考えたんだ。
どうすれば彼らが動くようになるか。
どうすれば深海棲艦に対して、動いてくれるか。
考えて考えて悩んで予想して。
答えは意外に簡単だった。昔からある、駆け引きでもなんでもない、単純な話でしかなかったから。
目の前の爆発、種類は反物質。一ミリグラム以下で山を吹き飛ばすことも可能な、三次元においては反則級の破壊力を持つ危険物。
通常、厳重な管理の元で使用されるそれは、今は小さな弾丸の中に込められていた。特殊な術式で封印されているわけでもなく、特殊な金属で覆われているわけでもない。
銃口から放たれた弾丸に、ただ特殊ガラスケースに密閉されただけ。これでよく今まで破裂しなかったと感心してしまう。
今は関係ないか。
テラは弾丸を見据え、それが向かう先を確認しながら、右手で『それ』を引き抜く。
泣きそうな艦娘、潮とかいったか、彼女と弾丸の距離はほぼない。何時、破裂して中身が吹き飛び、彼女が吹き飛ぶか解らない。その前に、安全に対処しないと彼女は助からない。
魔法防壁、近すぎる。
科学的なフィールド作用、今から展開したとしても間に合わない。
圧倒的なエネルギーで吹き飛ばす。隣にいる潮ごとでいいなら可能だが、それでは意味がない。
残る手段を冷静に考える一方で、体は動き続ける。
思考分離、最善と最悪を考える思考が意見を出し合い、妥協案が別の思考によって提示される。
自分のことなのに、自分じゃないみたいな感覚。生まれたときから持っていた精神の在り様に、今更の違和感などない。
手段を選んでいる余裕はあるが、意見を出し合って思考を繰り返して、そんなことをしている暇があるなら、もっとも確実な方法を選択するべきだ。
テラは右手で剣を引き抜く。
銘は『光滅』。
一族が辿り着いた究極の一。世界を、運命を、法則を、事象を、未来を呪った初代が願った通りの効果を発揮する剣。
光で滅ぼすもの、ある惑星ではこれだけで信仰を集める、神のように扱われる剣にして、『神帝』テラ・エーテルの名を知らしめた元凶。
その刃に触れたもの、例外なく滅ぶ。持ち主が望んだ通りに刃を当てて、望むままに滅ぼすための道具。
例えそれが反物質だろうと、神だろうと滅ぼせる神器。
振り抜く刃は、正確に弾丸を捕らえて、今まで通りに触れたものを消し去った。
これでと安堵することなく、切り上げる刃で潮の持つ拳銃を消す。彼女が自殺する手段を消して、後はゆっくりと話を聞いて。
斬られた弾丸の欠片、消える寸前の何かが弾け、爆音が周辺を揺らし。
「そうするだろうと思ったよ、さすが『神帝』だ」
テラの目の前に、艤装を纏った女性が出現した。
振り切った刃に、彼女は自然に艤装を叩きつけ。跳ね上がった刃は、抵抗なくテラの右肩から斜め側に斬り込み、心臓を両断した。
ルリは冷たい顔で外を睨みつけていた。
やられた、まさかそんな手段で来るなんて。ワープやジャンプといった転移系の中でも、もっとも扱い難い、もっとも手間がかかる手段で、この鎮守府の内部に入り込むなんて。
空間隔離系のフィールド作用や、封鎖結界ではあの方法で来る転移系は防ぐことができない。
次元隔離か、あるいは空間断層を起こさない限りは、出現することが可能なのだが、目標地点に大エネルギーを発生させつつ、ビーコンとなるものが存在しないと、亜空間に吸い込まれて次元の挟間を漂うことになる。
目標地点の条件をクリアーしたとしても、転移前のエネルギーが膨大な量になるため、波動エンジンと重力子エンジンを崩壊寸前まで回しても足りないくらいだ。
「スライド転移技術、随分と懐かしい」
それでも、『サイレント騎士団』が使っている『領域機関』ならば、三割の出力で行えるため、奇襲によく使っていたものだが。
実際に自分たちがやられると、『馬鹿な』と言いたくなる。
