君の敗因を教えてあげよう。
なに、そんなに難しいことじゃない。とても簡単なことだ。
戦力の選定を間違えた? いいや合っているよ。実に合理的だ、理想通りともいえる。
相手の戦力を過小評価した? 適格だったじゃないか。間違いなく、あの方法でしかあいつは倒せないだろう。
違う違う、君の敗因は、『神帝』って化け物の成長度合いを読み違えたことだよ。
あいつの成長はな、近場の部下に伝達するんだよ。それを知らなかったのが、敗因だ。
その一撃は、地上から天上への反撃の一撃のように、高く上がった。轟音と立ち上る水柱の中を、彼女は必死に走り抜けた。
「・・・・・なるほど」
声がした、背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには拳を握ったまま首を傾げる少女がいる。
純朴そうな見た目、何処にでもいるような女の子。
特に特徴なんてない、と言われたら思わず頷いてしまうような外見の存在は、ゆっくりと拳を開いていき、再び握る占める。
「幻、いえホログラムですか?」
グッと言葉に詰まる。元々は惑星強襲用に備えてあった艤装の機能だ。周りの景色を反射することで、隠密に敵惑星へ進撃するための装備が、深海棲艦になったことで進化したもの。
相手の視界に自分の姿を、少しだけズラすことで相手の目標を反らす。僅か数秒ほどで消えてしまう機能だが、格闘戦や砲撃戦を行う上ではとても有効だ。
相手の攻撃の瞬間、砲撃の一瞬の隙間に幻を見せることで、攻撃を簡単に反らすことができるのだが。
「・・・・・・」
二度、三度と彼女は拳を振る。何かを測るように、何かを見据えるように。
「解りました」
理解した、というのか。いや解っていても、目で捕えて攻撃する艦娘には有効なはずだ。レーダーで捕らえたとしても、電波さえも反射できるのだから、こちらを補足することなんて不可能だ。
「このあたり」
くる、とアンドロメダが艤装の機能を動かしかけた瞬間、艤装の半分が消えていた。
悲鳴をかみ殺す。相手の攻撃の速さは理解していた、攻撃範囲の広さも知っていたはずなのに。
なんだこれは。
疑問が体中を駆け巡り、答えを求めるように視界が動きまわる。
なんだというのだ。
解らない、理解できない。彼女はあの位置から一歩も動いていないのに、何が起きたというのか。
「つまり、薙ぎ払えばいいんですよね?」
ニッコリ笑顔を浮かべた吹雪が、右手にいつの間にか持っていた剣を振り抜いた。
衝撃は来なかった。痛みもなかった。ただ、目の前に広がる青空があって、体の力が抜けていくのを感じだけで。
後にはもう、青い空ではなく、青い海が視界を埋めていくだけだった。
沈んでいく敵艦を見送り、吹雪は軽く背伸びした。
幻を使う相手は初めてだったが、あんなにもやりにくいものか。そこにいると知覚しているのに、実際は少しだけズレた場所にいる。感覚と視界の違いに、思わず攻撃を外してしまうなんて。
初期艦失格かなぁ、と彼女は心の中で呟いて、海面を蹴とばした。
「金剛、お待たせしました」
「ふぇ?! ふ、吹雪さん!? え、ええ?! 何処から来たんですか?」
「鎮守府に襲撃があったので、ごめんなさい」
できるだけ穏やかに、優しく語りかけたつもりだったのに、何故か彼女は半分ほど涙目で答えた。
「戻らないと・・・・・・大丈夫ですよね。もう終わったんですよね?」
「はい、どうしまいた、金剛?」
何故か、少し影を背負ったような彼女を心配しながら、敵弾を切り裂く。
空中に咲く爆炎の花を少しだけ見た後、吹雪は剣を振り抜いた。
「ええ~~」
金剛、何故か力が抜けたように海面に座り込む。
「まだまだ敵艦がいますよ」
「なんで、あんなに苦労したのに。砲撃しても当てられなかったのに。なんで、どうして?」
「ほらほら、まだまだ戦場なんですから。行きますよ」
「・・・・・もう吹雪さんがいればいいんじゃないの?」
「私ができることなんて、小さいものですよ」
まだまだ修行不足を実感したところなのに、金剛は酷いことを言うなと吹雪は思ったのでした。
一方、金剛は思う。『あれで小さいものだと、自分は何なんだろう』と。
彼女は小さく、遥かな方の水平線を見つめた。
「さすがに吹雪さんの速力には追いつけないわね」
「ヨソミスルナ!!」
轟音と衝撃、怒声と共に叩きつけられた砲弾は、空中で撃ち落とされる。
何度目だとレ級は唇を噛みしめた。
先ほどから同じだ。砲撃は通じない、魚雷は通らない、艦載機は残らず撃ち落とされる。何度も攻撃しても、何度も攻撃手段を変えても、相手は自分を見ずにすべて相殺して見せた。
