夢の果て いつかの約束   作:サルスベリ

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 進み続け、戦い続けて、その先に何があるのか。

 私たちにとって、戦いはすべてで、そのために存在して。

 誰もが戦えという中で、あの人だけは違っていた。

 『生きろ』と言ってくれたから。



艦隊、前へ

 

 食事はとった、休憩もしっかりととった。

 

 ならば後は、進むのみ。

 

「敵撃破! 次!」

 

「左舷に敵影見ユ! 砲撃戦用意!」

 

 進め、ただ前に進め。後ろは振り返らずに、何処までも青い海原をひたすら前に。

 

「はい終了!」

 

 一刃二殺。吹雪が持っていた剣によって戦艦クラスが沈み、後ろに放り投げた魚雷が潜水艦を封殺する。

 

「次だ次!」

 

 テラが大きく手を振り、全艦がそれぞれの艦隊編成に戻り、他の海域へ突き進む。

 

「だぁぁぁ!! ドロップって何時になったら出るんだ?!」

 

『確率二割はかなり非効率的ですね。やはり、戻りますか?』

 

 ルリからの通信に後ろを振り返ると、誰もが疲れた顔をしてはいるが、目が死んでいない。

 

 ギラギラと感情を燃やして、『次は?』と無言で問いかけてくる。

 

「もうちょっと行ってみるか」

 

 ニヤリと笑った彼に、全艦娘が武器を掲げた。

 

「ルリちゃん、もう少し行くから遅くなる」

 

『解りました。こちらでは出迎えの準備を進めますね』

 

「全艦隊前へ! ハワイまで攻め込んでやる!」

 

「オー!!!!」

 

『いえ、それは燃料の問題で無理では?』

 

 気合十分な集団の目標に対して、ルリは冷静に突っ込みを入れたのでした。

 

 そして、戦闘狂になった艦隊は、二匹を連れ帰る、と。

 

「ドロップした」

 

 ルリ、絶句。

 

 全員が傷だらけになって戻ったので、慌てて出迎えたら、二人ほど増えていて。

 

「あの、テラさん、何があったんですか? どうして、この二人は黒焦げ何なんすか?」

 

 軽く煙とか上げている二人の艦娘を前にして、彼女は原因らしい人物に問いかける。

 

 川内と夕張が『あれはひどい』って顔をしていて、それ以外は『いい戦訓があった』という感想らしい。

 

「海中から来るって知らなかったから、レグルスをね」

 

「はぁ」

 

 第四真祖の雷の獅子の一撃を放ったと。

 

 電撃が海を走るのは知っていたが、まさか海中まで響き渡るほどとは。

 

 いや、待ったとルリは思いなおす。

 

「テラさん、ナチュラル・ハイで最大出力にしてませんよね?」

 

「まさかぁ!」

 

 彼は軽く笑いながら手を振って、その後に真顔で告げた。

 

「ブースト強化してやりました」

 

「・・・バッタぁぁ!! 今すぐ二人を入渠させて治療を!」

 

『ピ!! この大ボケ主君!!』

 

 原始の塵にできる出力を、強化して放たないでください。

 

 ルリはその後、テラに淡々と語ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トンカントンカン、槌を鳴らす。

 

 今日もバッタ達は元気に鎮守府周辺施設の建造中。

 

「重巡?」

 

「はい。外見の特徴から、妖精達は『重巡』と判断しました」

 

 艦娘全員を入渠施設へ。戦闘の疲労を回復させつつ、艤装の修理を。

 

 夕張が、『私の役目ですね』と言っていたのを、テラとルリの睨みで止めたのは些細なことだろう。

 

「重巡洋艦ってこと?」

 

「はい。艦名まではまだですが」

 

「へぇ~~~重巡察艦じゃなくて?」

 

「はい、重巡洋艦です」

 

 そうか、とテラは言葉を転がす。

 

 残念なような、安心するような。

 

 反物質砲弾を打ち出す巡察艦が、艦娘として出現したらと思うと、ゾッとする。

 

 地上で撃ちまくる反物質砲弾。

 

 間違いなく地獄絵図の出来上がりだ。

 