空間を曲げて出現地点と発生地点を繋げるワープや、二つの地点を同一地点として移動するスキップ、別次元を通って移動するダイブ、あるいは粒子に変換してのジャンプとはまったく違う方式。
自分の現在地点と、出現地点を重ねた後に、現在地点と出現地点を反転させることで出現地点へ転移するスライドは、空間を曲げているわけでも圧縮しているのでもないため、フィールドやバリアーでの妨害が不可能に近い。
高出力のディストーション・フィールドやクライン・フィールドでは防御や妨害は不可能、ミラーリング・システムを使っても出現地点をズラすことはできるが、完全には防ぐことができない。
二重に展開したフィールドの間に、別空間を形成して挟むことで防げるので、今では『サイレント騎士団』で使用していないのだが。
「何処でこの技術を?」
外を見たまま、目線だけを隣へと向ける。
彼は答えない。顔を向けたまま、何も答えずにグッと唇を噛んでいた。
「・・・・何処で?」
「がぁ?!」
ルリの声と同時に、藤井提督の右手が吹き飛んだ。血が飛び散り、執務室の床を赤く染めていく。
「もう一度、聞きましょうか? 何処で見つけたんですか?」
彼は答えず、痛みに耐えながら顔をあげて睨んでくる。
その態度に、スッとルリは目を細めて。
金属の何かが藤井提督の左足首を切断した。
悲鳴は声にならず、音として執務室に響き渡る。
倒れかける藤井提督を、影が無理やりに立たせて四肢を縛りつける。何がと藤井提督が顔を向けた先、暗い闇の中から異形が顔を見せた。
全身を粘液が多い、人間には見えない骨格と体表を持つ異形のモンスター。口から管のようなものが飛び出し、その先端についた何かが藤井提督の眼前を通り過ぎて、再び口の中へと戻って行った。
それは、知っている者が見たらこう言うだろう。
『エイリアン』と。
「紹介しておきましょうか? 私の、『サイレント騎士団』団長、ホシノ・ルリの近衛、散刃衆です」
影が広がり、次々の同じ異形が顔を出しては、藤井提督の周りで鳴く。
「ああ、その子たちだけじゃないですよ」
クスリと笑ったルリの周囲が歪み、全身を奇妙な鎧で覆った人型が出現した。その人型は、ゆっくりとマスクを外し、四つの牙をむき出しにして吼える。
彼らを知る者は、恐怖を持ってその名を呟くだろう。
『プレデター』と。
「紹介したい
ルリは楽しそうに、笑っていない目で告げる。
電子の輝きを灯す獣、砂のように流れるナノマシンの合金、触手のようなものを伸ばす怪物。彼女の周囲を覆うように、光学迷彩を説いたモンスターがそれぞれの刃を振り上げて叫ぶ。
「今は止めておきますね。藤井提督、この技術を何処で手に入れました?」
エイリアンとプレデター以外の影が消え、静かになった執務室の中で、ゆっくりと床に赤い液体が広がっていく。
「致命傷になりますよ? 話してくれないなら」
ルリはゆっくりと右手を藤井提督の頭へと向けて。
「じっくりと脳細胞からデータを取り出すだけです。安心してください、決して気絶させませんし、麻酔なんてしてあげませんから。ゆっくりとジワリジワリと」
クスクスと彼女は笑う。子どもの姿で、無邪気に楽しそうに。
「じっくりと長い時間をかけて苦しませてあげますからね」
楽しい遊びを話すように。
「その後に、そうですね。我が主に逆らった者がどうなるか、じっくりと思い知らせてあげますよ」
「あ、ああ、そうだな」
初めて彼は返答を口にした。
彼はそこで初めて、ルリをしっかりと見て、笑った。
最後の苦し紛れ、必死な抵抗ではなく。まるで望んだ結果が、願いがかなったようなすっきりした顔で。
「これでようやく、終わるんだ。もう誰も悲しまない世界が」
「何を?」
「今の俺は、なんだか忘れたか、ホシノ提督代行?」
真っ青な顔で笑顔で告げる藤井提督に、ルリは考える必要はないと結論を出そうとして、顔を背けた。
再び、あの爆発があった場所へ顔を向けて、少しだけ呆れたような表情を見せた。