これはなんだ。あの鎮守府の強敵は、吹雪だけではなかったのか。どうしてこうなった。自分は強いはずだ。深海棲艦の中でも、特別な存在であり、かつての地球の軍艦の性能を超えているはずだ。
自分は元、宇宙戦艦。相手はただの水上艦。技術的な差から、攻撃方法まで、その実力差は天と地ほどもあるはずなのに。
「オマエ・・・・・」
「そろそろ終わりにしましょう」
相手が初めて視線を向けてきた。
思わずレ級は身構えた。相手はこちらを見ただけなのに、砲塔が向いたわけではないのに。思わず、防御を考えさせられた。
グッとレ級の表情が歪む。相手は第二次世界大戦時代の骨董品、その中でも欠陥戦艦と呼ばれていた扶桑型。
自分は、地球連邦軍の最新鋭艦だ。もし竣工したら、『ブルーノア』と名付けられたかもしれない軍艦なのに。
「オマエェェェェ!!」
前武装を一斉発射。塵も残らずに消し去ってやる。
気合と怒声を込めたレ級の一撃に対して、扶桑が行ったことはたった一つ。
左手を払ったのみ。
「エ?」
魚雷も砲弾も艦載機も、何もそこにはなかった。レーザーもビームも、青い空に痕跡さえ残すことなく、消えてしまった。
「エ?」
「無駄な攻撃が多い艦ね。軍艦なら、いいえ戦艦なら一撃で終わらせなさい」
何をと思ったレ級の顔面を、一発の砲弾が吹き飛ばした。
痛みと衝撃に仰向けに倒れる彼女の視界に、扶桑の砲塔が一つだけ、向けられているのが見えた。
「何発、何機、そんなものは無意味よ。たった一発、たった一機、相手の防御を貫通して撃破できればいい。貴方の攻撃すべて、それが出来なかった」
倒れる、そんなバカな。レ級が驚愕に顔を染める中、扶桑は背中を向けて進み始めた。
「次に会うときは、きちんと命中させなさい」
ふざけるな、レ級が手を伸ばす。相手は無防備に背中を向けている、そこに砲撃を叩きこめば。相手はたんなる骨董品、欠陥品で防御も薄い。一撃だけでいい、それが命中すれば。
ニヤリと笑い、砲塔を動かしたレ級に対して。
「遅い」
後ろを向いた扶桑の砲身が、次々に砲弾を叩きこんだ。
「本当に、遅い敵だったわね」
笑顔を浮かべたまま沈んでいくレ級に、扶桑はため息をついた。あれだけの武装があるのに、攻撃が来るまでに五秒も時間があった。自分なら五秒もあれば十発は砲弾を撃ち込めるのに、あの敵は笑顔を浮かべて構えているのみで、攻撃してこない。
なんだったのだろう。ひょっとして馬鹿にされていたのか、それとも何かの策略かと勘繰ってみたのだが、終わってみれば意味が解らない疑問のみが残った。
「荒潮、どう思うかしら?」
「つまり、『おまえには速さが足りない』ってことですね、扶桑さん!」
何故か頬を染めた彼女に、扶桑は思う。
最近の子は、何を考えているか解らない、と。
広い海に、ただ一人、遠い世界に自分だけだったら、孤独に押しつぶされてしまうかもしれない。
仲間がいれば嬉しい、頼れる戦友ならばもっと頼もしい。
「ハッハッハッハ!! 楽しいな! 不知火!」
けれど、こんな戦友ならば断わった方がいいだろう。いいや、絶対に断るべきだ。
不知火は固く心に誓う。次の機会には、きちんと自分の意見を押し通そうと。受け身ではだめだ。絶対に自分の不利になる。きちんと自分の意見を口にして、それを曲げずに押し通すことが大切だ。
「なかなかやるな! では次は私の番だ!」
挫けたら駄目だ、挫折は自分の命を縮める。諦めは終わりではなく、苦痛の始まりでしかない。前を向いて歯をくいしばって、絶対に諦めずに口にするべきだ。それこそが正解だ。
「ほう! 狙いは正確だな!」
前に前に、絶対に後ろを振り返るな。絶対に後退するな。相手が誰であっても、決して道を譲ることなく突き進め。
固く決意する不知火は、拳を握って誓う。必ず、次の時には否定して自分の道を突き進む。その先に待っているのが誰でも倒してやる。
例え、吹雪でも。
『へぇ』、なんて笑顔を浮かべた初期艦を思い浮かべてしまい、慌てて不知火は首を振った。
「んん!! いいぞいいぞ! 胸が熱いじゃないか!」
待った、ちょっと待とう。いくらなんでもいきなり吹雪は駄目だ。あの艦に勝てる自信がない。いきなり前言を撤回してしまうかもしれないが、この場合は逃げではなく戦略的撤退であり、被害を拡大しないための手段を実行しただけだ。
大損害より小破の方がいい。まだ被害が少ないうちに戦略を見直し、戦術を練り直すのは当たり前の話だ。
