどうか。

 

 駆逐艦『吹雪』。

 

 八丈島鎮守府の初期艦、デッド・ラインの要、終焉の鬼神、鬼軍曹、化け物を駆逐するから駆逐艦じゃね、とか色々なことを言われる彼女は、とても穏やかで冷静に海面を見ていた。

 

「金剛、そのままだと」

 

「はい?」

 

「背中から着水になりますよ」

 

 慌てて体の姿勢を直した。海面までもうすぐ、考え事をしていたら自由落下が終わりかけていたなんて、訓練の時にしていたらどうなっていたか。

 

 両足に力を入れて、艤装に力を流して、気合いを入れて着水。周辺に水柱が上がる中、衝撃を器用に流してすぐに臨戦態勢。

 

 初期艦殿は、と水柱が収まった後に隣を見ると。

 

 瞬間、金剛は全身に寒気を感じた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 震える声で告げると、水浸しになった初期艦殿はにっこりと微笑んで。

 

「戻ったら、追加訓練でしましょうね」

 

 とてもいい笑顔で笑っていました。

 

「あ、はい」

 

 反論も言い訳もできずに金剛は肩を落とした。まったくこの編成は理不尽ではないだろうか。

 

 確かに自分は全艦娘の中でも新人、前の鎮守府での練度はあるが、八丈島鎮守府では新人部類。

 

 ビーム兵器を回避したり、聖剣の砲撃を弾いたり、多弾頭ミサイルの雨を潜り抜けたり、恐ろしい魔力を持った獣の一撃に耐えたり、そんなことまだまだ出来ないのでいるけれど。

 

 それなりに練度は上がったつもりでいるのに、何故に初期艦殿と組むことになったのか。

 

 金剛は今までの訓練を思い出して、自分は頑張ったと思った。頑張ったと確信した、頑張ったと胸を張って言える。

 

 とても泣きたくなったのは、今は関係ない。

 

「それじゃ」

 

 言葉の途中で、吹雪が左手を払った。

 

 轟音と爆炎が、吹雪の遥か後方で上がる。

 

「まずは、ここの掃討からしましょうか」

 

「・・・・・・・」

 

 笑顔で告げる吹雪に、金剛はもう何も言えなかった。

 

 今の砲弾は、戦艦のものだった。しかも十発以上だったはずなのに、左手の一振りの風圧だけで、砲弾を弾き飛ばすなんて。

 

「金剛、呆けていると戻ってからの訓練が倍になりますよ?」

 

「がんばらせていただきます!」

 

 もう無理やりに納得しよう。目の前の彼女は、鬼神だ、鬼だ、悪魔だ、魔王だ、もしかしたら破壊神かもしれない。

 

 そういった艦娘とは別の存在であり、現在の艦娘達の頂点だから。

 

「・・・・・今の提督だったら一睨みで終わるかな」

 

 ポツリと呟かれた言葉に、金剛は全力砲撃を始めた。轟音で何も聞こえない、音が酷くて誰かのことなんて知らない。

 

 あの人外提督は、そこまでなのかと内心で叫びながら、金剛は砲撃したまま敵艦隊へ突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各地での敵艦隊の撃滅は順調。

 

 上がってくる報告に、提督代行は満足そうに頷いた。

 

「まあ、順調になってないなら、鍛え直すだけなので」

 

 優雅に紅茶を飲む提督代行に、大淀は同意を示そうとして、無理だなと諦めた。

 

 いくらなんでも、現在の戦力配置は無謀ではないか。二隻編成で広大な日本の内海に、飛ばすように配置していたら、万が一の状況になった場合のフォローが入れられない。

 

 もし敵がこちらを上回ったら。

 

 もし敵が、こちらの倍以上に戦力をぶつけてきたら。

 

 大淀の頭の中に、もっとも最悪な状況が浮かんでは消えていく。

 

「本当に終わると思いますか?」

 

 思わず口から出た質問に、提督代行はカップをソーサーに置いて首を振った。

 

「終わらないでしょうね」

 

「では、無駄足になりませんか? 現在の戦力配置は、一時的な攻撃のみで長期間の展開は不可能です」

 

「ええ、短期間でしか行えないのは解っています。一か月、そのくらいが限界でしょうね」

 

 解っていて尚、今回の作戦を採用したのか。いや待ったと大淀は口から出かけた言葉を飲み込む。あの提督代行が、その程度の予想をしていないわけがない。

 

 予想外なことを、突発的に行うような人だが、戦略家や戦術家として見てもそれほど劣っている思考をしていない。

 

 では、何故。視線に込めた疑問に、提督代行は小さく口を開いた。

 