「鎮守府の提督、日本海軍の軍人。ええ、そうですね」
溜息を一つだけついて、ルリは改めて藤井提督を見つめた。
「元、とつきますね」
「ああ、そうだ。俺は元だ。今は深海棲艦の手先、日本海軍の裏切り者だ。だから、俺があんたの主に何かしたとしたら?」
「報復は深海棲艦に、ですか?」
答えを口にしたルリに対して、藤井提督は笑った。声を上げずに、心の底から嬉しそうに、笑顔を浮かべた。
「軍人となったなら、死ねと命じることが必要だ。戦うと決めたなら、俺達は護るべき国民のために死ぬことも、それを認めることも必要なんだ」
「それは、指揮官の」
「俺達も、軍人なんだよ、ホシノ・ルリ提督代行。俺たち提督は確かに指揮官だ、必要なら艦娘に死ねというしかない。でも、その中に、俺達が入ってないなんて、『絶対にあり得ない』だろう?」
晴れやかな顔の藤井提督に、ルリは何も言わなかった。
軍人なら部下に死ねと言える。指揮官ならば、私情を捨てて、護るべき者の壁になって死ねといえる、そういった意思が必要だと教えられた。
我が身が可愛いなら、命が惜しいならば軍人となるな。軍人が護るべき者を見捨てて、真っ先に逃げ出したならそれは、軍人ではなく詐欺師である。
しかしそれは最前線の兵士だけの話だろうか。指揮官ならば最後まで生き残り、護るべき者を護るように最善を尽くすべきだろう。考えるべき者が消えたら、後に残ったのは消耗戦の後の敗北。
軍人としての敗北は、護るべき国民が死んでしまったことを意味する。
国民を困難から護るために、どんな汚名を被ったとしても、最後の最後まで抵抗して脅威を反らすのが軍人だから。
けれど、その最後の最後に、指揮官が入らない。そんな考えは、あるわけがない。最後の一兵まで戦え、そんなの非現実的であり、そういった考えで動く指揮官こそ無能で、最初に死んだ方が全軍の損耗率を抑えられる、という考えもある。
だからこそ、優秀な指揮官は最後まで生き汚く足掻いて生き残って、最後の最後まで抵抗するべきだ。
そういった考えをルリは何度か教えられたことがある。しかし、その最後の最後になったとき、その指揮官はどうするべきか。
「だから俺は、俺自身に『死ね』と命じた。俺の命で、君たちが動いてくれるなら、俺は笑って死ねる」
晴れやかに語る彼に、ルリは侮蔑も怒りも向けられなかった。
その考えは、その思考は、間違いなく自分と同じものだったから。テラを護るためなら、サイレント騎士団全軍すり潰しても構わない。自分の命さえ、捨て駒にできる覚悟と決意がある。
だから自分の近衛は異形で固めた。最後の最後には、すべてを巻き込んで盛大に白兵戦、その後に自滅出来るように。一人でも多くの敵を道連れにして消滅できるように。
「貴方は、貴方はそれだけの考えが出来てどうして?」
「間違っているかもしれない。日本を護るには、こうするしか・・・・・」
「どうして最初に『助けてくれ』といえなかったんですか?」
笑っていた藤井提督の顔が、固まった。何を言っている、意味が解らないと目線が泳ぐ中で、ルリは少しだけ悲しそうな顔を向けた。
「貴方の評価は聞きました。周りの人の評価もです。軍人として失格、その意味がようやく解りました」
「何を、何を言っているんだ。俺は、俺は軍人として」
「貴方は優しい人です、本当に優しい、人のために、自分のために厳しい言葉が言える優しい人です」
「なんだ、何が言いたいんだ?」
「だからこそ、貴方は優しい人で終わってしまった。貴方は軍人ではなく、ただの人だったんです」
「何を言っている?! 俺は、俺は軍人だ!」
「軍人とは、護るべき国民を守るために」
「ああ! だからこそ!」
間違っていない、と藤井提督は心の底から叫ぶ。人の話を聞いて、人と相談して、自分で考えて、艦娘達とも意見を交わしあって。
もうこれしかないと結論が出たことなのに、彼女は否定してくる。軍人として、議論をつくし、戦術を練り直し、これだと決めた意思を。