「フハハハハハ!! 次はどいつだぁ?!」
暁が相手でも。いやダメだ。あの艦も駆逐艦じゃない。響、雷、電でも無理だ。模擬戦で戦っても勝てたことなんてない。同じ駆逐艦じゃない、あんなのは駆逐艦とは言えない。
あ、敵を駆逐する艦で駆逐艦か。なるほど、不知火は一つ、またお利口になった。これで次の時には戦い方の幅が広がるだろう。
蹂躙艦、なんて艦種ができるかもしれない。そっちのほうがあっていないだろうか。きっとそうだ。駆逐艦ではなく、蹂躙艦。うん、ぴったりとはまり過ぎて返って怖い。
「不知火、次に行くぞ」
「・・・・・・不知火に落ち度でも」
「そうかそうか、おまえもまだまだ戦い足りないか」
「不知火に落ち度でも?!」
もう泣いてやる。不知火は、早々に自分が決めたことを忘れることにした。
「吹雪さんが見せてくれたからな、私も頑張らねば」
胸を張って敵艦隊へ突撃していく長門の背中を見つめ、不知火は諦めた目で追従するのでした。
無謀な突撃をする戦艦、それについていける段階で、不知火も駆逐艦の分類に入らないのでは、なんてことは思ってはいけない。
問、『空母ってなんですか』。
答え、艦載機を扱う艦種です。
「え、嘘」
叢雲は思わず、自分の中で出した答えが瓦解していくのを感じた。
「・・・・・・・・なるほど」
ゆっくりと彼女は拳を引いていく。
「こう、ですね」
再び突き出した拳が、戦艦らしい深海棲艦の艤装を貫通した。
「浸透系ならば、貫通させられる。吹雪さんの言っていることは、こう言うことだったんですね」
うんうんと頷く彼女は、弓を背中に背負ったまま、拳を握って突き進む。
「あ、赤城さん?」
「はい?」
呼びかけに振り返る彼女は、イ級を蹴とばし、空中に上げた後に、踵落としで海面に叩きつけ、粉砕していた。
「どうしました?」
「え、その、えっと。艦載機は?」
「ああ、そうでした」
思い出したように、赤城は弓を構える。
良かったと叢雲が安堵した次の瞬間、赤城は弓を持ってイ級を切断していた。
「これ、新作なんですよ。なんでも、レーザーブレードの技術を応用して、艦載機を飛ばす形体と切断機能を持たせた形態に出来るとか。忘れていました」
嬉しそうに笑う彼女は、とても魅力的な女性なのだが、叢雲はそんなこと知ったことかと内心で叫ぶ。
違う、そうじゃない。艦載機で攻撃をするのが空母じゃないか、と。
『ねえ、加賀姉。通背拳って踏み込みだったっけ?』
『踏み込んだ力を体を通して相手に叩きこむのよ。瑞鶴、大切なのは踏み込み』
『は~い、よし』
『鳳翔さん! それ突き刺すものじゃない気がします!』
『あら、つい矢を突き刺してしまいました』
『瑞鳳さん! 待って! 本当に待って!!』
『空母が接近戦できないなんて、そんなことない』
『だから足技で沈めるの止めてぇ!』
通信が、色々と意味不明なことを伝えている。ああ、もう、この鎮守府の空母は艦載機で戦わない艦種らしい。
空母、航空機母艦じゃなくて、空を裂くどっかの戦士のことかもしれない。
「さあ、次は艦載機を」
やっと弓と矢を取り出した赤城に、叢雲は安堵したのですが。
「・・・・・・いいえ、ここはこの赤城、拳でやりましょう」
「赤城さん!?」
「一航戦、赤城、拳で推して参ります」
何故か、再び弓を背中に背負って彼女は走り出したのでした。
後に叢雲は知る。空母組がこんな妙な戦い方を始めた理由が、『武器がない時は拳で行ける』なんていった、提督の馬鹿な発言だったことを。
順調に、海域を掃除中。
「さて、次はこちらでしょうね」
提督代行は、イスに座り直して前を向いた。
「俺に何をさせるつもりだ?」
正面のイスに座った藤井提督に、彼女は静かに微笑んだ。
「貴方の願いの通りに」
「何を言っている? 俺は裏切り者だ。何も出来なかった、裏切り者なんだ」
「ええ、そうでしょうね。でも、だからこそできることがあります」
「何を」
言っていると、藤井提督は言いかけて、言葉を飲み込んだ。
何処までも鋭い光をたたえた、ホシノ・ルリ提督代行の瞳によって。
「貴方には、裏切り者として探ってもらいます」
優雅な仕草で彼女は、自分の頭を指差した。
「深海棲艦、その親玉の場所を、ね」
クスリと笑う彼女に、藤井提督は思い知った。
自分が利用しようとしていた相手の、本質というものを。
素敵なパーティを始めましょう。
誰もが心躍るような、そんなお祭りを。
本当にそんなことができるか、そんなこと考える暇なんてないよ。
だから、ぽいぽいってパーティをしましょう。