「どちらにしても、私たちより先に、『相手側が根を上げる』でしょうから」

 

 その言葉に、大淀は確信した。提督代行の目的は、内海に入りこんだ敵艦隊の殲滅ではなく。

 

『ピ! 提督代行、お客様がお見えです』

 

 バッタからの通信に、知っていたように提督代行は席を立ちあがった。

 

「大淀、しばらく執務室を預けます。艦隊の指揮及び、『補充戦力』の指揮、頼みましたよ」

 

「は、はい!」

 

 慌てて返事をする大淀に、提督代行は微笑んで執務室を退出した。

 

 彼女の狙い、それは敵の黒幕を引きずり出すこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来客者は他の鎮守府の提督だった。

 

「すみません、このような状況下でお邪魔してしまって」

 

「いえ大丈夫ですよ」

 

 立ち上がり敬礼する青年に対して、ルリは片手を振って答えた。

 

「我が艦隊もお邪魔する形になってしまいました。申し訳ない」

 

「このような状況です、仕方ありません。でも、このような状況で、提督自らが艦娘を率いて外洋に出るなんて、無謀ですよ」

 

 苦言に男は少しだけ苦笑して、もう一度と頭を下げた。

 

「どうしても現場を見ておきたかったのです。艦娘達から報告を受けていますけれど、自分の目で見た方が気づくことも多いと考えました」

 

「現場任せにせずに、自分で観察するのはいいことです。でも、提督がいることで艦娘達が余計な神経を使うことになりますから」

 

「秘書艦にも言われました」

 

 苦笑いする提督に、ルリはまったくと心の中で悪態をついた。まったく、そんなことを考える人が、どうしてこんなことを、と思いながら。

 

「それで、藤井提督、どうして今なんですか?」

 

「いえ、これは普段から」

 

「今、どうして『あんなこと』を?」

 

 名を呼ばれて、さらに追撃された彼は笑顔を止めて、真顔でルリを見つめた。

 

「あんなこと、ですか? さすがに、貴方は俺が深海棲艦と手を組んだことを知っているようですね?」

 

「ええ、もちろん。だから聞きます。貴方は艦娘達に優しい軍人です、それなのになぜ?」

 

 藤井提督は、その言葉に顔をしかめて、俯いて。

 

「何故か、それは俺が聞きたい。貴方達こそ何故ですか?」

 

「質問の意味が解りません」

 

「何故、その力を使わないんですか? どうして艦娘に押し付けるんですか?」

 

 絞り出すように、堪えるように言葉がゆっくりと流れ出す。ドロドロと濁ったような感情が乗った言葉に、ルリは少しだけ眼を細めた。

 

「どうして貴方達は力を隠して、俺達に全部を丸投げにしたんですか?」

 

「言っている意味が解りません」

 

「じゃあ言ってやる!!」

 

 バッと藤井提督は立ち上がり、真っ直ぐにルリを指差した。

 

「おまえらが隠している戦力があれば! あれがあれば深海棲艦なんて排除できるだろうが! いいや深海棲艦との和睦だってできたはずだ! 誰もが傷つかず、誰もが納得できるはずだろうが!」

 

 激情の前にさらされても、ルリは感情を動かすことなく真っ直ぐに藤井提督を見つめた。

 

「戦力といわれても。私達の鎮守府は全力で動いていますよ」

 

「嘘をつくな!!」

 

「嘘じゃありませんよ」

 

「いいやおまえらは全力じゃない! そうだろ! だっておまえらは!」

 

 藤井提督がそれを知ったのは偶然だった。深海棲艦に近づいて、そのうちのトップに近い深海棲艦の一隻が、『それ』を知っていたから。

 

 まるで嘘みたいな話に聞こえた。

 

 現状を打破しようと頑張っている人たちを、必死に戦線を立て直そうとしていた人たちを、悲しみに嘆いていた人たちを。

 

 あざ笑うかのように、それらは今も動かずにいるのだから。

 

「おまえらは今も動かずにいるんだろうが!」

 

 藤井優人提督は、優しい人だった。誰かの嘆きを自分のことのように考える、誰かの不幸を一緒になって泣いてくれる、そういう優しい人だったから。

 

「なんで隠している? なんで戦力を動かさない?」

 

 多くの人が望んでいることを深く理解していたから。

 

 世界中の人たちが願っていることを痛いほど理解していたから。

 

「どうして戦ってくれないんだ? なんでなんだよ?」

 

 誰かのために、自分が嫌われても誰かのために苦言を言える人だったから。

 

「なんでなんだよ」

 

 次第に小さくなっていく声と、力なく座り込む藤井提督に、ルリは何の話か解らなかった。

 