「建造中の子は?」

 

「そっちは何とも。妖精たちが、『任せてください! 最高の艦娘を作って見せます』と張り切っていましたが」

 

 いや、なにそのフラグは。

 

 テラは目線で彼女に問いかけるが、ルリは軽く首を振るだけだった。

 

 彼らの頑張りは止められないらしい。

 

「一応、二艦隊分プラス補佐くらいは揃うはずです」

 

「ん、吹雪の訓練も後は実戦だけだからなぁ。暁達はもうちょっとかけないと」

 

「夕張と川内は、初期訓練が終わったくらいですから。新人二名の訓練も考えると、内と外に分けますか?」

 

「そうだね。新しい子には申し訳ないけど、下限に合わせても意味がないから上限に合わせよう」

 

「それって、吹雪を基準に考えてませんか?」

 

 ルリが告げながら、目線で咎めてくる。

 

 対してテラは、片手をヒラヒラと振って盛大に空を見上げた。

 

「高みを目指したいって意思は、俺には折れないよ」

 

「確かに、テラさんの一族はそこだけは譲りませんから」

 

 他にも譲れないものはあるよ、とテラは内心で思う。

 

 ちなみに、この話の基準点は確実に吹雪であり、上限は一番強い人物になるのだが。

 

「お願いですから、『自分と同じくらいに強くできそうだ』なんて思わないでくださいね」

 

 ルリは小さく釘をさし、テラは苦笑するだけにした。

 

 彼は、間違いなく自分と同じ強さに艦娘を鍛えようとしていたから。

 

「艤装の件で報告があります」

 

 ルリはデータボードをテラに渡す。

 

 内容は新型砲弾、新型の魚雷。あの意味不明な威力の砲弾と同じように、魚雷も高威力のものを用意したらしい。

 

 駆逐艦の主砲で、戦艦クラスを貫通させるなんて、世界の常識にケンカを売っているようなものだが。

 

 砲に魚雷、それと機銃。今回はいなかったが、前回には航空機に遭遇していたから、そろそろ対空火器も必要になってくる。

 

「レーザーとか?」

 

「光学兵装は、まだまだ艦娘には搭載できないようです。代わりに、対空兵装を教えておきます」

 

「三式弾ってやつ?」

 

「いえ、気化燃料による広範囲炸裂弾です」

 

 高純度の燃料を空中に散布、それに引火させて爆発。

 

 かなり広い範囲を瞬時に吹き飛ばす砲弾は、実は『サイレント騎士団』では未実装の武器でもある。

 

 そもそも、『サイレント騎士団』は重力兵器、あるいは空間兵器が標準装備。

 

 光学兵器も、ビームとレーザーと言っているだけで、プラズマ的なものではないことが多い。

 

 火薬を使ったことがないわけではないが、ほとんどの場合は使わない。

 

 なので、この機会に妖精たちと一緒にバッタが試行錯誤中。

 

 中々に楽しそうにしているのだが。

 

 瞬間、轟音が鎮守府を揺らした。

 

「・・・・・ルリちゃん?」

 

「タイム・スケジュール的に、新型砲弾の試作ですね。また、バッタ達が自身の耐久テストと同時進行で威力確認ですね」

 

 はぁと、二人して溜息をついた。

 

 何処の世界に、新兵器の実験を自分たちに向かって行う機械がいるというのか。

 

 そもそも、あいつらは今は地上で、艦娘や妖精がいると知っているのか。

 

「周辺被害はゼロ。さすがと褒めておきますか?」

 

「馬鹿と罵ってあげなさい」

 

「はい・・・・・・・見に行きますか?」

 

 仕方無いけど、とテラは肩をすくめてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発の凄さを知るためには、事故現場に行ってみるのが一番。

 

『ピ 液体火薬を三種、混合比率を変えてみました。劣化ウラン弾など相手にもならない爆発力と貫通力を達成しました』

 

 誇らしげに語るバッタに対して、ルリは何と言っていいか解らずに、空を見上げていた。

 

『ピ 工廠では建物への被害がありますので、外の試験場を使いました。妖精たちが用意してくれた戦艦『大和』の艤装を、横から貫通しています』

 