「あらゆる手段を行える人達のことを言うんですよ」
一瞬で砕かれた。
「え、は? 何を」
「他者を利用し、汚名を被ろうとも、護るべき者のために。頭を下げることも、土下座だって行える。プライドがない、おまえは軍人として恥ずかしくないのか、そんなことをいう人たちなんて、本当の軍人じゃない。軍人としての矜持とは、護るべき者達が今日も平穏であること。その一点なんです」
言葉が続かない藤井提督に、ルリはずっと悲しい瞳を向けていた。
日蔭者、冷や飯食らい、税金泥棒、存在する価値がない、そう言われても笑って過ごせる、そう言われることを誇りにしてきた人たち。
いつか、自分達が廃業になればいい、そういった偽善のような言葉を、心の底から信じて言える人たち。
ルリが知っている、軍人とはそういった人たちだから。武人であった、自らの勲章に誇りを持っていた、自分を律することを責務として、何があっても決して感情を荒げない冷静な人たちであった。
そして、必要となれば往来でも土下座できる、自分のプライドなんて簡単に捨てて、護るべき者達を護るために最善の手段をとれる人達だったから。
「だから藤井提督。貴方がしたことは、軍人として最も失格なんです」
「違う、違う、俺は」
「『命を奪う武器を持つ者は、命を護る、その一点においてのみ存在を許される』。貴方は、軍人として、命を奪う武器を持つ者として、自らの命を奪ってまで命を守ろうとした。でも、それは命を無意味に捨てさせるだけで、命を護ることにはなりません」
「違う俺は!!!」
「テラさんに何かしたら、サイレント騎士団は・・・・いいえジョーカー銀河帝国軍は『この星系ごと』深海棲艦を消します」
激情のまま反論していた藤井提督は、言葉に詰まってゆっくりと顔を下ろした。
「貴方は、『サイレント騎士団』のことを聞いていても、その戦力までは知らなかったんです。情報収集と情報の精査を怠った」
ゆっくりと藤井提督は、力なく床に膝をつき。
「その結果、貴方は軍人として最も取ってはいけない手段を、とってしまい」
再生した右手と左足首も、力なく彼の体を支えることなく。
「護るべき国民の命を消す、そのための手助けをしてしまった」
彼はゆっくりと床に倒れ、そのまま頭を抱えて。
「『サイレント騎士団』のことを知ったなら、私やテラさんのことを知ったなら、貴方が最初にするべきは、私達の性格の情報を集めて、評価を聞いて」
耳を覆って心を体の奥底に沈めて。
「どうすれば助力を得られるか、それを正確に考えて結論を出して」
もう聞きたくないと藤井提督は体を丸めて。
「私たちに対話を求めることだったんです」
「あ、ああああああああ!!!!」
魂の底から叫び声を上げた。
叫び声しかあげない元軍人がいる執務室を後にして、ルリはゆっくりと廊下を歩く。
「・・・・・・・私達も選択を間違えたかもしれません、テラさん」
ポツリと呟き、彼女は廊下から外を見つめた。
武力に対して武力を、言葉に対しては言葉を。昔からしていたことだから、この地でもそうやってきたが、考えてみれば知らない人からしてみたら会話などしない、残虐非道な集団に見られていたかもしれない。
けん制になるから、周り中が警戒してくるからと、それでいいと放置していたことだが、今回の一件で見直すべきかもしれない。
否、とルリは気を引き締めた。自分達は力と狂気と、恐怖と狂乱の集団でいい。対話をしてくるなら、それに答えることはあっても、暴力こそがすべての『サイレント騎士団』だ。
残虐非道だからこそ、護れるものもある。手を出したらどうなるか、それを刻みつけてこと存在する価値があるのだから。
後悔はここまで。ルリは気を引き締めて、窓の外を睨みつけ。
「思い知らせてあげなさい、何処の庭で好き勝手したかを」