 彼が言っている戦力が、もしかして艦娘のことなら、今の八丈島鎮守府は全力で動いている。艦娘で残っているのは、大淀、間宮、明石だけで他は一人も鎮守府にいない。

 

 他の戦力となると、ルリは考え込む。彼女は解っていなかった、それが当たり前にあるから、それが誰のためのものか知っているから、最初から分けて考えていたから。

 

 だから藤井提督がそれのことを言っていることを、把握していなかった。

 

「なんで、なんでなんだよ。だってそうだろ? 銀河戦争だって簡単に勝てる戦力なんだろ?」

 

 深く考えていたルリの思考が止まった。

 

「地球連邦って、組織だって下せたんだろ? 太陽系を支配下においていた帝国にだって勝てたんだろ?」

 

 泣くように、嘆くような藤井提督とは正反対に、ルリの表情が冷たくなってく。

 

「なんで『サイレント騎士団』を使ってくれない?!」

 

 藤井提督はそう叫び、ルリの顔を見て。

 

 そして固まった。

 

いい度胸だ、貴様

 

 冷たく鋭く、氷のように、刃のように。

 

貴様が何を言っているか、私は理解していなかった

 

 まるで人間とは思えないほどに。

 

理解などしなくてもいい。おまえが言っていることなど、私は理解したくはない

 

 何処までも冷たく鋭い、そんな人間のような物体がそこにいた。

 

『サイレント騎士団』を使う? 貴様程度の存在が、我が主の剣を使えと?

 

 彼女は冷たいまま、笑顔を見えた。それは見る者を凍りつかせるほどの冷たい笑顔だった。

 

いい度胸だ、そうか、貴様はこう言いたいんだな?

 

 ゆっくりとルリは手を伸ばす。その指先が何処を向いているか、藤井提督は瞬間的に理解した。

 

『殺してください』か、随分と遠回りな自殺願望だな。いいだろう、おまえの望みどおりに魂さえ残らないほど細かく殺してやろう

 

 自らの首だ。

 

 何も言えない、圧力で何も答えられない。口が震えて、言葉も出ないような状況の中、藤井提督は必死に力を振り絞って。

 

「だから・・・・・」

 

「遺言か?」

 

「だから、お前たちが戦うしかないように、した」

 

「・・・・・・・テラさん!?」

 

 反射的にルリは振り返り、そして鎮守府の一角で爆音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと歩くように、ゆっくりと腕を動かして。

 

 見つかると思わなかった。最初にどうやって探そうか考えていた。

 

 でも、話の通りだった。困った顔で立っていれば、問題があるって思って動いていれば、相手から姿を見せるから、と。

 

「私は、友達を失いました」

 

「ん、そうなんだ」

 

「どうして助けてくれなかったんですか?」

 

 咎めるように告げる潮に、彼は笑顔のまま答えない。

 

「どうして、どうして助けてくれなかったんですか?」

 

 再度の声にも答えなんてなくて、彼は笑顔のまま一歩一歩を歩いてきた。

 

 騙すなんて無理、隠し通すなんて不可能。相手の話を聞けば、『神帝』テラ・エーテルの話を聞けば、彼がどれだけ規格外の存在かは理解できた。

 

 通常攻撃でも、特殊な攻撃でも、倒すことは不可能。

 

 一万の艦隊が挑んでも、百万の軍勢で囲んでも、彼は傷一つつけられなかった、そんな常勝不敗の化け物。

 

 でも、倒す方法はあるから。

 

「貴方に恨みなんて、本当はないんです」

 

 ゆっくりと潮は銃を構えた。

 

「本当は筋違いなんでしょうけど、私みたいな気持ちをもう誰にも味わってほしくないから」

 

 銃口はテラへと向けた後、迷わずに自分の頭部へ。

 

「ごめんなさい」

 

 瞬間、テラは弾かれたように動いた。

 

 迷わずに潮に向けて、その銃を奪うように。

 

「貴方に何かあれば、『サイレント騎士団』が動くんですよね?」

 

 飛びかかるテラの耳に、そんな言葉が流れて。

 

 銃口は、潮の頭部に向けられたまま、引き金が引かれた。

 

 そして、反物質を内蔵した弾丸が、周辺を轟音と閃光に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 





 何度も考えた、何度も試行した。

 あの化け物を倒すには、傷をつけるにはどうしたらいいかをな。

 どんな戦術も、どんな技術も無意味だった。

 最終的に考えられた手段はな、あいつらの善意や良心を利用する。あるいは矜持を信じることだったのさ。

 そうだ、あいつらを殺すために、『あいつら自身を利用する』これが一番の方法だったわけだ。






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