 貫通というより、大破ではないだろうか。

 

 粉々に砕けた砲塔や、破裂した装甲などが散乱した地面を見つめ、盛大な溜息をつく。

 

『ピ! しかも! しかもですよ! 使った砲弾は十二センチ! つまりです! 駆逐艦の砲撃で、戦艦を沈められる! これは素晴らしい結果です!』

 

 興奮して語るバッタ達の向こう側、砲弾を発射したらしい主砲が粉砕しているのだが、気にしてはいけないのだろう。

 

『ピ! きっと研究を続ければ駆逐艦の主砲で要塞が落とせる日も!!』

 

 主砲の近場で、黒焦げになったバッタ数匹が山になっているのだが、指摘したらダメだろうか。

 

「・・・・・イオナ、侵食弾頭、一斉発射」

 

『了解』

 

『ピ?』

 

 そして、漆黒の閃光がバッタを吹き飛ばしたという。

 

『ピ!! 我が人生に一片の悔いなし!!』

 

「あの有名なセリフを、こんなことに使うのはバッタくらいだよな」

 

「周辺被害はなし、貴重なデータは手に入りました。しかし、使われた資材が膨大すぎますね」

 

「建造、やれないかな?」

 

「まさか、そんな程度で揺らぐような集め方はしてません。建造で三人、ドロップで二つ。現在、艦娘は十二人。ちょうど、二艦隊分ですね」

 

 戦力は整ったとみるべきか、それともまだまだ少数精鋭というべきか。

 

「二個艦隊での大平洋制覇。ロマンかな?」

 

「無謀というべきかもしれませんよ。深海棲艦のデータも十分に集まっていないのに、十二人で領海の奪還なんて」

 

 珍しく、ルリが否定の意見を出してきた。

 

 何時もならやりましょうとか賛成してくれるのに、だ。

 

 戦力が違うから慎重になっているのか、それとも単純にこの世界の戦争に首を突っ込むのを止めようとしているのか。

 

 後者はないか。もし深海棲艦への攻撃に否定的なら、最初の段階で意見を言っているはずだ。

 

 テラは少しだけ彼女の顔を見たが、ルリはこちらを見つめながらも、口を開かずにいた。

 

 だから、テラ・エーテルは気づいた。

 

「俺に関係して、何かある?」

 

「テラさん相手に隠し事は無理ですね。私も、貴方の嘘が見抜けますから、お互い様ってところですか?」

 

 話を遠まわしに変えようとしている時点で、察することができた。

 

 つまり、だ。このまま戦い続けると、最終的にか過程的にか解らないが、全力戦闘をするしかない状況になる、ということか。

 

「星一つじゃ足りないな」

 

「『神帝』が全力で動くならば、我ら『サイレント騎士団』も全軍稼働です。星一つではなく、この星系が消えます」

 

 言いきる彼女に、確かにそうだとテラは思った。

 

 自分達の戦力の異常性は、自分達が最も良く知っている。

 

 広い銀河の中に、五つの太陽系を支配下におく帝国を、わずか一年で建国して見せたのだから。

 

 『血の十字架』を掲げる、狂喜と狂乱の集団。

 

 常識も道徳も倫理も関係ない、ただ自分の前を塞ぐ相手を叩き伏せ、身内が悲しまなければ誰が死のうが苦しもうと知ったことではない。

 

 正義からは最も遠い、愚者の騎士団。

 

 それが『サイレント騎士団』であり、自分―『神帝』テラ・エーテル。

 

「ちょっと休もうか」

 

「それがいいですね」

 

 ストレスがかなり発散された途端、二人して冷静になってしまった。

 

 このまま突き進んで、感情のままに戦力を振るっていいのだろうかと、理性が立ちふさがって疑問を投げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重巡洋艦、鈴谷はドロップした艦娘だ。

 

 同じくドロップした重巡洋艦高雄とは、仲良くしたいと願っている。

 

 特にあの雷を纏った獅子の一撃を受けて、生き残った喜びは分かち合いたい。

 