攻め込んできた勇敢な深海棲艦に向けての、最後の称賛のために。深海棲艦に対して、明確な駆逐宣言のために。
「いいですね、『吹雪』」
最大戦力をぶつけることにした。
ざっくりと斬られたテラが、ゆっくりと崩れ落ちる。
やった、とアンドロメダは内心で喝采を上げていた。対魔力や対抗力、抵抗力といったチートを通り越したバグな防御能力を持つテラに対して、確実な一撃を与えるのは何か。
最強の楯に対して、何が有効か。そんなのは決まっている、最強の矛だ。では最強の矛とは何か。
『神帝』の防御を貫通できる武器、それは彼が持っている。『光滅』ならば、テラの防御を貫通して、彼自身を抹消できる。
刃は確実にテラを斬った。これで倒せる、これでようやく過去の恨みを。
「・・・・・・それで満足?」
「な?!」
すべてが幻だったように、テラは無傷のまま目の前に立っていた。
「馬鹿な!? 『光滅』だぞ! あの刃に斬られたら、お前といえど!」
「うん、まあ、えっとごめん」
「謝るな!!」
「あ~~耐性がついたから。『光滅』を持っていたら、斬られたくらいじゃ死ねなくてね」
アンドロメダは、言葉が出てこなかった。
気楽に笑う彼に、そんな人外の体質を持つ化け物に。今までの計画が、何度も議論をした必勝の方法が。
通じなかったなんてありえない、そんなことあっていいはずがない。
「さてと、じゃあ」
軽く手を振り、『光滅』を持ったテラの姿に、アンドロメダはハッとして艤装を切り替える。
先ほどまでは鬼級の艤装を無理やり繋いでいたが、今からは自分本来の艤装だ。『光滅』の刃に触れたら、艤装が消えると知っていたから、自分のものではないものを使っていたが、万全の『神帝』を相手にするなら、自分専用の艤装でなければ勝てない。
勝てるのか、と心の何処かで震えている自分がいるが、アンドロメダは気合を入れ直して身構える。
「後は任せたよ」
テラは笑いながら、『光滅』を消して。
「何を?!」
そしてアンドロメダは、全身を吹き飛ばされた。
何がと飛ばされながら向けた視線の先。
テラと自分の間に一つの影が存在していた。
「遅れてすみません」
殴りつけたのか、戦艦の中でも最大重量を誇る艤装を持つ自分を。
「最速でかけつけたんですけど、間に合いませんでした」
振り抜いた左手を、ゆっくりと戻した姿に、アンドロメダは驚愕を浮かべていた。知ってはいた、規格外で、艦種の括りに入らない能力を持っていたことは調べていた。
「すみません、この失敗は二度と繰り返しませんから」
飛ばされた体が海面に叩きつけられた。どのくらい、どの程度とアンドロメダが顔を向けた先、小さくなった八丈島が映った。
馬鹿なと口の中で言葉が回った。
「ですから」
言葉は至近距離から。何処からと顔を向けた先、後頭部に衝撃が走った。続いて全身に痛み、海面に叩きつけられたと気づいた時には、背中に再びの衝撃が走る。
「ここから先は私に任せてください」
アンドロメダは、自分に降りてくる言葉に、海面に叩きつけられたまま、顔だけ後ろと向けた。
「改めまして、侵入者さん」
そこにいたのはやはり、あの駆逐艦。
けれど、その顔は見たことがなかった。
「八丈島鎮守府初期艦」
アンドロメダの全身を殺気が包む、怒気が四肢を吹き飛ばしたような錯覚を感じて、体中が震えだす。
「テラ・エーテル提督とホシノ・ルリ提督代行が率いる艦隊の、総旗艦を任されている」
叫び声が喉まで出かかって、逃げるように体の奥底へと引っ込んでしまう。
「駆逐艦吹雪です。こんにちは」
逃げだそうと体に力を込めて、抵抗しようとして艤装を動かしたアンドロメダの上から。
「そして、さよなら」
気づいた時には消えていたんです。
本当なんです。
『あ、ちょっと行ってきます』って、凄く怖い顔をしていたんですよ、止めようがなかったじゃないですか。
私一人が残されて。
え? 追いかけろ?
新人みたいな私になんて無茶を言うんですか?!