 同じように、執務室に並んでいる同期らしい艦娘には、絆のようなものも感じ始めていた。

 

 軽空母瑞鳳、戦艦扶桑、駆逐艦陽炎の三人に。

 

「ようこそ、我が鎮守府へ」

 

 提督らしい男が、重々しく告げる。

 

「諸君達の着任を心から歓迎する。現在の状況は、かなり厳しいものではるが、諸君達ならば見事に達成してくれると信じている」

 

 緊張感が執務室を漂う。わずかでも動けば睨まれるような、そんな気配が流れている。

 

「では・・・・・・ルリちゃん、これって続けなきゃダメ?」

 

「なんで最後の最後で落ちるんですか?」

 

 机に突っ伏して、今までの雰囲気が欠片もなく消えた彼は、隣にいる少女に顔を向けていた。

 

 少女は、呆れたように溜息をついて、顔をこちらに向けてきた。

 

「はい、皆さん。こちらが皆さんの提督、テラ・エーテルさんです。私は提督代行のホシノ・ルリです。最初なので厳しくしてみたのですが、柄ではないので忘れてください」

 

「あの、提督代行・・・・・」

 

「ルリでいいですよ」

 

 言い難そうに告げると、彼女は気楽な顔で手を振ってきた。

 

 最初の緊張感は、何処へ逃げたのだろうと鈴谷は思いながらも、気になっていることを質問した。

 

「その後ろの黄色い物体達は?」

 

「バッタです」

 

「その『ようこそ我らが娯楽とユーモアにあふれた鎮守府へ』は?」

 

 言われてルリは振り返り、バッタ達がかかげる看板を見つめた後、何もなかったかのように顔を戻した。

 

「最初に皆さんにしてほしいことは・・・・・」

 

「いやいやいや! 説明してよ!!」

 

「してほしいことは!」

 

 無理やりに、ルリは持っていく。

 

「自室の確認! 衣類の選択及び受取! 鎮守府内施設の把握! です!」

 

 大声でいい切った後、大股で窓まで近づいてから、窓を豪快に開けた。

 

 轟音と怒声と、色々なものが飛び交う訓練場が見えた気がしたが、気のせいだろうと鈴谷は思いこむ。

 

「だから! そうやって毎日のように死線をくぐらないように! 無理せずゆっくり確実にです! いいですかぁ?!」

 

 精一杯に叫ぶルリの背中に、哀愁が漂っていた気がするが、見てみないふりを全員がした。

 

「第一! テラさんは休むって言ったじゃないですか?! 何で今日も訓練しているんですかぁ?!」

 

「海域制覇と侵攻を休むだけで訓練は別腹!」

 

「なんですかその女子的理論のすり替えはぁ?! 誰が言い出したんですか?! 吹雪ですか?! 暁ですか?!」

 

「私なのです!」

 

「まさかの電オチ?!」

 

 盛大に言い争いをしている代行と、苦笑している提督。

 

 交互に見た後に、鈴谷は代表して言った。

 

「楽しそうな鎮守府だね」

 

 誰もが微妙に顔を引きつらせていたのが、とても印象的だった。

 

 バッタの案内の元、自室に通された鈴谷は、まず最初にベッドに飛び込んだ。

 

 ふんわりとした感触が体を包み、心地よく眠れそうだ。

 

 室内には家具はなく、すべてが壁に内蔵済み。

 

 唯一の窓からは外の景色が見えて、ベランダ付き。

 

 室内には念のためにバスルームもあり、冷蔵庫もある。

 

 しかも、三か所。ベッドの脇の壁が開いて冷蔵庫とか、意味不明なところもあるが。

 

「いいところだね」

 

 ベッドに横になりながら、彼女は小さく天井に向かっていった。

 

 十六畳もある室内って、普通なのかなと思いながら。

 

 

 

 

 




 

 さてさて、役者はそろいつつある。

 次なるは新しい海域、あるいは通り慣れて落とし穴がある海域。

 しかし、悩みは尽きず、足をからめて進ませない。

 先行き不安なれど、どうにかするのが、指揮官としての資質。

 テラにあるかどうかは、解らないが。

 ちなみに次は番外編。



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